勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
33 / 226
第3章 勇者と異世界、初めて編

第33話 プンスカ女神の○○ー○ー宣言!

しおりを挟む
 女神セレスは、ヒロをガイアに送り出してから多忙を極めていた……それは三女神の内、二人の女神が力を使い果たし眠りについてしまい、二人の管轄の仕事もセレスがする代行する事になったからだった。

 神界はヒロの世界で言うならば、完全なる縦社会である。創世神をトップにしたピラミッドの図式が形成されており、三女神は創世神の代わりを勤めていた。

 神界を会社に置き換えれば、創世神がグループ会社の会長、三女神がそれぞれ別の会社を任された社長のイメージである。一つの会社を任されるだけでも大変だが、それが二つも増えたのである。

 縦社会の特徴は上が絶対である事だった。これは優秀な者がトップにつけば、間違った方向へ向かう事はないが、逆に権力が集中しすぎてしまい、何をするにも上の裁量を待つしかない弱点を露呈してしまう。

 故にセレスは下から上げられる情報の吸い上げをすると、それに対する指示が単純に三倍に膨れ上がり多忙を極めていた。
 セレスは管轄外の慣れない仕事に指示を出しつつも、姉ディオーネとの別れ際に話した会話を思い出していた。


「油断してはなりせんよ。ここまで隠し通せる者です。誰が味方で誰が敵なのかを見極めなさい」


 セレス自身も薄々気が付いていた。

 神界全体が動いているのに、一向に進展を見せない状況に、作為的な何かを感じてはいた。だが考えたくはなかった……その考えが正しければ、神界に裏切り者がいる事を指し示していたからである。
 
 この世界を去った創世神の代わりに、ガイヤを管理維持する事を使命として課せられた三女神と神族達……同じ残された者たちが世界の崩壊を望むなどあってはならない事だった。

 それ故に、今まではガイヤの大地ばかり目がいっていたが、いまは神界にも目を向けねばならぬ必要が出てきた。
 セレスは下から上げられる情報を整理し、些細な点も見逃さず細かくチェックしていく。

 神界に住まう者、全てが容疑者足り得る状況で、セレスは孤立無援な状態になってしまった。
 自分一人では、この難局を抜け出せないと判断したセレスは、まずは確実な味方を見つけるべく動き出していた。

 そして神界の調査と並行して、地上に送り出したヒロとの約束も忘れてはいなかった。
 ヒロと魂をつなげたセレスは、記憶を見ることに悪戦苦闘しており、二日掛けても未だ記憶映像を読み取れずにいた。
 

「やはり、ヒロ様の記憶は、まだ見られませんね。少しずつ変換はされている様ですが……あれ? これはガイアに降りた後のヒロ様の記憶みたいですね」


 記憶を読み取る際、セレスは地上に降りたヒロの記憶も読み取っていた。
 異世界の記憶でないため、すぐに映像を見る事ができ、セレスはイケナイと思いつつも、ヒロの記憶を覗き見てしまう。
 
 初めての魔物との戦いに負傷しながらも、勝利するヒロに『ハラハラ』のセレス。

 南の森で迷い、裸で泉で体を洗うヒロに『ドキドキ』のセレス。

 泉でのリーシアとの出会いに『お願い隠して!』と叫ぶセレス。

 ランナーバードとの死闘で残りHP1にまで下がり、死に掛けるヒロに卒倒するセレス。

 初めての町でいきなり留置場に入れられて、呆れ返るセレス。

 留置場の中で何かを始めたと思ったら、気持ち悪い動きのヒロに嫌悪感を抱くセレス。

 リーシアに迎えに来てもらい、広場でリンド焼きを仲良く食べるヒロを見てなぜか『ムカッ』とするセレス。

 冒険者ギルドでライムに向ける視線の先を見て、『イライラ』するセレス。

 オノ使いゼノンを前にリーシアを守るため、壁になるように立ち塞がるヒロに『いいな~』と、憧れるセレス。

 ナターシャとの出会いに、『あんな人もいるのですね。ガイヤの世界は広いです』と感心するセレス。

 魂の流れに流されるヒロを見て『何で死んでいるのですか!』とツッコミを入れるセレス。

 パーティーを結成して喜ぶ二人に、なぜか『ムカムカ』と心の中で嫌な感情が湧き上がるセレス。

 孤児院に泊めてもらう事になった時のリーシアとヒロの笑顔を見て、嫉妬に近い感情が吹き荒れるセレス。

 そして教会の祭壇にお祈りするヒロの姿を見た時……若干回復した貴重な神気を用いて、自分の元へヒロの意識を無理やり呼び寄せたセレス!

 なぜか『プンスカ』状態のセレスの前に飛ばされたヒロ!


  
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「え? セレス様? ここは? 祭壇でお祈りをしていたはずでしたが……」

「ヒロ様、どう言う事ですか! ガイヤに降りて二日目にして女の子と仲良くデートなんて羨ましい……いえ! 浮かれてはいけません! ヒロ様にはガイヤを救って頂く大事な使命があるのですから!」


 プンスカ状態のセレスがヒロを圧倒する。


「いえ……デートなんて『シャラップです』」


 言語翻訳スキルが適した言葉に訳してくれているが、女神の口からシャラップなんて罵声語が飛び出るとは……日本語で言うなら、『ゴチャゴチャうるさいんだよ! 黙りやがれ、この野郎!』くらいの強い罵声である。
 
 つまり……かなりの『オコ』である!

 ここは黙って話を受け入れるしかない……ヒロは衛士ラングの言葉に従い黙って話を聞く事に徹した。



〈女神の説教タイムが始まった!〉

「……と言う訳です。女性に、あのような視線を向けるのは好ましくありません。目線だけで相手にバレていないとお思いでしょうが、顔も動いているのでバレバレなのです! 気をつけてください。ヒロ様、聞いていますか?」


 女神の前で正座させられ、オコのセレスから散々説教されたヒロの表情は暗い。対して、セレスは言いたい事をヒロに全て吐き出し結果、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。


「セレス様、申し訳ありませんでした……以後、気を付けます」

「分かって頂けましたか? なら今回はこれで許しましょう」


 セレスの許しが出たのは、説教タイム開始から一時間は経った頃だった。


「ところでセレス様、ここは神界ですか? 僕をここに何でいるのでしょうか?」

「え?」


 ようやく正座から解放されたヒロは、本題であるセレスにここに呼ばれた理由を聞くが……セレスは正直に答える訳にはいかなかった。

 まさか自分が忙しく働いているのに、ヒロとリーシアとのやり取りが羨ましくて、ついヒロの意識とリンクして神界に意識だけを呼び寄せてしまったなんて……言える訳ない!

 自分の中に溜まっていた不満を、何も関係がないヒロにぶつけて当たり散らしていただけなのだ……女神として絶対に悟られる事は許されない!


「いえ、慣れないガイヤの世界で困った事が起こっていないか、聞こうと思いまして……」

「そうでしたか、気に掛けていただいてありがとうございます」

「と、当然です。ヒロ様には大変な役目を担っていただいてますので、気にしないでください」


 セレスはギリギリ女神の威厳を保つことに成功した。


「それで、何かお困りごとはありますか?」

「そうですね。実は文字化けしたスキルを見かけたのですが、何かご存知ですか?」

「文字化けしたスキルですか? たしか極稀に、ギフトと呼ばれる強力なスキルを持って生まれる者がいると聞いた事があります。強力なギフト同士が干渉して、文字化けしたスキルになるみたいです」

「文字化けした場合は、どうなるのでしょうか?」

「なんの意味もないスキルになります。基本は何も起こらないまま生涯を終えるはずです。強力過ぎるスキルは持ち主を蝕む可能性もありますので、文字化けしてスキルを無効化させた方が幸せな人もいます」


 どうやら、強力なスキルを持って生まれたとしても、良いことばかりではないらしい。
 リーシアには文字化けしたスキルが二つあった。あの文字化けしたスキルをデバックスキルで修復したら……リーシアにとって不幸になる可能性も否定できない。
 ヒロは軽率にリーシアの文字化けを直そうとした事を、反省するのだった。


「セレス様、教えてくれてありがとうございます」

「いいえ、お役に立てて何よりです。そろそろ時間ですね」


 そうセレスが呟くと、ヒロの周りの景色が薄くなっていく。


「ヒロ様、ガイヤの世界を頼みます。私はいつもあなたを見守っています」

「はい。期待に応えられるよう頑張ります。それでは!」


 ヒロは薄れゆく景色の中で、女神に別れを告げる。


「あと、決して女性にウツツを抜かさぬよう、注意してください! 私はいつでもヒロ様の行動を見てますから! いいですね!」

「は、はい……」


 ちょっと頬を膨らませながらヒロに注意するセレス……可愛い仕草なのだが、その瞳に微かに灯る狂気の光を見たヒロは『NO』とは言えるはずがなく、ただ肯定するしかなかった。
 
 そしてヒロの意識は、再び元の場所へと戻されるのだった。



〈勇者は女神にストーカー宣言された!〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...