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第3話 天災の種
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表情は時に言葉よりも雄弁だ。瞬き、視線の向き、鼻の膨らみ、口元の歪み。それらは常に意識とは別の動きで言葉を発している。
「…つまり、あんた達は入りたくないと。」
額には青筋を、腰に手を当て仁王立ちをする紗菜は離れた彼らに鋭い声を飛ばす。
壁に背を預け、ばつが悪そうに目を伏せた八人は身を縮こませて押し黙る。
「知っての通り俺は苦手なんだ。」
「あたしもね。」
ドヤ顔を決めた瞬と楓の二人は、開き直って答える。
「威張るなこら。」
正義の拳が振り下ろされる。頭を抑えた二人が痛みに悶絶し、その場で屈みこんだ。王城の廊下、重厚な扉の前での一悶着。謁見を控えた十人は極めて重要な問題に直面していた。
「まぁ適材適所という事ですね…うん。」
丸眼鏡を押し上げていう忠成は、紗菜の睨みに尻込みする。
能力の確認を終えた天たち十人はリーナに連れられて、父であるこの国の王と顔合わせすることになった。
君主に会うという経験したことのないイベントに、紗菜と昂輝を除いた八人の足取りは重かった。無礼の許されない極限の状況、緊張の二文字を嫌う彼らは極力目を反らす。
「えっと…」
困惑するリーナに珍しく苦笑いをつくる昂輝が紗菜と八人の問答を見守っている。
「まぁ薄々分かってたけど、しょうがないか…いつの間にかいない天に比べればあんたらはまし。」
紗菜の言葉に皆辺りを見渡しすが、天の姿が見えない。自由とよく言ったものだ、それに冒険家というよりは放浪者。掴みどころのない霧のような、そんな存在。
「行きましょうリーナ…」
呆れて肩を下げた紗菜はリーナを促して扉に手をかけた。
「はい。でもソラさんは大丈夫でしょうか…」
城内のどこかを歩いているだろう天に思いを馳せた。
「おいおまえ!不審者か、不審者だろ!」
ガルルルと獣のように唸り声を上げる目の前の子供。金の髪を二つに結った幼子は警戒に警戒を重ねてか、此方を睨みつけながら機敏に辺りを動き回っている。
「おーいちびすけ話を…」
「誰がちびすけだ!無礼だぞ!」
天の声を遮った彼女はぷりぷりと可愛く怒り出す。光を受けて輝く髪飾りをつけた少女は、せっかくの白いドレスの裾をしわくちゃに握っていた。
「じゃあ名前を聞いてもいいか?お嬢様…」
彼女の前に跪く、大げさにわざとらしく。小さな手を取りまるでお姫様にするように軽くキスを落とす。
騒がれると思ったがやけに静かだ。ゆっくりと口付けを離し顔を上げると、赤面をした彼女が口を抑えて見下ろしていた。
「な、何してんのよ…」
先ほどとは打って変わって消えるような声、震える手をサッと引くと声にならない唸りを上げた。
「姫、どこへ…姫!!」
静寂を破る声が遠くに聞こえる。小走りに鳴る足に、カチャカチャと金属がぶつかる音。声は女性のものだ、誰かを探しているらしい。そしてその誰かさんは目の前であたふたと足をばたつかせている。
ハッとした彼女は近づいてくる足音から逃げるように天の後ろの物陰へ
と隠れた。
「っ何者ですか…」
「迷子の異世界人ってところかな…」
角を曲がって来た女性におどけてみせる。腰に差した剣に手をかけて警戒する彼女は、身なりからして騎士のようだ。洒落た紋章の描かれた胸当てが銀の輝きを放っている。
訝し気に目を光らせていた彼女は、天の言葉に警戒の態勢を解く。
「失礼しました、貴方様が例の…申し遅れました、私はエルザ。第二王女専属騎士をしています。それで…」
「それで迷子のお姫様を探していると。」
赤髪を揺らして頷く彼女は苦い顔を浮かべた。専属騎士だというのに姫を見失ってしまったという事への自責であろうか。
「しかし悪いな、お姫様は見てないんだ。ただ…綺麗な白いドレスを着た少女を向こうの角に見かけたかもしれない。」
そう言って反対の道を指す。
「助かります…それと、早く戻るのをお勧めします。」
そう言ってエルザは指の示す方へと去っていった。迷子が嘘であるのは気づかれていたようだ。
しばらく待って足音が聞こえなくなったのを確認し、隠れていた少女が顔を出す。
「なんで匿ってくれたの…?」
「姫を名乗る人間には心当たり無かったからなぁ…俺が会ったのはしわくちゃの汚れたドレスを着た少女だけだ。」
怪訝そうな顔を見せた彼女の衣服は、膝を着いたせいか裾部分が黒く汚れてしまっている。
「うっ…ありがと…」
頬を染めた彼女は恥ずかしそうに語り始める。
「別に、迷子じゃないの。だってここは私のお家だし、ただお客さんと会うから私に正装しろって…私堅苦しいの嫌い。でもメイド達はもう子供じゃあ無いんだからって…」
なんとも耳が痛い話だ。俺がそのお客さんで、堅苦しいのが嫌いだから逃げて来たって知ったらどんな反応をするのだろうか。
黙ったままの天の顔をしたから覗き込む少女、黙考していた彼と目線が合う。
最初何故気づかなかったのだろうか、男でありながら非常に美しい面をしている彼の髪は、まるで夜の闇の様。星や月光の一つもない暗闇は全てを吸い込んでしまいそうにこちらを見詰めている。
「どうした?」
「んえ!?なんでも…っそれよりあなたは?」
慌てて視線をそらした彼女は少し後退する。
「そう言えば名乗ってなかったな、俺は天。それで王女様のお名前は?」
「…申し遅れました、私はルーナ・フォルデ・ユートリア。以後お見知りおきを。」
王女様と呼ばれたからであろうか、ルーナは丁寧な言葉使いに優美な所作でお辞儀をする。
「…ふふん、どう?お姫様みたいでしょう?」
天の顔が呆気に取られていたのを見てか、得意気に笑いを噛んだ。
「まだ、お姉さんには敵わないな。」
そう言って彼女の頭を撫でる。何やらギャーギャー騒いでいるが手を引き剝がそうとはしない。
静かな廊下、笑い声と文句だけが静かに響いた。
「面を上げてくだされ。」
玉座から立ち上がった老人が静かに放つ声は太く、厳格の雰囲気を纏っている。
「私はジークハート・フォルデ・ユートリア。国王という身分の上偉そうにはしているが、所詮ただの爺よ。」
高らかに笑うのは現ユートリア王国を治める男、色の抜けた髪に顎に蓄えた長い髭。老いたと自分を卑下したが、体を覆う隆々とした筋肉は未だ現役であることが伺える。
「国王陛下、私の名前はサナ・オオギ。そして隣はコウキ・ヒノと申します。十人の代表として参じました。」
流石というべきか、礼儀に作法を完璧にこなした紗菜と昂輝。こちらの世界の常識に合わせて名乗りを上げる。
「そこまで礼儀正しくする必要はない。お主らはこの国、延いてはこの世界の救世主として呼ばれたのだ。」
気さくに笑う国王は玉座のある壇上から下り、二人へ近寄ると立ち上がるように促した。
「この世界に天災が襲う…漠然とそう聞きましたが、具体的にはどういった脅威なのか教えていただけますか?」
姿勢を崩した紗菜と昂輝。リーナの話では、この世界へと招かれた目的は天災への対処だという。しかし実際のところ詳しいことの一つも理解してないのだ。
「ふむ…あれを持ってきてくれ。」
「はい…」
王に頼まれたリーナは謁見の間を出る。しばらくした後、手には透明なケースを持っている。
「それは…」
昂輝が言葉に詰まる、絶句してしまうそれは透明な容器に収められた人らしきものの腕。
「これ一つ、勝ち取るだけで小国が二つ滅びました。」
ただの腕だというのに放つ禍々しさは悪魔のそれ。
「な、んですかそれは…」
喉が閉まる感覚にうまく言葉が出ない。紗菜と昂輝は冷や汗を抑えられずにいた。
「これが天災、と言っても一部にすぎんがな。」
なるほど深くを聞かずとも分かる。あれは災いだ、この世の中にあってはならない物体だ。たかが腕一本それがこんなにも身体を震わせるとは。
「これを…これの持ち主を倒せと…?」
紗菜の震わせた声が静寂に溶ける。切り落とされているというのに、この瞬間にも動き出しそうな腕の威圧感に底冷えする。
「これだけではありませんよ。」
それは冷たく、重いリーナの口から語られた。
「いま確認されているだけで、十一…天災は一つではありません。」
上塗りされた絶望、過ぎた狂気が震えを止めた。
「…つまり、あんた達は入りたくないと。」
額には青筋を、腰に手を当て仁王立ちをする紗菜は離れた彼らに鋭い声を飛ばす。
壁に背を預け、ばつが悪そうに目を伏せた八人は身を縮こませて押し黙る。
「知っての通り俺は苦手なんだ。」
「あたしもね。」
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「えっと…」
困惑するリーナに珍しく苦笑いをつくる昂輝が紗菜と八人の問答を見守っている。
「まぁ薄々分かってたけど、しょうがないか…いつの間にかいない天に比べればあんたらはまし。」
紗菜の言葉に皆辺りを見渡しすが、天の姿が見えない。自由とよく言ったものだ、それに冒険家というよりは放浪者。掴みどころのない霧のような、そんな存在。
「行きましょうリーナ…」
呆れて肩を下げた紗菜はリーナを促して扉に手をかけた。
「はい。でもソラさんは大丈夫でしょうか…」
城内のどこかを歩いているだろう天に思いを馳せた。
「おいおまえ!不審者か、不審者だろ!」
ガルルルと獣のように唸り声を上げる目の前の子供。金の髪を二つに結った幼子は警戒に警戒を重ねてか、此方を睨みつけながら機敏に辺りを動き回っている。
「おーいちびすけ話を…」
「誰がちびすけだ!無礼だぞ!」
天の声を遮った彼女はぷりぷりと可愛く怒り出す。光を受けて輝く髪飾りをつけた少女は、せっかくの白いドレスの裾をしわくちゃに握っていた。
「じゃあ名前を聞いてもいいか?お嬢様…」
彼女の前に跪く、大げさにわざとらしく。小さな手を取りまるでお姫様にするように軽くキスを落とす。
騒がれると思ったがやけに静かだ。ゆっくりと口付けを離し顔を上げると、赤面をした彼女が口を抑えて見下ろしていた。
「な、何してんのよ…」
先ほどとは打って変わって消えるような声、震える手をサッと引くと声にならない唸りを上げた。
「姫、どこへ…姫!!」
静寂を破る声が遠くに聞こえる。小走りに鳴る足に、カチャカチャと金属がぶつかる音。声は女性のものだ、誰かを探しているらしい。そしてその誰かさんは目の前であたふたと足をばたつかせている。
ハッとした彼女は近づいてくる足音から逃げるように天の後ろの物陰へ
と隠れた。
「っ何者ですか…」
「迷子の異世界人ってところかな…」
角を曲がって来た女性におどけてみせる。腰に差した剣に手をかけて警戒する彼女は、身なりからして騎士のようだ。洒落た紋章の描かれた胸当てが銀の輝きを放っている。
訝し気に目を光らせていた彼女は、天の言葉に警戒の態勢を解く。
「失礼しました、貴方様が例の…申し遅れました、私はエルザ。第二王女専属騎士をしています。それで…」
「それで迷子のお姫様を探していると。」
赤髪を揺らして頷く彼女は苦い顔を浮かべた。専属騎士だというのに姫を見失ってしまったという事への自責であろうか。
「しかし悪いな、お姫様は見てないんだ。ただ…綺麗な白いドレスを着た少女を向こうの角に見かけたかもしれない。」
そう言って反対の道を指す。
「助かります…それと、早く戻るのをお勧めします。」
そう言ってエルザは指の示す方へと去っていった。迷子が嘘であるのは気づかれていたようだ。
しばらく待って足音が聞こえなくなったのを確認し、隠れていた少女が顔を出す。
「なんで匿ってくれたの…?」
「姫を名乗る人間には心当たり無かったからなぁ…俺が会ったのはしわくちゃの汚れたドレスを着た少女だけだ。」
怪訝そうな顔を見せた彼女の衣服は、膝を着いたせいか裾部分が黒く汚れてしまっている。
「うっ…ありがと…」
頬を染めた彼女は恥ずかしそうに語り始める。
「別に、迷子じゃないの。だってここは私のお家だし、ただお客さんと会うから私に正装しろって…私堅苦しいの嫌い。でもメイド達はもう子供じゃあ無いんだからって…」
なんとも耳が痛い話だ。俺がそのお客さんで、堅苦しいのが嫌いだから逃げて来たって知ったらどんな反応をするのだろうか。
黙ったままの天の顔をしたから覗き込む少女、黙考していた彼と目線が合う。
最初何故気づかなかったのだろうか、男でありながら非常に美しい面をしている彼の髪は、まるで夜の闇の様。星や月光の一つもない暗闇は全てを吸い込んでしまいそうにこちらを見詰めている。
「どうした?」
「んえ!?なんでも…っそれよりあなたは?」
慌てて視線をそらした彼女は少し後退する。
「そう言えば名乗ってなかったな、俺は天。それで王女様のお名前は?」
「…申し遅れました、私はルーナ・フォルデ・ユートリア。以後お見知りおきを。」
王女様と呼ばれたからであろうか、ルーナは丁寧な言葉使いに優美な所作でお辞儀をする。
「…ふふん、どう?お姫様みたいでしょう?」
天の顔が呆気に取られていたのを見てか、得意気に笑いを噛んだ。
「まだ、お姉さんには敵わないな。」
そう言って彼女の頭を撫でる。何やらギャーギャー騒いでいるが手を引き剝がそうとはしない。
静かな廊下、笑い声と文句だけが静かに響いた。
「面を上げてくだされ。」
玉座から立ち上がった老人が静かに放つ声は太く、厳格の雰囲気を纏っている。
「私はジークハート・フォルデ・ユートリア。国王という身分の上偉そうにはしているが、所詮ただの爺よ。」
高らかに笑うのは現ユートリア王国を治める男、色の抜けた髪に顎に蓄えた長い髭。老いたと自分を卑下したが、体を覆う隆々とした筋肉は未だ現役であることが伺える。
「国王陛下、私の名前はサナ・オオギ。そして隣はコウキ・ヒノと申します。十人の代表として参じました。」
流石というべきか、礼儀に作法を完璧にこなした紗菜と昂輝。こちらの世界の常識に合わせて名乗りを上げる。
「そこまで礼儀正しくする必要はない。お主らはこの国、延いてはこの世界の救世主として呼ばれたのだ。」
気さくに笑う国王は玉座のある壇上から下り、二人へ近寄ると立ち上がるように促した。
「この世界に天災が襲う…漠然とそう聞きましたが、具体的にはどういった脅威なのか教えていただけますか?」
姿勢を崩した紗菜と昂輝。リーナの話では、この世界へと招かれた目的は天災への対処だという。しかし実際のところ詳しいことの一つも理解してないのだ。
「ふむ…あれを持ってきてくれ。」
「はい…」
王に頼まれたリーナは謁見の間を出る。しばらくした後、手には透明なケースを持っている。
「それは…」
昂輝が言葉に詰まる、絶句してしまうそれは透明な容器に収められた人らしきものの腕。
「これ一つ、勝ち取るだけで小国が二つ滅びました。」
ただの腕だというのに放つ禍々しさは悪魔のそれ。
「な、んですかそれは…」
喉が閉まる感覚にうまく言葉が出ない。紗菜と昂輝は冷や汗を抑えられずにいた。
「これが天災、と言っても一部にすぎんがな。」
なるほど深くを聞かずとも分かる。あれは災いだ、この世の中にあってはならない物体だ。たかが腕一本それがこんなにも身体を震わせるとは。
「これを…これの持ち主を倒せと…?」
紗菜の震わせた声が静寂に溶ける。切り落とされているというのに、この瞬間にも動き出しそうな腕の威圧感に底冷えする。
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それは冷たく、重いリーナの口から語られた。
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