リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
120 / 155
第三章 清廉なるティタニエラ

第五話 神獣のお説教②

しおりを挟む
 塔の最下層まで降りた総司、リシア、ベルの三人は、ジャンジットテリオスがどこからともなく取り出した金属製の椅子に座らされ、何とも不思議なことに、神獣のお説教を聞くこととなった。
 意外過ぎる展開に頭がついていかないベルは、総司とリシアにこそこそと話しかける。
「な、何なのこれ、どうしたらいいのあたし」
「俺もわかんねえよ……」
「今は特に、敵意があるわけでもなさそうだし、ここは大人しくしておいた方が良いと思うのだが……」
『無駄話をするな!』
 ジャンジットテリオスが怒鳴る。三人ともびくっと体を震わせて、傾聴の姿勢を取った。
『まずはソウシ。何だあの戦い方は』
「何だって言われても……ああするしか知らねえんだよ俺は……」
『愚か者!』
 ジャンジットテリオスが乗っ取っているミスティルの体がブン、と腕を振ると、離れているはずなのに総司の額が何かに殴られて、総司は大きくのけぞった。
「いたぁい!」
『向上心を持たんか! 魔力によって自らの膂力を上げる術は心得ているようだが、その制御が全くなっていない! ただ膨大な魔力量で以て魔力を爆発させるだけでは無駄が多すぎる! だから私にたやすく吹き飛ばされてしまうんだ!』
「……なるほど……?」
『本来、お前が持ち得る魔力を完全に制御できていれば、お前の身体能力そのものが、この世の誰も追いつけない領域に達するはずなんだ。どうだ、これまでの戦いで覚えはないか? リスティリアで並ぶ者のいないはずのお前の膂力と、対等に張り合えるヒトの存在に』
 総司の記憶では、三人いる。
 敗北を喫した紫電の騎士、レブレーベントの王女アレイン、ルディラントの守護者サリア。三人とも、総司と剣を打ち交わしても、決して総司が圧倒できる相手ではなかった。負けてしまった紫電の騎士もそうだが、アレインとサリアにも、単純な力と速度で負けてむしろ圧倒されるタイミングがあった。
「あったな、確かに」
『あったなら何とかしようとせんか!』
「いたぁいって!」
 再度額を見えない拳で殴りつけられて、総司は涙目になった。
『疑問に思わなかったのか愚か者め! 何故、圧倒できるはずのお前が互角以下にまで押し負けるのかということを!』
 ジャンジットテリオスはわかりやすく大変怒っており、出来の悪い生徒に熱意を持って指導する熱血教師のように、こんこんと総司の不出来を説いた。俗にいうキャラ崩壊とも言うべき豹変っぷりであるが、こうさせてしまったのは、ひとえに総司たちがジャンジットテリオスの想定を大きく超えて「弱すぎた」がためである。
『何のために戦うのか、何を望むのか、なるほどそういった信条、思想は重要だとも。ヒトの短い一生の中では最重要と言って良かろうな。しかしだからと言って、気の持ちようで全て解決するわけではない! 甘いんだ! 怠っているんだ! 基本がなっとらん基本が!』
 これまで必要性を感じていなかった、しかし最も抜けてはならない部分を、容赦なく指摘されている気分だった。
 総司には間違いなく女神の加護が与えられ、その力は、戦いの素人であった総司を、リスティリアでも有数の魔法の使い手、戦士たちと張り合えるほどにまで押し上げている。
 だが、総司はそれ故に、自分の戦闘能力の向上を目指したことがなかった。女神の思念体との苛酷な修行の中で身に着けた付け焼刃の戦闘力で以て、これまで何とか切り抜けてきたが、ジャンジットテリオスという強大な力の持ち主を前にして、それでは足りないのだと思い知らされた。
 レブレーベントとルディラントで手に入れた二つの魔法を除き、総司には通常の魔法が使えない。軽い物を浮かせて運ぶような、子供でも才能ある子であれば達成可能な魔法ですらも、総司には扱えない。その理由の一端が、ジャンジットテリオスの指摘にある。
 出力の調整は多少なりとも出来るが、それでも、総司が持つ蒼銀の魔力はそれ単体で強大過ぎるがために、通常の魔法の器に収まりきらないのだ。身体能力の強化を補助する魔力の放出も、総司は感情に頼る部分が多く、それ故に気持ちの高ぶりで膂力が上がったり、上がりきらなかったりする。自分で制御しているのではなく、状況と相手に合わせて気合を入れた時に魔力が呼応しているだけだ。要するに、達成しようとする目的に合わせて自分自身を制御することが出来ていないのである。これまでも、そう言った場面は何度かあった。
『次にお前!』
「ぐっ!」
 ガン、と今度はリシアの額が殴り飛ばされたらしく、リシアがわずかにのけぞった。総司に対してよりは手加減してくれているらしい。
『本当にゼファルスの翼を使わんではないか! あの翼があればもう少しまともに戦えただろう!』
「……それは……」
 リシアが向き合えないもの。
 傀儡の賢者マキナに指摘され、大老クローディアに見抜かれた、リシアがどうしても踏み切れない一線。
 リシア・アリンティアスもまた、伝承魔法の使い手である。リシアが最も得意とする魔法“ランズ・ゼファルス”は、ルディラントの守護者サリアが行使した“ランズ・アウラティス”と非常によく似た詠唱である。
 彼女は、彼女が敬愛し時に畏れを抱くこともある主君・アレインと同様に、受け継がれた血の覚醒によって獲得できる通常魔法の上位存在、伝承魔法を継ぐ者なのだが、しかし、その才能をわずかにしか生かし切れていない。
 彼女は、彼女自身が受け継ぐ系譜の力を、伝承魔法の真髄の行使を、心の奥底で頑なに拒んでいる。ゆえに、彼女の伝承魔法は完全な形で発現していないのである。
『……まさか……使えないのか、ゼファルスの翼を? お前ほどの魔法使いが?』
「面目次第も……」
『あああああ!』
 ジャンジットテリオスは、ミスティルの体でその頭をわしゃわしゃとかきむしった。
『何たる怠慢! 何たる甘さ! おぉぉぉ久々に思い出した、これがイライラするという感情かァ……! 思えば千年ぶりだぞ小童どもォ……!』
 リシアがシュン、と落ち込んでしまい、見た目よりもずっと小さくなってしまったように見えた。
『そしてついでにお前!』
「ハッ!」
『甘いわ小娘が!』
「ぎゃん!」
 ベルは一撃目を勘で避けたが、続けざまに放たれた見えない拳に側頭部を殴られて椅子から転げ落ちた。
『お前もなぁにを上品に戦っているんだ! お前はこの二人の目的とは関係ないかもしれんがな、やるからには本気でやらんか! あのそよ風は何のつもりだ!? ロアダークの力は!? 間違いなくお前からはその力を感じたぞ! 何故使わんのだ、“ネガゼノス”を!』
「……だって、嫌いなんだもん」
『だぁぁぁぁ!!!』
 ついに怒りが爆発し、ジャンジットテリオスはもう一度拳を振り回した。総司とリシアも思いきり見えない拳に殴りつけられて、ベルと同じように椅子から転げ落ちた。
「いてぇ……何かずっと殴られてんだけど俺……」
「な、なかなか効くな……」
「ぶっちゃけすっごい痛いよねこれ」
『どいっっつもこいつもォ! よくもそんな体たらくで我が前に来たな! 私を侮辱しているのか!』
 総司は立ち上がり、額をさすりながら言った。
「そんなつもりはなかったんだが……」
『言い訳無用だ馬鹿者。そして喜べ。この私がお前たちの甘ったれた性根をここで鍛えなおしてやる。ソウシ!』
「ウス」
『こっちへ来い』
 総司が素直にジャンジットテリオスの傍に歩み寄ると、ガコン、という妙な音がした。
 見れば、塔の壁に大きく穴が開き、そろそろ昼に差し掛かろうかという空が見えた。
 ジャンジットテリオスは総司の服をがっと掴むと、ギリギリとミスティルの細腕に力を込めた。体はミスティルであっても、乗っ取っているジャンジットテリオスの魔力の片鱗が感じられる。その力が徐々に上昇しているのを感じる。
「え、え、何だ何だ何だ――――」
『先に行っていろ。私が行くまで生き残るようにな!』
 ジャンジットテリオスはぐるん、と体を一回転させ、総司を思いきり投げ飛ばした。
 総司が叫び声を上げながら、流星のような勢いで彼方へと消え去ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...