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extra9 その頃亜空①
しおりを挟む○月×日 晴れ
この地に移住してからの日々の出来事を書いていこうと思う。
巴様よりニホントウという武器の製作を依頼される。
最初、その武器の事を聞いた時にはすぐにでも作って差し上げる心算だった。我らとて世界一の鍛冶技術を有している自負がある。
だが私たちは巴様から見せられる、断片的な鍛冶の様子や資料を噛み砕いていく内、驚愕を覚えることになった。
この剣に分類される武器は、一切魔法を介さず、魔力も込めず、製作されているのだ。明らかに初めて見る異質な製法だ。
炉の温度を炎の魔術や精霊に頼らず、鋼の意思に触れる事も無い。ただ自然にあるがままの状態で淡々と作業を進めていく。恐らく、刻一刻と変化する状況を職人の目だけで把握しているのだろう。信じられない技術だ。エルダードワーフの熟練の職人と同等か、部分的には超える技量を感じた。
何日も何日もかけて一振りの剣に全霊を注ぐ。その光景は美しいとしか形容の仕様が無かった。
使われている金属にも、魔力は内包されていないと巴様に解説される。となると、あれは鉄か鋼の類なのだろうか。明らかに上位互換の素材があるというのに極めてありふれた金属に拘る意味もあるのだろうか。わからない。
どうやら、この依頼は随分と難解な物になりそうな気がする。
△月○日 晴れ後雪
資料を読み解く日が続く。
幸い、真様と澪様の武具についてはニホントウ(カタナとも呼ぶらしい)のような難しい注文は無かった。ただ真様の防具については、若干、我々の認識不足もあって再制作となった。あれほどの魔力を瀑布の様に外に出しているからてっきり、あれが最大値だと思い込んでいた。一応、倍程度の余力を与えておいたというのに、変わり者だが一目置かれるルグイ殿の作ったコート状の防具は無残な姿になってしまった。真様の国の衣服の感じに似せたというその防具は我らから見ても、異質で特化した性能をもつ逸品だったというのに。こうなればこっちも一切の自重をすべきではないという結論を得る。
ニホントウ、とは真様の国の名とカタナという剣型武器の別の読み方を組み合わせた物であるらしい。つまり、ニホンのカタナということであり、何らかの手順で二本になるギミックを有した武器ではないということだ。
さらに、刀身に使用される金属にも硬度が違う物を併せて使っていることがわかった。この過程の意味は、古い鍛冶の製法に詳しい熟練工の数人が推測するに折れにくくする意図があるのでは、と仮定された。要考察である。
また、比較的細く薄い形状から用途の推測もされる。恐らくは鋭さとしなやかさを重視しているのだろう。巴様も実物は触れた事は無いとのことだったが、切れ味は重要だと教えてくれた。長さはまちまちだが、反りがあり、鞘に入れて腰にぶら下げる携行方法が多い。相当に長い部類のカタナは刃を下に、それ以外は刃を上向きに、持ち歩くのだそうだ。巴様が所望されるのは刃を上に向ける大小のカタナ。小さい方にはワキザシという呼び名があるらしい。
柄部分と鍔部分は別に作成され、柄には布などが使われる事もある、ようだ。この辺りはまだ良くわかっていない。ただ、鞘も含め塗りだけでなく精緻な装飾までも施されている。こちらの製作風景は資料が無い。ひょっとすると、別の職人が専門にいることも考えられる。
これは、本当に武器なのだろうか。余りにも芸術性を有するカタナなる物に対して一抹の疑問が湧いた。
△月×日 雨
カタナの試作を若手が担当することになる。知識ある熟練職人は相変わらず資料と睨めっこだ。巴様も進まぬ作業にさぞお怒りだろうと恐々とするも、カタナの資料を見ていくにつれその技法の特殊性や難解さに気付いて頂けているのか難しい表情をされるもお叱りは無い。
鉄を用いての模倣からの試作は散々な結果に終わる。魔術を用いずに行う鍛冶はそれだけで未知の領域だ。無理も無い。
長老のお考えが私にも少しわかる。全く未知の技術になるかもしれないから、若い連中に試行させ、少しでも技術の源流を汲み取って欲しいとお考えなのだ。新しい技法への適応は、若い方が上手くいく。我らの経験則に過ぎないが、この事実通りに行動されている。
そして一方で熟練の職人に知識面での解析を進めさせていくおつもりだ。解けた所で若手に一つ一つ試させて進める算段であろう。
しかし、使用する度にやけに念入りな手入れを必要とする武器だ。戦場で如何に使われているのだろう。刀身に与えた反りも、互いの武器を打ち付け合えばすぐに伸びてしまうのでは。
様々な形状から、この武器が真様の国で相当な扱いを受けていることは間違いない。もしや実用性を度外視した宝剣の類という可能性もあるか。明日進言してみよう。
△月■日 曇り
カタナとは我らの想像を遥かに超える物だった。
真様の国でカタナが実際に使われている様子を巴様から見せて頂いた。
一つはイアイという抜き打ちに類する技術。もう一つはカタナを用いた剣術。
ドワーフと比べてもまるで遜色の無い見事な体格の男性(恐らくは亜人か、ヒューマンとのハーフだと思われる)が物静かに座していた。その状態から目の前の稽古用の案山子?のような物にカタナを薙いだ。のだと思う。実際、鞘に戻るまで刀身も見えなかった。信じ難い剣速だ。剣を抜いて案山子モドキを斬ったのだと、その上半分が落ちて初めてわかった。
長老達も言葉を失っている。私とて、いやおそらくその様子を見た全ての職人が総身から汗を吹き出していたに違いない。
道場らしき場所で真様が座っている中、先の男性がもう一人の、こちらは少し彼より若い女性と向き合ってカタナを打ち付けあう光景も見た。カタナは使い手によっては男と女であってもまともな打ち合いが出来る武器らしい。体重の乗った明らかに重い一撃を独特の刀身を上手く使用して女性が受け流して反撃を加えていた。
私は、この奇妙で美しい武器に一つの確実な結論を得た。
カタナとは、武器であって武器に留まらない存在なのだ。鋭く、迅く。その様に特化したアンバランスな武器にも見える。だが、カタナは使い手によっていくらでも成長する恐るべき武器。達人が握るなら不出来な代物でも恐ろしい脅威であり、凡人が使うなら例え世に一振りの傑作でもさした強さを見せない。武器そのものが持つ性能の振り幅がありすぎる。
震えた。
これは、一切の魔術も用いない、悪く言えば原始的な鍛冶技術のみで作られている。だが、故に魔力ではなく職人の意思がカタナに宿る。
持ち手を高め、持ち手が高め、ただの得物の領域を超えた相棒であるべき品。だからこそ装飾もされ、個性を反映させようと願われるのだろう。
カタナを再現する。そのようなこと、本当に出来るのだろうか。
アレはある意味で武器の完成形の一つ。人剣一体を目指し、成しえた姿。武器のみの性能を突き詰めようとした我らエルダードワーフには正直到達できない領域の武器。
食い入るように見つめる多くの双眸は、私の意見がただ私のみのものではないことの証明のように思えた。
■月△日 晴れ
魔力を込めず、精霊力を込めず、魂のみを込めてただ鋼を打つ。
一向に進まない刀の再現。一応の、というか形状だけを似せたモドキを巴様には持ってもらっている。屈辱だが、とてもカタナの完成度に届かない以上は仕方が無いと、長老も項垂れていた。
しかも亜空で死人が出る事故が起こり、原因は我らの管理意識の緩さからの失態だった。情けない限りだ。猛省する。
職人だからこそ、作品の危険性に細心の注意をしなければならない。真様が何を言われようと我らの失態は失態。亡くなったオークと、皆を庇い消滅してしまわれた巴様の分体。心に刻み長く供養につとめることを誓う。
■月○日 晴れ
契機が訪れた。
真様が長老を訪れたのだ。何やら依頼事のようだ。
最近は長老も大分参っている。当然だ、何度あの刀の剣舞と居合いを見てもその素晴らしさに溜め息が漏れるばかり。叶うなら何時か実物を、出来れば業物と呼ばれるものに触れてみたいものだ。
真様はどうやらツィーゲの街を発ち、学園都市なる街へ移動される様子。今日はその挨拶だろうと思っていた。
しかし、何やらしばらくの話し合いを終えると長老は非情に晴れやかな表情で真様と和気藹々と出てこられた。
長老は真様を見送ると皆を集めた。
そしてその宣言をした。我らに現状、刀を再現することは出来ない、と。
魔力に依らず、精霊の力も借りず、さらには金属の意思も聞かず。
そのような環境で千年以上もの歴史を有し磨かれてきた技術は一朝一夕で真似できるものではないと。如何に技術に自信があろうと、少なくとも相手は自分達と同じ技量を持ち違う山を登りきった存在。未だ自ら登る山も半ばの我らには叶わない事であると宣言したのだ。
だがこれだけでは契機ではない。長老の言葉は続く。
だからこそ、カタナの持つ特性を”我らの”技術で、”我らの”素材で作り上げようと。巴様にはその最高傑作をお渡ししようと言い放った。
模倣は、今は出来ない。だからこそ、今我らの持つ最高の技法と素材を使って”我らの刀”を作る。
体に力が漲る。
明日からの試作はまるで色の違うものになる確信があった。異国の鍛冶職人と同じように魂を込められずとも、我らには我らの魂の込め方がある。
鋭く、迅く、美しく。さらに持ち手と一体となって初めて最強になる珍しい特性。
我らとてこの世界に右に出る者の無い鍛冶の一族。ひたすらにやろう。そして、実現させてやるのだ。
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