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第16章 勇者と憤怒決着編
第196話 愛の一撃
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メンタルマックス……荒廃した近未来、過酷な環境を生きるハードボイルドなオッさんを主人公にした異色のRPGである。
メタルパンクと西部劇を織り交ぜた独特な世界観や賞金首システム、大まかなストーリーのみで攻略手順がない自由なシステムなど、当時ドラゴンクエスチョン系のファンタジーRPGが主流な時代において、本当の意味でハードボイルドに発売された噛めば噛むほど味が出る、スルメみたいなRPGで異例の15万本を売り上げた。
『魔王退治にはもう飽きた』のCMキュッチコピーはあまりにも有名であり、その言葉通りこのゲームには魔王なんて者は登場しない。どこまでもリアルを追求した結果、主人公はアラファーのおっさんニートを採用、親父の死をキッカケにハンターとして社会復帰していく涙あり笑ありのハードボイルドなストーリーが売りである。
最大の特徴は荒廃した世界を生き抜くために、戦車を駆って戦うバトルシステムにあった。このゲームとにかく色々な乗り物に搭乗して敵と戦うことになるのだか、その車両の数が半端ない。
ゲームクリエイターのこだわりがミリタリー関係者をうならせ、戦車のみならずパトカーや救急車、果てはピザ屋の宅配バイクまで武装させて乗り回すほどの、とんでも魔改造も楽しめるのだ。
またこのゲームをプレイする上で、忘れてはならない存在がいる。実はこのゲーム、ハードボイルドを売りにし過ぎて主人公はいてもヒロインは存在しないのである。想像して欲しい、女っ気が皆無なニートなおっさんの冒険を……男性プレイヤーにとっては地獄である。
そんなプレイヤーのために、シリーズを通して必ず登場するヒロインの代わりとなる存在がおり、それが相棒のタマである。癒し担当の猫として、バズーカ砲を背負ってバッタバッタと敵を爆殺するその勇姿は、プレイヤーたちに癒しと心強さをもたらした。
剣と魔法が当たり前のRPGにおいて、大砲やミサイル、機銃や火炎放射器で敵をなぎ払い、アラフォーのオッさんの成長をハードボイルドに描く大人気RPG……それがメンタルマックスだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「グハッ! な、バ、ババア貴様!」
「小僧! わしらを出し抜こうなんて……十年早いんじゃよ!」
鳩尾に突き刺さるアキコさんの痛烈な肘打ちに、憤怒が苦悶の表情を浮かべると、ババアが飛び上がり憤怒のアゴを右足で蹴り上げる。
強制的に空を見上げさせられた憤怒……ガラ空きのアゴにすかさずアキコが左足で蹴りを放つ。神速の空中連続蹴りが憤怒を襲い、その体を宙に浮かせた。
「クッ!」
「まだじゃ、鉄山靠!」
震脚を踏んだアキコの体を莫大な力が駆け上がる。空中で無防備な姿を晒す憤怒に向かって、背中から体当たりするかのようにアキコがぶつかっていく。発生した力を無駄なく相手に叩き込む鉄壁の一撃……『鉄山靠』が憤怒を打ち飛ばす!
地面に叩きつけられた憤怒が大地を数メートル転がり、その動きを止めたと思った瞬間ーー憤怒が立ち上がり右手を頭上に掲げて不敵に笑う。
「残念だったなババア! 我の攻撃を止めたつもりだったのだろうが、黒球は健在だ! この勝負、我の勝ちだ!」
右腕に宿る憤怒の紋章が凶々しく黒いオーラの光を放つと、それに呼応するかのように黒球が鳴動する。
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ! 漢ビーム!」
「ポオオォォォオウ!」
ムキムキ筋肉を革のポンデージ隠したガチな人ことアンソンが、黒球に向かって漢ビームを放ち、世界的演歌歌手マイコーさんの美声が憤怒の動きを止めに入る。
だが、黒球にアンソンの漢ビーム直撃するも微動だにせず、漆黒の闇の中にビームが飲み込まれていく。そしてマイコーの美声が動きを封じるも、憤怒は不敵な笑え声を上げていた。
「フッハッハッハッハッハッ! 無駄だ。我の動きを封じようと、もう遅い! もうそいつは止まらない。愚かなる者よ、奴共々、消え去るいい。滅べ! 滅べ! 滅び去れ!」
憤怒の紋章が一際に輝き、闇が世界に解き放たれた時、黒球がヒロへ向かって撃ち出された。
黒球の真下にいたアキコが震脚を踏むと、黒球の進行方向の前へ瞬時に飛び出し、黒球を止めようと手を突き出していた。
黒球が押し返そうとするアキコ……だが勢いは止まらず、そのまま後ろへと押し出される。アキコの踏ん張る足が黒い大地に轍を作り上げていく。
「ふん! 少しは年寄りを労らんか!」
「貴様のような年寄りがいてたまるか! さっさと死ぬがいい!」
黒球の動きがアキコによって若干鈍るが止まらない。枯れ木のような腕で押し返そうとするが勢いは衰えない。するとそれを見た赤いシャツに青いオーバーオールを履いたセクシーダイナマイツなスーパーマリナと、青い二足歩行するハリネズミが触手の木々をすり抜けてアキコに合流する。そして三人が黒球を押し返そうと踏ん張る。
「我が全力を込めた黒球だ! その程度で止められるとでも思った……か⁈」
憤怒の声が一瞬詰まると、その目は驚愕に変わる。それは三人に抑えられた黒球の進むスピードが目に見えて落ちていたからだった。
その姿を見た皆が一斉に動き出した。誰に言われるまでもなく、自らが成すべきことを成さんがために!
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」
アンソンが掛け声と共に、筋肉を震わせエネルギーチャージを開始する。それは限界以上に筋肉を酷使し過剰とも言えるエネルギーを溜め始めていた。
筋肉が悲鳴を上げ、毛細血管がズタボロに傷付こうと止まらない。全身から血を流しながらもポージングを崩さず、撃ち出すタイミングを計り続ける。
ついに触手の木々を抜け、愛すべきキャラ達が切り開いた道にまで押し戻された三人、それを見た雑魚キャラたちが黒球を止めようと群がる。
触手への攻撃の手を止め、雑魚キャラたちが三人を後ろから
支える。数百を超えるキャラ達が黒球をヒロの元へ行かせぬために立ち塞がる。するとついに黒球がその動きを止め静止した。
「ば、ばかな、我の黒球が⁈ クソ! 体が動きさえすれば! このままでは奴が……」
「ポオオォォォオウ!」
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」
非暴力の体現者マイコーの美声の前に、憤怒は完全に動きを止められてしまい指一本動かせない。チラリと遥か後方を見た憤怒の目にまぶしいほどの強い光が飛び込んできた。
「マズイ……仕方がない。奴共々死ぬがいい!」
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」
再び憤怒の紋章が光り輝くと同時に、呼応するかのように黒球が一回り小さく縮小する。すると次の瞬間ーー
「漢ビーム!」
ーー大爆発が起こった! アンソンの漢ビームが当たる前に黒球が爆発を起こし、当たり一面が黒い爆炎と爆風に覆われていく。地獄の釜を開けたような熱量に大気は焼かれ、爆風が全てを吹き飛ばす。
凄まじい大気のウネリと熱が周囲一帯に広がりながら襲い掛かり、その爆発の規模は半径150メートルにも及び、後方にいたヒロを余裕で巻き込むほど広範囲に被害をもたらしていた。
範囲内にいた全ての愛すべきキャラと触手は例外なく燃え上がり吹き飛ばされて力尽きてしまう。あとに残るのは、爆風によって吹き飛ばされ燃え残った触手と死したゲームキャラたち……そして焼けただれた黒い大地だけだった。
そんな爆発の中心地にいた憤怒は息を止め、【絶対防御】スキルを発動することで自らの身を守っていた。
爆風が収まり、爆煙が少しずつ晴れていく。一分、二分と時が経ったところで、ようやく憤怒が息を吐き出し空気を吸う。
「ぶは~、ハア、ハア……、や、殺ったか?」
まだ爆煙で周りがよく見えない、荒い息を吐いた憤怒が禍々しいオーラを腕にまとい横に振るうと、大気が流れ視界が晴れていく。
そして開けた視界を見た憤怒の目に、直視できないほどの輝きが飛び込んできた。あまりのまぶしさに手で顔を隠す憤怒……開いた指の間から覗くと、そこには光り輝く剣を手にするヒロの姿が見えた。
「い、生きていただと? バカな! 我の全力を人が耐えるなどありえん……ま、まさか、奴らの仕業か!」
憤怒は目の前に横たわる燃え残ったアンソンたちの遺体を忌々しい目で睨み付けていた。
「みんな……ありがとう」
ヒロは見ていた……黒球が爆発した瞬間、アンソンの漢ビームが爆炎と衝撃を切り裂き、ゲームキャラ達がヒロの前に立ち塞がり、壁になることで爆風と熱から守ってくれた事を……ヒロは目をつぶり、散っていった多くのキャラ達を思い感謝すると……手にした光り輝く剣を頭上にゆっくりと上げ静止する。
それは透き通るような美しいブレイドを持つ剣だった。無色透明な、混じりっ気なしの純粋な思いを形にした剣
……全てを切り裂くアブソルートソードの輝きが黒き世界を眩い光で照らし出していた。
不気味な静寂が訪れた……さっきまで吹いていた爆風も、燃え上がる炎の音も何もかも聞こえない。あるのはただヒロと憤怒の二人の吐息と鼓動の音だけ……まるで静止した時間の中にいるかのような世界がそこに現れた。
そしてヒロが目を『カッ!』と見開いたときーー頭上に掲げた輝く剣から黄金の光が溢れ、地平から顔を覗かせる太陽の如き朝焼けのまぶしい光が黒き世界を照らし出し、一瞬にして全ての景色を白一色へと塗り替える……それはまさに空に輝く太陽が地上に現れたような光景だった
「な、なんだその光は⁈」
憤怒は、眼前で起こる現象を前にして思わず叫んでいた。
光が……剣からほと走る光が、逆巻く濁流の如き勢いで放出され、世界を黄金の輝きで染め上げていく。
「憤怒、終わりにしよう。これは僕の持てる力を全て注いだ最後の一撃……これが僕と愛するゲームとの絆の光だぁぁぁぁ!」
手にした剣に力を込めると、ヒロの周りに光が溢れかえり、輝きが爆発する。
「ヒッ! そ、そんなもの、我の【絶対防御】スキルの前では何の意味もなさんわ!」
紋章が発する禍々しい黒いオーラを体にまとうと、憤怒は息を止め防御体勢を取る。攻撃を避けるという選択肢もあったが、憤怒の本能はアレからは逃げきれない、全力で守れと叫んでいた。憤怒は自らの直感に従いヒロの一撃を待ち構える。
「全てを切り開け! アブソルートソード!」
「クッ!」
ヒロは真っすぐに頭上に掲げた剣の切っ先を、裂帛の気迫と共に渾身の力を込めて振り下ろすと、一条の光の軌跡が憤怒に向かって解き放たれた!
黄金の光が、瀑布の如き凄まじい勢いで憤怒に襲い掛かり、瞬く間にその姿を光の渦の中に飲み込んでいく。
「ぐぉぉぉぉっ!」
絶対防御スキルと黒いオーラを張り巡らせた体で、黄金の光に拮抗する憤怒だったが徐々に押し負け、体が少しずつ光の粒子へと変わっていく。
「ば、馬鹿な、我が【絶対防御】スキルが⁈ な、なんだコレは⁈ 我の体を……存在のデータを光に書き換えているだと⁈ そんな事が出来るのは我が父、創世神にしか⁈ や、奴は一体⁈」
必死に抗う憤怒……だが非情にもヒロはトドメとばかりに振り抜いた剣を返しーー
「憤怒よ! 今度こそ、お前はここでゲームオーバーだ!」
ーー足を一歩前に踏み出しながら、切っ先を左下から右上へと、静かに斬り上げた。
幾重にも重なった闘気と殺気が、黄金の光の中で抗う憤怒へと打ち放たれる。それはただ一つ『絶対なる死』の理が込められた光刃の一撃だった。
光の軌跡を斬り裂きながら、ひときわに輝く光の刃が憤怒に吸い込まれるように打ち込まれた。
「そ、そんな、たかが人ごときに我が……ギャァアアアアアアアアア!」
悲鳴とともに、憤怒の体を包み込んだ金色の光は天を突き抜け、一筋の光の柱となって空へと伸びていくのだった。
〈真なるゲーマーの愛が、ついに憤怒の魂を斬り裂いた!〉
メタルパンクと西部劇を織り交ぜた独特な世界観や賞金首システム、大まかなストーリーのみで攻略手順がない自由なシステムなど、当時ドラゴンクエスチョン系のファンタジーRPGが主流な時代において、本当の意味でハードボイルドに発売された噛めば噛むほど味が出る、スルメみたいなRPGで異例の15万本を売り上げた。
『魔王退治にはもう飽きた』のCMキュッチコピーはあまりにも有名であり、その言葉通りこのゲームには魔王なんて者は登場しない。どこまでもリアルを追求した結果、主人公はアラファーのおっさんニートを採用、親父の死をキッカケにハンターとして社会復帰していく涙あり笑ありのハードボイルドなストーリーが売りである。
最大の特徴は荒廃した世界を生き抜くために、戦車を駆って戦うバトルシステムにあった。このゲームとにかく色々な乗り物に搭乗して敵と戦うことになるのだか、その車両の数が半端ない。
ゲームクリエイターのこだわりがミリタリー関係者をうならせ、戦車のみならずパトカーや救急車、果てはピザ屋の宅配バイクまで武装させて乗り回すほどの、とんでも魔改造も楽しめるのだ。
またこのゲームをプレイする上で、忘れてはならない存在がいる。実はこのゲーム、ハードボイルドを売りにし過ぎて主人公はいてもヒロインは存在しないのである。想像して欲しい、女っ気が皆無なニートなおっさんの冒険を……男性プレイヤーにとっては地獄である。
そんなプレイヤーのために、シリーズを通して必ず登場するヒロインの代わりとなる存在がおり、それが相棒のタマである。癒し担当の猫として、バズーカ砲を背負ってバッタバッタと敵を爆殺するその勇姿は、プレイヤーたちに癒しと心強さをもたらした。
剣と魔法が当たり前のRPGにおいて、大砲やミサイル、機銃や火炎放射器で敵をなぎ払い、アラフォーのオッさんの成長をハードボイルドに描く大人気RPG……それがメンタルマックスだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「グハッ! な、バ、ババア貴様!」
「小僧! わしらを出し抜こうなんて……十年早いんじゃよ!」
鳩尾に突き刺さるアキコさんの痛烈な肘打ちに、憤怒が苦悶の表情を浮かべると、ババアが飛び上がり憤怒のアゴを右足で蹴り上げる。
強制的に空を見上げさせられた憤怒……ガラ空きのアゴにすかさずアキコが左足で蹴りを放つ。神速の空中連続蹴りが憤怒を襲い、その体を宙に浮かせた。
「クッ!」
「まだじゃ、鉄山靠!」
震脚を踏んだアキコの体を莫大な力が駆け上がる。空中で無防備な姿を晒す憤怒に向かって、背中から体当たりするかのようにアキコがぶつかっていく。発生した力を無駄なく相手に叩き込む鉄壁の一撃……『鉄山靠』が憤怒を打ち飛ばす!
地面に叩きつけられた憤怒が大地を数メートル転がり、その動きを止めたと思った瞬間ーー憤怒が立ち上がり右手を頭上に掲げて不敵に笑う。
「残念だったなババア! 我の攻撃を止めたつもりだったのだろうが、黒球は健在だ! この勝負、我の勝ちだ!」
右腕に宿る憤怒の紋章が凶々しく黒いオーラの光を放つと、それに呼応するかのように黒球が鳴動する。
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ! 漢ビーム!」
「ポオオォォォオウ!」
ムキムキ筋肉を革のポンデージ隠したガチな人ことアンソンが、黒球に向かって漢ビームを放ち、世界的演歌歌手マイコーさんの美声が憤怒の動きを止めに入る。
だが、黒球にアンソンの漢ビーム直撃するも微動だにせず、漆黒の闇の中にビームが飲み込まれていく。そしてマイコーの美声が動きを封じるも、憤怒は不敵な笑え声を上げていた。
「フッハッハッハッハッハッ! 無駄だ。我の動きを封じようと、もう遅い! もうそいつは止まらない。愚かなる者よ、奴共々、消え去るいい。滅べ! 滅べ! 滅び去れ!」
憤怒の紋章が一際に輝き、闇が世界に解き放たれた時、黒球がヒロへ向かって撃ち出された。
黒球の真下にいたアキコが震脚を踏むと、黒球の進行方向の前へ瞬時に飛び出し、黒球を止めようと手を突き出していた。
黒球が押し返そうとするアキコ……だが勢いは止まらず、そのまま後ろへと押し出される。アキコの踏ん張る足が黒い大地に轍を作り上げていく。
「ふん! 少しは年寄りを労らんか!」
「貴様のような年寄りがいてたまるか! さっさと死ぬがいい!」
黒球の動きがアキコによって若干鈍るが止まらない。枯れ木のような腕で押し返そうとするが勢いは衰えない。するとそれを見た赤いシャツに青いオーバーオールを履いたセクシーダイナマイツなスーパーマリナと、青い二足歩行するハリネズミが触手の木々をすり抜けてアキコに合流する。そして三人が黒球を押し返そうと踏ん張る。
「我が全力を込めた黒球だ! その程度で止められるとでも思った……か⁈」
憤怒の声が一瞬詰まると、その目は驚愕に変わる。それは三人に抑えられた黒球の進むスピードが目に見えて落ちていたからだった。
その姿を見た皆が一斉に動き出した。誰に言われるまでもなく、自らが成すべきことを成さんがために!
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」
アンソンが掛け声と共に、筋肉を震わせエネルギーチャージを開始する。それは限界以上に筋肉を酷使し過剰とも言えるエネルギーを溜め始めていた。
筋肉が悲鳴を上げ、毛細血管がズタボロに傷付こうと止まらない。全身から血を流しながらもポージングを崩さず、撃ち出すタイミングを計り続ける。
ついに触手の木々を抜け、愛すべきキャラ達が切り開いた道にまで押し戻された三人、それを見た雑魚キャラたちが黒球を止めようと群がる。
触手への攻撃の手を止め、雑魚キャラたちが三人を後ろから
支える。数百を超えるキャラ達が黒球をヒロの元へ行かせぬために立ち塞がる。するとついに黒球がその動きを止め静止した。
「ば、ばかな、我の黒球が⁈ クソ! 体が動きさえすれば! このままでは奴が……」
「ポオオォォォオウ!」
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」
非暴力の体現者マイコーの美声の前に、憤怒は完全に動きを止められてしまい指一本動かせない。チラリと遥か後方を見た憤怒の目にまぶしいほどの強い光が飛び込んできた。
「マズイ……仕方がない。奴共々死ぬがいい!」
「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」
再び憤怒の紋章が光り輝くと同時に、呼応するかのように黒球が一回り小さく縮小する。すると次の瞬間ーー
「漢ビーム!」
ーー大爆発が起こった! アンソンの漢ビームが当たる前に黒球が爆発を起こし、当たり一面が黒い爆炎と爆風に覆われていく。地獄の釜を開けたような熱量に大気は焼かれ、爆風が全てを吹き飛ばす。
凄まじい大気のウネリと熱が周囲一帯に広がりながら襲い掛かり、その爆発の規模は半径150メートルにも及び、後方にいたヒロを余裕で巻き込むほど広範囲に被害をもたらしていた。
範囲内にいた全ての愛すべきキャラと触手は例外なく燃え上がり吹き飛ばされて力尽きてしまう。あとに残るのは、爆風によって吹き飛ばされ燃え残った触手と死したゲームキャラたち……そして焼けただれた黒い大地だけだった。
そんな爆発の中心地にいた憤怒は息を止め、【絶対防御】スキルを発動することで自らの身を守っていた。
爆風が収まり、爆煙が少しずつ晴れていく。一分、二分と時が経ったところで、ようやく憤怒が息を吐き出し空気を吸う。
「ぶは~、ハア、ハア……、や、殺ったか?」
まだ爆煙で周りがよく見えない、荒い息を吐いた憤怒が禍々しいオーラを腕にまとい横に振るうと、大気が流れ視界が晴れていく。
そして開けた視界を見た憤怒の目に、直視できないほどの輝きが飛び込んできた。あまりのまぶしさに手で顔を隠す憤怒……開いた指の間から覗くと、そこには光り輝く剣を手にするヒロの姿が見えた。
「い、生きていただと? バカな! 我の全力を人が耐えるなどありえん……ま、まさか、奴らの仕業か!」
憤怒は目の前に横たわる燃え残ったアンソンたちの遺体を忌々しい目で睨み付けていた。
「みんな……ありがとう」
ヒロは見ていた……黒球が爆発した瞬間、アンソンの漢ビームが爆炎と衝撃を切り裂き、ゲームキャラ達がヒロの前に立ち塞がり、壁になることで爆風と熱から守ってくれた事を……ヒロは目をつぶり、散っていった多くのキャラ達を思い感謝すると……手にした光り輝く剣を頭上にゆっくりと上げ静止する。
それは透き通るような美しいブレイドを持つ剣だった。無色透明な、混じりっ気なしの純粋な思いを形にした剣
……全てを切り裂くアブソルートソードの輝きが黒き世界を眩い光で照らし出していた。
不気味な静寂が訪れた……さっきまで吹いていた爆風も、燃え上がる炎の音も何もかも聞こえない。あるのはただヒロと憤怒の二人の吐息と鼓動の音だけ……まるで静止した時間の中にいるかのような世界がそこに現れた。
そしてヒロが目を『カッ!』と見開いたときーー頭上に掲げた輝く剣から黄金の光が溢れ、地平から顔を覗かせる太陽の如き朝焼けのまぶしい光が黒き世界を照らし出し、一瞬にして全ての景色を白一色へと塗り替える……それはまさに空に輝く太陽が地上に現れたような光景だった
「な、なんだその光は⁈」
憤怒は、眼前で起こる現象を前にして思わず叫んでいた。
光が……剣からほと走る光が、逆巻く濁流の如き勢いで放出され、世界を黄金の輝きで染め上げていく。
「憤怒、終わりにしよう。これは僕の持てる力を全て注いだ最後の一撃……これが僕と愛するゲームとの絆の光だぁぁぁぁ!」
手にした剣に力を込めると、ヒロの周りに光が溢れかえり、輝きが爆発する。
「ヒッ! そ、そんなもの、我の【絶対防御】スキルの前では何の意味もなさんわ!」
紋章が発する禍々しい黒いオーラを体にまとうと、憤怒は息を止め防御体勢を取る。攻撃を避けるという選択肢もあったが、憤怒の本能はアレからは逃げきれない、全力で守れと叫んでいた。憤怒は自らの直感に従いヒロの一撃を待ち構える。
「全てを切り開け! アブソルートソード!」
「クッ!」
ヒロは真っすぐに頭上に掲げた剣の切っ先を、裂帛の気迫と共に渾身の力を込めて振り下ろすと、一条の光の軌跡が憤怒に向かって解き放たれた!
黄金の光が、瀑布の如き凄まじい勢いで憤怒に襲い掛かり、瞬く間にその姿を光の渦の中に飲み込んでいく。
「ぐぉぉぉぉっ!」
絶対防御スキルと黒いオーラを張り巡らせた体で、黄金の光に拮抗する憤怒だったが徐々に押し負け、体が少しずつ光の粒子へと変わっていく。
「ば、馬鹿な、我が【絶対防御】スキルが⁈ な、なんだコレは⁈ 我の体を……存在のデータを光に書き換えているだと⁈ そんな事が出来るのは我が父、創世神にしか⁈ や、奴は一体⁈」
必死に抗う憤怒……だが非情にもヒロはトドメとばかりに振り抜いた剣を返しーー
「憤怒よ! 今度こそ、お前はここでゲームオーバーだ!」
ーー足を一歩前に踏み出しながら、切っ先を左下から右上へと、静かに斬り上げた。
幾重にも重なった闘気と殺気が、黄金の光の中で抗う憤怒へと打ち放たれる。それはただ一つ『絶対なる死』の理が込められた光刃の一撃だった。
光の軌跡を斬り裂きながら、ひときわに輝く光の刃が憤怒に吸い込まれるように打ち込まれた。
「そ、そんな、たかが人ごときに我が……ギャァアアアアアアアアア!」
悲鳴とともに、憤怒の体を包み込んだ金色の光は天を突き抜け、一筋の光の柱となって空へと伸びていくのだった。
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だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
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