文字の大きさ
大
中
小
437 / 551
六章 アイオン落日編
物理的麻酔
トアの新たなスキルである幻術を軸にした逃走作戦。
雑な解説をすると目くらましの後、仲間を隠して奇襲、相応のダメージを与えて立ち直る前に逃げ切るというもの。
実際には雷属性の魔術が有する攻撃対象へのロックオン補正というインチキじみた特性の為に失敗が見えていたのだが、介入者の存在によって未来は変わった。
つくづくアルパインの面々にはツキがある。
「た、助かった。礼を言う」
「相手が女神の使徒でなければ私の助けなど必要なかったでしょうけど。危ない所でしたよ、貴方たち」
肩で息をするラニーナに落ち着いた様子の言葉がかけられる。
見覚えはないが、神官や司祭が纏うであろう衣服の存在に彼女が女神か精霊の神殿に属する者だと察した。
(? だとすると助けの手なのか? 今回の私たちの行動は明らかに……)
「別に女神にも精霊にも仕えておりませんよ。安心なさい。ま、必要であれば女神だろうと精霊だろうと名前を拝借しますけれど……ね」
「逃走を手助けしてくれた、と思っていいんですかね?」
ハザルも司祭風の女性の正体を掴みかね、探りを入れる。
ルイザは周囲の光景を訝しげに確認中。
「良いですよ。まったく、あのレンブラントとかいう商人に良い様に扱われてますよ」
「ツィーゲで依頼を受けた冒険者? 見覚えが無いが……ウチのリーダーはどうなっているか、わかるか?」
ハザルの問いに若干の苦々しさを感じさせる表情で応じた女性。
次はルイザだ。
殿を務めたトアを案じていた。
トアのスキルは見事に決まり、雪嵐が消されると同時にパーティの姿をアルテの視界から消し、そして奇襲も予定通り仕掛けた。
だがその後の展開までうまくいったかはわからない。
散開しながら逃走を図ったアルパインは各々がその最中に脳裏に響いた声に導かれてここにいる。
「トアですね。直に来るでしょう、貴方たちの気配を追って……ああ、来ましたね」
「やー、強かったー」
『!』
三人の前に突如ぬっと現れたトア。
片腕を失った姿はインパクト抜群で、仲間たちは一瞬言葉を失う。
「トア、お前……」
「平然と話している場合か、ハザル!」
「わかってます! すぐ応急処置済ませますからこっち、早く!」
ハザルが装備していた複数のポーチを全開、ポーション各種を整理しながら並べていく。
ルイザとラニーナもトアに駆け寄り腕以外の負傷個所に気を配る。
そんな様子を見ていた銀髪の司祭は額を抑えて天を仰いだ。
心底呆れている様子だった。
「トア。あそこまで踏み込む必要は無かったんじゃないですか? あんなに可愛い妹さんがいるんですから、死に急ぐような無茶は感心しませんよ」
「? え!! ぎ、ギネビア!?」
「呼び捨てされる覚えはありませんが、そのギネビアです。初めまして」
「アズノワールと六夜に会っただけでも信じられないのに! うわ、本物! 銀の拳ギネビア!」
「待てい、待ちませい。シルバーデビルって何ですか! 知りませんよ、私は! プリースト!」
「あははは」
「笑ってんじゃありません!」
「い、いやギネビア殿? この通りトアは重傷だ。済まないが先に治療を」
「ルイザ、でしたか。だったらトアの方がこんなお気楽な様子でいる訳が無いでしょう」
「……? あ。確かに片腕を失った割には」
トアが元気過ぎる。
無理をしている様子もない。
確かに不自然だった。
「まあ、重傷には違いありません。問題はトアの方も気付いてない点ですが。忍術……忍者の技ですか。わからないでもありませんが……諸刃の刃ですね」
「トア! お前、腕は平気なのか!?」
ラニーナもギネビアの言葉に納得しつつトアに尋ねる。
「へへ、流石にギネビアにはバレちゃったけど。これ幻術スキルの一つなの。あんまり驚かすのも悪いからもう解除するよー」
はぁ、と重いため息を吐くギネビアに対してトアは本当に何でもなさそうにそう宣言した。
そして……スキルが解除された。
「……え?」
『ぎゃーーー!!』
既に血も流れていなかった片腕のトア。
その幻術が解かれた後に明らかになった本来の姿は、上腕二頭筋辺りで辛うじて繋がっているだけの……今にも千切れ落ちそうな炭のような真っ黒い腕だった。
トアがあれ、といった様子で自分の惨状を確認。
思わず間の抜けた声が出た。
そして仲間たち。
嗅覚などにも訴えかけてくるトアの変り果てた腕を目にして、見事に一致した叫び声を放った。
「あ、え? 私、うで……あ、ああ――」
「麻酔!!」
「ぅぎっ!!」
現実が呑み込めてきたトアがパニックを起こす直前。
ギネビアが掌底でトアの顎と延髄を撃ち抜く。
両の手は雷の如き鋭さで一閃、百人が百人とも本職と頷くグラップラーの極みだった。
どうした作用かはともかく、トアは騒ぐ事なく力なく。
ただその場で崩れ落ちた。
「痛覚その他まで術者本人も騙すスキルとは、トビカトウ、恐ろしいものですね。しかし使い方を間違えればとても危険です。慣れるまで乱用しないよう言い聞かせなくては」
「あ、あのギネビア、さん?」
「ハザル、でしたね。良い道具と薬を備えています。立派ですよ。ではトアの応急処置を始めますかね。そうそう、トアが既に口にしましたが私はギネビア。少しばかり長く生きているローレルの冒険者、のようなものです」
ハザルに適切な指示を出しながら魔術を複数発動させてトアの治療に当たるギネビア。
「……レンブラント商会からの依頼を受けているという事は、この後はツィーゲ帰還のフォローに回ってくれると考えて良いのかな、ギネビア殿」
ラニーナの確認にギネビアは動きを少し止め……首を横に振った。
「いいえ。申し訳ないのだけどそれは無し。アルパインには戦争が片付くまでツィーゲに戻ってもらう訳にはいきません」
『!?』
「このまま建て前だったパーティメンバーの里帰りを続けてもらいます」
「いや、それは困る。危険を冒してまで手に入れたアルテ=バレットの情報についてツィーゲに報告しなくては」
「報告されては困るんですよ、ルイザ」
「……意味が、わからんなギネビア殿。それはまるでツィーゲに情報を持ち帰らせたくない、と言っているように聞こえる」
「正解です」
「! まさかアイオンの手の者か!?」
「それは間違い。今アルテという娘の情報をツィーゲに持ち帰ると、多分クズノハ商会にも伝わる。それは……女神の使徒に少し不利が過ぎる。雷属性の特性の一部を彼らに届けたのが私が助けた冒険者パーティとなると……肩入れし過ぎかと思いますのでね」
意味がわからない、といった様子のアルパインの三人。
その間もギネビアは少なくともハザルが注視している限りでも見惚れるような治癒術式と適切なポーションの使用でトアの状態をある程度回復させていっている。
この場で腕を繋げる程に回復させるのは無理だが、ギネビアが最善を尽くしているのはハザルも保証するところだった。
「……トアは私達の事を知っていますが。我々は遥か昔の人物なんです。そして世の表舞台に出ず、世界のバランスや覇権には関わらないよう生きると、古い友に約束した身でもあります。色々と言いくるめられて貴方がたを助けている事が最早グレーゾーンの行いでして」
「……もしかして、見た目通りの年では無いのか? 明らかにヒューマンに見えるが……しかしこの場所、この空間。どこにもアルテの気配も感じないし、それどころか黄金街道がどちらかすらわからない。精霊の力に満ちているようで……意思は微塵も感じない。お前は一体……?」
「年長者にお前、は頂けませんよ。少なくともトアを治療している、敵ではない私に」
「これでも私はヒューマンの何世代かは生きている身だ」
「こっちは人生が歴史です。……記憶の限り、年上のエルフもいませんしね」
「?」
「さて。ここで道を開きながら治療するにはこの辺りまでが限界です。続きは……ルイザ、貴女の故郷でする事にしましょうか」
「!? 何故、私の里の位置を知っている!」
「レンブラントから全員の身上書は見せてもらっていますから」
何でもない事の様にギネビアが言い放つ。
「あ、あの商人……! いつの間にそんなものを仕上げて!」
「知られて困る過去なんぞ無いから別に困らんが」
「全部、知られて……!?」
「物資の運搬にこき使われるのもそろそろ御免ですし、あんな無茶苦茶をやる商人に付き合わされてはペースが狂わされてかないません。少しばかり意趣返しを兼ねて皆さんとご一緒しようかと思います。よろしく、アルパイン」
レンブラントとはあまり相性が良くない様子のギネビア。
何やらストレスも溜まっているようだ。
「ご一緒……っ。いや、困る! 本当に困るんだギネビア殿! 今私の里に戻るのはひっじょーに困る! 身内の事情があるのだ。ここはラニーナの故郷を訪れるのが良いと思う!」
「……今時でも少子化からの子作り懇願ですか? 別にラニーナの故郷でも構わないですけど、治療に集中するなら森の中の方が向いているんですよ、私の場合」
「っ! ……それは、こじつけでなく?」
「少しツィーゲで都会の熱気にあてられましたから。私自身もリラックスしたいですし森には精霊も妖精も豊富に存在するでしょう? トアのは見ての通り大怪我ですから。元通りにするまでの過程も別に隠しませんし、プラスになると思いますよ、色々」
若干こじつけの混じっているようで、本当に必要な気にもさせる言い回し。
だがルイザはギネビアの物理的麻酔によって眠っているトアを見て、一瞬泣きそうな表情を浮かべ……折れた。
「わかった。だが案内はどうすればいい?」
「必要ありませんよ。あっちに歩けば十五分もすれば着きますから。では行きますか」
「? あっち……て。ちょ、なにその意味不明なスキル! そうだ、ここ! この空間の説明もまだされてない!」
「歴史ミステリーです」
「あの、ギネビアさん。トアの頭を鷲掴みで持ち歩くのはちょっと、即席で担架用意できますから! ステイ! しばしステイでお願いします! ラニーナ、手伝いを!」
「応!」
「……ふむ……支援系ハーレム主人公うっかり風味……あり、なのかしら? 現代っ子はわからないわねー」
ギネビアは首を傾げる。
そしてさほどの時間もかからずツィーゲにアルパイン失踪の報せが入る事になる。
ギネビアとしてはレンブラントに少しばかり仕返しをしたつもりでもあったのだが、当のレンブラントは実に冷静に報告を聞き、そして。
「ルイザ、ラニーナ、ハザルの身内に手紙を送る。内容はホームとトアの妹の死守。レンブラント商会の存在に賭けて守りきるから安心するようにと」
長く生きれば必ずしも若者の先を読めるとは限らない。
他のメンバー同様、本人も知らぬ数々の異名を持つ始まりの冒険者の一人ギネビア。
その正体は意外と策を拳でぶち抜くタイプであり、意外と大衆にも見抜かれていたりする御仁でもあった。
例えばそう、銀の拳の通り名の様に。
雑な解説をすると目くらましの後、仲間を隠して奇襲、相応のダメージを与えて立ち直る前に逃げ切るというもの。
実際には雷属性の魔術が有する攻撃対象へのロックオン補正というインチキじみた特性の為に失敗が見えていたのだが、介入者の存在によって未来は変わった。
つくづくアルパインの面々にはツキがある。
「た、助かった。礼を言う」
「相手が女神の使徒でなければ私の助けなど必要なかったでしょうけど。危ない所でしたよ、貴方たち」
肩で息をするラニーナに落ち着いた様子の言葉がかけられる。
見覚えはないが、神官や司祭が纏うであろう衣服の存在に彼女が女神か精霊の神殿に属する者だと察した。
(? だとすると助けの手なのか? 今回の私たちの行動は明らかに……)
「別に女神にも精霊にも仕えておりませんよ。安心なさい。ま、必要であれば女神だろうと精霊だろうと名前を拝借しますけれど……ね」
「逃走を手助けしてくれた、と思っていいんですかね?」
ハザルも司祭風の女性の正体を掴みかね、探りを入れる。
ルイザは周囲の光景を訝しげに確認中。
「良いですよ。まったく、あのレンブラントとかいう商人に良い様に扱われてますよ」
「ツィーゲで依頼を受けた冒険者? 見覚えが無いが……ウチのリーダーはどうなっているか、わかるか?」
ハザルの問いに若干の苦々しさを感じさせる表情で応じた女性。
次はルイザだ。
殿を務めたトアを案じていた。
トアのスキルは見事に決まり、雪嵐が消されると同時にパーティの姿をアルテの視界から消し、そして奇襲も予定通り仕掛けた。
だがその後の展開までうまくいったかはわからない。
散開しながら逃走を図ったアルパインは各々がその最中に脳裏に響いた声に導かれてここにいる。
「トアですね。直に来るでしょう、貴方たちの気配を追って……ああ、来ましたね」
「やー、強かったー」
『!』
三人の前に突如ぬっと現れたトア。
片腕を失った姿はインパクト抜群で、仲間たちは一瞬言葉を失う。
「トア、お前……」
「平然と話している場合か、ハザル!」
「わかってます! すぐ応急処置済ませますからこっち、早く!」
ハザルが装備していた複数のポーチを全開、ポーション各種を整理しながら並べていく。
ルイザとラニーナもトアに駆け寄り腕以外の負傷個所に気を配る。
そんな様子を見ていた銀髪の司祭は額を抑えて天を仰いだ。
心底呆れている様子だった。
「トア。あそこまで踏み込む必要は無かったんじゃないですか? あんなに可愛い妹さんがいるんですから、死に急ぐような無茶は感心しませんよ」
「? え!! ぎ、ギネビア!?」
「呼び捨てされる覚えはありませんが、そのギネビアです。初めまして」
「アズノワールと六夜に会っただけでも信じられないのに! うわ、本物! 銀の拳ギネビア!」
「待てい、待ちませい。シルバーデビルって何ですか! 知りませんよ、私は! プリースト!」
「あははは」
「笑ってんじゃありません!」
「い、いやギネビア殿? この通りトアは重傷だ。済まないが先に治療を」
「ルイザ、でしたか。だったらトアの方がこんなお気楽な様子でいる訳が無いでしょう」
「……? あ。確かに片腕を失った割には」
トアが元気過ぎる。
無理をしている様子もない。
確かに不自然だった。
「まあ、重傷には違いありません。問題はトアの方も気付いてない点ですが。忍術……忍者の技ですか。わからないでもありませんが……諸刃の刃ですね」
「トア! お前、腕は平気なのか!?」
ラニーナもギネビアの言葉に納得しつつトアに尋ねる。
「へへ、流石にギネビアにはバレちゃったけど。これ幻術スキルの一つなの。あんまり驚かすのも悪いからもう解除するよー」
はぁ、と重いため息を吐くギネビアに対してトアは本当に何でもなさそうにそう宣言した。
そして……スキルが解除された。
「……え?」
『ぎゃーーー!!』
既に血も流れていなかった片腕のトア。
その幻術が解かれた後に明らかになった本来の姿は、上腕二頭筋辺りで辛うじて繋がっているだけの……今にも千切れ落ちそうな炭のような真っ黒い腕だった。
トアがあれ、といった様子で自分の惨状を確認。
思わず間の抜けた声が出た。
そして仲間たち。
嗅覚などにも訴えかけてくるトアの変り果てた腕を目にして、見事に一致した叫び声を放った。
「あ、え? 私、うで……あ、ああ――」
「麻酔!!」
「ぅぎっ!!」
現実が呑み込めてきたトアがパニックを起こす直前。
ギネビアが掌底でトアの顎と延髄を撃ち抜く。
両の手は雷の如き鋭さで一閃、百人が百人とも本職と頷くグラップラーの極みだった。
どうした作用かはともかく、トアは騒ぐ事なく力なく。
ただその場で崩れ落ちた。
「痛覚その他まで術者本人も騙すスキルとは、トビカトウ、恐ろしいものですね。しかし使い方を間違えればとても危険です。慣れるまで乱用しないよう言い聞かせなくては」
「あ、あのギネビア、さん?」
「ハザル、でしたね。良い道具と薬を備えています。立派ですよ。ではトアの応急処置を始めますかね。そうそう、トアが既に口にしましたが私はギネビア。少しばかり長く生きているローレルの冒険者、のようなものです」
ハザルに適切な指示を出しながら魔術を複数発動させてトアの治療に当たるギネビア。
「……レンブラント商会からの依頼を受けているという事は、この後はツィーゲ帰還のフォローに回ってくれると考えて良いのかな、ギネビア殿」
ラニーナの確認にギネビアは動きを少し止め……首を横に振った。
「いいえ。申し訳ないのだけどそれは無し。アルパインには戦争が片付くまでツィーゲに戻ってもらう訳にはいきません」
『!?』
「このまま建て前だったパーティメンバーの里帰りを続けてもらいます」
「いや、それは困る。危険を冒してまで手に入れたアルテ=バレットの情報についてツィーゲに報告しなくては」
「報告されては困るんですよ、ルイザ」
「……意味が、わからんなギネビア殿。それはまるでツィーゲに情報を持ち帰らせたくない、と言っているように聞こえる」
「正解です」
「! まさかアイオンの手の者か!?」
「それは間違い。今アルテという娘の情報をツィーゲに持ち帰ると、多分クズノハ商会にも伝わる。それは……女神の使徒に少し不利が過ぎる。雷属性の特性の一部を彼らに届けたのが私が助けた冒険者パーティとなると……肩入れし過ぎかと思いますのでね」
意味がわからない、といった様子のアルパインの三人。
その間もギネビアは少なくともハザルが注視している限りでも見惚れるような治癒術式と適切なポーションの使用でトアの状態をある程度回復させていっている。
この場で腕を繋げる程に回復させるのは無理だが、ギネビアが最善を尽くしているのはハザルも保証するところだった。
「……トアは私達の事を知っていますが。我々は遥か昔の人物なんです。そして世の表舞台に出ず、世界のバランスや覇権には関わらないよう生きると、古い友に約束した身でもあります。色々と言いくるめられて貴方がたを助けている事が最早グレーゾーンの行いでして」
「……もしかして、見た目通りの年では無いのか? 明らかにヒューマンに見えるが……しかしこの場所、この空間。どこにもアルテの気配も感じないし、それどころか黄金街道がどちらかすらわからない。精霊の力に満ちているようで……意思は微塵も感じない。お前は一体……?」
「年長者にお前、は頂けませんよ。少なくともトアを治療している、敵ではない私に」
「これでも私はヒューマンの何世代かは生きている身だ」
「こっちは人生が歴史です。……記憶の限り、年上のエルフもいませんしね」
「?」
「さて。ここで道を開きながら治療するにはこの辺りまでが限界です。続きは……ルイザ、貴女の故郷でする事にしましょうか」
「!? 何故、私の里の位置を知っている!」
「レンブラントから全員の身上書は見せてもらっていますから」
何でもない事の様にギネビアが言い放つ。
「あ、あの商人……! いつの間にそんなものを仕上げて!」
「知られて困る過去なんぞ無いから別に困らんが」
「全部、知られて……!?」
「物資の運搬にこき使われるのもそろそろ御免ですし、あんな無茶苦茶をやる商人に付き合わされてはペースが狂わされてかないません。少しばかり意趣返しを兼ねて皆さんとご一緒しようかと思います。よろしく、アルパイン」
レンブラントとはあまり相性が良くない様子のギネビア。
何やらストレスも溜まっているようだ。
「ご一緒……っ。いや、困る! 本当に困るんだギネビア殿! 今私の里に戻るのはひっじょーに困る! 身内の事情があるのだ。ここはラニーナの故郷を訪れるのが良いと思う!」
「……今時でも少子化からの子作り懇願ですか? 別にラニーナの故郷でも構わないですけど、治療に集中するなら森の中の方が向いているんですよ、私の場合」
「っ! ……それは、こじつけでなく?」
「少しツィーゲで都会の熱気にあてられましたから。私自身もリラックスしたいですし森には精霊も妖精も豊富に存在するでしょう? トアのは見ての通り大怪我ですから。元通りにするまでの過程も別に隠しませんし、プラスになると思いますよ、色々」
若干こじつけの混じっているようで、本当に必要な気にもさせる言い回し。
だがルイザはギネビアの物理的麻酔によって眠っているトアを見て、一瞬泣きそうな表情を浮かべ……折れた。
「わかった。だが案内はどうすればいい?」
「必要ありませんよ。あっちに歩けば十五分もすれば着きますから。では行きますか」
「? あっち……て。ちょ、なにその意味不明なスキル! そうだ、ここ! この空間の説明もまだされてない!」
「歴史ミステリーです」
「あの、ギネビアさん。トアの頭を鷲掴みで持ち歩くのはちょっと、即席で担架用意できますから! ステイ! しばしステイでお願いします! ラニーナ、手伝いを!」
「応!」
「……ふむ……支援系ハーレム主人公うっかり風味……あり、なのかしら? 現代っ子はわからないわねー」
ギネビアは首を傾げる。
そしてさほどの時間もかからずツィーゲにアルパイン失踪の報せが入る事になる。
ギネビアとしてはレンブラントに少しばかり仕返しをしたつもりでもあったのだが、当のレンブラントは実に冷静に報告を聞き、そして。
「ルイザ、ラニーナ、ハザルの身内に手紙を送る。内容はホームとトアの妹の死守。レンブラント商会の存在に賭けて守りきるから安心するようにと」
長く生きれば必ずしも若者の先を読めるとは限らない。
他のメンバー同様、本人も知らぬ数々の異名を持つ始まりの冒険者の一人ギネビア。
その正体は意外と策を拳でぶち抜くタイプであり、意外と大衆にも見抜かれていたりする御仁でもあった。
例えばそう、銀の拳の通り名の様に。
感想 3,667
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ@Index ©薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさんパーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃコミカライズ企画進行中です!!
3巻発売です!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&3巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(3巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
夏にはいよいよコミカライズ連載開始予定です!乞うご期待!!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)