74 / 107
9
161
しおりを挟む◇◇◇
昼休みが終わった頃、広告の編集済んだって、一緒に確認しよ、と杏さんがおれを呼んだ。
漸くか、と急いでその後をついていく。
この頃には社内では余りにも玲於さんがおれがを構うものだから、縁故採用どころか甥や隠し子ではないかという話にまでなっていた。
準さんが弟だということは既に知られていたことなのだけど、その準さんが甥ではない、とだけしか言わなかったものだから、隠し子が濃厚になってるらしい。そんなまさか。
流石に玲於さんはおれくらい大きな子がいるような年齢じゃあないのに。ネタを含んだ笑い話ではあるとわかっているけれど、そう少しへこんでいた。
老けて見える訳じゃないし、格好良いよ、おれがこどもっぽすぎるのかも、と慰めると、それがいちばん問題だとも言われ、苦笑する。
年齢ってのはこどもでもおとなでも気にするものなんだな。
出来上がった広告は、社長がゲームの魅力を語り、その後ろでゲーム映像やオープニングのアニメーション部分が流れているといったもので、それを確認した杏さんは、やっぱりコスプレしてた方が面白かったんじゃないですか、と言った。
面白くなくていいんだよと返す玲於さんに、いやインパクトいるでしょ、と杏さんはまだぶつぶつと呟く。
ショートバージョンとロングバージョン。流れるのはテレビや動画サイトでという話だった。
正直、杏さんの言う通り派手さはない。
でも、ゲーム映像より玲於さんが手前にいる広告は、アルベールが観てくれさえすれば間違いなくこれは、と気付いてくれると思う。
おれと違って頭もいい、ここまで社長の出張った広告の意図もわかってくれそうだ。
問題なのは、この広告自体を見てもらえるかってこと。
若者のテレビ離れもあるし、数多くある広告の中、タイミングよく流れるのを祈るしかない。
観てもらえさえすれば、本当にレオンだ、とわかってもらえると思う。
……本気で恥ずかしそうにしている玲於さんには悪いが、この広告が流れたら録画して保存しよう、と思った。
そしてそれからまた暫くして、心待ちにしていた広告の解禁日。
既にゲームの予約は始まっていて、雑誌にも社長社員のインタビューは載っている。今のところそれらしい問い合わせはない。
流石に大手のようにばんばん広告が打てる訳でもない、後はもう、運任せだ。
広告の反応としては、続編待ってた、前の会社が潰れて不安だったけど、絵柄や声優が変わってなくて嬉しい、といったゲーム部分への声と、社長イケメン、レオンのモデル?等玲於さんに反応する声、ゲームより社長が目立ってる、自分がモデルとかやばい、うける、といったある意味狙い通りの声が入ってきて、玲於さんはひとり頭を抱えていた。
あんなに飄々堂々としたひとなのに、こういう評価はやはり恥ずかしいものらしい。
おれとしては玲於さん俳優みたい、格好良いなと盲目でもあり、良い意味でも悪い意味でも目立ってしまった玲於さんへの声に少し嫉妬してみたり、どうかアルベールが観てくれてますようにと願ったり心が忙しい。
社内でも、社長の出た広告は騷つかせていた。
元々ゲーム部署のない会社が弟関係だからか昔のBL恋愛ゲームを拾ってきたかと思えば、主人公にそっくりな高卒の中途入社が現れ社長にかわいがられ、社長にそっくりなキャラクターもいるし、今までそんなことなかったのに急に社長がそのゲーム関連でだけ雑誌や広告に顔出しをする。
そりゃあどうした社長気でも狂ったかと引かれるのも仕方ない。
それからゲームがやっと販売され、この業界的には売上は好調だと杏さんは嬉しそうだった。
おれと玲於さんはそれどころじゃないのだけど。
学生は夏休みが始まり、新しいゲーム関連の作業もとっくに始まっている。
焦る。
おれと玲於さんにはもう今しかチャンスがない。
ゲームを出したら、広告を出したら。アルベールの目に止まらなきゃ意味がない。
流石にまた続編、という訳にはいかない。これ以上の展開はきっと無理だ。
広告だって延々と打てる訳ではなくて、契約もそろそろ終わってしまう。
イラストレーターの杏さんや公式のSNSのフォロワーが増えても、それは結局こういったゲームや杏さんの絵のファンな訳で、知らないひとを呼び込めるものではない。
今がいちばん注目されてる時だ。ここでアルベールが見つからなければもう、
「皺になっちゃうよ」
眉間をぐいと指で押され、頭を上げると杏さんが笑って立っていた。
お昼行こ、と誘われて、もうそんな時間かと驚く。
おれと玲於さんの焦りを、杏さんもきっとわかってる。だからこそそういうところには茶化したりふざけたりしない。
「今日外に行かない?新メニュー始まったんだよ」
会社の近くのチェーン店は定期的にメニュー表が変わる。
一時間しかない昼休憩、店内も混むがすぐに商品が出てくるそのチェーン店は人気だった。
杏さんに誘われるまま外に出て空気を吸う。こんなに悪いことばかり考えていてもだめだとわかってはいるのだけど、どうしたってアルベールのことを考えてしまう。
これ以上いい案なんて思い浮かばない。
お腹が満たされたというのに不安でいっぱいの頭は、ここ数日ずっとアルベールでいっぱいだった。
このまま会えずに終わってしまうのかな。
アルベールは玲於さんを見つけてくれないのかな、おれのことを、
「伊吹くん」
杏さんがおれの袖を掴む。
何故か玲於さんのにおいがする、と思った。
412
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。