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七章 蜃気楼都市小閑編
真・混沌の応接室(翼)
あれは果たして商談だったんだろうか。
とんでもなく恐ろしい、チガウナニカを見せつけられたような悪寒を覚えたんだが……。
一人残された応接室。
少し硬めの革製のソファの背もたれに身を預けて靴も脱いで胡坐をかく。
……そうだ、靴を脱いでもらう応接室を一個用意するのも良いな。
茶室とか和風なんてものでもなく、ただ絨毯を踏みしめてもらうのを目的にしても良いしなあ。
畳は人を選びそうだから……でもあの香りは僕的に圧倒的なホーム感が……。
「じゃなくてだ」
誰もいない部屋で自分の思考に突っ込む。
ここ翼の部屋に待っていたのは複数の商人たち? だった。
思えば初っ端から連中はおかしかった。
自分たちにも仕事があるだろうに、最近のツィーゲ情勢を場繋ぎみたいにだらだら雑談し始めてさ。
それも商人の独自目線で見た鋭い考察がどうの、なんて微塵もない。
はっきりいって質の悪い井戸端会議だ。
武具に素材に飲食。
そういえばそれぞれトップの商会と話をする事も増えてきたな、なんて連中の素性を推理しながら無駄話が終わるのを待っていたら、僕が考えていたよりも遥かにぶっとんだ内容が口々にぶっこまれてきた。
「収納スキル習得をさせて欲しい」
とは武具を扱う商人たちからの懇願だった。
はっきり言って何の事だかさっぱりわからなかった僕は五人ほどのヒューマンとドワーフ混成商人部隊に詳しい説明をお願いした。
鍛冶カテゴリの商人にとって最上級の機密だから他の連中を退室させて欲しいと頼まれたけど却下。
一々用件ごとに人の出し入れなんて出来るか面倒くさい。
彼らがこの部屋にまとめられたのは良くも悪くもその扱いで十分だとウチの子たちが判断した結果な訳で。
そこに僕が悪い意味での鶴の一声を発して混乱を生むなんて悪手でしかない。
僕だって学んでいるんですよ。
そしたら彼らは機密とやらはどうでもよくなったのか、ブロンズマン商会の代表が取ったばかりだという商人にとって喉から手が出るほど欲しいスキル、収納についてペラペラ話し出した。
その話は僕もざっとは聞いていた。
これからあそこの商会が中心になって収納スキルを持つ商人を育成していくって事も、冒険者ギルドとの連携についてもだ。
で、彼らは要するにその第一期生の一時審査で落ちたと。
自身で身銭を切って冒険者を雇うだけの懐の余裕もない。
でも収納を得て他を出し抜きたい。
飢えた獣の前に肉塊をちらつかされたようなもの、なんだろうな。
でクズノハ商会なら従業員でさえそれなりに強いし、各所に伝手もある。
つい最近まではこちら側(甚だ不本意なんですが)にいた奴。
という事で助けてくれても良いはずだ、となったらしい。
最早商人としても人としても理性の欠片もない。
大体あれはハクさんから一歩突っ込んで聞いてみたところレベル上げとジョブの習熟の両方が必要になる、商人として一定以上のクラスアップを経る事で習得できるスキルとの事。
考えてみれば何も難しい事はない。
商人系のジョブならクラスアップしていけばそのうち大体のジョブで収納を覚える。
それだけ。
MMOってゲームの商人系ジョブを想像すればなるほど一択である。
ただ、だ。
ゲームでさえ生産系ジョブを育てていくのは戦闘系に比べて苦痛だ。
そもそも商人の戦場は街の市場な訳で。
この世界の現実として、収納を覚える上位職と呼ばれるような段階までジョブを育成する奇特な商人はつい最近までいなかった。
これもまたよくある話だと思う。
結論として、僕らが勝手に手を出す必要はまったくない。
ブロンズマンさんとこや冒険者ギルドがやるといってるんだ。
これ以上ない適役じゃないか。
抜け道を与える程付き合いがあったり恩がある相手も幸いいない。
きっちり正論で諭して一旦黙らせた。
「素材が取れる場所とか知識を共有し助け合いが出来る互助組合を作って欲しい」
とは自称素材卸の一派らしい商人ズ。
冒険者ギルドにどうぞ、と即答しそうになったけれど必死で沈黙を保った。
すると互助組合とかいうギルドの読み換えをしただけとしか思えない組織について理想を語り始めた。
それぞれの商会がお金と得意とする素材についての知識を出し合って大手による不当な値段での一括買い上げに抵抗しようという事らしい。
何故にうちにきた、と聞こうとしたらムゾー商会から無茶ぶりされて素材を納めさせられている一種の同志としてクズノハ商会に仲間意識を持っていたとの事だった。
HAHAHA
更に商人ズの事業規模を聞くと一般的な屋台に毛が生えた程度。
これでクズノハ商会が加わって互助組合なんて作ろうものなら彼らはただエサが落ちてくるのを待つ雛に成り下がるのは必至。
大手が資本に物を言わせて不当な値段で素材を買い漁るってのは確かにある。
原価割れを起こすような要求も時にあるだろう。
そのレベルまで応じていたら商売にならないし、彼らのように不満を抱える。
わかる。
ただ、なら他で売れば良いんだよ。
今はもう黄昏街もないんだし。
ツィーゲの商売は大分クリーンだ。
ムゾー商会を実際に見ていてはっきり言えるんだけど、例え彼らが買い上げに抵抗して別口に売ったとしてもさしたる報復なんてない。
断言できる。
こんな砂粒みたいな連中に執着してる余裕が今のムゾーさんとこにはないんだよね。
その差配をする間に一歩でも前に進んだ方が圧倒的な利益を生むし、楽にもなる。
戦争を経てツィーゲは格段に広くもなった。
物理的に距離をとって別の市場で力を試すのだって手だ。
もっというのなら今の大手素材商で手が足りているとこなんてのもない。
どこも猫の手も借りたい人不足だ。
最悪一旦自分の商会を閉めて大手で働かせてもらって勉強するのだってアリだ。
例えばムゾー商会なら素材の生産について色々学ぶチャンスにもなる。
大手については機密に触れそうなとこを回避しながら吹けば飛ぶような互助組合を作るよりも良いやり方はいくらでもある、ってな事を説明してさしあげた。
ついでにクズノハ商会は手伝う気は無いってとこも忘れずにだ。
「駅や広場の出店権利を融通して欲しい」
飲食はもう直球だ。
バトマさんが群商会って在り方を一部見直している所為で彼が囲ってきた商人が徐々に切られている。
これまで彼が頭数で勝ち取ってきた利権を傘下で特に何をするでもなく順番待ちで手に入れていた彼らは、一部は改めて自分の力で挑戦を始めていたけれど、そうでない彼らは次に自分たちを守ってくれる後ろ盾を探して放浪しているって構図。
もちろん、ここにいるのは後者。
おにぎりに活路を見出したあの二人みたいのは前者だ。
ああいうのには僕もたまに力を貸したいと思ったりもする。
米だったしね!
「弱者にだって商売をする権利はある! 例えばあの孤児院の食事を引き受けさせてくれるだけでも何人かは食い扶持を得られるんだ!」
言ってる事は奇跡的に間違っちゃいない。
でも考えも、目の付け所もまるで見当違いだと思った。
そもそもこの世界において弱者に権利はない。
己を弱者と認める事はほぼ何の利益もない愚かな事だ。
もちろん、そんな彼らだって商売をする権利は別に奪われていない。
場所に拘らず、訪問販売だったり売り歩くスタイルなら好きにやれる所もある。
そして孤児院の食事がどうとか言ってたけど。
孤児院なんてお金が潤沢にある訳がない。
内部を見て改めてよくわかった。
そんなとこがわざわざ商人を間にかませて食べ物を賄おうとする……あり得ない。
確かに人数がいて量を必要とする場所という点だけは商機が生まれそうでもあるけれど。
ウェイツ孤児院を例にするなら、そこはもうクズノハ商会がいるわけだ。
何でウチがわざわざお前らを儲けさせる為だけに手間を取らなきゃいけないんだと。
全くもって馬鹿馬鹿らしい。
道と駅が先行して広がっていき、その計画も商人ギルドで確認できる今。
見ようとも知ろうとも動こうともしない商人が生き残れる訳ないだろうと心から思う。
食べ物なんて特にフットワークの軽さで儲ける職種なんだからさあ。
と、もはやここにいる十数人が全員乞食にしか見えなくなってきたその時だった。
「失礼いたします!」
「お邪魔するわね!」
「ライドウ、すまん!」
突如カプリさんとブロンズマンさん、それに商人ギルドの職員が部屋に突入してきた。
「?」
こんなとこにいていいの、って二人と滅多にギルドの外で見ない職員さんだった。
珍しい組み合わせと驚きで言葉を失う。
「やはり! がん首揃えて!」
「本当に押し掛けるかしらね、信じられないわ!」
「言ったろ、つける薬のない馬鹿ってのはそこそこいるもんなんだよ!」
『!?』
息ぴったりの三人は僕の向かいに揃う、自称商談にきた商人たちを睨みつけた。
対する彼らはやってきた顔ぶれに委縮して……絶句している。
「除名が嫌なら商人ギルドに来なさい」
職員さん。
恐ろしく冷たい口調で冗談の空気は一切無し。
「ハッタリじゃないわよ」
「わかるな?」
カプリさんとブロンズマンさんは怒気を隠さず職員さんの言葉を肯定する。
その後。
立て、と言われた彼らはビシッと立ち上がり。
俺たちよりもギルド到着が遅かった奴は残念ながらそこまでだ、と脅された彼らは脱兎の如く部屋を飛び出していった。
大照会を束ねる二人も年を感じさせない軽やかさで彼らに続く。
といっても、あの人たちは馬車だろうけど。
……馬車と競争か。
「見苦しいものをお見せしました。ライドウ様、先ほどのが何を喚いたかは存じませんがどうか全てお忘れくださいませ」
最後に職員さんがビシッと一礼して扉を静かに閉めて帰っていった。
道の整備も駅の構築も馬車と専用の道路についても。
もう大枠ではやり方も定まりつつあって、ツィーゲは一気に街と認識されるエリアを拡張し始めている。
残念ながらその速度に振り落とされる人もいくらかは出てくる。
彼らみたいに。
もっとも、働き口なんていくらでも増えていっているのも事実だ。
視野を広くもって色んな職業に目を向けてほしいもんだよねえ。
商人のままでいるにせよ……大手に吸収される事だって選択の一つなんだし。
まあ、いいや。
これにて商談は終了。
いやーよく働いた!
……待てよ。
窓から陽の高さを確認する。
まだ時間あるな。
じゃあお店の方も一回りして様子を見ようか。
予定した数量はほぼ毎日売れてるとはいえ、売れ方までは生で見ないとわからないとこもある。
もう少しだけ、頑張ろ。
とんでもなく恐ろしい、チガウナニカを見せつけられたような悪寒を覚えたんだが……。
一人残された応接室。
少し硬めの革製のソファの背もたれに身を預けて靴も脱いで胡坐をかく。
……そうだ、靴を脱いでもらう応接室を一個用意するのも良いな。
茶室とか和風なんてものでもなく、ただ絨毯を踏みしめてもらうのを目的にしても良いしなあ。
畳は人を選びそうだから……でもあの香りは僕的に圧倒的なホーム感が……。
「じゃなくてだ」
誰もいない部屋で自分の思考に突っ込む。
ここ翼の部屋に待っていたのは複数の商人たち? だった。
思えば初っ端から連中はおかしかった。
自分たちにも仕事があるだろうに、最近のツィーゲ情勢を場繋ぎみたいにだらだら雑談し始めてさ。
それも商人の独自目線で見た鋭い考察がどうの、なんて微塵もない。
はっきりいって質の悪い井戸端会議だ。
武具に素材に飲食。
そういえばそれぞれトップの商会と話をする事も増えてきたな、なんて連中の素性を推理しながら無駄話が終わるのを待っていたら、僕が考えていたよりも遥かにぶっとんだ内容が口々にぶっこまれてきた。
「収納スキル習得をさせて欲しい」
とは武具を扱う商人たちからの懇願だった。
はっきり言って何の事だかさっぱりわからなかった僕は五人ほどのヒューマンとドワーフ混成商人部隊に詳しい説明をお願いした。
鍛冶カテゴリの商人にとって最上級の機密だから他の連中を退室させて欲しいと頼まれたけど却下。
一々用件ごとに人の出し入れなんて出来るか面倒くさい。
彼らがこの部屋にまとめられたのは良くも悪くもその扱いで十分だとウチの子たちが判断した結果な訳で。
そこに僕が悪い意味での鶴の一声を発して混乱を生むなんて悪手でしかない。
僕だって学んでいるんですよ。
そしたら彼らは機密とやらはどうでもよくなったのか、ブロンズマン商会の代表が取ったばかりだという商人にとって喉から手が出るほど欲しいスキル、収納についてペラペラ話し出した。
その話は僕もざっとは聞いていた。
これからあそこの商会が中心になって収納スキルを持つ商人を育成していくって事も、冒険者ギルドとの連携についてもだ。
で、彼らは要するにその第一期生の一時審査で落ちたと。
自身で身銭を切って冒険者を雇うだけの懐の余裕もない。
でも収納を得て他を出し抜きたい。
飢えた獣の前に肉塊をちらつかされたようなもの、なんだろうな。
でクズノハ商会なら従業員でさえそれなりに強いし、各所に伝手もある。
つい最近まではこちら側(甚だ不本意なんですが)にいた奴。
という事で助けてくれても良いはずだ、となったらしい。
最早商人としても人としても理性の欠片もない。
大体あれはハクさんから一歩突っ込んで聞いてみたところレベル上げとジョブの習熟の両方が必要になる、商人として一定以上のクラスアップを経る事で習得できるスキルとの事。
考えてみれば何も難しい事はない。
商人系のジョブならクラスアップしていけばそのうち大体のジョブで収納を覚える。
それだけ。
MMOってゲームの商人系ジョブを想像すればなるほど一択である。
ただ、だ。
ゲームでさえ生産系ジョブを育てていくのは戦闘系に比べて苦痛だ。
そもそも商人の戦場は街の市場な訳で。
この世界の現実として、収納を覚える上位職と呼ばれるような段階までジョブを育成する奇特な商人はつい最近までいなかった。
これもまたよくある話だと思う。
結論として、僕らが勝手に手を出す必要はまったくない。
ブロンズマンさんとこや冒険者ギルドがやるといってるんだ。
これ以上ない適役じゃないか。
抜け道を与える程付き合いがあったり恩がある相手も幸いいない。
きっちり正論で諭して一旦黙らせた。
「素材が取れる場所とか知識を共有し助け合いが出来る互助組合を作って欲しい」
とは自称素材卸の一派らしい商人ズ。
冒険者ギルドにどうぞ、と即答しそうになったけれど必死で沈黙を保った。
すると互助組合とかいうギルドの読み換えをしただけとしか思えない組織について理想を語り始めた。
それぞれの商会がお金と得意とする素材についての知識を出し合って大手による不当な値段での一括買い上げに抵抗しようという事らしい。
何故にうちにきた、と聞こうとしたらムゾー商会から無茶ぶりされて素材を納めさせられている一種の同志としてクズノハ商会に仲間意識を持っていたとの事だった。
HAHAHA
更に商人ズの事業規模を聞くと一般的な屋台に毛が生えた程度。
これでクズノハ商会が加わって互助組合なんて作ろうものなら彼らはただエサが落ちてくるのを待つ雛に成り下がるのは必至。
大手が資本に物を言わせて不当な値段で素材を買い漁るってのは確かにある。
原価割れを起こすような要求も時にあるだろう。
そのレベルまで応じていたら商売にならないし、彼らのように不満を抱える。
わかる。
ただ、なら他で売れば良いんだよ。
今はもう黄昏街もないんだし。
ツィーゲの商売は大分クリーンだ。
ムゾー商会を実際に見ていてはっきり言えるんだけど、例え彼らが買い上げに抵抗して別口に売ったとしてもさしたる報復なんてない。
断言できる。
こんな砂粒みたいな連中に執着してる余裕が今のムゾーさんとこにはないんだよね。
その差配をする間に一歩でも前に進んだ方が圧倒的な利益を生むし、楽にもなる。
戦争を経てツィーゲは格段に広くもなった。
物理的に距離をとって別の市場で力を試すのだって手だ。
もっというのなら今の大手素材商で手が足りているとこなんてのもない。
どこも猫の手も借りたい人不足だ。
最悪一旦自分の商会を閉めて大手で働かせてもらって勉強するのだってアリだ。
例えばムゾー商会なら素材の生産について色々学ぶチャンスにもなる。
大手については機密に触れそうなとこを回避しながら吹けば飛ぶような互助組合を作るよりも良いやり方はいくらでもある、ってな事を説明してさしあげた。
ついでにクズノハ商会は手伝う気は無いってとこも忘れずにだ。
「駅や広場の出店権利を融通して欲しい」
飲食はもう直球だ。
バトマさんが群商会って在り方を一部見直している所為で彼が囲ってきた商人が徐々に切られている。
これまで彼が頭数で勝ち取ってきた利権を傘下で特に何をするでもなく順番待ちで手に入れていた彼らは、一部は改めて自分の力で挑戦を始めていたけれど、そうでない彼らは次に自分たちを守ってくれる後ろ盾を探して放浪しているって構図。
もちろん、ここにいるのは後者。
おにぎりに活路を見出したあの二人みたいのは前者だ。
ああいうのには僕もたまに力を貸したいと思ったりもする。
米だったしね!
「弱者にだって商売をする権利はある! 例えばあの孤児院の食事を引き受けさせてくれるだけでも何人かは食い扶持を得られるんだ!」
言ってる事は奇跡的に間違っちゃいない。
でも考えも、目の付け所もまるで見当違いだと思った。
そもそもこの世界において弱者に権利はない。
己を弱者と認める事はほぼ何の利益もない愚かな事だ。
もちろん、そんな彼らだって商売をする権利は別に奪われていない。
場所に拘らず、訪問販売だったり売り歩くスタイルなら好きにやれる所もある。
そして孤児院の食事がどうとか言ってたけど。
孤児院なんてお金が潤沢にある訳がない。
内部を見て改めてよくわかった。
そんなとこがわざわざ商人を間にかませて食べ物を賄おうとする……あり得ない。
確かに人数がいて量を必要とする場所という点だけは商機が生まれそうでもあるけれど。
ウェイツ孤児院を例にするなら、そこはもうクズノハ商会がいるわけだ。
何でウチがわざわざお前らを儲けさせる為だけに手間を取らなきゃいけないんだと。
全くもって馬鹿馬鹿らしい。
道と駅が先行して広がっていき、その計画も商人ギルドで確認できる今。
見ようとも知ろうとも動こうともしない商人が生き残れる訳ないだろうと心から思う。
食べ物なんて特にフットワークの軽さで儲ける職種なんだからさあ。
と、もはやここにいる十数人が全員乞食にしか見えなくなってきたその時だった。
「失礼いたします!」
「お邪魔するわね!」
「ライドウ、すまん!」
突如カプリさんとブロンズマンさん、それに商人ギルドの職員が部屋に突入してきた。
「?」
こんなとこにいていいの、って二人と滅多にギルドの外で見ない職員さんだった。
珍しい組み合わせと驚きで言葉を失う。
「やはり! がん首揃えて!」
「本当に押し掛けるかしらね、信じられないわ!」
「言ったろ、つける薬のない馬鹿ってのはそこそこいるもんなんだよ!」
『!?』
息ぴったりの三人は僕の向かいに揃う、自称商談にきた商人たちを睨みつけた。
対する彼らはやってきた顔ぶれに委縮して……絶句している。
「除名が嫌なら商人ギルドに来なさい」
職員さん。
恐ろしく冷たい口調で冗談の空気は一切無し。
「ハッタリじゃないわよ」
「わかるな?」
カプリさんとブロンズマンさんは怒気を隠さず職員さんの言葉を肯定する。
その後。
立て、と言われた彼らはビシッと立ち上がり。
俺たちよりもギルド到着が遅かった奴は残念ながらそこまでだ、と脅された彼らは脱兎の如く部屋を飛び出していった。
大照会を束ねる二人も年を感じさせない軽やかさで彼らに続く。
といっても、あの人たちは馬車だろうけど。
……馬車と競争か。
「見苦しいものをお見せしました。ライドウ様、先ほどのが何を喚いたかは存じませんがどうか全てお忘れくださいませ」
最後に職員さんがビシッと一礼して扉を静かに閉めて帰っていった。
道の整備も駅の構築も馬車と専用の道路についても。
もう大枠ではやり方も定まりつつあって、ツィーゲは一気に街と認識されるエリアを拡張し始めている。
残念ながらその速度に振り落とされる人もいくらかは出てくる。
彼らみたいに。
もっとも、働き口なんていくらでも増えていっているのも事実だ。
視野を広くもって色んな職業に目を向けてほしいもんだよねえ。
商人のままでいるにせよ……大手に吸収される事だって選択の一つなんだし。
まあ、いいや。
これにて商談は終了。
いやーよく働いた!
……待てよ。
窓から陽の高さを確認する。
まだ時間あるな。
じゃあお店の方も一回りして様子を見ようか。
予定した数量はほぼ毎日売れてるとはいえ、売れ方までは生で見ないとわからないとこもある。
もう少しだけ、頑張ろ。
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※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です