穏やかに生きたい悪役令息なのに、過保護な義兄たちが構いすぎてくる~イヴは悪役に向いてない~

鯖猫ちかこ

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 薄い紫の、高価な宝石のような瞳がおれを見下ろす。
 少し近付いてくれたレオンの胸元を掴んで、更に寄せた。
 もっと近付いてくれなきゃ、アルベールの膝から落ちてしまう。ベッドの上だし、床に落ちる訳じゃあないけど、でも。
 ふに、と唇が触れて、柔らかいなと思う。
 レオンもアルベールも、どこもかしこも硬い躰をしているのに、唇だけは柔らかいんだよなあ。

「ん、ンっう、ぁゔ……!」

 訂正、唇だけではない、舌も柔らかい。
 唇を割った舌が口腔内に入り、舌先を突く。
 唇を重ねるだけのつもりだったものだから驚いてレオンの肩を押すけれどぴくりともしない。
 逆におれが逃げようとしても、いつの間にか背中にはぺったりアルベールがくっついていて、頭を逸らすことが出来なかった。

「んぁ、う、ゔん、ッふ」

 部屋に響く水音と、苦しそうな自分の漏れる声、アルベールの喉の音。
 口の中をいっぱいにされると苦しくなる。呼吸が出来ないのだから。酸素が足りなくて、頭がぼおっとして。
 それなのに口の中が気持ちいい。
 上顎のところをざらざら舐められてしまうと、背中がぞくぞくする。

「ふあ、ぅ、ン……っう」

 漸くレオンの頭が離れたころには、少し舌先が痺れてるような、そんな気がしていた。
 ふうふうと息をするおれを振り向かせて、アルベールが笑う。
 また唇が重なったかと思うと、ぺろりと舐めてすぐに離れた。
 それからおれの口元を拭う。

「お礼の筈だったけど、イヴの方が気持ちよかったみたい」

 ふふ、と笑ったアルベールが、嬉しそうに言う。
 それにまたレオンが俺にも見せてみろと顎を掴んで前を向かせ、本当に溶けたみたいだと笑う。
 あっちこっち向かせられて、物じゃないんだぞ、と思う反面、どこを向いてもきらきらしたふたりのかおがあるものだから、ああもう、心臓がずっと煩い。

「次はイヴの番だなあ」
「はえ……なんでおれ……」
「お前もご褒美が欲しいんだろう?頑張ったらと先程約束したじゃないか」
「……がんばった?」

 頑張った気はしない。
 だってちょっと恥ずかしかっただけで、おれがしたかったことだ。
 最後にふたりに愛されたいと思った。
 それが叶えられてる最中で、頑張ったというより、気持ちよくさせられてるのはおれで……
 だってあんなキスで、ふたりを気持ちよくさせられたとは思えない。
 でもふたりはきっとこれからもイヴと仲良く出来るし、いいよね?おれがふたりに優しくされても、これはおれへのご褒美ってことで。

「ん……」
「今日は本当に素直だな」
「疲れてるのかな、辛い?」
「……だいじょーぶ、きもちい、」
「……お前」

 呆れたようなレオンと楽しそうなアルベールの笑い声。
 なんだか頭がふわふわしてて、ごめん、ちゃんと考えられないかも。
 最後だからって、それだけは頭にあるんだけれど。

「どうしようか、脱ぐ?」
「……っん!」
「ああ、もう反応してるのか、若いな」
「レオンさまもまだ若いでしょう」
「十代と比べると流石になあ」

 服の上から下半身を撫でて、優しくアルベールが訊く。
 頭上でそんな会話をされると居た堪れない。
 そうだよ、まだ十代で躰は素直だし、その、すぐ快感を拾っちゃうし、だってそれはふたりが相手だし、だってだってだって前回気持ちよかったの、思い出しちゃって。
 でもあの時はアンリの能力のせいでもうそれしか考えられなくて、そうしてもらうしか治まらなくて、ふたりだってそのつもりで抱いてくれたと思うんだけど。
 今日は違う、ただ単純に、ふたりに抱き締められたいだけなんだ。

「……あ、でも、ここじゃあ……」

 前回はレオンの寝室だった。
 ここはアルベールの寝室、つまり自分の家。
 そんなところでするのは少し躊躇われた。王室ならいいという話ではないのだが。

「大丈夫、声は漏れないよ」
「でも、誰か入ってきたら……」
「大丈夫だろう、そんな奴エディー以外にいるか?」
「エディーにいちばん見られたくない……ていうかレオンさまもノックなしで入ってきたじゃないですか……」
「確かに」
「……鍵をすればいいんだな?」

 鍵をするだけじゃまだなんというか、不安というか、ただなんだか自分の家でするのが心情的にいやだというだけで……
 でも今更止めるとか他に移動なんて出来ない訳で、じゃあもう口を噤むしかない。
 鍵を締めたレオンが戻ってきて、ほら締めたぞ、と笑顔を見せた。
 意味がわからなくて、うん、とだけ頷くと、脱いでいいぞと返される。
 ……自分で脱げということ?

 別に脱がされたいとか、それを期待していたとかじゃあないけれど、はいじゃあ目の前で脱いで下さい、となると話は別だ。
 そんな趣味はない。
 思わずいやだというように首を横に振ると、じゃあ僕が脱がしてあげる、と背後から声がした。
 脱がすとは言っても、食事の後に風呂に入ったばかりのおれは着込んでなんかいない、一枚二枚、脱いでしまえばすぐに肌を露出することになる。
 アルベールの手が腰に掛かる。肌に触れた冷たい手で腰がびく、と跳ねた。
 すぐ目の前でレオンがくすりと笑う。
 自分で脱ぐよりずっと恥ずかしい。

 そうわかっているのにふたりを止められない。
 自分もそうなのだけれど、ふたりがおれを見て息を呑むことに、勝手に気持ちよくなっちゃってるの。
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