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第4章 勇者と森のクマさん編
第48話 上手に焼けました〜!
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「まだ立って歩くのは辛いでしょうから、リーシアの部屋まで食事を持って行ってあげてください」
最後の肉を焼き上げたヒロは、長い青髪のシスターから三人分の食事を乗せた大きなトレイを渡されていた。
「リゲルもリーシアと部屋にいますから、一緒に食事してください。一人で食べる食事は美味しくないですから」
「分かりました。じゃあ部屋に届けて食べてきますね」
トレイを持ったヒロが肉とスープが冷めない内にと、早足でリーシアの部屋に向かいドアの前に立つと……すると部屋の中から、子供を寝かしつけるときに歌う子守唄のような優しく綺麗な歌声が聞こえてきた。
初夏に差し掛かった陽気に窓と入り口のドアを開け、風通しをよくした部屋の中から軽い風に乗ってリーシアの歌声が廊下に聴こえてきた。
“困った人が居たならば
その手をどうか差し伸べて
固く結んだ手の平を
開いてどうか差し伸べて”
優しく歌い上げる綺麗な声が、ヒロの心を奪う。
“人は一人で生きられないから
だからその手を振り払わないで
勇気を出して手を取ったならば
あなたもいつか誰かにその手を差し伸べて”
ヒロが部屋の中をそっと覗くと、ベットで体を起こしたリーシアが窓の外を見ながら歌っていた。傍らにはベットに寄りかかり、静かに眠るリゲルの姿があった。
いつまでも聞いていたいという気持ちに駆られるが、せっかくの料理が冷めてしまっては勿体ないと、大きなトレイを片手に空いた手で扉をノックする。『コンコン』と軽いノックの音にリーシアは気づき、歌声が途絶えるとリーシアが「どうぞ」と返事をしてくれた。
「ヒロお帰りなさい」
「ただいま、リーシア。歌っている所を邪魔しちゃってごめん」
「も、もしかして聞いてましたか? 昔、母が良く歌ってくれたのですが、私は歌があまり上手くないので、恥ずかし所を見られちゃいました」
リーシアは歌声を聞かれたことに、恥ずかしくなり顔を赤くしていた。
「そんなことありません。とっても綺麗な歌声でしたよ。ずっと聞いていたかったくらいです」
ヒロの一言でさらに顔を赤くするリーシアは、無理やり話題を変えようと口を開く。
「そ、そう言えば、ギルドはどうでしたか?」
「そっちはバッチリです。オーガベアーとマンドラゴラ、あと今日、森で倒した森林狼を合わせると、金貨1枚と銀貨422枚になりました」
「おお~! やりました。頑張った甲斐がありましたね」
「全部、銀貨で貰ってきましたから、明日渡しますね」
「はい♪ ありがとうございます」
かなりの高額買取にリーシアが喜び、ホクホク顔の笑顔を見たヒロ……なぜか胸の鼓動が速くなっていた。
「か、体は大丈夫そうですか?」
「ヒロが採ってきてくれた薬草のおかげで、大分回復しましたよ。ホラッ」
リーシアが腕を上げ、力こぶを作ると元気な姿をアピールしてきた。筋肉質ではなく、引き締まった健康的な腕にヒロは顔を向ける。
力こぶを作るリーシアは寝間着として、ノースリーブのゆったりとしたワンピースを着ており、ヒロは自然にリーシアの脇から見える横乳に視線が向いてしまった……ガン見するわけにもいかず、名残り惜しいがヒロはそっと顔を横に向けた。
「ん? どうしましたか? あっ!」
リーシアはヒロの行動の意味に気づき、慌てて脇を締め、胸を服の上から手で隠すような仕草をすると、さっきよりもさらに顔を赤くする。
「す、すみません、つい……」
「いえ、今のは私も悪かったです。いつも端ない仕草を無意識でやってしまうみたいで、シスター達によく注意されてしまいます……なかなか直りませんね」
リーシアが恥かしそうに言い、互いに顔を赤くしていると、横でベットに寄りかかり寝ていたリゲルが目を覚ました。
「ん~……、なんかいい匂い……」
どうやらヒロが焼いた熊肉ステーキの匂いに目が覚めたようだ。
「リゲル起きましたか? そう言えば、さっきからいい匂いがしてますね」
「ああ、そうだった。ベットから起き上がるのが大変だろうと思って、食事を持ってきました。今日はオーガベアーのステーキですよ」
「ステーキ! ヒロ兄ちゃん、僕の分は?」
「ちゃんと三人分あるから、冷めない内に食べましょう」
ステーキの言葉にリゲルが反応し、トレイに乗った肉を食い入るように見つめる。ヒロは自分の分をトレイから取り、二人の分をトレイに載せて渡すと、リーシアの部屋に備えて付けてある机と椅子を借りて一緒に食べる。
「「天に召します我らの神よ、今日の糧をお恵みくださいましたこと感謝致します」」
「いただきます」
リーシアとリゲルの二人は神に感謝し、ヒロは命をいただくことに感謝すると、三人は当然のように熊ステーキから手を付ける。三人がほぼ同時に口の中に肉を放り込むと……。
「こ、これは、肉汁が……」
「リーシアお姉ちゃん……凄い、口の中が大洪水だよ!」
筋に丹念な切り込みを入れることで、子供でも噛みちぎれ位の柔らかさと、噛み締める毎に口の中一杯に広がる肉汁。
塩のみの味付けだが、それが肉本来の濃厚でありながら微かに感じる甘みを、さらに引き立ててくれていた。
絶妙な肉の焼き加減と、的確な塩の量が巻き起こす味のシンメトリー! まるで綿あめを食べるが如く、いつの間にか口の中で肉がトロけてなくなっていく。
要するに……『美味いぞぉぉぉぉぉ!』と、言うことだった。
「凄いジュ~シ~で美味しいです♪」
「リーシアお姉ちゃん、こんなの食べたことないよ」
「上手く焼けて良かったです」
笑顔の二人を見てヒロは嬉しくなる。
「これはヒロが焼いたのですか?」
「はい。意外に料理は得意なんです。ゲームでも鍛えてましたからね」
「ゲーム? なんですかそれ?」
「え~と、僕の生まれた国にあった遊びです。もう遊べなくなりましたが……」
ヒロはかつて料理のイロハを教わったゲーム、『クッキングパパン』を思い出していた。
『クッキングパパン』とは、パパンの指示通りに調理することで、料理の雰囲気をミニゲームを通して学べるお料理体感ゲームである!
スピンオフ作を合わせるとシリーズは14作も発売されており、全世界でシリーズ累計1200万本、スマホ用だと5500万ダウンロードを売り上げた人気ゲームである。
このゲーム……最初の頃は家庭で作れる料理を、調理して体感するオーソドックスなゲームだったのだが、途中からもはやお料理体感ゲームの枠を超えて別の違う物になり果て、別の意味で有名になってしまったゲームなのだ。
全世界で発売されたとあるように、シリーズを追うごとに料理のレシピは国際色豊かになっていき、「ケバブ」や「握り寿司」と、一般家庭では、まず作らない料理がドンドン追加されていった。
握り寿司に至っては、マグロを捌くという工程があるのだが、画面には巨大なマグロがまるごと一尾現れる豪快さに度肝を抜かれた。マグロを一尾捌く家庭が、日本のどこに存在するのかと、問いたくなるぐらい大味なゲームへと進化してしまった。
最後はネタ切れなのか……シリアルなんて料理まで追加される始末! シリアルを器に入れて牛乳をかけるだけで料理は完成するのだが、ミニゲームの難易度が難しく料理が完成しない!
シンプルな料理ほどゲームの難易度は上がり、料理の完成が困難になる。この意味不明な鬼畜システムのおかげで、ゲームのターゲットである低年齢層の子供には、もはやクリアー不可能なレベルにまで仕上がってしまった。
お料理体感ゲームなのに、途中からパズルゲーム要素が追加され、もはや料理とはなんの関係もないゲームシステムにプレイヤー達は困惑した。
突き抜けた発想とゲームシステムが、バカゲーとしての地位を確立したお料理体感ゲーム……それが『クッキングパパン』だ!
「ヒロ? 大丈夫ですか?」
「えと……少し考えことをしていました。気にしないでください」
急に無言になったヒロを心配してリーシアが声を掛けてくれていた。
「ヒロお兄ちゃん! これ本当に美味しいよ」
リゲルが、笑顔でヒロの焼いたステーキを頬張り絶賛する。それに合わせてリーシアも笑顔になる。
「ヒロ、今度また違う料理を作ってください♪」
「喜んでもらえて良かったです。機会があれば作りますから、期待していてください」
「ヒロ、期待しちゃいますよ」
「ヒロ兄ちゃん、僕も!」
「はい。期待されました」
こうしてヒロの料理は孤児院の皆に絶賛され、しばらくの間、三人のシスターズに料理を教えることになるのだが、これがガイヤの世界に、食の大旋風を起こすキッカケになろうとは、この時のヒロは知る由もなかった。
〈勇者はオーガベアーを上手に焼けました!〉
最後の肉を焼き上げたヒロは、長い青髪のシスターから三人分の食事を乗せた大きなトレイを渡されていた。
「リゲルもリーシアと部屋にいますから、一緒に食事してください。一人で食べる食事は美味しくないですから」
「分かりました。じゃあ部屋に届けて食べてきますね」
トレイを持ったヒロが肉とスープが冷めない内にと、早足でリーシアの部屋に向かいドアの前に立つと……すると部屋の中から、子供を寝かしつけるときに歌う子守唄のような優しく綺麗な歌声が聞こえてきた。
初夏に差し掛かった陽気に窓と入り口のドアを開け、風通しをよくした部屋の中から軽い風に乗ってリーシアの歌声が廊下に聴こえてきた。
“困った人が居たならば
その手をどうか差し伸べて
固く結んだ手の平を
開いてどうか差し伸べて”
優しく歌い上げる綺麗な声が、ヒロの心を奪う。
“人は一人で生きられないから
だからその手を振り払わないで
勇気を出して手を取ったならば
あなたもいつか誰かにその手を差し伸べて”
ヒロが部屋の中をそっと覗くと、ベットで体を起こしたリーシアが窓の外を見ながら歌っていた。傍らにはベットに寄りかかり、静かに眠るリゲルの姿があった。
いつまでも聞いていたいという気持ちに駆られるが、せっかくの料理が冷めてしまっては勿体ないと、大きなトレイを片手に空いた手で扉をノックする。『コンコン』と軽いノックの音にリーシアは気づき、歌声が途絶えるとリーシアが「どうぞ」と返事をしてくれた。
「ヒロお帰りなさい」
「ただいま、リーシア。歌っている所を邪魔しちゃってごめん」
「も、もしかして聞いてましたか? 昔、母が良く歌ってくれたのですが、私は歌があまり上手くないので、恥ずかし所を見られちゃいました」
リーシアは歌声を聞かれたことに、恥ずかしくなり顔を赤くしていた。
「そんなことありません。とっても綺麗な歌声でしたよ。ずっと聞いていたかったくらいです」
ヒロの一言でさらに顔を赤くするリーシアは、無理やり話題を変えようと口を開く。
「そ、そう言えば、ギルドはどうでしたか?」
「そっちはバッチリです。オーガベアーとマンドラゴラ、あと今日、森で倒した森林狼を合わせると、金貨1枚と銀貨422枚になりました」
「おお~! やりました。頑張った甲斐がありましたね」
「全部、銀貨で貰ってきましたから、明日渡しますね」
「はい♪ ありがとうございます」
かなりの高額買取にリーシアが喜び、ホクホク顔の笑顔を見たヒロ……なぜか胸の鼓動が速くなっていた。
「か、体は大丈夫そうですか?」
「ヒロが採ってきてくれた薬草のおかげで、大分回復しましたよ。ホラッ」
リーシアが腕を上げ、力こぶを作ると元気な姿をアピールしてきた。筋肉質ではなく、引き締まった健康的な腕にヒロは顔を向ける。
力こぶを作るリーシアは寝間着として、ノースリーブのゆったりとしたワンピースを着ており、ヒロは自然にリーシアの脇から見える横乳に視線が向いてしまった……ガン見するわけにもいかず、名残り惜しいがヒロはそっと顔を横に向けた。
「ん? どうしましたか? あっ!」
リーシアはヒロの行動の意味に気づき、慌てて脇を締め、胸を服の上から手で隠すような仕草をすると、さっきよりもさらに顔を赤くする。
「す、すみません、つい……」
「いえ、今のは私も悪かったです。いつも端ない仕草を無意識でやってしまうみたいで、シスター達によく注意されてしまいます……なかなか直りませんね」
リーシアが恥かしそうに言い、互いに顔を赤くしていると、横でベットに寄りかかり寝ていたリゲルが目を覚ました。
「ん~……、なんかいい匂い……」
どうやらヒロが焼いた熊肉ステーキの匂いに目が覚めたようだ。
「リゲル起きましたか? そう言えば、さっきからいい匂いがしてますね」
「ああ、そうだった。ベットから起き上がるのが大変だろうと思って、食事を持ってきました。今日はオーガベアーのステーキですよ」
「ステーキ! ヒロ兄ちゃん、僕の分は?」
「ちゃんと三人分あるから、冷めない内に食べましょう」
ステーキの言葉にリゲルが反応し、トレイに乗った肉を食い入るように見つめる。ヒロは自分の分をトレイから取り、二人の分をトレイに載せて渡すと、リーシアの部屋に備えて付けてある机と椅子を借りて一緒に食べる。
「「天に召します我らの神よ、今日の糧をお恵みくださいましたこと感謝致します」」
「いただきます」
リーシアとリゲルの二人は神に感謝し、ヒロは命をいただくことに感謝すると、三人は当然のように熊ステーキから手を付ける。三人がほぼ同時に口の中に肉を放り込むと……。
「こ、これは、肉汁が……」
「リーシアお姉ちゃん……凄い、口の中が大洪水だよ!」
筋に丹念な切り込みを入れることで、子供でも噛みちぎれ位の柔らかさと、噛み締める毎に口の中一杯に広がる肉汁。
塩のみの味付けだが、それが肉本来の濃厚でありながら微かに感じる甘みを、さらに引き立ててくれていた。
絶妙な肉の焼き加減と、的確な塩の量が巻き起こす味のシンメトリー! まるで綿あめを食べるが如く、いつの間にか口の中で肉がトロけてなくなっていく。
要するに……『美味いぞぉぉぉぉぉ!』と、言うことだった。
「凄いジュ~シ~で美味しいです♪」
「リーシアお姉ちゃん、こんなの食べたことないよ」
「上手く焼けて良かったです」
笑顔の二人を見てヒロは嬉しくなる。
「これはヒロが焼いたのですか?」
「はい。意外に料理は得意なんです。ゲームでも鍛えてましたからね」
「ゲーム? なんですかそれ?」
「え~と、僕の生まれた国にあった遊びです。もう遊べなくなりましたが……」
ヒロはかつて料理のイロハを教わったゲーム、『クッキングパパン』を思い出していた。
『クッキングパパン』とは、パパンの指示通りに調理することで、料理の雰囲気をミニゲームを通して学べるお料理体感ゲームである!
スピンオフ作を合わせるとシリーズは14作も発売されており、全世界でシリーズ累計1200万本、スマホ用だと5500万ダウンロードを売り上げた人気ゲームである。
このゲーム……最初の頃は家庭で作れる料理を、調理して体感するオーソドックスなゲームだったのだが、途中からもはやお料理体感ゲームの枠を超えて別の違う物になり果て、別の意味で有名になってしまったゲームなのだ。
全世界で発売されたとあるように、シリーズを追うごとに料理のレシピは国際色豊かになっていき、「ケバブ」や「握り寿司」と、一般家庭では、まず作らない料理がドンドン追加されていった。
握り寿司に至っては、マグロを捌くという工程があるのだが、画面には巨大なマグロがまるごと一尾現れる豪快さに度肝を抜かれた。マグロを一尾捌く家庭が、日本のどこに存在するのかと、問いたくなるぐらい大味なゲームへと進化してしまった。
最後はネタ切れなのか……シリアルなんて料理まで追加される始末! シリアルを器に入れて牛乳をかけるだけで料理は完成するのだが、ミニゲームの難易度が難しく料理が完成しない!
シンプルな料理ほどゲームの難易度は上がり、料理の完成が困難になる。この意味不明な鬼畜システムのおかげで、ゲームのターゲットである低年齢層の子供には、もはやクリアー不可能なレベルにまで仕上がってしまった。
お料理体感ゲームなのに、途中からパズルゲーム要素が追加され、もはや料理とはなんの関係もないゲームシステムにプレイヤー達は困惑した。
突き抜けた発想とゲームシステムが、バカゲーとしての地位を確立したお料理体感ゲーム……それが『クッキングパパン』だ!
「ヒロ? 大丈夫ですか?」
「えと……少し考えことをしていました。気にしないでください」
急に無言になったヒロを心配してリーシアが声を掛けてくれていた。
「ヒロお兄ちゃん! これ本当に美味しいよ」
リゲルが、笑顔でヒロの焼いたステーキを頬張り絶賛する。それに合わせてリーシアも笑顔になる。
「ヒロ、今度また違う料理を作ってください♪」
「喜んでもらえて良かったです。機会があれば作りますから、期待していてください」
「ヒロ、期待しちゃいますよ」
「ヒロ兄ちゃん、僕も!」
「はい。期待されました」
こうしてヒロの料理は孤児院の皆に絶賛され、しばらくの間、三人のシスターズに料理を教えることになるのだが、これがガイヤの世界に、食の大旋風を起こすキッカケになろうとは、この時のヒロは知る由もなかった。
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