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第5章 勇者と調査クエスト編
第53話 ミミックさんに御用心!
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ミミック ランクE 危険度★★★☆☆
ミミックとは、生物学的には擬態することを指す言葉である。
体の形を自在に変えられ、見たものに何でも擬態ができる。主にダンジョンの宝箱や壁に擬態しており、近くを通る獲物を捕食する性質がある。狡猾なミミックになると、人の言葉もある程度理解し会話する個体も存在する。
人に取り入って油断した獲物を後ろから襲い捕食することから、危険度は星三つである。
あくまで擬態できるのは、ミミック自身が見たものがものだけに限られ、記憶まで読み取って擬態することはできない。
また擬態する時間にも制限があり、通常は1時間ほどで擬態は解ける。
主な攻撃方法は、体を触手に変化させての物理攻撃である。軟体で柔らかな体には打撃が効きづらい。倒すには、体の中心にある魔石を破壊するか再生不可能な大きさにまで、体を細切れにするしかない。
ミミックと聞いて宝箱を思い浮かべる冒険者は、注意が必要である。本来はどんなものにも擬態ができる、恐ろしい魔物だという事を覚えておくと良いだろう。
著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんで……なんでこんな事に……」
それは突然の出来事だった。
アルムの冒険者ギルドに所属するEランクパーティー『水の調べ』が、その日の調査クエストを終えて、夜営の準備をしていた時にそれは起こった。
今日はいつもと違い、森にいる魔物の数が明らかに増えていた。
連戦に次ぐ連戦で、パーティーメンバー全員に疲れの色が見え始め、パーティーリーダーのケイトの提案で、その日は早目に休むことにした。
普段から森の中域までクエストをこなしているパーティーにとって、この辺りは自分たちの庭みたいなものであり、比較的安全に夜を明かせる場所も熟知していた。
基本、Fランク程度の魔物しか現れない中域手前までなら、彼女たちにとって脅威となる魔物も存在しない。
いつも通り魔物避けの魔香を焚き、安全を確保して食事をしている時だった。
塩辛い干し肉に硬く不味い携帯パンを、暖かいお茶で無理やり口に詰め込んでいると、パーティーメンバーのスカウトが何かの気配を感じ取り、食事の手を止めていた。
「どうしたの?」
「何か気配を感じたのだけど……すぐに消えてしまったわ。小さな動物かしら? ちょっと気になるから見てくるわ」
スカウトの女性は立ち上がると、自分の武器である弓を持ち矢をつがえる。
「私も行こう。近接職がいれば、何かあった時に最悪壁になって時間が稼げるしな」
パーティーのタンカー兼アタッカーの女戦士が、鉄の盾とミドルソードを手に、スカウトのあとに続く。
「何かあったら、すぐに声を上げなさい」
パーティーリーダーのケイトは、二人に声を掛けて見送る。
「分かっているわ。すぐそこだから大丈夫よ」
戦士とスカウトを見送ると、残った三人はいつでも戦闘に入れるよう、それぞれの武器を傍に食事を続けた。
十分ほど経った頃だろうか……少し戻りが遅い二人を心配した折に、二人が戻ってきた。
「お帰り、何もなかったようね。良かったわ」
「怪我はないようですね。無事で何よりです」
ケイトと回復役の僧侶は、二人が無事に戻って来たことに安堵するが、二人は頷くだけで一言も喋らずに焚き木のそばに無言で座る。
「はい、お茶は温め直しておいたよ。やっぱり動物だったのね。魔物じゃなくてよかった~」
「今日はもう、MPを使い果たしているから、できるだけ戦いたくはないわね。魔法使いの私はMPが尽きたら役に立たないから……二人ともお疲れさま」
パーティーのアタッカーである槍術士と魔法使いの二人も労うが、戻って来た二人はお茶を手に取ると黙々と食べ掛けの食事を口に運びだした。
ケイトは何か雰囲気が変わった二人に違和感を覚えながらも、昼間の連戦で疲れているのかと思い、あまり気にはしていなかった。
パーティーリーダーのケイトは明日の行動内容を簡単に決めると、その日は早目の休む運びとなった。
五人パーティーの場合、二人が見張りにあたり交代で寝るのが基本となる。リーダーのケイトが、いつものようにクジで順番を決めようとすると……。
「私が最初にやるわ」
「私も」
スカウトと戦士が手を上げてくれた。魔法使いと僧侶はMPが底を突いており、早めに寝かせてMPを回復させてあげたい……ケイトは二人の申し出を素直に受け入れ、先に休むことにした。
冒険者をしていれば、浅い眠りで身体の疲労を回復するのは当たり前になる。特に寝込みを襲われることもある冒険者稼業において、たとえ寝ていても異変があれば瞬時に目覚めるのは、基本中の基本だった。
ケイトは、浅い眠りの中で微かな物音に反応して飛び起きていた。当然のようにその手には、傍に置いていた大剣クレイモアが握られていた。
すぐに仲間の様子を確認すると、寝ている僧侶と魔法使いの二人に、半透明なスライム状の物体が近づくのが見えた。
ケイトは奇襲を受けたと思い、見張りをしていたスカウトと戦士の姿を探すが見当たらない。
「みんな起きろ! 魔物の奇襲だ!」
ケイトは目の前で眠る二人を起こそうと声を上げ、手にしたクレイモアをスライム状の魔物に振ると、柔らかなスライム状の物体は、クレイモアに斬られ二人から遠ざかる。
未だに目覚めない僧侶と魔法使いの二人の前に、ケイトがスライム状の魔物に対して壁のように立ち、クレイモアを構える。
スライム擬きと対峙したケイトが、二人を守る為にクレイモアを振るい続けていると、目を覚さなかった二人が起き上がる気配を背中越しに感じた。
これで何とかなると思い、後ろの二人に指示を出す。
「MPが回復していたら、ファイヤーボールで攻撃をお願い! あとライトで辺りを明るくして!」
「……」
前方のスライム擬きに魔法による援護を期待したが、一向に呪文の詠唱が始まらないことにケイトが訝しみ、後ろを肩越しに確認すると……腕から手の先までを触手に変化させた魔法使いに、肩を貫かれていた。
「そ、そんな……」
痛みでクレイモアを落としてしまうケイト。痛みを堪えて触手を無理矢理に引き抜くと、足元に転がるクレイモアに手を伸ばすが、今度は僧侶の触手が手に突き刺さる!
地面に縫い止められ動けなくなるケイトは、二人を睨みつけた。
「クッ、お前ら、みんなをどうした⁈」
ケイトは仲間に化けた魔物を睨みつけて、問い掛けるが返事は返ってこない……すると魔物の後ろから、スカウトと戦士の二人がいつの間にか現れ、背後からゆっくりと近づいていく。
ケイトは仲間が助けに来たものと思い期待するが、それはすぐに絶望へと変わる。
スカウトと戦士の二人が背後から魔物に近づくと、攻撃を加えることもなく魔物と並び、ケイトを上から見下ろすと……ニヤニヤと笑い始めた。
スカウトと戦士の腕が触手に変わるとケイトは理解した。生き残っているのは自分だけで、もう誰も生きていないことを……そして自分は今からこの魔物に食べられてしまうことに……
「なんで、なんでこんな事に……」
ケイトの呟きは誰にも聞かれることはなく、夜の闇へと消えていった。
誰も助けを期待できない森の中で、仲間を殺され仇を討てないまま死にゆく無力なケイトに、もう抗う力は残されていなかった。
仲間の形をしていた魔物が、地面に這いつくばるケイトに群がる。
「嫌だ、嫌だあ、食べないでお願い、イヤアァァッ!」
スライム状の体に変化したスライム擬きがケイトには群がると、触手の中にケイトを取り込み、少しずつ体を溶かし始める。
窒息して死なないよう、顔の部分以外をスライム擬きの触手に包まれるケイト。まるでケイトの恐怖する感情に、歓喜するようにケタケタと笑う魔物たち。
革の鎧と服を溶かし、下着を溶かし終わると、ついには体を溶かし始めた……少しずつ溶かされる恐怖と痛みにケイトは半狂乱になり叫び出した。
「誰か! お願い助けて! イヤアアアアアアア、痛い痛い痛い! 溶かさないで! お願い誰かああああああ!」
もはや死を免れないケイトは、絶望に涙することしかできなかった……だがその時、銀の軌跡がその絶望を打ち砕いた!
〈絶望の闇に、希望の銀光が降り注ぐ!〉
ミミックとは、生物学的には擬態することを指す言葉である。
体の形を自在に変えられ、見たものに何でも擬態ができる。主にダンジョンの宝箱や壁に擬態しており、近くを通る獲物を捕食する性質がある。狡猾なミミックになると、人の言葉もある程度理解し会話する個体も存在する。
人に取り入って油断した獲物を後ろから襲い捕食することから、危険度は星三つである。
あくまで擬態できるのは、ミミック自身が見たものがものだけに限られ、記憶まで読み取って擬態することはできない。
また擬態する時間にも制限があり、通常は1時間ほどで擬態は解ける。
主な攻撃方法は、体を触手に変化させての物理攻撃である。軟体で柔らかな体には打撃が効きづらい。倒すには、体の中心にある魔石を破壊するか再生不可能な大きさにまで、体を細切れにするしかない。
ミミックと聞いて宝箱を思い浮かべる冒険者は、注意が必要である。本来はどんなものにも擬態ができる、恐ろしい魔物だという事を覚えておくと良いだろう。
著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんで……なんでこんな事に……」
それは突然の出来事だった。
アルムの冒険者ギルドに所属するEランクパーティー『水の調べ』が、その日の調査クエストを終えて、夜営の準備をしていた時にそれは起こった。
今日はいつもと違い、森にいる魔物の数が明らかに増えていた。
連戦に次ぐ連戦で、パーティーメンバー全員に疲れの色が見え始め、パーティーリーダーのケイトの提案で、その日は早目に休むことにした。
普段から森の中域までクエストをこなしているパーティーにとって、この辺りは自分たちの庭みたいなものであり、比較的安全に夜を明かせる場所も熟知していた。
基本、Fランク程度の魔物しか現れない中域手前までなら、彼女たちにとって脅威となる魔物も存在しない。
いつも通り魔物避けの魔香を焚き、安全を確保して食事をしている時だった。
塩辛い干し肉に硬く不味い携帯パンを、暖かいお茶で無理やり口に詰め込んでいると、パーティーメンバーのスカウトが何かの気配を感じ取り、食事の手を止めていた。
「どうしたの?」
「何か気配を感じたのだけど……すぐに消えてしまったわ。小さな動物かしら? ちょっと気になるから見てくるわ」
スカウトの女性は立ち上がると、自分の武器である弓を持ち矢をつがえる。
「私も行こう。近接職がいれば、何かあった時に最悪壁になって時間が稼げるしな」
パーティーのタンカー兼アタッカーの女戦士が、鉄の盾とミドルソードを手に、スカウトのあとに続く。
「何かあったら、すぐに声を上げなさい」
パーティーリーダーのケイトは、二人に声を掛けて見送る。
「分かっているわ。すぐそこだから大丈夫よ」
戦士とスカウトを見送ると、残った三人はいつでも戦闘に入れるよう、それぞれの武器を傍に食事を続けた。
十分ほど経った頃だろうか……少し戻りが遅い二人を心配した折に、二人が戻ってきた。
「お帰り、何もなかったようね。良かったわ」
「怪我はないようですね。無事で何よりです」
ケイトと回復役の僧侶は、二人が無事に戻って来たことに安堵するが、二人は頷くだけで一言も喋らずに焚き木のそばに無言で座る。
「はい、お茶は温め直しておいたよ。やっぱり動物だったのね。魔物じゃなくてよかった~」
「今日はもう、MPを使い果たしているから、できるだけ戦いたくはないわね。魔法使いの私はMPが尽きたら役に立たないから……二人ともお疲れさま」
パーティーのアタッカーである槍術士と魔法使いの二人も労うが、戻って来た二人はお茶を手に取ると黙々と食べ掛けの食事を口に運びだした。
ケイトは何か雰囲気が変わった二人に違和感を覚えながらも、昼間の連戦で疲れているのかと思い、あまり気にはしていなかった。
パーティーリーダーのケイトは明日の行動内容を簡単に決めると、その日は早目の休む運びとなった。
五人パーティーの場合、二人が見張りにあたり交代で寝るのが基本となる。リーダーのケイトが、いつものようにクジで順番を決めようとすると……。
「私が最初にやるわ」
「私も」
スカウトと戦士が手を上げてくれた。魔法使いと僧侶はMPが底を突いており、早めに寝かせてMPを回復させてあげたい……ケイトは二人の申し出を素直に受け入れ、先に休むことにした。
冒険者をしていれば、浅い眠りで身体の疲労を回復するのは当たり前になる。特に寝込みを襲われることもある冒険者稼業において、たとえ寝ていても異変があれば瞬時に目覚めるのは、基本中の基本だった。
ケイトは、浅い眠りの中で微かな物音に反応して飛び起きていた。当然のようにその手には、傍に置いていた大剣クレイモアが握られていた。
すぐに仲間の様子を確認すると、寝ている僧侶と魔法使いの二人に、半透明なスライム状の物体が近づくのが見えた。
ケイトは奇襲を受けたと思い、見張りをしていたスカウトと戦士の姿を探すが見当たらない。
「みんな起きろ! 魔物の奇襲だ!」
ケイトは目の前で眠る二人を起こそうと声を上げ、手にしたクレイモアをスライム状の魔物に振ると、柔らかなスライム状の物体は、クレイモアに斬られ二人から遠ざかる。
未だに目覚めない僧侶と魔法使いの二人の前に、ケイトがスライム状の魔物に対して壁のように立ち、クレイモアを構える。
スライム擬きと対峙したケイトが、二人を守る為にクレイモアを振るい続けていると、目を覚さなかった二人が起き上がる気配を背中越しに感じた。
これで何とかなると思い、後ろの二人に指示を出す。
「MPが回復していたら、ファイヤーボールで攻撃をお願い! あとライトで辺りを明るくして!」
「……」
前方のスライム擬きに魔法による援護を期待したが、一向に呪文の詠唱が始まらないことにケイトが訝しみ、後ろを肩越しに確認すると……腕から手の先までを触手に変化させた魔法使いに、肩を貫かれていた。
「そ、そんな……」
痛みでクレイモアを落としてしまうケイト。痛みを堪えて触手を無理矢理に引き抜くと、足元に転がるクレイモアに手を伸ばすが、今度は僧侶の触手が手に突き刺さる!
地面に縫い止められ動けなくなるケイトは、二人を睨みつけた。
「クッ、お前ら、みんなをどうした⁈」
ケイトは仲間に化けた魔物を睨みつけて、問い掛けるが返事は返ってこない……すると魔物の後ろから、スカウトと戦士の二人がいつの間にか現れ、背後からゆっくりと近づいていく。
ケイトは仲間が助けに来たものと思い期待するが、それはすぐに絶望へと変わる。
スカウトと戦士の二人が背後から魔物に近づくと、攻撃を加えることもなく魔物と並び、ケイトを上から見下ろすと……ニヤニヤと笑い始めた。
スカウトと戦士の腕が触手に変わるとケイトは理解した。生き残っているのは自分だけで、もう誰も生きていないことを……そして自分は今からこの魔物に食べられてしまうことに……
「なんで、なんでこんな事に……」
ケイトの呟きは誰にも聞かれることはなく、夜の闇へと消えていった。
誰も助けを期待できない森の中で、仲間を殺され仇を討てないまま死にゆく無力なケイトに、もう抗う力は残されていなかった。
仲間の形をしていた魔物が、地面に這いつくばるケイトに群がる。
「嫌だ、嫌だあ、食べないでお願い、イヤアァァッ!」
スライム状の体に変化したスライム擬きがケイトには群がると、触手の中にケイトを取り込み、少しずつ体を溶かし始める。
窒息して死なないよう、顔の部分以外をスライム擬きの触手に包まれるケイト。まるでケイトの恐怖する感情に、歓喜するようにケタケタと笑う魔物たち。
革の鎧と服を溶かし、下着を溶かし終わると、ついには体を溶かし始めた……少しずつ溶かされる恐怖と痛みにケイトは半狂乱になり叫び出した。
「誰か! お願い助けて! イヤアアアアアアア、痛い痛い痛い! 溶かさないで! お願い誰かああああああ!」
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