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七章 蜃気楼都市小閑編
ドラゴンズミッション
「やーしかし馬鹿な事したね、オタクの生徒さん」
「……面目次第もありません、ご迷惑をおかけしましたファルス殿」
「全く困ったものだよ? ウチでも飛び切りの荒くれどもの最高峰でさ? トップクラスの評価を受けてる子にコナかけられたんだもんねえ?」
「……一重に私の監督不行き届き、申し開きの言葉もありません」
「だよね? 穏便に済ますの苦労しそうだもの! うん、素直に頭を下げるとこはイイヨ、実にイイ! 識君はわかってるなあ!」
「……」
煽りにしか見えないファルスの言葉に、識はただただ耐えていた。
生徒たちは皆殊勝な顔をしているが、それでもダエナとイズモに時折向けられる視線は厳しい。
アベリアはポーカーフェイスを必死に保っているが、隣に座るダエナの太腿に置かれた指先には渾身の力が込められていた。
本来なら絶叫ものの苦痛に見舞われながらダエナは耐える。
耐えるしかない。
師と呼んで差し支えない識がひたすらに頭を下げるこの地獄、それを生み出したのは他ならぬ自分の行動ゆえだと彼も十分に理解しているからだ。
「うん! それじゃ色々変わっちゃったけど本題といこうか。ソフィア!」
「はい」
ファルスの満足げな表情。
話題がようやく本筋に戻るようだ。
彼に指示されたソフィアが会議室の前方から識らの方に歩を進める。
一人一人の前に太めの腕章を置いていく。
特に誰の前でも表情を変える事はない。
敢えて言うならば、全員に呆れたような顔を浮かべていた。
「君らの前においてあるソレ、簡単に説明すると冒険者ギルドがそれを身に着けている人をお客さんとして庇護していますよって証ね。つまり今日みたいなトラブルは起きなくなるって訳だ」
「ご配慮痛み入ります」
「元々の約束じゃないの、気にしないで。少し順序は前後したけど、若者の暴走はいわば特権でもある。如何な識君とはいえ制御できるものじゃないさ。な、ライドウ君の言った通りになったろ?」
「……はい」
「で、識君にはまだそこの二人、正確には……ダエナ君か。彼の暴走の理由がわかってないと見た」
「っ」
「図星ー。んーどうするかな、ライドウ君をここに呼んで解説もしてもらっちゃう?」
「……是非、ファルス殿から伺いたく存じます」
「だよねー」
「ル、ファルス。少し邪悪が過ぎますよ。聞いていて不快です、簀巻き、ご希望ですか?」
「! は、はは。やだな叔母さん落ち着いて下さいって」
「おば? 巴に連絡してき――」
「ミスグロリア、失礼しました。あのさ、識君」
「?」
小さく嘆息したファルスが識に話し始める。
学生らは腕章を大人しく制服に巻き終えていた。
尊敬する識の現状は、大半が自分たちの責任だと理解しているからこその従順であった。
「この子たち、かなり格上の冒険者と戦った事があるんでしょ?」
「……ええ」
ローレルの事件において、彼らは帝国の勇者に魅了された格上の冒険者らと戦った。
「で、生き残った。結構な数を斬り捨てた訳だね」
命がけでどこまでその自覚があるかはともかく、ジン達は倍以上のレベル差がある冒険者や戦士を相手に見事、いや奇跡的なまでの立ち回りを見せた。
「ええ」
「それだよ」
「?」
識が首を傾げる。
それだと言われても話が繋がらず、答えも見えない。
ライドウも、ファルスも既に見えている答えが、だ。
「このツィーゲで荒野を出入りする冒険者だって底辺を見ればレベルは百ちょいだ。そこそこの中堅で三百から四百、トップでも八百から九百半ば」
「冒険者のレベル分布でしたら私も頭に入っていますが」
「識君はスマートだからか、それともこの子たちが余程可愛いのか、ホントに見えてないんだねぇ。つまりさ、ここでも中堅クラスのレベルならそこのダエナ君にとっちゃ勝った事がある『レベル』、なんだよ。クラスとか格じゃなくてね」
「……。……!!」
「お、わかったかな。確かにダエナ君がオイタをした訳だけどさ。世紀末モヒカン君から聞いたよ、彼のレベル、ちょいと口を滑らせたよね?」
「まさか、そんな?」
識は思わずダエナを見る。
彼はまともに識の視線を受け止められず、そっと顔を伏せた。
「そういう事なんだよねえ。力押ししかしない魅了された連中と、ここの冒険者の違いってのが彼らはまだわかっちゃいない。レベル三百程度でもこの子たちをどうとでも出来る、なんて言われた日にゃあ、ね? 若さってのが暴走しちゃうんだって」
「……」
レベルなど飾り、戦いにおいて、死合い、戦争において。
最も重要なのはたゆまぬ鍛錬は前提として、己の力の正しい理解と選択肢の幅、何よりも思考。
それは、何より最初にジン達に教えた筈の事だ。
なのに、その最も大切な基本を疎かにしてレベルで相手の力量を侮るなど、あるはずがない。
優秀で合理的で、相応の人生経験を積んだ識であれば当然そう考える。
考えてしまう。
だが、ライドウは学生というのが殊の外学ばない存在である事も身をもって知っている。
以下に優秀であろうとも、だ。
皆で集まって、いつもと違う環境に置かれてはしゃいでいる時。
日常と変わらずに自信を完全に律する事が出来るとは限らない。
だって学生だから。
ライドウにはそれで充分だった根拠だが、これまでの指導と確実に食らいついてきたジン達に多少過大な評価を下している識では認識も少し変わる。
ファルスの場合は長い時間の中で玉石混交、様々な人材を老若男女問わずに見てきた文字通りの年の功だろう。
識は、絶句した。
「多少強いかもしれない。敵わないかもしれない。でも一噛みも出来ない訳あるか。ま、そんなとこだろダエナ君」
「っ……はい」
「実際大したもんだよ? あの子はここでも有数の冒険者だし、君の一瞬の集中力は実戦そのものだったって」
「ほ、本当ですか!?」
「ダエナ!」
ファルスはキーマの感想をダエナに伝えるも、喜色を浮かべて聞き返したダエナをアベリアが怒声をもって止めた。
相当な怒りが彼女から立ち上っているのが誰の目にも明らかだった。
「あはは、アベリアちゃんだっけ。君も落ち着いて。ま、誉めてる訳でもなくてね。ギルド内で急にそんな気配を出されたら近くにいた連中みんな君に注目するよ。何事だってね」
「……え」
「で、大注目な君がキーマちゃんにばればれのスキルを使った。何の捻りもなくだ。どうしようか皆迷ってるとこでお姉ちゃんの方が皆に目配せして連れの子と一緒に君を眠らせた」
「……」
「ここの冒険者たちは、言うなれば君らと同じなんだよ。考えて戦っている、観察と警戒は息を吸う様に決してかかすことがない。ライドウ君は彼らを見て君らの育成方針を決めたんだから当然だ」
「……あ」
「だから君らの圧倒的な先輩って訳だね。ダエナ君、君は近頃教育に熱心なようだけど……ツィーゲでは君らが優しく講義で教えてもらった事を、実戦で容赦なく叩き込まれながら生き延びた連中が冒険者を続けてる。優秀な学生さんならちゃんと予習をして、肌でもきちんと理解しなくちゃね。ま、今後に期待してるよ」
「くっ」
「ダエナ。……ファルス殿、確かに負けん気や若さは私もまだまだ勉強不足でした。いずれまた、お礼とお詫びに参ります。それで、もう一つだけお聞きしても?」
口を噛むダエナを一瞥すると識は立ち上がりファルスに一礼する。
そして問いを続ける許可を求めた。
「もちろん。なんだい?」
「ソフィア殿が傍におられるのは承知しています。しかし、何故グロリア氏までこちらに? 正直、この子らには少し刺激が強いかと思うのですが」
「あら、私? 巴と女子会でも楽しもうと思ってツィーゲに来たらファルスに捕まっちゃって。帝国の勇者が面倒だから一番の安全圏に逃れてきたとも言うわね」
ファルスの代わりに当人が質問に応える。
しかしその答えは少しばかりずれていた。
「いえ、そうではなく。何故この場に、という意味です」
「ああ! それも巴絡みよ。そこのミスラ君をちょっと見て欲しいってお願いされてるの」
「っ。っと。そう、いうお話でしたか。ああ、では、それは……」
「せ、先生?」
いきなり話を振られて自分に視線を向けた識に不穏なものを感じるミスラ。
「好きに揉んでやってください」
「先生!?」
「ライドウ君とリサちゃんにもOKもらってるから。修学、旅行? 学を修めるからには明確な目標があった方が良いでしょう? だからぁ」
グロリアと名乗る妙齢の女性が教壇の様な机の影に手を伸ばすと、ズズズ、と重い音を立てて釘を大量に打ち付けられたバットが姿を現した。
ちなみにリサちゃん、と名前が出た瞬間レンブラント姉妹がギョッとした表情を見せるが誰も気づいた者はいなかった。
『っ』
学生らが息を呑むのと同時に、甲高い音が辺りに響いた。
識は即座に結界を張った時特有の音だと気付いたが、残念ながら学生たちには異変としか感じられなかった。
実戦でしか使われる事がない強力な術だけに自身の知る結界との余りにも大きな違いが壁となって理解を阻害したのかもしれなかった。
「短い間だけど鍛えてあげましょうね。本当ならミスラ君だけにするつもりでしたが、そこの元気溢れるお二人もサービスです♪」
「な、俺もっ!?」
とダエナ。
「俺は、完全に被害者だと思ふ……こんなにも魅惑的な建物が溢れてる街で、どうして鈍器持った女性と荒っぽい事しなくちゃならないんだよぅ?」
とはイズモの心からの台詞だ。
「才能あふれる青年たち……良いです。最高です。役得役得。学園に帰るまでに達成して欲しいミッションは沢山ありますからね。どうかこのグロントと共に乗り超えましょうねぇ!!」
「グロ、ント? なんか、聞き覚えあるような。そしてこの巴さん時と同じような悪寒はぁぁぁ!」
ミスラが立って戦闘態勢を取る。
武器も防具も無いが。
「あらいけない、グロリアです」
「楽しいショッピング旅行はどこ行った!」
「台無しにしてくれたお前だけはそれ言うなよダエナぁ!」
空間を隔離する、高等な結界魔術。
その意味を彼らが知るのは数分後の事だった。
「……面目次第もありません、ご迷惑をおかけしましたファルス殿」
「全く困ったものだよ? ウチでも飛び切りの荒くれどもの最高峰でさ? トップクラスの評価を受けてる子にコナかけられたんだもんねえ?」
「……一重に私の監督不行き届き、申し開きの言葉もありません」
「だよね? 穏便に済ますの苦労しそうだもの! うん、素直に頭を下げるとこはイイヨ、実にイイ! 識君はわかってるなあ!」
「……」
煽りにしか見えないファルスの言葉に、識はただただ耐えていた。
生徒たちは皆殊勝な顔をしているが、それでもダエナとイズモに時折向けられる視線は厳しい。
アベリアはポーカーフェイスを必死に保っているが、隣に座るダエナの太腿に置かれた指先には渾身の力が込められていた。
本来なら絶叫ものの苦痛に見舞われながらダエナは耐える。
耐えるしかない。
師と呼んで差し支えない識がひたすらに頭を下げるこの地獄、それを生み出したのは他ならぬ自分の行動ゆえだと彼も十分に理解しているからだ。
「うん! それじゃ色々変わっちゃったけど本題といこうか。ソフィア!」
「はい」
ファルスの満足げな表情。
話題がようやく本筋に戻るようだ。
彼に指示されたソフィアが会議室の前方から識らの方に歩を進める。
一人一人の前に太めの腕章を置いていく。
特に誰の前でも表情を変える事はない。
敢えて言うならば、全員に呆れたような顔を浮かべていた。
「君らの前においてあるソレ、簡単に説明すると冒険者ギルドがそれを身に着けている人をお客さんとして庇護していますよって証ね。つまり今日みたいなトラブルは起きなくなるって訳だ」
「ご配慮痛み入ります」
「元々の約束じゃないの、気にしないで。少し順序は前後したけど、若者の暴走はいわば特権でもある。如何な識君とはいえ制御できるものじゃないさ。な、ライドウ君の言った通りになったろ?」
「……はい」
「で、識君にはまだそこの二人、正確には……ダエナ君か。彼の暴走の理由がわかってないと見た」
「っ」
「図星ー。んーどうするかな、ライドウ君をここに呼んで解説もしてもらっちゃう?」
「……是非、ファルス殿から伺いたく存じます」
「だよねー」
「ル、ファルス。少し邪悪が過ぎますよ。聞いていて不快です、簀巻き、ご希望ですか?」
「! は、はは。やだな叔母さん落ち着いて下さいって」
「おば? 巴に連絡してき――」
「ミスグロリア、失礼しました。あのさ、識君」
「?」
小さく嘆息したファルスが識に話し始める。
学生らは腕章を大人しく制服に巻き終えていた。
尊敬する識の現状は、大半が自分たちの責任だと理解しているからこその従順であった。
「この子たち、かなり格上の冒険者と戦った事があるんでしょ?」
「……ええ」
ローレルの事件において、彼らは帝国の勇者に魅了された格上の冒険者らと戦った。
「で、生き残った。結構な数を斬り捨てた訳だね」
命がけでどこまでその自覚があるかはともかく、ジン達は倍以上のレベル差がある冒険者や戦士を相手に見事、いや奇跡的なまでの立ち回りを見せた。
「ええ」
「それだよ」
「?」
識が首を傾げる。
それだと言われても話が繋がらず、答えも見えない。
ライドウも、ファルスも既に見えている答えが、だ。
「このツィーゲで荒野を出入りする冒険者だって底辺を見ればレベルは百ちょいだ。そこそこの中堅で三百から四百、トップでも八百から九百半ば」
「冒険者のレベル分布でしたら私も頭に入っていますが」
「識君はスマートだからか、それともこの子たちが余程可愛いのか、ホントに見えてないんだねぇ。つまりさ、ここでも中堅クラスのレベルならそこのダエナ君にとっちゃ勝った事がある『レベル』、なんだよ。クラスとか格じゃなくてね」
「……。……!!」
「お、わかったかな。確かにダエナ君がオイタをした訳だけどさ。世紀末モヒカン君から聞いたよ、彼のレベル、ちょいと口を滑らせたよね?」
「まさか、そんな?」
識は思わずダエナを見る。
彼はまともに識の視線を受け止められず、そっと顔を伏せた。
「そういう事なんだよねえ。力押ししかしない魅了された連中と、ここの冒険者の違いってのが彼らはまだわかっちゃいない。レベル三百程度でもこの子たちをどうとでも出来る、なんて言われた日にゃあ、ね? 若さってのが暴走しちゃうんだって」
「……」
レベルなど飾り、戦いにおいて、死合い、戦争において。
最も重要なのはたゆまぬ鍛錬は前提として、己の力の正しい理解と選択肢の幅、何よりも思考。
それは、何より最初にジン達に教えた筈の事だ。
なのに、その最も大切な基本を疎かにしてレベルで相手の力量を侮るなど、あるはずがない。
優秀で合理的で、相応の人生経験を積んだ識であれば当然そう考える。
考えてしまう。
だが、ライドウは学生というのが殊の外学ばない存在である事も身をもって知っている。
以下に優秀であろうとも、だ。
皆で集まって、いつもと違う環境に置かれてはしゃいでいる時。
日常と変わらずに自信を完全に律する事が出来るとは限らない。
だって学生だから。
ライドウにはそれで充分だった根拠だが、これまでの指導と確実に食らいついてきたジン達に多少過大な評価を下している識では認識も少し変わる。
ファルスの場合は長い時間の中で玉石混交、様々な人材を老若男女問わずに見てきた文字通りの年の功だろう。
識は、絶句した。
「多少強いかもしれない。敵わないかもしれない。でも一噛みも出来ない訳あるか。ま、そんなとこだろダエナ君」
「っ……はい」
「実際大したもんだよ? あの子はここでも有数の冒険者だし、君の一瞬の集中力は実戦そのものだったって」
「ほ、本当ですか!?」
「ダエナ!」
ファルスはキーマの感想をダエナに伝えるも、喜色を浮かべて聞き返したダエナをアベリアが怒声をもって止めた。
相当な怒りが彼女から立ち上っているのが誰の目にも明らかだった。
「あはは、アベリアちゃんだっけ。君も落ち着いて。ま、誉めてる訳でもなくてね。ギルド内で急にそんな気配を出されたら近くにいた連中みんな君に注目するよ。何事だってね」
「……え」
「で、大注目な君がキーマちゃんにばればれのスキルを使った。何の捻りもなくだ。どうしようか皆迷ってるとこでお姉ちゃんの方が皆に目配せして連れの子と一緒に君を眠らせた」
「……」
「ここの冒険者たちは、言うなれば君らと同じなんだよ。考えて戦っている、観察と警戒は息を吸う様に決してかかすことがない。ライドウ君は彼らを見て君らの育成方針を決めたんだから当然だ」
「……あ」
「だから君らの圧倒的な先輩って訳だね。ダエナ君、君は近頃教育に熱心なようだけど……ツィーゲでは君らが優しく講義で教えてもらった事を、実戦で容赦なく叩き込まれながら生き延びた連中が冒険者を続けてる。優秀な学生さんならちゃんと予習をして、肌でもきちんと理解しなくちゃね。ま、今後に期待してるよ」
「くっ」
「ダエナ。……ファルス殿、確かに負けん気や若さは私もまだまだ勉強不足でした。いずれまた、お礼とお詫びに参ります。それで、もう一つだけお聞きしても?」
口を噛むダエナを一瞥すると識は立ち上がりファルスに一礼する。
そして問いを続ける許可を求めた。
「もちろん。なんだい?」
「ソフィア殿が傍におられるのは承知しています。しかし、何故グロリア氏までこちらに? 正直、この子らには少し刺激が強いかと思うのですが」
「あら、私? 巴と女子会でも楽しもうと思ってツィーゲに来たらファルスに捕まっちゃって。帝国の勇者が面倒だから一番の安全圏に逃れてきたとも言うわね」
ファルスの代わりに当人が質問に応える。
しかしその答えは少しばかりずれていた。
「いえ、そうではなく。何故この場に、という意味です」
「ああ! それも巴絡みよ。そこのミスラ君をちょっと見て欲しいってお願いされてるの」
「っ。っと。そう、いうお話でしたか。ああ、では、それは……」
「せ、先生?」
いきなり話を振られて自分に視線を向けた識に不穏なものを感じるミスラ。
「好きに揉んでやってください」
「先生!?」
「ライドウ君とリサちゃんにもOKもらってるから。修学、旅行? 学を修めるからには明確な目標があった方が良いでしょう? だからぁ」
グロリアと名乗る妙齢の女性が教壇の様な机の影に手を伸ばすと、ズズズ、と重い音を立てて釘を大量に打ち付けられたバットが姿を現した。
ちなみにリサちゃん、と名前が出た瞬間レンブラント姉妹がギョッとした表情を見せるが誰も気づいた者はいなかった。
『っ』
学生らが息を呑むのと同時に、甲高い音が辺りに響いた。
識は即座に結界を張った時特有の音だと気付いたが、残念ながら学生たちには異変としか感じられなかった。
実戦でしか使われる事がない強力な術だけに自身の知る結界との余りにも大きな違いが壁となって理解を阻害したのかもしれなかった。
「短い間だけど鍛えてあげましょうね。本当ならミスラ君だけにするつもりでしたが、そこの元気溢れるお二人もサービスです♪」
「な、俺もっ!?」
とダエナ。
「俺は、完全に被害者だと思ふ……こんなにも魅惑的な建物が溢れてる街で、どうして鈍器持った女性と荒っぽい事しなくちゃならないんだよぅ?」
とはイズモの心からの台詞だ。
「才能あふれる青年たち……良いです。最高です。役得役得。学園に帰るまでに達成して欲しいミッションは沢山ありますからね。どうかこのグロントと共に乗り超えましょうねぇ!!」
「グロ、ント? なんか、聞き覚えあるような。そしてこの巴さん時と同じような悪寒はぁぁぁ!」
ミスラが立って戦闘態勢を取る。
武器も防具も無いが。
「あらいけない、グロリアです」
「楽しいショッピング旅行はどこ行った!」
「台無しにしてくれたお前だけはそれ言うなよダエナぁ!」
空間を隔離する、高等な結界魔術。
その意味を彼らが知るのは数分後の事だった。
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