【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 ぎこちない動きで結界を張ってるところをみられたくはないな、と思った。
 だってがっかりされると思う、久し振りにロザリー様の後釜みたいなのが来たかと思ったら、なんかひょろひょろ魔法を使ってたらさ、大丈夫かよって、この国護れんのかよって思うじゃん。
 皆あんなに期待に満ちたきらきらした瞳をしてるのに、こんな頼りないやつがそれを曇らせてしまうのは……

「大丈夫ですよ」
「?」
「人払いしますからね」

 おれの思いに気付いてくれたのか、セルジュさんが少し眉を下げて言う。流石だぜ。

「す、少しは上達したんですよ、でもその、人前でかっこつけるには、その、まだ威厳とか足りないっていうか、その、ね、ほら、うう……」
「ユキ様は言い訳が下手ですねえ」
「かわいいだろう」
「ええとても」
「……そんなとこで張り合わないでほしい」

 間抜けみたいじゃないか、どうせならおれのかっこいいとこで張り合ってほしい。あるかどうか知らないけど。
 もう、と恥ずかしさを我慢してる間に、モーリスさんたちが人払いをしていく。
 本当はジルやセルジュさんたち皆に見られるのも恥ずかしいんだけど。なんか発表会みたいで。

 溜息を零しつつ後ろを振り返ると、丁度離れようとしてた、母親に抱かれた小さな男の子と瞳が合ってしまった。
 声は届かなかったが、口元ががんばって、と動いてる気がする。それから小さく手を振られて、応えるようにおれも振り返す。
 頑張らなきゃな、って思う。
 今はおれしか出来ないことなんだ、この国で、ここに住むひとたちが、平和に生きていけるように。責任重大だ。

 暫くして、周りには自分たちしかいなくなった。とうとう本番だ。
 セルジュさんが背中側から、倒れない程度でいいですよ、と声を掛ける。
 ……そんな微調整なぞおれにはまだ出来ない、と思う。

「前回思い切りどうぞと言いましたでしょう」
「はい……」
「その時を覚えてますか?」
「たぶん……」
「あの時は国の三分の一くらい覆えたのだから、今回はそれより力を出さなくていいですよ、勿論出来るのなら何処まででも本気を出して頂いて大丈夫ですが……倒れない程度に」

 せっかくセルジュさんが来てるのなら、練習の成果も見て欲しい。
 けれどここまで来たのに倒れてしまうのもなんだかなあ。
 まだ街に来ただけ。ロザリー様の植えた、ジルの薔薇を見ただけ。
 食事だってしてないし、この街がどんなところかなんてのも見てない。どれくらいの広さがあるのかもわからない。
 ジルと約束したような、デートのようなことだって、何もしてない。そんなことを目当てに本気を出さないのはやっぱりだめだろうか。

「や、やりますよっ」
「はいどうぞ、倒れてもジル様がいらっしゃいますからね」
「倒れませんっ」

 薔薇の前に立って、ロザリー様とジルから力を貰う気持ちで息を吸い込む。そんな効力はないと思うけど、でもロザリー様の力にはなっていた筈。
 躰が熱くなる。えっと、手のひらに集めるイメージ。多分おれにはそれがいちばんわかりやすい。

「ん……ッ」

 せめて遥陽のように色が出ればわかりやすいのに。
 オレンジのような、あたたかい色。そしたらどこまでこの力が行き渡ったかわかりやすいのに。
 そうだな、薄いあおとかどうだろう。
 冷たい氷のようなあおではなくて、あたたかい、ジルの碧い瞳のような……

「……!」

 それが自分の力なのか、特訓の成果なのか、この場所がそうさせたのかはわからなかった。
 ただ確実に、おれが願った通りに、薄く薄く、碧っぽい空気がずうっと向こうまで届いたのがわかった。ずっと、ずっと遠くまで。

「……きれい」

 自分の手のひらから出したものだというのに、どこか他人事のような、気の抜けたようなことを言ってしまった。
 そのまま膝をつく。

 ジルとセルジュさんが大丈夫かとおれの腰と肩を支えた。
 ふたりにへらっと笑ってみせる。
 どうだ、今日は気を失わなかったぞ。
 ……ただ、今、とんでもなく眠いけど。

「見た……?」
「ええ、すごいです、練習頑張りましたねえ」
「えへへ、シャノン様の薬飲んだ甲斐があるってもんです……」

 碧い空気はどんどん混じっていき、すぐに視認できなくなった。
 きれいだったのになあ、と残念な気持ちと、そりゃそうだ、ずっと見えてたら危ないっていう当たり前の気持ち。

「大丈夫か?少し休もう」
「うん……」
「モーリス、部屋を用意して貰って」
「ジル」 
「どうした?」
「見たあ?さっきの……」
「うん?見たよ」
「んふふ、きれいだったでしょ、ジルの瞳みたい、で……」

 どうやら意識が持ったのはそこまでだったようだ。



 ◇◇◇

 思えば、この世界に来てからあんまり夢を見てなかった気がする。
 日常が夢のように不思議でいっぱいだったから。
 でも今目の前で繰り広げられているのははっきりと夢だとわかる。

 絵画でみた、ジルに似た女性。
 長く綺麗な金の髪を靡かせて、薔薇に囲まれ、膝の上で真っ黒な猫を撫で、瞳を細めておれを見てるのはロザリー様だったから。

 指先でおれを呼ぶ。……少し、シャノン様に通じるところがある気がする。
 ジルと同じ……海のような綺麗な碧い瞳が溶けてしまいそう。
 形の良い唇が何かを言うが聞こえない。
 聞こえないんです。
 地面に丸くなるように横になっていたおれは、這うようにして近付いた。
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