アルカナの旅

式 神楽

文字の大きさ
4 / 16

第4話 正義とは

しおりを挟む
「それを、私たちに倒せと……少し考える時間をください。」
 ふらふらと、操り人形が歩きを真似するように国王に背を向ける。昂輝は国王と王女の二人に頭を下げて、先を行く紗菜の背中を追った。

 重い扉が閉まる。外に待っていた七人が彼女の姿を見て肩を貸すように近づいた。
 「さな…大丈夫?」
 心配そうに手を取った楓がゆっくりと彼女を座らせた。話せない事を悟り、苦い顔で立ち尽くす昂輝へと水を向けた。

 
 「では、天災は人型の怪物だと?」
 丸眼鏡を拭きながら忠成が尋ねる、中での出来事を聞き青ざめなかったのは彼と花蓮、そして瞬の三人だけであった。他は皆不安と恐怖を露わに顔を歪めている。

 「倒せばいいんだろう?」
 まるで何事も無いように言い放つ花蓮。それがただの強がりから来た言でない事が余計に紗菜の感情を強く撫でた。

 「間単に言わないで…っ!あなたはあれを、あの腕を見てないから…」
 「さな、落ち着いて…花蓮も!今は静かにしてて。」
 こういう時、彼女は心の柱となる。調和の特性、節制を与えられた彼女は今にも泣きそうな紗菜の背中を優しく撫でた。

 「そんなにだったのか?その…腕?」
 「うん。見ているだけでどんどん寒気が増していく、あれは本当に…本当に怖かった。」
 気まずくなった雰囲気を変えるように瞬が昂輝へと問う。諦めたように笑う顔には太陽の熱を感じない。

 「…俺が思うに。」
 汚れを拭った丸眼鏡を装着する、集めた視線に答えるように忠成は話し始めた。

 「俺たちは演じなければいけないと思うんだ、このカードに映る能力を。」
 皆を見渡す。遮る者がいない事を確認し、再び話を継ぐ。
 「紗菜、君は決断しなければならない。これは押し付けじゃなく義務なんだ。」 
 いつも正論を延々ぶつける彼とは打って変わって、優しく諭すように紗菜へ言葉を送る。

 「それで…私の決断で誰かが傷ついたら?誰かの命を奪ってしまったら?そんな重いもの背負えない…!!」
 「それをひとりで背負い込まないように俺たちがいるんだろ!」
 声を荒げる紗菜と忠成、今にも嚙みつかんとする二人を誰も止めようとしない。

 いつも皆の先頭に立って導き手を担ってきた、正義感に溢れ曲がったことが嫌いな少女。しかしその内は仲間を大切に思うが故に心配性でとても臆病だ。
 理屈っぽく、しかし嘘は決してつかない。自分の正しいと思う事にひたすら貪欲で前向きな彼は、心に激しい情熱を秘めている。
 心配と信用のぶつかり合い。

 「紗菜だけじゃあない。さくら、優、冬花、昂輝、楓。俺たちが揃って出来ないことがあったかい?いや、一度足りとも無かったはず…そうでしょう、天!」
 いつから気づいていたのか、忠成は廊下の角へ投げかける。
 「なんだ、熱い言い合いだったから邪魔しないようにしてたが……紗菜、お前が折れてしまったら俺たちは旅にでることすらできない。」
 彼女の前に手を差し伸べる。手を取るまでたとえ何時間経とうが引く気はない。

 「今まで居なかったくせに口説こうったって…まぁ小言は後にするわ。分かった、私はもう迷わない。皆付いて来てくれる?」
 弱い心は、弱い自分を捨てることは無い。ただそれを優しく包んであげるだけ。
 
 それは愚問だった。言葉を発することなく頷いた九人、正義の決断を道しるべに進んで行く。
 「…ところで、あの子は何??」
 さくらの言葉に振り返る。忘れていた、廊下の角、片目で覗くように半身を出した少女が気まずそうにこちらを見詰めていた。


 「かっっっわいいいい!!」
 わしゃわしゃと音が鳴るほどに撫でまわす楓とさくら。ルーナは鬱陶しいと手で払おうとするが叶わない。彼女は天に助けて欲しそうな目で訴えるが、気づかないふりを続けて何があったのか話を聞いた。

 「大体理解した。」
 あっさりという天に信じられないという顔の紗菜、だがしかしこの男はそういう人間であることを思い出し、溜息を吐いた。

 ギギィッと軋み音を上げて開かれた扉、顔まで力を込めたリーナが一生懸命に押している。
 「…お話は終わったようですね。」
 おそらく全て聞こえていたのだろう、全てを察した彼女は一息ついて微笑んだ。
 
 「お姉様ぁ!」
 意識が彼女に移った隙にルーナが脱出する。小走りでリーナの背に隠れるとベロを出して威嚇した。
 

 「天災退治、やらせていただきます。」
 決意を込めた紗菜の言葉、覚悟が決まったことを感じたリーナも真剣に頷いた。
 「本当にありがとうございます。我が君主ジークハート・フォルデ・ユートリアの名の下、生活の全てを支援させていただきます。必ずや…天災を。どうかこの国をお救いください。」
 心よりの誓いと祈り。断る理由は無い。

 「よぉし…旅を始めるか。」
 魅惑的に愚者は笑う。異なる地での新しい冒険、その足取りはいつもふらふらと目的もなく漂っている。自由の旅。
 十人は歩き始める、たとえその道が血と憎悪にまみれていようとも。




 「憎悪が、殺意が止まらねぇ…抑えようとも湧き出てきやがる…っ!」
 浅黒い紫の体色、体に刻まれた無数の刻印が不気味さを増している。六本の短い角を持った男は失った腕の付け根を静かに摩った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...