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七章 蜃気楼都市小閑編
「臨時」講師と商会の人気コーナー
「言いたい事はわかる。が、所詮我々は臨時雇われの講師に過ぎないんだよダエナ。あと、何か重婚するんだって? おめでとう」
例によって教育熱でおかしくなっているダエナの熱弁が僕らの方を向いたので軽く流す。
そしてついでのように婚約がどうとか二人目の妻がどうのとサラッと話に入れてきたのでそちらにも対応しておく。
さて、識も軽く呆れている事だし今日もまたクズノハ商会を溜まり場と勘違いして集まってくるジン一党を片付けますかね。
講義の時間以外近寄るなとまでは言わないけど、常勤の先生方でもない身で入り浸られても困るんだよ、と。
学生達も相変わらず、ただ少しぶりに顔を出したロッツガルドは既にあの事件の前と遜色がない程に活気を取り戻していて、そこは素直に嬉しい。
「識先生ともども常勤への勧誘を悉く拒否してる先生は既に常勤みたいなもんだと思います」
「……あれな。お前らからも事務局の皆様に注意してくれんかな。あの手この手で絶え間なく。中には詐欺紛いのも混ざってていい迷惑だ、まったく」
一見備品納入のお知らせに見せかけた常勤講師への変更契約書とか、一期更新に見せかけて契約から3日で自動更新される仕様が織り交ぜてあったり。
確かに契約書ってのは書いてある事をお互い確認し合って守るために作る書類だよ?
両者のサインがあれば尊重されるべきだと僕だって思ってるとも。
でも、だ。
前提として、話し合ってお互い納得した内容を正しく書いてあって初めて成立するものであって。
契約とは違う内容を契約書に記すなんてのは論外だ。
……そういう事をする商人や貴族がいないかといえば大勢いるけども。
きちんと話をしたのに契約書の内容を疑ってかからないといけないなら、そこにはもう信用は無い。
少なくとも僕はそう思うね。
で信用していない相手、到底信用できない相手と好ましい関係が築けるか。
当然難しいよね。
今みてる生徒がいる以上すぐ投げ出したりはしない。
ただ……何がなんでも僕らを拘束しようとするロッツガルド学園に多少辟易してきてるのも事実だった。
「若様の仰る通り、講義の事を考える時間ならばまだしも契約書の内容を精査するのに時間を浪費しなければならないなど……無駄の極み」
うん、識もだいぶお怒りだな。
同じ気持ちで良かった。
「まったく同じ気持ちだ。あとダエナ、というかジンとアベリア以外。学校終わりにウチを溜まり場にするのはやめろ、もっとオサレなとこがあるだろこの街には。それこそ腐るほど」
「……」
「なんだミスラ」
どうして悩ましげな顔で僕を見るかな。
「いや……その」
ミスラの視線がチラチラ動き回る。
「? 何かあったか?」
「先生って意外と、その。エリス先輩と似たような言葉をお使いになるよな、と。オサレとか」
「っ!?」
げ、マジか。
ふと後方の窓際を見る。
そこには逆さ吊りになったぐるぐる巻きの彼女、エリスがいた。
ジンにいらん事を吹き込んで舎弟化しようとしていた罰である。
ちなみに識によって迅速に行われた。
本当ならもっと厳しく怒るべきなんだろうけど、エリスの奴、あれで教えるべき事や仕事にまつわる事もきちんと教えているから性質が悪い。
ちゃんと先輩店員しつつ何をどうやったのか学生達の心も掴み、その上で悪ふざけもやってのけるんだからなあ。
「オッサレー」
「欠片も反省してませんねエリス……タワシ、追加しましょうか?」
「タワっ!? いえ! 超反省してます識様! マジです、本気と書いてマジです!」
……言葉遣いか。
少し気をつけようかな。
「大体、お前達もそろそろ学園で学ぶ事の先も見始めている頃だろう? 各々の進路について、始めていける事だってあると思うが……」
例えばダエナであれば学園の講師になりたいんだったか。
いや彼の話を聞いている限りでは、なりたいのは教師なのかもしれない。
誰かの成長を総合的にサポートする師というか。
少なくとも僕がやっている臨時講師とは目指しているものが違う気がする。
「俺ら皆んな、そのためにここにいますよライドウ先生」
「?」
制服に着替えてやってきたジンがひょこっと顔を出して代表したような言葉を発した。
「先を見て、んでここにいます。学園を除けばここで得られるものが一番多いって判断してる、と思います。失礼します!」
言いたい事だけ言って、サクッと仕事に戻っていくジン。
僕の後ろに吊るされているエリスはスルーだ。
よく鍛えられている。
「ロッツガルド学園には巨大な図書館もあれば世界から集まった優秀或いは有用な人材もいる。それらと少しでも多く交わる方が一商会に入り浸るより余程プラスだと私でも思うんだがなあ」
学校の同級生、先輩、後輩という関係で世界中の有力者の後継者、関係者と関わりを持てる。
古今東西の知識を集めた図書館がある。
それは、他のどこにもない環境だ。
まだ学生だから価値がわからないなどという愚かな連中でもなかろうに。
レンブラント姉妹なんて、各国の礼法や商会事情と人脈作りがここにいる主な目的だろ。
少なくともお父上的には。
「目下私たちの目標はあの緑色のスイーツの解明ですが?」
「調べたところ、稀にこのお店でも突発的に陳列されるのは調べがついてますよ、センセ」
姉妹は僕の視線に明後日の方向に突っ切った答えをくれた。
あれはお茶の粉を使ったお菓子だってもう教えてあるのに。
そのお茶だってローレルが大元ってのも教えてある。
だってこんなのはレンブラントさん達に隠す事でもないからだ。
「お気づきですか? クズノハ商会のお菓子はあのエメラルドが如き頂を筆頭にもうお茶会の席では注目の的担っているんです。その価値は計り知れません。どんな価値観とセンスがあれらを生み出すのか、学園に通う女達の目は常にここを睨んでいます」
お、大袈裟な事を言ってくれるねシフ。
「だから常にこのお店の菓子棚はチェックされてるんです。冗談じゃなく一分一秒。今日も私たちが知る限りでは六つの貴族派閥、五つの研究部に三つの婦女子会から人が派遣されて観察されてます。新作が並べば二分以内に完売は必至です」
……。
嘘だろう?
姉に続いて発言した妹の自信満々な顔が怖くなって敵意とか関係なく菓子の棚に視線を向けてる連中が本当にいるのか確かめてみる。
「……いますね。まさかここまでクズノハ商会の菓子が有名になっているとは」
識が驚愕しつつ、どこか嬉しそうだ。
あーそうか。
クリーム党激甘派だったな、識って。
「珍しかろうが、お菓子だぞ? そこまでか……」
本当にいた。
界の力は明らかに店の一部に注目する結構な身なりの変人達を把握していた。
薄暗い部屋の窓から双眼鏡らしきものを構えて微動だにしない人や、人が出入りして報告を繰り返しているのまで。
どこの見張り所だ。
「今だツィーゲの方でも満足のいく出来になったものは無いようですし。レンブラントの名にかけて新作や名作は確実にゲットしてみせます!」
「姉に同じく!」
「こーいう輩が時々どうしようもなく鬱陶しくなって、予定してたお菓子をギリギリまで出さなかったりするこのざまあな気持ちになんて名前をつければ良いのか、いとをかしな問題デスヨ」
「……」
エリス、お前ってやつは。
この愉快なお菓子争奪戦にずっと気付いていたのか。
そして時々イライラしていたと。
「把握していたわけですか、お前は」
識はちょっと冷たい目でエリスを見ている。
「一応は! でも売り上げ的に特に問題ないので別に不愉快ってとこ以外は無害カナーと」
だから特に報告にも上げていないと。
同じ人が買い占めるとかを繰り返していないなら確かに問題はないとも言えるか。
「ふむ……」
「転売狙いのとかはある程度釘刺してるっす、ボス!」
「であれば許容範囲ですか」
「だねえ」
レンブラント姉妹に関しては僕に言ってくれれば良いのに。
なんて思っていたら、それはそれ、これはこれ、なんだそうだ。
ご覧の通りクズノハ商会の菓子はその流通量まで各派閥に店の販売量としては把握されてるのが現状。
だからその範囲内でどのくらいレンブラント姉妹で確保できるかはそれなりに重要なんだそうな。
プラスアルファで僕からもらう分には無茶苦茶嬉しいけども内々で食べて至福の時を楽しむ用だとか。
……うん、全く理解出来ん世界だ。
レンブラント姉妹がただ駄弁りににウチに来ている訳じゃないのだけはわかった、んだろうか?
例によって教育熱でおかしくなっているダエナの熱弁が僕らの方を向いたので軽く流す。
そしてついでのように婚約がどうとか二人目の妻がどうのとサラッと話に入れてきたのでそちらにも対応しておく。
さて、識も軽く呆れている事だし今日もまたクズノハ商会を溜まり場と勘違いして集まってくるジン一党を片付けますかね。
講義の時間以外近寄るなとまでは言わないけど、常勤の先生方でもない身で入り浸られても困るんだよ、と。
学生達も相変わらず、ただ少しぶりに顔を出したロッツガルドは既にあの事件の前と遜色がない程に活気を取り戻していて、そこは素直に嬉しい。
「識先生ともども常勤への勧誘を悉く拒否してる先生は既に常勤みたいなもんだと思います」
「……あれな。お前らからも事務局の皆様に注意してくれんかな。あの手この手で絶え間なく。中には詐欺紛いのも混ざってていい迷惑だ、まったく」
一見備品納入のお知らせに見せかけた常勤講師への変更契約書とか、一期更新に見せかけて契約から3日で自動更新される仕様が織り交ぜてあったり。
確かに契約書ってのは書いてある事をお互い確認し合って守るために作る書類だよ?
両者のサインがあれば尊重されるべきだと僕だって思ってるとも。
でも、だ。
前提として、話し合ってお互い納得した内容を正しく書いてあって初めて成立するものであって。
契約とは違う内容を契約書に記すなんてのは論外だ。
……そういう事をする商人や貴族がいないかといえば大勢いるけども。
きちんと話をしたのに契約書の内容を疑ってかからないといけないなら、そこにはもう信用は無い。
少なくとも僕はそう思うね。
で信用していない相手、到底信用できない相手と好ましい関係が築けるか。
当然難しいよね。
今みてる生徒がいる以上すぐ投げ出したりはしない。
ただ……何がなんでも僕らを拘束しようとするロッツガルド学園に多少辟易してきてるのも事実だった。
「若様の仰る通り、講義の事を考える時間ならばまだしも契約書の内容を精査するのに時間を浪費しなければならないなど……無駄の極み」
うん、識もだいぶお怒りだな。
同じ気持ちで良かった。
「まったく同じ気持ちだ。あとダエナ、というかジンとアベリア以外。学校終わりにウチを溜まり場にするのはやめろ、もっとオサレなとこがあるだろこの街には。それこそ腐るほど」
「……」
「なんだミスラ」
どうして悩ましげな顔で僕を見るかな。
「いや……その」
ミスラの視線がチラチラ動き回る。
「? 何かあったか?」
「先生って意外と、その。エリス先輩と似たような言葉をお使いになるよな、と。オサレとか」
「っ!?」
げ、マジか。
ふと後方の窓際を見る。
そこには逆さ吊りになったぐるぐる巻きの彼女、エリスがいた。
ジンにいらん事を吹き込んで舎弟化しようとしていた罰である。
ちなみに識によって迅速に行われた。
本当ならもっと厳しく怒るべきなんだろうけど、エリスの奴、あれで教えるべき事や仕事にまつわる事もきちんと教えているから性質が悪い。
ちゃんと先輩店員しつつ何をどうやったのか学生達の心も掴み、その上で悪ふざけもやってのけるんだからなあ。
「オッサレー」
「欠片も反省してませんねエリス……タワシ、追加しましょうか?」
「タワっ!? いえ! 超反省してます識様! マジです、本気と書いてマジです!」
……言葉遣いか。
少し気をつけようかな。
「大体、お前達もそろそろ学園で学ぶ事の先も見始めている頃だろう? 各々の進路について、始めていける事だってあると思うが……」
例えばダエナであれば学園の講師になりたいんだったか。
いや彼の話を聞いている限りでは、なりたいのは教師なのかもしれない。
誰かの成長を総合的にサポートする師というか。
少なくとも僕がやっている臨時講師とは目指しているものが違う気がする。
「俺ら皆んな、そのためにここにいますよライドウ先生」
「?」
制服に着替えてやってきたジンがひょこっと顔を出して代表したような言葉を発した。
「先を見て、んでここにいます。学園を除けばここで得られるものが一番多いって判断してる、と思います。失礼します!」
言いたい事だけ言って、サクッと仕事に戻っていくジン。
僕の後ろに吊るされているエリスはスルーだ。
よく鍛えられている。
「ロッツガルド学園には巨大な図書館もあれば世界から集まった優秀或いは有用な人材もいる。それらと少しでも多く交わる方が一商会に入り浸るより余程プラスだと私でも思うんだがなあ」
学校の同級生、先輩、後輩という関係で世界中の有力者の後継者、関係者と関わりを持てる。
古今東西の知識を集めた図書館がある。
それは、他のどこにもない環境だ。
まだ学生だから価値がわからないなどという愚かな連中でもなかろうに。
レンブラント姉妹なんて、各国の礼法や商会事情と人脈作りがここにいる主な目的だろ。
少なくともお父上的には。
「目下私たちの目標はあの緑色のスイーツの解明ですが?」
「調べたところ、稀にこのお店でも突発的に陳列されるのは調べがついてますよ、センセ」
姉妹は僕の視線に明後日の方向に突っ切った答えをくれた。
あれはお茶の粉を使ったお菓子だってもう教えてあるのに。
そのお茶だってローレルが大元ってのも教えてある。
だってこんなのはレンブラントさん達に隠す事でもないからだ。
「お気づきですか? クズノハ商会のお菓子はあのエメラルドが如き頂を筆頭にもうお茶会の席では注目の的担っているんです。その価値は計り知れません。どんな価値観とセンスがあれらを生み出すのか、学園に通う女達の目は常にここを睨んでいます」
お、大袈裟な事を言ってくれるねシフ。
「だから常にこのお店の菓子棚はチェックされてるんです。冗談じゃなく一分一秒。今日も私たちが知る限りでは六つの貴族派閥、五つの研究部に三つの婦女子会から人が派遣されて観察されてます。新作が並べば二分以内に完売は必至です」
……。
嘘だろう?
姉に続いて発言した妹の自信満々な顔が怖くなって敵意とか関係なく菓子の棚に視線を向けてる連中が本当にいるのか確かめてみる。
「……いますね。まさかここまでクズノハ商会の菓子が有名になっているとは」
識が驚愕しつつ、どこか嬉しそうだ。
あーそうか。
クリーム党激甘派だったな、識って。
「珍しかろうが、お菓子だぞ? そこまでか……」
本当にいた。
界の力は明らかに店の一部に注目する結構な身なりの変人達を把握していた。
薄暗い部屋の窓から双眼鏡らしきものを構えて微動だにしない人や、人が出入りして報告を繰り返しているのまで。
どこの見張り所だ。
「今だツィーゲの方でも満足のいく出来になったものは無いようですし。レンブラントの名にかけて新作や名作は確実にゲットしてみせます!」
「姉に同じく!」
「こーいう輩が時々どうしようもなく鬱陶しくなって、予定してたお菓子をギリギリまで出さなかったりするこのざまあな気持ちになんて名前をつければ良いのか、いとをかしな問題デスヨ」
「……」
エリス、お前ってやつは。
この愉快なお菓子争奪戦にずっと気付いていたのか。
そして時々イライラしていたと。
「把握していたわけですか、お前は」
識はちょっと冷たい目でエリスを見ている。
「一応は! でも売り上げ的に特に問題ないので別に不愉快ってとこ以外は無害カナーと」
だから特に報告にも上げていないと。
同じ人が買い占めるとかを繰り返していないなら確かに問題はないとも言えるか。
「ふむ……」
「転売狙いのとかはある程度釘刺してるっす、ボス!」
「であれば許容範囲ですか」
「だねえ」
レンブラント姉妹に関しては僕に言ってくれれば良いのに。
なんて思っていたら、それはそれ、これはこれ、なんだそうだ。
ご覧の通りクズノハ商会の菓子はその流通量まで各派閥に店の販売量としては把握されてるのが現状。
だからその範囲内でどのくらいレンブラント姉妹で確保できるかはそれなりに重要なんだそうな。
プラスアルファで僕からもらう分には無茶苦茶嬉しいけども内々で食べて至福の時を楽しむ用だとか。
……うん、全く理解出来ん世界だ。
レンブラント姉妹がただ駄弁りににウチに来ている訳じゃないのだけはわかった、んだろうか?
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です