105 / 161
105
しおりを挟む
ぎこちない動きで結界を張ってるところをみられたくはないな、と思った。
だってがっかりされると思う、久し振りにロザリー様の後釜みたいなのが来たかと思ったら、なんかひょろひょろ魔法を使ってたらさ、大丈夫かよって、この国護れんのかよって思うじゃん。
皆あんなに期待に満ちたきらきらした瞳をしてるのに、こんな頼りないやつがそれを曇らせてしまうのは……
「大丈夫ですよ」
「?」
「人払いしますからね」
おれの思いに気付いてくれたのか、セルジュさんが少し眉を下げて言う。流石だぜ。
「す、少しは上達したんですよ、でもその、人前でかっこつけるには、その、まだ威厳とか足りないっていうか、その、ね、ほら、うう……」
「ユキ様は言い訳が下手ですねえ」
「かわいいだろう」
「ええとても」
「……そんなとこで張り合わないでほしい」
間抜けみたいじゃないか、どうせならおれのかっこいいとこで張り合ってほしい。あるかどうか知らないけど。
もう、と恥ずかしさを我慢してる間に、モーリスさんたちが人払いをしていく。
本当はジルやセルジュさんたち皆に見られるのも恥ずかしいんだけど。なんか発表会みたいで。
溜息を零しつつ後ろを振り返ると、丁度離れようとしてた、母親に抱かれた小さな男の子と瞳が合ってしまった。
声は届かなかったが、口元ががんばって、と動いてる気がする。それから小さく手を振られて、応えるようにおれも振り返す。
頑張らなきゃな、って思う。
今はおれしか出来ないことなんだ、この国で、ここに住むひとたちが、平和に生きていけるように。責任重大だ。
暫くして、周りには自分たちしかいなくなった。とうとう本番だ。
セルジュさんが背中側から、倒れない程度でいいですよ、と声を掛ける。
……そんな微調整なぞおれにはまだ出来ない、と思う。
「前回思い切りどうぞと言いましたでしょう」
「はい……」
「その時を覚えてますか?」
「たぶん……」
「あの時は国の三分の一くらい覆えたのだから、今回はそれより力を出さなくていいですよ、勿論出来るのなら何処まででも本気を出して頂いて大丈夫ですが……倒れない程度に」
せっかくセルジュさんが来てるのなら、練習の成果も見て欲しい。
けれどここまで来たのに倒れてしまうのもなんだかなあ。
まだ街に来ただけ。ロザリー様の植えた、ジルの薔薇を見ただけ。
食事だってしてないし、この街がどんなところかなんてのも見てない。どれくらいの広さがあるのかもわからない。
ジルと約束したような、デートのようなことだって、何もしてない。そんなことを目当てに本気を出さないのはやっぱりだめだろうか。
「や、やりますよっ」
「はいどうぞ、倒れてもジル様がいらっしゃいますからね」
「倒れませんっ」
薔薇の前に立って、ロザリー様とジルから力を貰う気持ちで息を吸い込む。そんな効力はないと思うけど、でもロザリー様の力にはなっていた筈。
躰が熱くなる。えっと、手のひらに集めるイメージ。多分おれにはそれがいちばんわかりやすい。
「ん……ッ」
せめて遥陽のように色が出ればわかりやすいのに。
オレンジのような、あたたかい色。そしたらどこまでこの力が行き渡ったかわかりやすいのに。
そうだな、薄いあおとかどうだろう。
冷たい氷のようなあおではなくて、あたたかい、ジルの碧い瞳のような……
「……!」
それが自分の力なのか、特訓の成果なのか、この場所がそうさせたのかはわからなかった。
ただ確実に、おれが願った通りに、薄く薄く、碧っぽい空気がずうっと向こうまで届いたのがわかった。ずっと、ずっと遠くまで。
「……きれい」
自分の手のひらから出したものだというのに、どこか他人事のような、気の抜けたようなことを言ってしまった。
そのまま膝をつく。
ジルとセルジュさんが大丈夫かとおれの腰と肩を支えた。
ふたりにへらっと笑ってみせる。
どうだ、今日は気を失わなかったぞ。
……ただ、今、とんでもなく眠いけど。
「見た……?」
「ええ、すごいです、練習頑張りましたねえ」
「えへへ、シャノン様の薬飲んだ甲斐があるってもんです……」
碧い空気はどんどん混じっていき、すぐに視認できなくなった。
きれいだったのになあ、と残念な気持ちと、そりゃそうだ、ずっと見えてたら危ないっていう当たり前の気持ち。
「大丈夫か?少し休もう」
「うん……」
「モーリス、部屋を用意して貰って」
「ジル」
「どうした?」
「見たあ?さっきの……」
「うん?見たよ」
「んふふ、きれいだったでしょ、ジルの瞳みたい、で……」
どうやら意識が持ったのはそこまでだったようだ。
◇◇◇
思えば、この世界に来てからあんまり夢を見てなかった気がする。
日常が夢のように不思議でいっぱいだったから。
でも今目の前で繰り広げられているのははっきりと夢だとわかる。
絵画でみた、ジルに似た女性。
長く綺麗な金の髪を靡かせて、薔薇に囲まれ、膝の上で真っ黒な猫を撫で、瞳を細めておれを見てるのはロザリー様だったから。
指先でおれを呼ぶ。……少し、シャノン様に通じるところがある気がする。
ジルと同じ……海のような綺麗な碧い瞳が溶けてしまいそう。
形の良い唇が何かを言うが聞こえない。
聞こえないんです。
地面に丸くなるように横になっていたおれは、這うようにして近付いた。
だってがっかりされると思う、久し振りにロザリー様の後釜みたいなのが来たかと思ったら、なんかひょろひょろ魔法を使ってたらさ、大丈夫かよって、この国護れんのかよって思うじゃん。
皆あんなに期待に満ちたきらきらした瞳をしてるのに、こんな頼りないやつがそれを曇らせてしまうのは……
「大丈夫ですよ」
「?」
「人払いしますからね」
おれの思いに気付いてくれたのか、セルジュさんが少し眉を下げて言う。流石だぜ。
「す、少しは上達したんですよ、でもその、人前でかっこつけるには、その、まだ威厳とか足りないっていうか、その、ね、ほら、うう……」
「ユキ様は言い訳が下手ですねえ」
「かわいいだろう」
「ええとても」
「……そんなとこで張り合わないでほしい」
間抜けみたいじゃないか、どうせならおれのかっこいいとこで張り合ってほしい。あるかどうか知らないけど。
もう、と恥ずかしさを我慢してる間に、モーリスさんたちが人払いをしていく。
本当はジルやセルジュさんたち皆に見られるのも恥ずかしいんだけど。なんか発表会みたいで。
溜息を零しつつ後ろを振り返ると、丁度離れようとしてた、母親に抱かれた小さな男の子と瞳が合ってしまった。
声は届かなかったが、口元ががんばって、と動いてる気がする。それから小さく手を振られて、応えるようにおれも振り返す。
頑張らなきゃな、って思う。
今はおれしか出来ないことなんだ、この国で、ここに住むひとたちが、平和に生きていけるように。責任重大だ。
暫くして、周りには自分たちしかいなくなった。とうとう本番だ。
セルジュさんが背中側から、倒れない程度でいいですよ、と声を掛ける。
……そんな微調整なぞおれにはまだ出来ない、と思う。
「前回思い切りどうぞと言いましたでしょう」
「はい……」
「その時を覚えてますか?」
「たぶん……」
「あの時は国の三分の一くらい覆えたのだから、今回はそれより力を出さなくていいですよ、勿論出来るのなら何処まででも本気を出して頂いて大丈夫ですが……倒れない程度に」
せっかくセルジュさんが来てるのなら、練習の成果も見て欲しい。
けれどここまで来たのに倒れてしまうのもなんだかなあ。
まだ街に来ただけ。ロザリー様の植えた、ジルの薔薇を見ただけ。
食事だってしてないし、この街がどんなところかなんてのも見てない。どれくらいの広さがあるのかもわからない。
ジルと約束したような、デートのようなことだって、何もしてない。そんなことを目当てに本気を出さないのはやっぱりだめだろうか。
「や、やりますよっ」
「はいどうぞ、倒れてもジル様がいらっしゃいますからね」
「倒れませんっ」
薔薇の前に立って、ロザリー様とジルから力を貰う気持ちで息を吸い込む。そんな効力はないと思うけど、でもロザリー様の力にはなっていた筈。
躰が熱くなる。えっと、手のひらに集めるイメージ。多分おれにはそれがいちばんわかりやすい。
「ん……ッ」
せめて遥陽のように色が出ればわかりやすいのに。
オレンジのような、あたたかい色。そしたらどこまでこの力が行き渡ったかわかりやすいのに。
そうだな、薄いあおとかどうだろう。
冷たい氷のようなあおではなくて、あたたかい、ジルの碧い瞳のような……
「……!」
それが自分の力なのか、特訓の成果なのか、この場所がそうさせたのかはわからなかった。
ただ確実に、おれが願った通りに、薄く薄く、碧っぽい空気がずうっと向こうまで届いたのがわかった。ずっと、ずっと遠くまで。
「……きれい」
自分の手のひらから出したものだというのに、どこか他人事のような、気の抜けたようなことを言ってしまった。
そのまま膝をつく。
ジルとセルジュさんが大丈夫かとおれの腰と肩を支えた。
ふたりにへらっと笑ってみせる。
どうだ、今日は気を失わなかったぞ。
……ただ、今、とんでもなく眠いけど。
「見た……?」
「ええ、すごいです、練習頑張りましたねえ」
「えへへ、シャノン様の薬飲んだ甲斐があるってもんです……」
碧い空気はどんどん混じっていき、すぐに視認できなくなった。
きれいだったのになあ、と残念な気持ちと、そりゃそうだ、ずっと見えてたら危ないっていう当たり前の気持ち。
「大丈夫か?少し休もう」
「うん……」
「モーリス、部屋を用意して貰って」
「ジル」
「どうした?」
「見たあ?さっきの……」
「うん?見たよ」
「んふふ、きれいだったでしょ、ジルの瞳みたい、で……」
どうやら意識が持ったのはそこまでだったようだ。
◇◇◇
思えば、この世界に来てからあんまり夢を見てなかった気がする。
日常が夢のように不思議でいっぱいだったから。
でも今目の前で繰り広げられているのははっきりと夢だとわかる。
絵画でみた、ジルに似た女性。
長く綺麗な金の髪を靡かせて、薔薇に囲まれ、膝の上で真っ黒な猫を撫で、瞳を細めておれを見てるのはロザリー様だったから。
指先でおれを呼ぶ。……少し、シャノン様に通じるところがある気がする。
ジルと同じ……海のような綺麗な碧い瞳が溶けてしまいそう。
形の良い唇が何かを言うが聞こえない。
聞こえないんです。
地面に丸くなるように横になっていたおれは、這うようにして近付いた。
167
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる