勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
32 / 226
第3章 勇者と異世界、初めて編

第32話 家族への紹介は、慎重に! ☆

しおりを挟む
「大変だよみんなあああぁぁぁぁ! リーシアお姉ちゃんが男を連れてきたよぉぉぉぉぉ!」


 リゲルの声が教会と孤児院に響くと、その言葉が次から次へと教会と孤児院にこだました。
 

「なんだって? あのリーシアに男⁈」

「嘘だ、あのリーシア姉に近づく男なんている訳ないよ!」

「リーシアおねえちゃん、ケッコンできるの?」

「拳鬼リーシア姉ちゃんより、強い男なんていたの?」

「ついに、リーシアお姉ちゃんに春が来たのね!」

「シスターリーシアが男を連れて来たですって? 逃がさないように監禁しなさい! 奥の部屋に閉じ込めるのよ!」


 ワラワラと教会と孤児院から、悲鳴にも似た叫び声が聞こえたと思ったら、ゾロゾロと入り口の門の前に人が集まって来た。

 下は三才から上は十四才くらいまでの子供の他にも、リーシアと同じ修道服を着る大人も何人か混じっていた。すぐにヒロとリーシアを十数人の人が取り囲み、ちょっとした人垣が出来上がる。


「お帰りリーシア……本当に男だ!」

「お帰りリーシア姉……凄いよこの人! チャレンジャーだよ!」

「おかえりなさい、リーシアおねえちゃん……オヨメサンになれるの?」

「お帰り。リーシア姉ちゃんより強いってこと? マジで? すげ~!」

「お帰りなさい、リーシアお姉ちゃん! どこ? どこで知り合ったの? 告白はどっちから? まさかリーシアお姉ちゃんから? キャ~♪」

「シスターリーシア、お帰りなさい。いつ式を挙げますか? 気が変わらない内に、今から式を上げましょう! 丁度ここに教会もありますから! トーマス神父様をすぐに呼んで!」


 なぜか、リーシアと結婚することが確定されたヒロが困惑していると、少女は手を『ポキポキ』鳴らしながら、にこやかに口を開いた。


「みんな、だだいまです。何か勘違いしてませんか? この人はヒロ、行く当てがないのでしばらくココに泊めてあげる事になりました。私の彼氏ではありませんから、結婚はしません。ヒロ、こちらは孤児院に一緒に住む家族です。仲良くしてあげてください。それとみんな……あとでお仕置きですからね。特にリゲルはスペシャルです♪」


 笑顔で指を『ポキポキ』するリーシア……皆が青ざめ、さっきまで騒がしかった人垣が『シーン』と静まり返っていた。リゲルと呼ばれた少年に至っては、ガクブル状態である。

 なにか話し掛けづらい雰囲気の中、ヒロは挨拶する。


「は、初めまして……ヒロと申します。リーシアさんに森で助けていただきました。宿屋が見つからないので、ご好意に甘えてこちらにしばらく泊めていただきます。よろしくお願いします」

「まともだ」

「普通だね」

「ケッコンするの?」

「平凡すぎ」

「つまんない」

「真面目ね」


 普通に挨拶しただけなのに、普通過ぎてヒロの評価はなぜか下がってしまった……ヒロはやるせない気持ちにさいなまれる。


「この時間だと、トーマス神父様は教会ですか?」

「ええ、懺悔室にいらっしゃいますよ」

「ヒロ、トーマス神父様に挨拶しに行きましょう」


 そしてヒロを連れて、リーシアは歩き出そうとする。


「分かりました。ところで肉はどうしますか? 夕飯に食べるって言ってましたよね」

「あっ! そうでした。ヒロ、いま出してもらえます?」

「ココで出して良いですか?」

「はい。みんな、これからヒロが見せることは内緒にしてください。約束ですよ」
 

 皆が首を縦に振り頷くのを見たヒロは、アイテム袋から解体したランナーバードの肉塊を『ドン』と取り出した……布に巻かれた肉の総重量は10kg、地面に置かれた肉の塊を見て、皆が口を開く。


「おっき~い」

「やった! 昨日のウサミンに続いて二日連続の肉だ~」

「これ何の肉? 美味しそう!」

「でも、いまどうやって肉を出したの?」

「急に空中に現れて地面に落ちたよね?」


 場は、肉に歓喜する子供たちと、疑問を覚える年長者たちに分かれて騒がしくなる。


「はい! 静粛に! 肉はライナーバードのお肉でヒロと二人で仕留めました。今夜は美味しい焼き鳥ですよ。肉はヒロの持つアイテム袋から出してもらいました。便利なアイテムですが良からぬ事を考える人もいますから、この事は内緒です」


 リーシアが人差し指を口元に添え、「シー」と声に出し内緒を促すと、年少の小さな子供たちがリーシアと同じ仕草を真似て面白がる。





「もし、約束を破ったら……」


 笑顔のリーシアが、右手の親指を立てたまま手を握り、首を親指で指し示すと、そのまま左から右へ『スー』と水平に移動させる……笑顔が怖さを倍増させていた!

 年少者の子供たちが、その仕草で青ざめる年長者たちの様子に、さらに面白がり何度も仕草を真似る。
 年長者はその意味を理解して、絶対に喋らないと首を無言で縦に何度も振っていた。

 ヒロは心の中で、子供に何てこと教えているんだと思いつつ、自分の安全のためにと言い聞かせてくれたリーシアに感謝するのだった。


「それでは解散してください。私とヒロは、トーマス神父様に挨拶と報告をして来ます。料理はみんなにお任せします。今夜は豪華な焼き鳥です♪」


 ゾロゾロと集まったみんなが、教会と孤児院へ分かれて帰って行く。肉は年長者が二人で持ち、その周りを子供たちがハシャギながら走り回る。

 ヒロはリーシアに連れられて、教会の方へと足を運んだ。

 教会は質素な作りながらもしっかりとしており、真っ白な壁が教会の神聖な雰囲気を強調していた。
 大きな教会の扉を抜けると、赤い絨毯が奥の祭壇まで続く……教会の構造は十字架みたいな作りをしており、途中から左右に伸びる道にも赤い絨毯が敷かれていた。

 入り口から奥の祭壇までに人影はなく、リーシアが奥へとズンズン進む。左右の道に差し掛かったとこで、迷う事なく右に曲がり、足を進める。

 一番奥にまで歩いて行くと、そこには板で仕切られた防音BOXのように、柱や壁に細かな装飾がなされた小部屋がひっそりと佇んでいた。
 リーシアが懺悔室の入り口を一瞥いちべつすると、反対側のもう一つの入り口の前に立ち、声を上げる。


「トーマス神父様、リーシアいま戻りました。少しお時間を頂けますか?」


 すると部屋の扉が開き、部屋の中から初老の男が出てきた。どうやら懺悔室で懺悔している人いなかったみたいだ。リーシアは事前に懺悔室の扉に鍵が掛かっていないか、扉を見た時に確認していたようだ。
 

「リーシア、お帰りなさい。お話とは……おや? そちらの方は?」

「はい。実は……」


 リーシアが昨日のヒロとの出会いから、冒険者ギルドでパーティーを結成した事……行く当てのないヒロを孤児院に泊めてあげたいとトーマス神父に説明してくれた……無論、裸での出会いや変態ヒーローの部分は省いていた!


「なるほど、リーシアがこの青年の身元引き受け人になったと言う訳ですか」


 リーシアの説明を受けて、トーマス神父がヒロに顔を向けた。


「初めまして。ヒロと言います。ご迷惑であれば、すぐに出て行きます」

「ふむ。リーシアが連れて来たくらいです。問題はないでしょう。申し送れました。私はこのアルムの町にある女神教の教会を任されている神父、トーマスと申します。ゆっくりして行ってください」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、しばらく泊まらせて頂きます。僕にできる事があったら仰ってください」

「はい。何もおもてなしはできませんが、ゆっくりとして行ってください」


 トーマス神父は柔和な表情でヒロを歓待する。


「そうです。トーマス神父様……」


 リーシアは思い出したかのように、腰に下げた麻袋を外しトーマス神父へと渡す。
 

「これは?」

「ヒロと仕留めたライナーバードを売却した代金です。銀貨で100枚ありますから、孤児院の運営に使ってください」


 ズシリとした硬質の重さにトーマス神父は目を見張った。


「リーシア、いつもありがとう。これでしばらく孤児院の子が飢えずに済みます。女神よ、感謝致します」


 トーマス神父は神に祈りを捧げて感謝する。
 

「さて、それじゃあヒロを孤児院に案内しますね」

「あっ、リーシア待ってください。少し祭壇でお祈りをしても良いですか?」


 孤児院へ案内しようとするリーシアの足を、ヒロが止める。


「ええ、神への祈りは誰がしても構いませんよ。きっと女神様もお喜びになります」

「ヒロ、良い心掛けです。では祭壇に行きましょう」


 そう言って祭壇へと歩き出すリーシアの後を、ヒロは追いかける。

 祭壇には、素晴らしい彫刻がなされた大きな十字架が鎮座していた。リーシアは祭壇の前で片膝を突き、手に首から掛けていた十字架を握ると女神に祈りを捧げ始める。

 ヒロもリーシアを真似て片膝を突き、手を胸の前で組むと目を閉じて祈り始める。
 この世界に送り出してくれた泣き虫の女神、セレスの顔と声を思い出しながらヒロは祈った。
 何とか町まで辿り着けた事と、持たせてくれたアイテムがとても役立った事に感謝する。

 どれ位、祈りを捧げただろうか……時間にして数分も経っていないはずだったが、やけに時間が長大化し、何時間も祈りを捧げている感覚にヒロは陥る。

 おかしな感覚に違和感を感じ、ふと目を開くと……いつのにやら女神セレスが、『プンスカ』しながらヒロの前で仁王立ちをしていた!



〈嫉妬した女神セレスが、ヒロの前に現れた!〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...