ジト目姫とのアイダガラ

arutara

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2章

5話 職員室に入る前に、1回止まっちゃうのわかる?

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「はぁ~」

職員室の扉を前にため息をつきながら肩を落とす。
正直高校生にもなって職員室に日誌を取りに行くのがそんなに嫌かと言われると、
はじめは、嫌だ、と胸を張って言えるだろう。
そりゃそうである。
忘れ物は多い、テストは赤点ギリギリ、
おまけに授業爆睡。
今でこそ一葉に起こしてもらっているからほとんど無くなったものの、遅刻連発の前科持ちだ。
先生に目をつけられないわけが無い。
そういうわけで職員室なんて先生のリスポーン地点みたいな場所に自ら行くなど、はじめからすれば説教されに行ってるのとあんまり変わらない感覚なのだ。

「職員室の前来たら絶対ため息と一緒に止まっちゃうんだよなぁ」
「なんでだよ」
「いやだって⋯ヴぁァ!?先生!?」
「人のこと見てその反応はどうかと思うぞ、犬伏」

無茶言うな。
独り言のはずが返事が帰ってきただけでも怖いのに、いつから隣に居たのか全く気づかなかったのだ。
一葉といい先生といいなんなんだ。
気配消すの流行ってんのか?
この気配なし音無しで隣に立っていた男こと、古都水ことみず龍連りゅうれんは、一葉やはじめの担任教師だ。
このいかつい名前とは裏腹に、この先生はまじで気配がないのだ、あと無音。
生徒の間では割とマジで忍者の末裔か何かじゃないかと噂されている。

「なんでそんなに職員室入るの嫌なんだ?」
「先生2年から担任なんだから知ってるでしょ、色んな先生に目つけられてるの」
「まぁそりゃあんだけ忘れ物したり授業寝てたらな、家で寝てねぇの?」
「いや普通に寝てますよ、ただ授業中になると眠たくなるだけっす」
「自業自得だな」

なんもいえねーー。

「日誌だろ?今日お前日直だったな」
「先生取ってきてくれたりー?」

え、いない。
職員室の中を覗いてみると、隣にいたはずの先生が机でテストの採点し始めていた。
正直もう2年も担任持たれていると、
いきなり隣から消えたくらいじゃそこまで驚かなくなった。
気配ゼロ、音ゼロでいきなり話しかけられたら普通にビビるけどな。

「はぁ~⋯うっし、失礼しまーす3年3組の犬伏はじめです日誌取りに来ましたー。」

溜息をはさみ職員室に入ると、職員室にいた教師数名に驚きの目で見られる。
まぁ当然と言えば当然である。
遅刻連発の前科持ちが、HRが始まる10分以上前に学校に来ていて日誌を取りに来ているのだから。

(いやそれにしても驚きすぎだろ)

だが実際のところ一葉に起こしてもらうようになってから、遅刻することは激減したが、それでも日直の仕事を忘れたりすることが無いわけではなかったので、教師陣が驚くのも無理は無い。

「失礼しました~。」

扉を閉めると中から、

「え、今の犬伏で合ってます?」
「いやさすがに違うでしょあの犬伏ですよ?こんな早くに学校に来てるわけ⋯」
「信じ難いかもしれませんがさっき本人確認したので本物ですよ。」
「マジですか!?古都水先生!あの犬伏が!?HRまで10分以上ありますよ!?」
「犬伏頭痛いとか言ってませんでした!?念の為保健室連れていった方が⋯」
「まぁ大丈夫でしょう、あいつも成長してきてるんですよ、きっと、多分」
「希望的観測ですね⋯」

えらい言われ用だなおい。
本物かどうかまで疑われてたぞ。
ていうか古都み先生、さっき声掛けてきたの本人確認だったんか。

(俺、体調不良疑われるほど信用なかったのかよ)

別人説を疑われたことに一抹のショックを受けつつ教室に戻った。
すると、教室を出る前にははじめと一葉、そして饗原しかいなかったはずの教室にクラスメイト達が登校してきていた。
それも教室にいるのはほぼ女子。
理由は分かっている。
一葉が聖母だから。
以上、説明終わり。
いやまじで、説明不足とか雑とかじゃなくて一葉は常日頃から周りに対してまさに聖母と言って差し支えない対応をしているから、こんな朝っぱらから女子に囲まれて男子に崇め奉り拝められるのだ。
男子がどこにいるのか?
いるよ?教室の外、主に廊下、あと別棟の窓から。
なんでそんなことしてるかと言うと、一葉を崇拝してる男子が同じ教室に入るのを恐れ多いと思っているから・・・とかではなく聖母に近づく、色目を使う、安易に口説こうとすると周りの女子達が般若みたいな顔をして殺しにくるからだ。
2年の夏初めくらいだったかな。
一葉の周りに女子がいない時を見計らってしつこく口説きに行って困らせたイケメンが次の朝学校の隣の田んぼに頭から刺さってたことがあった。
一葉を口説こうとしているのをたまたま見かけた般若、もとい女子のひとりがその男子に背負い投げをぶちかましたらしい。
しかもその男子結構イケメンで女子人気が高かったのだが学校の生徒のほとんどが
聖母を汚そうとするならやむ無し、
と、納得ぎみなのだ。
もはや怖いとかの感情を通り越して、そういうもんだと思ってきてるあたり俺の感覚もなかなか狂ってきたと思う。
そんなことを考えながら日誌をもって自分の席に着く。
一葉の隣の席とはいえ、なぜ俺がこの般若空間きしめく一葉の隣の席に悠々と座りに行けるのかと言うと、そもそもそこが俺の席だからという至極真っ当な理由もあるが、大きな理由は別にあるらしい。
一葉の隣の席になってからなぜ俺が女子にほかの大多数の男子同様ゴミを見るような目や一葉に近づかぬよう牽制しないのか。
気になったので一葉に直接聞いてみると、

「無害そうだから・・・、って言ってたわよ?なんかこう・・・犬伏君は恋愛とかとは無縁って感じがするかららしいわよ」

ふっっっっっざけんなよ!?
最初の無害そうだからはまだいいよ!
人に害なんて及ぼそうと考えてませんから!
でもその後の恋愛とか無縁そうだと!?そうですけど!?
今まで好きになった人なんて片手どころか指一本あれば足りるくらい恋愛経験あっさい浅いけどさ?
人のこと悲しきモンスターみたいに言わないで欲しいですわ。
まぁ別にこっちとしても変に一葉との関係を疑われて中学の時みたいに血祭りに・・・、いや今回バレたら血祭りじゃ済まないかもしれん。一葉信仰が中学よりも厚いのでバレた時には悲しきモンスターと化した男子共にどんな目に合わされるかわかったものでは無いので女性陣にマークされず男性陣にも無害を突き通す所存だ。

チャイムが鳴り皆が席に戻り始め、男子が教室に入り始めた。
他の教室よりもチャイムがなってからの工程がひとつ多いうちのクラスの授業が今日も始まったのだった。


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