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六章 アイオン落日編
黄金街道神話
冒険者ギルドの頂点ファルスことルトが重苦しい溜息を長く吐き出す。
周囲にいた護衛、秘書、当地のギルド幹部が極めて珍しい彼の様子に目を見開いた。
彼らの目の前には穴。
人が何人か横に並んで通り抜ける事が出来るそれなりの穴だ。
ここに絶対あってはいけない物でありそれ故に一同は調査に赴いたのだが、一番偉いルトが一貫して相当深刻なスタイルを崩さない。
「ファルス様。確かにあってはならぬ事ではありますが三日もあれば補修は完了します」
「……わかっていないね」
一番話しかけやすい秘書がルトに他全員の意見を集約した言葉を放る。
しかし返ってきたのは失望の言葉。
『……』
「ここはどこだい?」
「黄金街道、です」
「そう。世界が誇る物流の道にして名が示す通り黄金、金貨が流れ続けている場所だ」
「はい」
「当時の大国と有力な商人たち、それに冒険者ギルドが国家を超えた取り決めをまとめ成立した……それはもう歴史に残る偉業だ」
「ええ、今も約定通りいかなる国にも支配される事無くお金さえ払えば誰もが安全に通れております。値が安いか高いかは人によるでしょうが」
冒険者や一般人からすれば黄金街道の通行料は高い。
もっぱら大量の物資を安全に運べる視点から商人の利用が最も多い。
秘書の口ぶりからすれば、彼女にとってこの道の通行料は高く感じる額なのだろう。
護衛も小さく頷いている。
こちらは安全の対価とはいえ、ある程度自衛する力を持つ冒険者であれば普通の感覚だ。
「だから、ここに手を出すという事は遥か祖先と……冒険者ギルドに喧嘩を売っているに等しい行いなんだよ、わかるかな?」
目を閉じ、顔を伏せていたルトが一同を見る。
あからさまな嘆息以上に希少な、怒りを隠さないルトがそこにいた。
『っ』
「女神の使徒だからって何でも許されると思っているのかな、あの女」
「……ファルス様。黄金街道の破壊は残念ながらアイオンの冒険者の手によるもので、女神様の使徒という方の関与は確認されておりません」
「使徒の手引きでアイオンに雇われた冒険者ども、だ。事実は正確に把握しなきゃ多くを見誤るよ」
「ですが当人たちは行方知れず、手配は行っていますがしばしの時間が必要です。手引きの有無については彼らを捕え尋問を行ってからでなければ確定できない情報ではないかと……」
「もう死んでるよ。アルパインへの襲撃で報告にあった程度の連中が無事に済むものか。見逃す様な甘さも余裕もあの子達には無かっただろうし……アルテめ、トア達に確実に雷撃の初撃を当てる為の捨て石に冒険者を使うなんて当てつけを……」
ルトの怒りが収まらない。
瞳から放たれる冷気が周囲をも冷やしていくような、腕利きの護衛でさえ震えを覚える凄絶な怒気。
黄金街道は不可侵。
それはもう数百年以上守られてきた、もう解説さえ不要な世界に生きる人々全ての常識。
大侵攻後、世界各地に散らばって暗躍してきた魔族でさえ黄金街道には手を出していない。
それを女神の使徒はトアを襲うただそれだけの為にやってのけた。
思い切りが良い、大胆な奇襲ともいえるがルトの立場から見れば世界秩序の一端である冒険者ギルドへの挑戦である。
面白い訳が無い。
昔自分も大いに関わって作り上げた黄金街道の神話にケチをつけられたのだから。
顔も知らない先祖の偉業ではなく実はルト自身の功績だという事は、当然彼以外この場の誰も知らない事実だが。
「あ、あのファルス様。お怒りなのはわかりますが……その、まさかアイオン王国に報復なんて」
冒険者ギルドは中立、正確には冒険者の為に存在する組織だ。
冒険者ある所にはギルドあり。
彼らの活動をサポートするのが主目的であり、国家間の戦争に関わる事などは無い。
魔族とヒューマンの戦争においても表立ってはどちらにつくと宣言していない。
当然今ツィーゲとアイオンの間で起きている内乱においても中立は保たれるべきで、ファルスがいかに怒りを覚えようとも感情のままに行動されては組織としては非常に困った事になる。
秘書の心配はもっともだった。
「戦争でツィーゲに肩入れ、とかかい?」
「駄目です! 冒険者が個人としてどちらに協力しようがそれは彼らの自由ですが。ギルドがどちらかを明確に支援するのはギルドの主旨に反します!」
「……しないよ、流石にそんな真似はね」
「ほっ、そう、ですよね。申し訳ありません。ファルス様が余りにも怒りに染まったお顔をされていたので一抹の不安が」
「でも」
「っ」
「報復はするね。冒険者ギルドが舐められ軽んじられるのも僕らの望みでは無いからね。個人としての協力は自由だから、という僕らの言葉への意趣返しが今回の無様でもあるんだろうし……面白くないよね」
「うっ、それは……確かに。しかし報復など、一体何をされるおつもりですか?」
「まずこうする」
ルトが黄金街道に開いた大きな穴に手をかざす。
『?』
ルトの挙動に皆の注目が集まった辺りで彼の手に魔力が集まり、そして光が炸裂した。
『っ!?』
響く震動と轟音。
目を開けた秘書が目にしたのは黄金街道の一部が崩落する瞬間だった。
表情がわかりやすく引きつっている。
ルトがやったのだ。
この街道の不可侵を保証する立場にいるはずの彼が、黄金街道を一部とはいえ破壊した。
冷静なようで乱心していたのか、とルトを見る秘書。
いつもの穏やかで、何を考えているか読み取りにくい微笑を浮かべていた。
見た目は驚くほどにいつも通りだ。
それが恐ろしい。
「ファ、ファルスさん、こりゃまずいですって」
護衛は二人いたが、一人は口をあんぐりと開け放心、もう一人は冷や汗で顔を濡らしながらトップの暴挙を咎める。
「ああ、雇われ冒険者め、とんでもない事をしてくれたものだね」
『?』
「これだけの被害だとは思ってもみなかった。君」
「……え、あ、はい!?」
ファルスは棒読みで言葉を紡ぎ出し、そして不意に地元のギルド幹部を見つめた。
これまで立場上ただ後ろに付いてきただけの彼にとっては完全に不意を突かれるご指名だった。
「一帯の高位冒険者、そうだなBプラス以上を特例緊急招集してくれ。これから黄金街道の修理が終わるまでの間、他の依頼は一切受けずにここを守ってもらう。報酬は全額本部から出すから安心してくれ」
「はは、は、はい! あの、何パーティ程集めましょう」
「全員だ」
「はあ!?」
「手前の中継都市、君の暮らす街からアイオンの国境までの全部の街にいる冒険者でBプラス以上を全員だ。修理期間中も黄金街道は稼働させる。当然利用者を誰か一人でも負傷させてはならない。人はいくらいてもいい」
「し、しかし特例緊急招集でそれだけの人数を集めたりしたら各都市から腕利きの冒険者が消えますよ!?」
断れば相応の罰則がある招集だけに影響は大きい。
「そうだねえ。その間に何かあれば大変な事になるかもしれないねえ、アイオン王国内では」
「わかっていて、そんな……恐れながらどうか、ご再考を。今この状況で国内に余計な混乱を招けばどんな事が起こるか。まだ反乱軍も燻っております」
「反乱軍? 革命軍だろう? 僕ら冒険者ギルドは内乱においてどちらかにだけ関わらないよね? 冒険者がいないなら仕方ない、軍が一々出張ればいいんじゃないの」
「いや、ファルス様それは」
無茶苦茶だ。
だが目の前にいる華奢な男は本気で口にしている。
「勿論、冒険者たちが招集を拒むのならそれは仕方ない。ペナルティは与えるけどそれだけだ。それと、だ。僕は君にお願いしているんじゃない、命令してるんだよね」
「!」
「それとも、代案があるのかな? それなら話を聞こう。今後アイオン王国が絶対に冒険者ギルドを敵に回したくないと思う、それでいて建て前としては彼らへの報復以外の説明も出来る案を。さ、聞かせてくれ」
「……」
「遠慮はいらない。正直僕もね、少し熱くなっているのは自覚している。だから……よりよい手段があるならそちらを検討したいとも思っている。結論は今日この場で出すから急がせてしまうのは申し訳ない。さあ」
「……ご、ございません」
「そ。じゃ残念だけど即時最優先で手配を。良いかい? 冒険者ギルドはね、いかなる権力にも屈しない、冒険者をサポートする組織だ。大国だから忖度する、なんてあり得ない。意義を果たすためなら相手が世界一の大国の王だろうと世界の富を掌握する大商人だろうと干渉させない。僕らに手を出したらお仕舞だという事を忘れさせてはいけないんだよ」
諭すような口調ですべき覚悟を語るルト。
是非の返事は誰からも返ってこなかった。
だがルトもそこは気にしていない。
「僕らの独立性と中立性に手を突っ込んでくるなら例え相手が神であれ、僕らは戦う。全ての冒険者の為にね。黄金街道に破壊行為を働くって事は決して許されざる行い。それを冒険者にやらせるというのもまた同罪。売られた喧嘩でただ殴られるだけじゃ誰からも舐められる。答えは一つだよ」
「その黄金街道に壁くっつけちまったツィーゲの連中は良いんすか? あれも黄金街道に手出してますけど」
護衛の一人がふと浮かんだ疑問をルトに尋ねる。
「……あれも見ようによってはグレーゾーンだよ。腹立たしい気持ちもある。けど該当部分の黄金街道はむしろ設備として補強してもらってる。兵士の配置も一切無い。それどころか忠告したら黄金街道で戦争をする馬鹿など商人には一人もいないと笑われる始末だ」
ルトは複雑な表情で疑問に答える。
「あんたにその態度を取れる商人なんているんすか」
「あそこには何人かいるよ。だから今は注視するだけに留めてる。被害がないなら報復も必要ないからね」
「黄金街道を戦争を利用し始めたのはツィーゲの方が先ってイメージすけどね」
「正解。合法、或いは極めてグレーなやり方でね。でもギルドと街道への被害はアイオンの方が先に出した」
「……俺、正直どっちも好きになれねえっす」
「て、いう人もいるだろうね。ビアっちもそういうタイプだし」
「?」
「いや、こっちの話。じゃ戻ろうか。仕事が沢山出来たからね」
呟く様に小さく旧友の一人の名を出した事でいくらか優しい表情に戻るルト。
つい先日、ツィーゲに部分的に協力させられ、いやしていたギネビアが姿を消したと報告を受けた時。
ルトは無理もないと笑ったクチだった。
街と冒険者の活気が渦巻くだけのツィーゲなら彼の古い友であるギネビアも気に入っただろうが、いかんせんそこには大勢の商人もいる。
街の運営を担っているのはむしろ彼らだ。
ギネビアとレンブラントなど相性でいえばかなり悪いのは両者を知る者ならはっきりとわかる。
少しばかり寂しさも感じるが、再会そのものが奇跡同然だっただけにルトも仕方ないと笑って報告を聞けた。
「まさかあのレンブラントでも黄金街道の件までは仕込めないだろうけど……これも彼にとっては追い風になるのか。都市の独立、単独での国家樹立宣言なんて無茶、てっきり最初は真君の仕込みかと思ってたのに。くそ、とんだ飛び火だよ」
そんなルトの独白は、誰にも聞かれる事なく風に流れて消えた。
周囲にいた護衛、秘書、当地のギルド幹部が極めて珍しい彼の様子に目を見開いた。
彼らの目の前には穴。
人が何人か横に並んで通り抜ける事が出来るそれなりの穴だ。
ここに絶対あってはいけない物でありそれ故に一同は調査に赴いたのだが、一番偉いルトが一貫して相当深刻なスタイルを崩さない。
「ファルス様。確かにあってはならぬ事ではありますが三日もあれば補修は完了します」
「……わかっていないね」
一番話しかけやすい秘書がルトに他全員の意見を集約した言葉を放る。
しかし返ってきたのは失望の言葉。
『……』
「ここはどこだい?」
「黄金街道、です」
「そう。世界が誇る物流の道にして名が示す通り黄金、金貨が流れ続けている場所だ」
「はい」
「当時の大国と有力な商人たち、それに冒険者ギルドが国家を超えた取り決めをまとめ成立した……それはもう歴史に残る偉業だ」
「ええ、今も約定通りいかなる国にも支配される事無くお金さえ払えば誰もが安全に通れております。値が安いか高いかは人によるでしょうが」
冒険者や一般人からすれば黄金街道の通行料は高い。
もっぱら大量の物資を安全に運べる視点から商人の利用が最も多い。
秘書の口ぶりからすれば、彼女にとってこの道の通行料は高く感じる額なのだろう。
護衛も小さく頷いている。
こちらは安全の対価とはいえ、ある程度自衛する力を持つ冒険者であれば普通の感覚だ。
「だから、ここに手を出すという事は遥か祖先と……冒険者ギルドに喧嘩を売っているに等しい行いなんだよ、わかるかな?」
目を閉じ、顔を伏せていたルトが一同を見る。
あからさまな嘆息以上に希少な、怒りを隠さないルトがそこにいた。
『っ』
「女神の使徒だからって何でも許されると思っているのかな、あの女」
「……ファルス様。黄金街道の破壊は残念ながらアイオンの冒険者の手によるもので、女神様の使徒という方の関与は確認されておりません」
「使徒の手引きでアイオンに雇われた冒険者ども、だ。事実は正確に把握しなきゃ多くを見誤るよ」
「ですが当人たちは行方知れず、手配は行っていますがしばしの時間が必要です。手引きの有無については彼らを捕え尋問を行ってからでなければ確定できない情報ではないかと……」
「もう死んでるよ。アルパインへの襲撃で報告にあった程度の連中が無事に済むものか。見逃す様な甘さも余裕もあの子達には無かっただろうし……アルテめ、トア達に確実に雷撃の初撃を当てる為の捨て石に冒険者を使うなんて当てつけを……」
ルトの怒りが収まらない。
瞳から放たれる冷気が周囲をも冷やしていくような、腕利きの護衛でさえ震えを覚える凄絶な怒気。
黄金街道は不可侵。
それはもう数百年以上守られてきた、もう解説さえ不要な世界に生きる人々全ての常識。
大侵攻後、世界各地に散らばって暗躍してきた魔族でさえ黄金街道には手を出していない。
それを女神の使徒はトアを襲うただそれだけの為にやってのけた。
思い切りが良い、大胆な奇襲ともいえるがルトの立場から見れば世界秩序の一端である冒険者ギルドへの挑戦である。
面白い訳が無い。
昔自分も大いに関わって作り上げた黄金街道の神話にケチをつけられたのだから。
顔も知らない先祖の偉業ではなく実はルト自身の功績だという事は、当然彼以外この場の誰も知らない事実だが。
「あ、あのファルス様。お怒りなのはわかりますが……その、まさかアイオン王国に報復なんて」
冒険者ギルドは中立、正確には冒険者の為に存在する組織だ。
冒険者ある所にはギルドあり。
彼らの活動をサポートするのが主目的であり、国家間の戦争に関わる事などは無い。
魔族とヒューマンの戦争においても表立ってはどちらにつくと宣言していない。
当然今ツィーゲとアイオンの間で起きている内乱においても中立は保たれるべきで、ファルスがいかに怒りを覚えようとも感情のままに行動されては組織としては非常に困った事になる。
秘書の心配はもっともだった。
「戦争でツィーゲに肩入れ、とかかい?」
「駄目です! 冒険者が個人としてどちらに協力しようがそれは彼らの自由ですが。ギルドがどちらかを明確に支援するのはギルドの主旨に反します!」
「……しないよ、流石にそんな真似はね」
「ほっ、そう、ですよね。申し訳ありません。ファルス様が余りにも怒りに染まったお顔をされていたので一抹の不安が」
「でも」
「っ」
「報復はするね。冒険者ギルドが舐められ軽んじられるのも僕らの望みでは無いからね。個人としての協力は自由だから、という僕らの言葉への意趣返しが今回の無様でもあるんだろうし……面白くないよね」
「うっ、それは……確かに。しかし報復など、一体何をされるおつもりですか?」
「まずこうする」
ルトが黄金街道に開いた大きな穴に手をかざす。
『?』
ルトの挙動に皆の注目が集まった辺りで彼の手に魔力が集まり、そして光が炸裂した。
『っ!?』
響く震動と轟音。
目を開けた秘書が目にしたのは黄金街道の一部が崩落する瞬間だった。
表情がわかりやすく引きつっている。
ルトがやったのだ。
この街道の不可侵を保証する立場にいるはずの彼が、黄金街道を一部とはいえ破壊した。
冷静なようで乱心していたのか、とルトを見る秘書。
いつもの穏やかで、何を考えているか読み取りにくい微笑を浮かべていた。
見た目は驚くほどにいつも通りだ。
それが恐ろしい。
「ファ、ファルスさん、こりゃまずいですって」
護衛は二人いたが、一人は口をあんぐりと開け放心、もう一人は冷や汗で顔を濡らしながらトップの暴挙を咎める。
「ああ、雇われ冒険者め、とんでもない事をしてくれたものだね」
『?』
「これだけの被害だとは思ってもみなかった。君」
「……え、あ、はい!?」
ファルスは棒読みで言葉を紡ぎ出し、そして不意に地元のギルド幹部を見つめた。
これまで立場上ただ後ろに付いてきただけの彼にとっては完全に不意を突かれるご指名だった。
「一帯の高位冒険者、そうだなBプラス以上を特例緊急招集してくれ。これから黄金街道の修理が終わるまでの間、他の依頼は一切受けずにここを守ってもらう。報酬は全額本部から出すから安心してくれ」
「はは、は、はい! あの、何パーティ程集めましょう」
「全員だ」
「はあ!?」
「手前の中継都市、君の暮らす街からアイオンの国境までの全部の街にいる冒険者でBプラス以上を全員だ。修理期間中も黄金街道は稼働させる。当然利用者を誰か一人でも負傷させてはならない。人はいくらいてもいい」
「し、しかし特例緊急招集でそれだけの人数を集めたりしたら各都市から腕利きの冒険者が消えますよ!?」
断れば相応の罰則がある招集だけに影響は大きい。
「そうだねえ。その間に何かあれば大変な事になるかもしれないねえ、アイオン王国内では」
「わかっていて、そんな……恐れながらどうか、ご再考を。今この状況で国内に余計な混乱を招けばどんな事が起こるか。まだ反乱軍も燻っております」
「反乱軍? 革命軍だろう? 僕ら冒険者ギルドは内乱においてどちらかにだけ関わらないよね? 冒険者がいないなら仕方ない、軍が一々出張ればいいんじゃないの」
「いや、ファルス様それは」
無茶苦茶だ。
だが目の前にいる華奢な男は本気で口にしている。
「勿論、冒険者たちが招集を拒むのならそれは仕方ない。ペナルティは与えるけどそれだけだ。それと、だ。僕は君にお願いしているんじゃない、命令してるんだよね」
「!」
「それとも、代案があるのかな? それなら話を聞こう。今後アイオン王国が絶対に冒険者ギルドを敵に回したくないと思う、それでいて建て前としては彼らへの報復以外の説明も出来る案を。さ、聞かせてくれ」
「……」
「遠慮はいらない。正直僕もね、少し熱くなっているのは自覚している。だから……よりよい手段があるならそちらを検討したいとも思っている。結論は今日この場で出すから急がせてしまうのは申し訳ない。さあ」
「……ご、ございません」
「そ。じゃ残念だけど即時最優先で手配を。良いかい? 冒険者ギルドはね、いかなる権力にも屈しない、冒険者をサポートする組織だ。大国だから忖度する、なんてあり得ない。意義を果たすためなら相手が世界一の大国の王だろうと世界の富を掌握する大商人だろうと干渉させない。僕らに手を出したらお仕舞だという事を忘れさせてはいけないんだよ」
諭すような口調ですべき覚悟を語るルト。
是非の返事は誰からも返ってこなかった。
だがルトもそこは気にしていない。
「僕らの独立性と中立性に手を突っ込んでくるなら例え相手が神であれ、僕らは戦う。全ての冒険者の為にね。黄金街道に破壊行為を働くって事は決して許されざる行い。それを冒険者にやらせるというのもまた同罪。売られた喧嘩でただ殴られるだけじゃ誰からも舐められる。答えは一つだよ」
「その黄金街道に壁くっつけちまったツィーゲの連中は良いんすか? あれも黄金街道に手出してますけど」
護衛の一人がふと浮かんだ疑問をルトに尋ねる。
「……あれも見ようによってはグレーゾーンだよ。腹立たしい気持ちもある。けど該当部分の黄金街道はむしろ設備として補強してもらってる。兵士の配置も一切無い。それどころか忠告したら黄金街道で戦争をする馬鹿など商人には一人もいないと笑われる始末だ」
ルトは複雑な表情で疑問に答える。
「あんたにその態度を取れる商人なんているんすか」
「あそこには何人かいるよ。だから今は注視するだけに留めてる。被害がないなら報復も必要ないからね」
「黄金街道を戦争を利用し始めたのはツィーゲの方が先ってイメージすけどね」
「正解。合法、或いは極めてグレーなやり方でね。でもギルドと街道への被害はアイオンの方が先に出した」
「……俺、正直どっちも好きになれねえっす」
「て、いう人もいるだろうね。ビアっちもそういうタイプだし」
「?」
「いや、こっちの話。じゃ戻ろうか。仕事が沢山出来たからね」
呟く様に小さく旧友の一人の名を出した事でいくらか優しい表情に戻るルト。
つい先日、ツィーゲに部分的に協力させられ、いやしていたギネビアが姿を消したと報告を受けた時。
ルトは無理もないと笑ったクチだった。
街と冒険者の活気が渦巻くだけのツィーゲなら彼の古い友であるギネビアも気に入っただろうが、いかんせんそこには大勢の商人もいる。
街の運営を担っているのはむしろ彼らだ。
ギネビアとレンブラントなど相性でいえばかなり悪いのは両者を知る者ならはっきりとわかる。
少しばかり寂しさも感じるが、再会そのものが奇跡同然だっただけにルトも仕方ないと笑って報告を聞けた。
「まさかあのレンブラントでも黄金街道の件までは仕込めないだろうけど……これも彼にとっては追い風になるのか。都市の独立、単独での国家樹立宣言なんて無茶、てっきり最初は真君の仕込みかと思ってたのに。くそ、とんだ飛び火だよ」
そんなルトの独白は、誰にも聞かれる事なく風に流れて消えた。
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かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です