勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第17章 勇者と嵐の旅立ち編

第205話 ラブパワー! そして伝説へ……

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 男が剣を構えながら、女をその胸に抱いていた。目の前には伝説の魔物、オークヒーローの体を乗っ取った強大なる者……憤怒が膝をつき、肩で息をしていた。


「バ、バカな! たかが人ごときに、我の【絶対防御】スキルが破られるなど!」

「憤怒、お前の敗因はたったひとつ……愛を軽く見すぎていたことだ」

 流し目の金髪の男が剣を憤怒に向けそう言い放つ。


「あ、愛だと? くだらぬ! そんなもの、なんの力にもならぬわ!」


 体がどぎついピンク色の筋肉隆々の大男……豚鼻をフゴフゴさせながら、憤怒が流し目のカッコいい男とナイスバディな女に向かって吼える。


「憤怒……あなたがいくらオーク族を操り、その数をもって人を滅ぼそうとしてもムダです。なぜなら……そこには愛がないから!」


 推定Fカップの修道服を着たダイナマイトボディーの女性が、凛とした声で言い放つ。


「憤怒よ、たしかに人は弱い生き物だ。お前のようにひとりで強大な力などもつことはできない。だがな……人は愛する誰かが、そばにいてくれるだけで強くなれる。愛を知らぬオーク族など、いくら増やそうが意味はない!」

「愛する人がそばにいれば、私たち人族は誰もが強くなる。たとえあなたが神に匹敵する力を持とうとも、人の愛はそれすらも超えられます。この力……ラブパワーは、憎しみしかないあなたにはわからないでしょう」

「おのれ、人如きが我に比肩するなどあってはならんのだ! 人は滅ぶべき存在、滅べ、滅べ、滅びされ!」


 すると憤怒が振るった手から、無数の触手に見立てたロープが投げ出されるが、男は手にした剣ですべてを打ち払う!


「ムダだ憤怒! 真の愛に目覚めた僕たちの前に、もうお前の攻撃なんか効きやしない」

「な、なんだと! 我の触手すら通じないなど……それにその男の傷が、なぜ癒されている? 奴は瀕死の重症だったはず? 回復魔法が使えぬ聖女のクセになぜ⁈」

「たしかに私に回復魔法は使えません。ですが、女神はそんな私に力を与えてくれました。触れたものすべてを癒す力……愛の奇跡です。たとえあなたがヒロを傷つけようと私の無限の愛が彼を癒してみせます!」

「あ、愛だと⁈ これが人のもつ愛の力だというのか⁈」


 狼狽する憤怒……その姿を見て男は手にした剣を地面に突き刺し、女と見つめ合う。


「リーシア、ありがとう。僕は君のおかげで知りました。人を愛するという意味を……」

「ヒロ、私もです。あなたがそばに居てくれたから……」


 強く互いを抱きしめ合う二人と、それを律儀に憤怒は見守る。


「リーシア、今こそ僕は君に言わなければいけないことがあります」

「ヒロ……」

「リーシア、僕は君が……君が好きだ! 君が欲しい!」

「ヒロ! 私も……私もヒロのことが……もう、もう離さないで」

「僕はもう絶対に君を離さない! 僕たちはずっと一緒だ」

「はい。ヒロ、ずっと……ずっと一緒です」


 互いの手を握り強く抱きしめ合う二人……愛の力が振り切れて二人の周りを、ラブラブな雰囲気が包み込む。それを憤怒は忌々しい目で見ていた。


「さあ、リーシア、最後の仕上げです。オークヒーローの体に取り憑いた憤怒を倒しますよ!」

「はい、やりましょうヒロ! 二人で憤怒を倒し、オークヒーローを……もう眠らせてあげましょう」


 なんかスラット長身な男が、大人の美貌を携えた女と二人で、木剣を手にラブラブに構えると……どこから共なく荘厳でカッコいい音楽が流れはじめ、テンションが上がっていく!


「「二人の思いが真っ赤に燃える!」」

「幸せ掴めと」


「轟き叫ぶ!」


 見事なハーモニーを奏でながら、二人が声を大にして叫ぶと、ラッブラブに手を重ね、剣をブンブン振り回しながら上段に構える。


「「覇神六王流、最終奥義!」」

「「ば~くれつ!」」

「「ラブラブ~! 神威滅却剣~!」」


 二人のラブパワーを乗せた一撃が勢いよく降り下ろされる。すると……なんか後ろでスタンバッていた魔法使いが、キラキラ光るド派手な魔法を憤怒に向かって撃ち放つ! ド派手な色をした光球が憤怒に当たると、大きな音と光を放ち爆散する。


「我が破れるなど……お、おのれ……人よ、忘れるな……ここで我が倒されようとも何度でも蘇り、人を必ず滅ぼしてくれる!」

「ならば憤怒よ、覚えておけ! なんどお前が蘇ろうと、人のもつラブパワーが、必ずおまえを討ち倒す!」

「そう、私たちのラブパワーは不滅です!」

「ラブパワー……おのれ! おのれ! おのれ~! ぎゃあぁぁぁぁ!」


 二人の愛の攻撃を受け、ついに力尽きた憤怒が仰向けにパタンと倒れ動かなくなると、ヒロ(役者)は再びリーシア(役者)を胸に抱き見つめ合う。


「リーシア……」

「ヒロ……」


 観客の熱い視線が抱き合う二人に降り注ぐ。どちらともなく目をつぶり、口づけを交わすと同時に祝福の声と拍手喝采が巻き起こる!


「うわああぁぁぁぁ! 素晴らしい! 愛の力バンザイ!」

「愛よ! 愛が恐ろしいオークヒーローと憤怒の野望に打ち勝ったのよ!」

「すっげ~! 勇者ヒロ! 聖女リーシアも!」

 
「きゃー! 二人ともお幸せに~♪」


 割れんばかりの声が広場に響き渡り、観客席の中から……口をパクパクさせながらステージを見つめる少女がいた。

 頭からマントのフードをスッポリと被り、顔と体を隠す小柄な人物……その周りを、十数人の子供たちが取り囲んでいた。

「な、な、な、な、な……なんですかこれは⁈ ど、ど、どうしてこんな話になっているんですか⁈」

 
 そう、アワアワと小声で声を出す人物……リーシア(本物)が、あまりにも事実とかけ離れた演劇に、驚愕していた。


「二人の愛が……女神の教えは本当だったのね! 愛よ、愛こそが最強なのよ!」

「すごい! あんな告白……私もされてみたい! 勇者と聖女のラブロマンス……これはもう伝説よ! 後世に永遠に語り継がなくちゃならないわ!」

「ラブパワー! ラブパワー! ラブパワー! ラブパワー!」


 民衆の凄まじい熱狂の声に、少女の小さな声はかき消されてしまう。アルムの町にある中央広場でラブパワーの大合唱がはじまってしまった。凄まじいまでの熱狂が広場を包み込む。



 それは冒険者ギルドに。オーク討伐の朗報がもたらされた日のことだった。
 
 突如として降って湧いたオーク討伐の報にアルムの町は喜びの声に包まれ、人々は命が助かったことを神と女神に感謝し、オークヒーローを倒した英雄ともいうべきオーク討伐隊を口々に褒め称えていた。とりわけ町中で話題になっているのは、やはり勇者ヒロと聖女リーシアの二人の活躍だった。孤児院の子供たちが語るオーク討伐の噂がアルムの町を駆け巡り、話に尾ヒレが付きまくった結果……トンデモ英雄譚が誕生してしまったのだ。

 アルムの町は、もう飲めや歌えのお祭り騒ぎとなり、家の中に閉じこもっていた人々が酒や料理を外に持ち出し道行く人に振る舞う。老若男女種族を問わずアルムの町は歓喜に声に満ち溢れていた。
 
 そして町にいた吟遊詩人や大道芸人が一堂に集まり、町の中央広場で即興のオーク討伐劇を演じていたのである。

 広場に鳴り響くラブパワーの大絶叫! 集まった人々は誰もが二人の愛を讃え祝福していたが、当の本人であるリーシアは恥ずかしさのあまり、真っ赤な顔を手で覆いその美貌を隠してしまう。


「な、なんでこんな話に⁈ あんなこと言ってもいないし、言われてもいませんよ。それに……」


 もう自分の隣にはいないヒロの顔を思い浮かべ、気持ちが落ち込むリーシア……そんな悲しみを敏感に感じとった弟分のリゲルが声を掛ける。


「リーシアお姉ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫ではないです。このトンデモ話が、このまま真実となってしまったら……恥ずかしくて、もう私は外を歩けませんよ⁈」

「いや、そうじゃなくて、あの……ヒロ兄ちゃんは『ラブパワー! ラブパワー! ラブパワー! ラブパワー!』」


 昨晩、リーシアからヒロが憤怒を倒した直後に、アルムの町を去ってしまったとリゲルは聞かされていた。『元々は旅の途中だったため、憤怒を倒したあと町には戻らずにそのまま旅立ってしまいました』と、寂しそうに話していたが……それを鵜呑みにするほどリゲルは子供ではなかった。

 それを他の孤児院の子たちも勘付いていた。普段通り振る舞おうと、から元気でオーク討伐の様子を話してくれたリーシア……そんな嘘の下手な少女の武勇伝を聞いて、みんなが心配していたのだ。

 そんな折、中央広場で町の有志が集まり、オーク討伐の一部始終を即興劇として上演すると聞き、気分転換にと子供たちがリーシアは連れ出してきたのである。


「ラブパワー! ラブパワー! ラブパワー! ラブパワー!」


 凄まじいまでのラブパワーコールに、リーシアは逃げ出したくなっていた。フィクションとはいえ、あまりにも恥ずかしいヒロとのラブロマンスを、町のみんなが声を上げて熱狂する姿に……リーシアは穴があったら入り込みたかった。その上で穴に蓋をしてもらい、震脚で固く踏み絞めてもらいたい心境であった。

 リーシアは恥ずかしさのあまり、絶対にバレてはならないと頭をスッポリと隠すフードをさらに深く被る。そして下から心配そうに顔を覗き込むリゲルに向かってニッコリと微笑みながら告げた。


「帰りましょう……みんな……そして帰ったら、スペシャルなお仕置きです!」

「「「「え⁈」」」」


 小声で子供たちに死刑宣告を言い残し、リーシアがきびすを返す。いま自分がここにいることがバレたら大混乱になり、子供たちが危ないと感じたリーシアはそそくさと歩き出していた。

 そんなリーシアの思いとは裏腹に、あることないことを町の人たちに吹聴しまくった子供たちは、スペシャルなお仕置きの言葉にガクブルしながら少女の後に続いた。

 そしてリーシアが人混みをかき分け、教会に戻ろうした時だった――


「え~ん、お母さ~ん」


――ラブパワーの合唱の中、小さな子供の泣き声がリーシアの耳に届き、辺りをキョロキョロとする。
 すると人混みの中で……膝小僧を擦りむき、血を流す小さな女の子の姿をリーシアは見つける。

 リーシアは女の子を見るなり、すぐそばにまで駆け寄り膝を地面について目線を小さな女の子と同じ高さに合わせながら優しく語りかける。


「大丈夫ですか? ひとり? お母さんは?」

「ひっぐ……お母さんいない。お母さんどこ~、足がいたい~、お母さ~ん。え~ん」


 母親とはぐれた寂しさと不安、そして転んで出来たケガの痛みに女の子はわんわん泣き出してしまった。さすがにラブパワーの大合唱の中とはいえ、周りにいた人々も子供の泣き声に気がつき何事かと注目する。

 激しく泣きだした小さな女の子を見たリーシアは、スッポリと被ったマントのフードを取ると優しく話しかける。


「迷子さんですか?」


 慈愛に満ちた真っすぐな目でリーシアが小さな女の子を見つめる。母親に話しかけられた時のような安らぎを感じた女の子は、いつの間にか泣くのをやめていた。

「お姉ちゃんはだれ?」

「私はリーシアと言います。教会の見習いシスターさんですよ。あなたのお名前は?」

「私の名前?……私の名前はリーナ……」

「リーナちゃんですか、大丈夫ですよ。私が必ずお母さんのところに連れて行ってあげますから、だから安心してください」

「お母さんのとこに連れてってくれるの?」

「はい。ですがその前に……そのケガをした足、ちょっと見せてください」

「うん、いいよ……」


 血が付いた膝小僧を見やすいようにと、リーナが足を前に差し出す。リーシアは修道服が靴底で汚れるのもお構いなしに、跪いた自分の太ももに、靴を履いたままのリーナの足を乗せ、傷の具合を確かめる。


「なんだ? なんだ?」

「小さな子供が迷子らしい」

「教会のシスターが……」

「金髪のシスター?」


 リーシアと女の子を囲むようにして、徐々に人の輪が出来はじめていた。人々の口から小さな声が漏れ、水面に落ちた水滴の波紋の如く広がっていく。


「これは転んで膝小僧を擦りむいちゃいましたね?」

「うん……ジュクジュクして痛いの……あれ? 痛くない? なんで?」


 女の子が今の今まで感じていた痛みが、リーシアの体に触れた途端に消えてしまっていた。不思議な現象にリーナはキョトンとする。

 するとリーシアが、マントの下に隠していた修道服のポケットをゴソゴソし、綺麗な布を取り出すと血を流す膝小僧にあてがう。


「痛くないですか?」

「う、うん、もう痛くないよ……でも不思議? 何で?」

「さあ? 何ででしょうね? フッフッフッフッ」


 不思議そうな顔をするリーナ……リーシアはそれ見て微笑んでいた。


「じゃあ、もっと不思議なことが起きますよ。見ていてください。ハイ♪」


 その掛け声と共に、血に汚れた布を膝小僧から離すと……さっきまで皮が擦り剥け、血を流していた膝小僧が何事もなかったかのように、傷ひとつない綺麗な肌を取り戻していた。


「え?……なんで⁈ ケガがなくなってる! もう痛くもないよ、ホラ♪」


 ピョンピョン飛び跳ねる女の子……すると――


「リーナ!」


――人混みをかき分けて、女性が女の子の名前を叫びながら駆け寄って来る。


「あっ、お母さ~ん!」

「リーナ!」


 リーナが女性に飛びつくと、母親とおぼしき人が涙を流しながら女の子を受け止めていた。


「リーナ、ああ……良かった無事で、ひとりにしてごめんね」


 我が子を抱きしめて涙を流しながら謝る母親……それを見たリーシアの心に暖かい光が差し込んでいた。


「ううん。私がお母さんの手を離しちゃったから……ごめんなさい」

「いいのよ。それよりケガとかはしていない?」

「転んじゃってお膝が痛かったけど、あのお姉ちゃんが治してくれたの、すごいんだよ。ホラッ!」


 リーシアを指差し、自らの膝小僧を自慢げに母親に見せると、そこには傷ひとつ付いていない膝小僧があった。それを見た母親は、我が子を助けてくれた恩人に礼を言おうと、リーシアの前にまで、子供を抱っこしながら近づく。


「どなたかは存じませんが、娘を助けていただきありがとうございます」

「お姉ちゃんありがとう」


 子供を抱きかかえ、礼を述べる母娘の姿見たリーシアは、懐かしい感覚を思い出しはにかんでいた。


「いえ、リーナちゃんが、お母さんと再会出来て良かったです。それでは」


 と、マントのフードを被り直し、ソソクサと広場から逃げ出そうとしたとき――


「あっ! 待ってよリーシアお姉ちゃん!」


――リゲルがいつもの調子でリーシアの名前を口にしてしまい、その言葉に周りで様子をうがっていた人々が反応する。


「え? リーシア?」

「教会のシスター⁈」

「まさか……でもいま、ヒール魔法を唱えた訳でないのに、女の子のケガが治ったよな?」

「彼女だ! 彼女こそラブ聖女……シスターリーシアに間違いない」

「え! シスターリーシア」

「ラブラブ聖女のリーシア様⁈」

「ラブ聖女リーシア様がいるの⁈ どこ? どこにいるの!」


 一瞬にして、リーシアの存在が周りに知れ渡り、民衆にリーシアが取り囲まれてしまう。


「おお! ありがとう聖女リーシア! あなたと勇者ヒロがいなければアルムの町は滅びていたかもしれません。オーク達を倒してくれて本当にありがとう」

「こんな小さな少女の愛が勇者を救い、憤怒を倒したのか? 信じられない⁈」

「ばか! 二人の愛は神に祝福された本物なのよ、真実の愛が世界を救ったの」

「おお、聖女リーシア……あなたの愛をどうぞ私たちにも……」

「神の奇跡を!」

「聖女の癒しを!」


 リーシアの周りを人々が埋めていき、ちょっとした人垣が出来はじめといた。あまりの熱狂ぶりにどうしようと悩むリーシア……すると――


「聖女様、どうか我らをお救いください」


――リーシアを取り囲む人々の中から、ひとりの老婆が周りの人に先導されながら前に出て来る。するとその老婆の周りにいた者たちが、祈りを捧げるように手を組み、目を閉じながら跪いた。


「聖女様、お願い、おばあちゃんを助けて!」

「お願いです。母を、母を助けてください。つい最近、頭を強く打ちつけて目が……目が見えなくなってしまったんです。どうか……どうか、母を助けてください」


 リーシアの前で親子が膝をつき、母を、お婆ちゃんを助けてと懇願する。


「え、え~と……すみません。私のスキルでは、ケガは治せても失明した人を治せないかもしれませんよ」

「それでも構いません。聖女様に診ていただけるだけでも……お願いです」

「止めておくれ、私はいいんだよ。こんなことで聖女様のお手を煩わせるなんて……聖女様、申し訳ありません。私はもう年です。今さら目が見えたところで生い先短い命なのです。だから私などに構わず、どうかその力を他の人にお使いください」

「母さん……」

「お婆ちゃん……」


 リーシアの心の中で、このお婆さんを助けてあげたいという思いが強くなる。するとリーシアは意識するまでもなく老婆の前に歩み出ると、ソッと老婆の閉じた目に手を差し伸べる。


「ああ……温かい……」


 温かな光……このお婆さんを助けてあげたいという思いが、リーシアの手を通して老婆の目に伝わっていく。

 広場の中は、まるで誰もいないかのようにシーンと静まり返り、誰もが老婆の行く末を見守っていた。そしてしばらくして――


「おお、ひ、光が、光が見えますのじゃ! ああ、聖女様!」


 光を失っていた老婆の目に涙が溢れていた。


「お婆ちゃん! 目が見えるの⁈」

「お母さん!」

「ああ、見えるよ……またみんなの顔が……見えたよ……」


 涙を流し喜び合う家族……それ見てリーシアは、ホッとして微笑む。


「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 本物だ、本物の聖女様だ!」

「私は見たわ、聖女様の奇跡を!」

「ラブよ! 聖女のラブは本当だったのね!」

「ラブ聖女ばんざーい!」


 リーシアとお婆さんを見守っていた人々が、奇跡の目撃者として一斉に声を上げる。口々にリーシアを讃え敬う声が、広場を覆い尽くしていく。


 するとせきを切ったかのように、次々と周り人たちが、目の悪い老人や足の悪い年寄りをリーシアの前に連れてくる……そして――


「聖女様、我らにも救いの手を~」


――あれよあれよと言う間に、人垣がリーシアを中心にして円陣を組むように広がっていく……それはまるで宗教のごとく、教祖の前に集う信者の集会のような光景だった。


 もはや、ひとりだけ癒して教会に帰る訳には行かなくなり、日が暮れるまで人々を癒す羽目になるリーシアだったが、不思議と嫌な気持ちはなかった。人々に求められそれに応えてあげられる……決して叶わなかった夢を実現できた少女の顔は笑顔だった。

 微笑みながら人々を無償で癒し、感謝される光景を見たリーナは、目をキラキラさせながら『私もいつか、あんな風にみんなから感謝されてみたい』と憧れを抱くのであった。



〈夢を叶えた新たなる聖女……その姿は伝説となり、新たなる憧れへと引き継がれた〉
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