【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 どこだここは。
 暗い。今何時だろう。
 夢を見ていたのか。こんな寒いところで?

 はあ、と吐いた息が白く曇る。
 日中よりも空気はもっと、刺すように冷たくて、足元には所々薄らと雪が積もっていた。
 ここに来て直ぐに買って貰った服とブーツだ。
 周りを見ても魔女も他のひともいない。

「……あ」

 袖を捲ると、薄く……服の上から縛られたからだろう、本当に薄く、痕が残っていた。それが証拠だった。さっきまで魔女といたという証拠。
 あの少年は……
 最初に王様に殺された魔女の子なのだろうか。でもそれだと計算がおかしい、何百年も生きてることになる。
 それは魔女だから可能なのか、それとも何十代目かの魔女なのか。
 それを言うなら、ジルやティノやキャロルたち王族も魔女の血を引いていて……魔力を持つという意味で、シャノン様ですら、どこかで魔女の血が入っている。
 でもあの少年のような気配は誰も持っていない。
 あの少年だけが、魔女として特別な何かを持っている。

 一週間。

 あと、一週間だ。
 一週間でおれは、ここから居なくなる。

 戻ることは出来ないと言っていたじゃないか。
 だから諦めたのに。
 なのに、この世界で生きて行こうと、腹を括って……今からだって時に、おれは、期待だけさせて、皆を置いて居なくなってしまうのか。

「いやだ……」

 帰りたくない訳じゃない。
 家族に会いたい。
 ともだちにだって。
 途中だったゲームや漫画も、やりたいけど、でもそれはこの際もう良くて。
 便利な生活も、やりたいことも、会いたいひともたくさんあって、それでも。

 それでもジルと遥陽から離れる自分を想像したくない。

「……ジル」

 ここどこ?
 暗いし静かでこわい、寒い、お腹だって空いたし……こわい。
 こわい。
 ひとりはこわい。

 知らないとこにひとりなんてやだ。

「……っ、ジル、ジル、どこ、ジルう……」

 頬が冷たい。
 撫でて欲しい、抱き締めて欲しい、名前を呼んで欲しい、要らなくないって、必要だって言って欲しい。
 我儘なんだ、おれ、ここに来てから、ずっと。

 おれが姿を消してから何時間経ったのかわからない。
 それでもおれを探していて欲しい。
 おれのこと、忘れないで欲しい。

「……ジル……」

 少し外に居るだけで、手袋をしていても指先が冷たいし、ブーツの中の足先も冷たい。
 吐く息だけがあたたかくて、でもそれもすぐに冷たいものにかわる。
 涙が零れて、そのせいで頬が冷たくて、ジルを呼ぶ声と鼻を啜る音だけが響く。

 土地勘が全くなくて……周りには廃墟のような古い建物と山しか見えなくて、どっちに進めばいいのかもわからない。
 せめてひとがいる場所にいけたらと思うのだけれど。

「どこ行けばいいかわかんないよ……」

 魔女も何でこんなとこに置いていったのかわからない。
 凍えてしねってことだったりするんだろうか、やっぱり怒らせたんだろうか。

「ジル……」

 もう何回名前を呼んだかわからなかった。
 可能性としてはモーリスさんたちの方が探してくれてると思う、でもおれはもうジルの名前しか頭に浮かばなかった。

「……何か光ってる……?」

 遠目に発光してるようなものが見えて、それが建物の灯りとかではないのはわかるんだけど、でもなんだかあたたかそうで、ふらふらと足を向けてしまう。
 そこに行けば何かがありそうで、どうにかなりそうで。
 ロザリー様が幼いジルを連れていった、そしておれを連れていってくれた幻想的な花が咲く場所を思い出した。
 こんな寒いところには咲かないだろう。
 でもそれが何故か支えになって、距離はあるけど足を進める理由になった。

「……っ」

 頭が少しくらくらする。
 どこかで魔力を使ってしまったのか、あの魔女に何かされたのか。
 こんなところで倒れたらしぬ。
 足を止めたらしぬ。
 誰にも何も伝えられないまま。

 そこで思い出した。遥陽がくれた回復薬。
 なかなか使う場面がなくて……有難いことに。今まで大事にポケットに入れてきた。
 着替えた時にちゃんと移し替えた筈。
 手袋を取ってポケットに突っ込む。良かった、あった。
 効能としては怪我やちょっとした病気に効くものだから、魔力の補充として飲むのはおかしいのかもしれない。
 でも少しくらいは足しになるんじゃないか、と蓋を開けて喉に流し込む。
 凍ってはないのは助かったが、冷たい。
 ……あたたかいものが飲みたいな。アンヌさんの作ってくれるスープ、モーリスさんの淹れてくれるお茶、以前ジルに断ったホットミルク。
 お風呂だって入りたい、あたたかいベッドに潜りたい。
 そこにジルが居てくれたら最高だ。

「……うん」

 ちょっとましになった気がする。
 空の瓶をまたポケットに突っ込んで手袋をはめなおして足を進める。
 遥陽にも会いたい、話がしたい。
 こんなところで倒れてたまるか。

 少しずつ少しずつ距離は近付いて、その薄らと光るものが視認出来た瞬間、足が早まった。

「……ロザリー様」

 発光してたのはどんな絡繰なのか魔法なのか。
 ロザリー様の植えた、ジルの薔薇がこんなところでも綺麗に花を咲かせていた。
 それだけなのに、なんだかほっとしてしまった。
 ロザリー様がここに来ていたなら、きっと街もそう遠くない。
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