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浴槽に浸かると溶けて溺れてしまいそうだ、と躰を綺麗にするとすぐに風呂場を後にされる。
また抱えて行かれそうなところを断り、自分の足で長い廊下を歩く。ふらつく足元はジルがカバーしてくれた。
あたたかい腕に、本当なら今頃この体温に包まれてすやすや眠っていた筈なのに、無事に想いも伝えてハッピーエンドだった筈なのに、なんで思ってもみなかったところからも……
もしこの世界に来てなかったら、おれは遥陽を受け入れたのだろうか。
それはない気がする。ないとは思うんだけど、でも絶対の絶対に、確実に、と言われると少し揺らいでしまうかもしれない。
だって前の世界では女っ気も恋愛も無縁の生活だったし。遥陽がかわいすぎて他のひとは霞んでたし、それはおいておいても仲の良い女子もいなかったし。
ただぼんやりと彼女ほしー!とは言っても、付き合うビジョンとかは見えなかった。遥陽と遊んでた方が楽しかった。
性的なものがない間柄なら、ずっと多分遥陽がいちばんだった。
だからもしかしたら、その内、近くない将来は遥陽ともそういう未来があったのかもしれないし、やっぱりなかったのかもしれない。
「……」
「難しい顔してる」
「だって」
「……迷ってるの、ハルヒのこと」
訊いてくるジルの瞳にはいつもの自信が見られない。
……もしかして、ジルも不安なんだろうか。
おれがいつも、遥陽遥陽言ってるから、その遥陽をおれは選ぶんじゃないかって。
そんなことないよ、絶対におれはジルを選ぶよ、そう言いたいけど言えない。
それは遥陽の問題ではなく、ジルが王族だから。別物だから。
簡単に言ってしまえばいいんだろうけど、でも言えない。
跡継ぎなんてどうでもいい、ユキが傍にいないなら意味がない、ジルはそう言ってくれたのに、頷いたのに、行為で溶けてないおれの思考はまともになれと言っているかのよう。
「は、遥陽とその、なにかするとかじゃ、ない、けど……」
「うん」
「傷付けたくもない……」
「そっか」
「断るのにそんなこと思うのは傲慢かもしれないけど」
「断るんだ」
「……」
断らない可能性もあると思った?と不安になって、思わず焦ってジルの手を握った。
すきだって言ったばかりなのに、足りなかった?忘れた?盛り上げる為の睦言だと思われた?
そう考えて、自分だってジルに同じようなことを思ってるのに、とその手を離した。
「ごめんね、そういう意味で言ったんじゃない」
足を止めたおれに、ジルも同じように止まり、離したばかりの指を掴む。
「泣かないで」
……情緒不安定なのかもしれない。おれが泣くべきところではないのに、意地悪をされたような気持ちになったし、自分が最低な奴だとも思った。それはずっとそうなんだけど。
「ごめんね」
ジルに謝らせておれは何がしたいんだろう。すきだと伝えたひとに、こんな声を出させて、おれはなんの為に想いを伝えたんだろう。
何も伝わってないんじゃないか。
「……っ」
上手く言葉に出来ないから、ジルの胸の中に飛び込んだ。風呂上がりの体温が熱いくらい。
急にそんなことをしたからだろう、ジルはちょっとびくっとして、それからすぐに抱き締めてくれた。
なにも考えたくない。
ずっとこうしてられたらいいのに。
「今日はもう寝たい……」
「うん」
「ジルとだよ」
「……ありがとう」
「うわ」
結局抱き上げられて、ジルの顔がぐっと近くなる。
下ろして、と言うと、いやだと切り捨てられた。
そのままベッドまで連れていかれて、そこでやっと下ろされる。
小さな子にするように、ゆっくりと丁寧に。
頭を撫でて、目許を拭って、頬にキスをして、おやすみ、と囁く。
海のような碧い瞳は相変わらずおれだけが映っていて、それが揺らぐのはまたおれの瞳が涙の膜を張るから。
瞬きをすれば、ぽろ、と落ちる感覚が頬を滑る。
それを拭おうとしたジルの手を捕まえる。
その手を自分の口元に持っていって、ジルがするように指先にキスをした。
「遥陽はすきだけど……こういうのじゃ、ない」
「……」
「それに、今は……ジルが、あ、あぃ……すき、だから……だから、その、だから……」
「ユキ、こっちを見て言って」
流石に愛してるを言うのは無理だった。
どうにか絞り出した好意に、先程と同じようにジルがお願いを口にする。
どうにもこういうことには照れが入ってしまい、瞳を逸らしてしまう。
わかってるんだけど。それでもどうにも。
もう一度瞳を合わす。
今度は期待の満ちた瞳ではなかった。
優しくて、でも少し寂しそうな不安そうな色に見えた。
そんな顔をさせたかったんじゃない。
さっきはしあわせそうに笑ってくれたのに。
そんな顔をさせてしまったのはおれが弱いからだ。
「す、すき、嘘じゃないよ、ちゃんと、すき。こういうのは、遥陽とは出来なくて……したいんじゃなくて。ジルだから、ジルとしかしないから。どっちも同じくらいたいせつで、おれ、遥陽もずっとずっとだいじなの、我儘だけど、ジルも遥陽の手も離したくない……」
「うん」
わかってるよ、と、でも良かった、とジルが呟く。
良くない、我儘しか言ってないのに。
また抱えて行かれそうなところを断り、自分の足で長い廊下を歩く。ふらつく足元はジルがカバーしてくれた。
あたたかい腕に、本当なら今頃この体温に包まれてすやすや眠っていた筈なのに、無事に想いも伝えてハッピーエンドだった筈なのに、なんで思ってもみなかったところからも……
もしこの世界に来てなかったら、おれは遥陽を受け入れたのだろうか。
それはない気がする。ないとは思うんだけど、でも絶対の絶対に、確実に、と言われると少し揺らいでしまうかもしれない。
だって前の世界では女っ気も恋愛も無縁の生活だったし。遥陽がかわいすぎて他のひとは霞んでたし、それはおいておいても仲の良い女子もいなかったし。
ただぼんやりと彼女ほしー!とは言っても、付き合うビジョンとかは見えなかった。遥陽と遊んでた方が楽しかった。
性的なものがない間柄なら、ずっと多分遥陽がいちばんだった。
だからもしかしたら、その内、近くない将来は遥陽ともそういう未来があったのかもしれないし、やっぱりなかったのかもしれない。
「……」
「難しい顔してる」
「だって」
「……迷ってるの、ハルヒのこと」
訊いてくるジルの瞳にはいつもの自信が見られない。
……もしかして、ジルも不安なんだろうか。
おれがいつも、遥陽遥陽言ってるから、その遥陽をおれは選ぶんじゃないかって。
そんなことないよ、絶対におれはジルを選ぶよ、そう言いたいけど言えない。
それは遥陽の問題ではなく、ジルが王族だから。別物だから。
簡単に言ってしまえばいいんだろうけど、でも言えない。
跡継ぎなんてどうでもいい、ユキが傍にいないなら意味がない、ジルはそう言ってくれたのに、頷いたのに、行為で溶けてないおれの思考はまともになれと言っているかのよう。
「は、遥陽とその、なにかするとかじゃ、ない、けど……」
「うん」
「傷付けたくもない……」
「そっか」
「断るのにそんなこと思うのは傲慢かもしれないけど」
「断るんだ」
「……」
断らない可能性もあると思った?と不安になって、思わず焦ってジルの手を握った。
すきだって言ったばかりなのに、足りなかった?忘れた?盛り上げる為の睦言だと思われた?
そう考えて、自分だってジルに同じようなことを思ってるのに、とその手を離した。
「ごめんね、そういう意味で言ったんじゃない」
足を止めたおれに、ジルも同じように止まり、離したばかりの指を掴む。
「泣かないで」
……情緒不安定なのかもしれない。おれが泣くべきところではないのに、意地悪をされたような気持ちになったし、自分が最低な奴だとも思った。それはずっとそうなんだけど。
「ごめんね」
ジルに謝らせておれは何がしたいんだろう。すきだと伝えたひとに、こんな声を出させて、おれはなんの為に想いを伝えたんだろう。
何も伝わってないんじゃないか。
「……っ」
上手く言葉に出来ないから、ジルの胸の中に飛び込んだ。風呂上がりの体温が熱いくらい。
急にそんなことをしたからだろう、ジルはちょっとびくっとして、それからすぐに抱き締めてくれた。
なにも考えたくない。
ずっとこうしてられたらいいのに。
「今日はもう寝たい……」
「うん」
「ジルとだよ」
「……ありがとう」
「うわ」
結局抱き上げられて、ジルの顔がぐっと近くなる。
下ろして、と言うと、いやだと切り捨てられた。
そのままベッドまで連れていかれて、そこでやっと下ろされる。
小さな子にするように、ゆっくりと丁寧に。
頭を撫でて、目許を拭って、頬にキスをして、おやすみ、と囁く。
海のような碧い瞳は相変わらずおれだけが映っていて、それが揺らぐのはまたおれの瞳が涙の膜を張るから。
瞬きをすれば、ぽろ、と落ちる感覚が頬を滑る。
それを拭おうとしたジルの手を捕まえる。
その手を自分の口元に持っていって、ジルがするように指先にキスをした。
「遥陽はすきだけど……こういうのじゃ、ない」
「……」
「それに、今は……ジルが、あ、あぃ……すき、だから……だから、その、だから……」
「ユキ、こっちを見て言って」
流石に愛してるを言うのは無理だった。
どうにか絞り出した好意に、先程と同じようにジルがお願いを口にする。
どうにもこういうことには照れが入ってしまい、瞳を逸らしてしまう。
わかってるんだけど。それでもどうにも。
もう一度瞳を合わす。
今度は期待の満ちた瞳ではなかった。
優しくて、でも少し寂しそうな不安そうな色に見えた。
そんな顔をさせたかったんじゃない。
さっきはしあわせそうに笑ってくれたのに。
そんな顔をさせてしまったのはおれが弱いからだ。
「す、すき、嘘じゃないよ、ちゃんと、すき。こういうのは、遥陽とは出来なくて……したいんじゃなくて。ジルだから、ジルとしかしないから。どっちも同じくらいたいせつで、おれ、遥陽もずっとずっとだいじなの、我儘だけど、ジルも遥陽の手も離したくない……」
「うん」
わかってるよ、と、でも良かった、とジルが呟く。
良くない、我儘しか言ってないのに。
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