2 / 3
第二話
しおりを挟む性的なことに殆ど知識のない雪菜が、このサイトを見つけるに至ったのは、端的にいうと夫の浮気を疑っていたからであった。
というのも彼女と夫は、半年前からずっとセックスレスの状態なのだった。
結婚したのは雪菜が25歳の時、つまるところ新婚半年で蜜月期は去ってしまった事になる。
大事に箱入り娘として育てられた雪菜は夫以外の男に経験がなく、こういうものなのかと納得しかけていたが、これが普通ではない事をご近所さんとの井戸端会議で知ったのだった。
雪菜は彼女たちの直接的な物言いに恥ずかしい思いをしながらも、夫婦とは少なくとも月に一度は関係を持つもので、特に男性が抱こうとしないなんて浮気か離婚寸前に冷めているかだという知識を得たのである。
なんとも偏見に満ちた意見だが、これがきっかけで雪菜は自分達の状態がセックスレスと呼ばれるものだと理解した。
雪菜と夫は最近では珍しくお見合いで出会って結婚に至った夫婦であった。
激しい恋に落ちたわけではないけれど、ゆっくりと愛を育てていければと思っていたというのに。
実際夫との暮らしは穏やかで、思いやりのある彼へ雪菜はしっかりと好意を抱いていた。
それが一方的なものだったなんて、とてもそうは思えない。
(けれど、ならどうして彼は私を抱かないのだろう)
もしかしたら、夫はこの結婚を後悔しているのでは。
それは私が魅力的じゃないから?それとも、他に愛する人ができた、とか。
するすると不安と疑惑が連なって湧いてくる。
悶々としていた雪菜は、その衝動のままに行動を起こした。
何の因果か、ちょうど彼女がやきもきしているタイミングで、リビングに夫が置き忘れたままのスマホをみつけたのだ。
ジムへと出かけていった彼が帰ってくるにはもう少し時間がかかるだろう、もし帰ってきたとしても物音がしたらすぐに戻せば気づかれることはないはず。
(ちょっと見るだけ、ちょっとだけだから)
勝手にスマホを見るなんて悪いことをしているとわかってはいる、しかしこのままでは夫婦の危機なのだ。
夫のスマホの暗証番号は、雪菜と夫の誕生日を足した数字。
彼を疑っていることを責められる気分になり、居心地が悪い。
そうして雪菜は夫に見つかる事なく隅々まで彼のスマホを調べ上げ、不貞の証拠こそ見つからなかったが、代わりに夫が頻繁にアダルトサイトを閲覧しているという恥ずかしい事実を知ったのだった。
特によく利用しているらしい『秘密の遊戯』というサイトは、ブックマークまでしてあった。
初めてポルノサイトをまともに見た雪菜は、驚いて手に持ったスマホを落としそうになったほど、その内容は過激で艶かしいものだった。
あられもない姿で踏み躙られながらも、快楽に身を捩り悦ぶ女たち。
野獣のように腰を振って肉壺を穿ち、雌を屈伏させていく男たち。
雪菜は正常位のお上品なセックスしか知らない。
こんな獣の交尾のような、欲望の剥き出しになった姿なんて、嫌悪の対象であるはずなのに。
彼女の脳裏には彼らの姿が強烈に焼き付いて離れなくなってしまった。
そうして雪菜は取り憑かれたように動画を見ていたが、駐車場で聞こえたエンジン音にはっと意識を戻した。
慌ててブラウザを閉じるとスマホを元の状態に戻し、素知らぬ顔で夫を迎えたのだった。
これで雪菜のなかである結論が出された。
夫は彼女との夜の関係に不満があったのだ。
もしかすると夫の好みは性に奔放な女性なのかもしれない。
なんたってお気に入りに入っていた動画には#主婦#痴女#露出といったタグのものばかりだったから。
そういった経緯があって、雪菜は深夜の公衆トイレまでやってきたのであった。
夫がよく再生している女性投稿者のように、より積極的な女になるべく。
雪菜は恥ずかしい自撮りを撮影するつもりで、此処へやってきたのだ。
ちなみになぜトイレかというと、検索履歴に残っていたシチュエーションがそうであったからという単純な理由であった。
思いついたら真っ直ぐに行動を起こすところは、雪菜のよく言えば素直さ、悪く言えば考えが足りないところである。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
放課後の保健室
一条凛子
恋愛
はじめまして。
数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。
わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。
ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。
あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる