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思い出すのは一面のあおいせかい。
きらきらと反射する太陽の光。
賑やかな水面と、深く静かな水の底。
穏やかな海と憧れた陸。
嵐の夜に、貴方に恋をした。
◇◇◇
「碧、まだ着替えてなかったのか、もう締めるけど」
「……皇輝こそ、まだ残ってたんだ」
「当たり前だろ、確認も俺達の仕事なんだし」
プールに浮かんでる僕に声を掛けたのは水泳部マネージャーの皇輝、中学からの親友だ。
早く上がれ、と指で示され、愛してやまない水の世界からさよならする。
「着替えるから待っててー」
「いや俺も着替えるから」
「水着と体育服は違うじゃん、えっち」
「は?ロッカーに制服あるんだからそっちで着替えるに決まってんじゃん」
「そう言って僕のハダカを見る気なんだろ、やだえっちー」
「お前のみて楽しくもクソもあるか、こら走るな」
子供の頃から水の中がすきだった。
祖父母の家が海の近くで、帰る度に海へ行ってた。
夏は泳ぎ、春秋は足を付け、冬はただ眺めるのもすきだった。
園児の時は夏の間毎日庭にプールを出せと騒ぐものだから、手間と水道代に音を上げた親にスイミングスクールに放り込まれた。
別に泳ぐのがすきなんじゃない。コンクールで賞をとったことはない。
ただ水の中にいるのがすきで、水の中にいるのが当然だと思っていた。
中学の時に、親の仕事の都合で転校した。
同じクラスで、その輪の中にいた皇輝を見て、僕は前世を思い出した。
人魚姫。
王子様を殺せなくて、恋心を抱えたまま海の泡になって消えた人魚姫。
頭は混乱したが、ああだからあんなに水の中がすきなんだな、と腑に落ちた。
でも前世を思い出した時に、同時にわかった。
この恋は今世でも叶わない。
人魚姫は声が出せない。
王子様を助けたのは私だと、貴方を愛してると声に出せない。
愛している王子様と、自分にも優しくしてくれるお姫様を殺せなくて、愛した王子様のしあわせを願い、海に消えた人魚姫が自分。
僕は王子様に、人魚姫だと言ってはいけない。
人間の僕が泡になって消えることはないだろう。どうなるのかはわからない。
ただ言ってはいけないことはわかった。
僕が人魚姫だと気付いてもらい、その上で愛してもらう。
それが今世の僕への赦しだった。
そんなこんなで想いを伝えることは出来ぬまま、揃って同じ高校へ。
僕はこの学校の屋内プールに釣られた。中学の時は水泳部はなく、スイミングスクールにそのまま通っていた。それでも週に3回程しか行くことが出来ない。
一年中入れる高校の屋内プールは魅力的だった。
おまけに大学の付属校。つまり普通の高校生よりプールに入れる期間が長い。
プールの為だけにめちゃくちゃ勉強したし、家族にはそこまでかと呆れられた。
皇輝は陸上をしていたが、足の故障で部活を辞めた。
日常生活に問題はないし、体育の授業は出れるが、部活のような運動はもうしたくない出来ないと言っていた。
家がそこそこ近いからといって、同じ高校に通い、お前は放っておいたら溺れてしぬ、と水泳部のマネージャーになった。
お陰で僕は君を諦めることが出来ない。
「部長がぼやいてたぞ、碧はやる気はあるのかって」
「ないでーす」
「その割に毎日来るんだよなぁ……」
「泳ぐっつーか、入りに来てるだけだからなー」
「いい加減ちゃんとしないと、後輩からも舐められるぞ」
「レースに出ないで遊んでるの僕だけじゃないじゃん、毎日来るだけで立派じゃん、そもそもうち全然強くないし」
立派な屋内プールが泣くぞ。
「浮いてるだけでしあわせなんだよなあ」
「邪魔だよ」
「人数少ないしいいじゃんいいじゃん」
部活の花形といえば、サッカー野球、バスケにテニスにバレー。うちの水泳部は弱小なだけあって設備の割に人数が少ないのだ。
部長だって文句を言いつつ僕を自由にしてくれる。
立場上言うだけであって、割とほっといてくれてるんだよね。
後輩も元々やる気があった訳ではないのが明白で、特に何かいうわけではなく、それなりに仲良くやってる。一応僕には長年習ったスイミングスクールの知識はあるのだ。
先生もたまに見に来るだけの、お飾り顧問。
口煩いのは皇輝だけである。
「これから暑くなるなー」
「今年はプールや海行くのか?」
「ただでガッコのプール入れるし、人混みのプールには行かない。ばーちゃんちに行ったら海入るくらいかなー」
「そうか」
「たまには皇輝も泳げよ、遊ぶくらい出来るだろ」
「いや俺はマネージャーの仕事あるから」
「人少ない時はいいだろー」
頬を膨らますと、指で押され、空気を漏らす。
口煩いけど、こういう時の触れ方が優しいのだ。
多分それは、誰にでもそう。
だけど僕はそんなんだからまだ期待もしてしまうんだ。
「水に浸かりすぎてふやけるぞ」
「ふやけてるのが通常運転まである」
「髪も塩素にやられて」
「昔からプールに浸かってるからもうまっ茶色だよなー、先生ももう注意してこねーもん」
「女子が羨ましがってた」
「はは」
女子の話題が出ると胸が痛む。
いつ、皇輝のお姫様は現れるのか。
僕はそれを見て耐えられるのか。
今世は海に逃げることが出来ない。
皇輝が彼女を作って、結婚して、子供を産んで、それを笑顔で見守ることが、僕には出来るのか。
やっと同じ人間になれたというのに、まさか同性として生まれるなんて。
魔女の呪いは強かった。僕の恋を叶えるつもりはなかったのだろう。
今世でも、僕の恋は叶わない。
きらきらと反射する太陽の光。
賑やかな水面と、深く静かな水の底。
穏やかな海と憧れた陸。
嵐の夜に、貴方に恋をした。
◇◇◇
「碧、まだ着替えてなかったのか、もう締めるけど」
「……皇輝こそ、まだ残ってたんだ」
「当たり前だろ、確認も俺達の仕事なんだし」
プールに浮かんでる僕に声を掛けたのは水泳部マネージャーの皇輝、中学からの親友だ。
早く上がれ、と指で示され、愛してやまない水の世界からさよならする。
「着替えるから待っててー」
「いや俺も着替えるから」
「水着と体育服は違うじゃん、えっち」
「は?ロッカーに制服あるんだからそっちで着替えるに決まってんじゃん」
「そう言って僕のハダカを見る気なんだろ、やだえっちー」
「お前のみて楽しくもクソもあるか、こら走るな」
子供の頃から水の中がすきだった。
祖父母の家が海の近くで、帰る度に海へ行ってた。
夏は泳ぎ、春秋は足を付け、冬はただ眺めるのもすきだった。
園児の時は夏の間毎日庭にプールを出せと騒ぐものだから、手間と水道代に音を上げた親にスイミングスクールに放り込まれた。
別に泳ぐのがすきなんじゃない。コンクールで賞をとったことはない。
ただ水の中にいるのがすきで、水の中にいるのが当然だと思っていた。
中学の時に、親の仕事の都合で転校した。
同じクラスで、その輪の中にいた皇輝を見て、僕は前世を思い出した。
人魚姫。
王子様を殺せなくて、恋心を抱えたまま海の泡になって消えた人魚姫。
頭は混乱したが、ああだからあんなに水の中がすきなんだな、と腑に落ちた。
でも前世を思い出した時に、同時にわかった。
この恋は今世でも叶わない。
人魚姫は声が出せない。
王子様を助けたのは私だと、貴方を愛してると声に出せない。
愛している王子様と、自分にも優しくしてくれるお姫様を殺せなくて、愛した王子様のしあわせを願い、海に消えた人魚姫が自分。
僕は王子様に、人魚姫だと言ってはいけない。
人間の僕が泡になって消えることはないだろう。どうなるのかはわからない。
ただ言ってはいけないことはわかった。
僕が人魚姫だと気付いてもらい、その上で愛してもらう。
それが今世の僕への赦しだった。
そんなこんなで想いを伝えることは出来ぬまま、揃って同じ高校へ。
僕はこの学校の屋内プールに釣られた。中学の時は水泳部はなく、スイミングスクールにそのまま通っていた。それでも週に3回程しか行くことが出来ない。
一年中入れる高校の屋内プールは魅力的だった。
おまけに大学の付属校。つまり普通の高校生よりプールに入れる期間が長い。
プールの為だけにめちゃくちゃ勉強したし、家族にはそこまでかと呆れられた。
皇輝は陸上をしていたが、足の故障で部活を辞めた。
日常生活に問題はないし、体育の授業は出れるが、部活のような運動はもうしたくない出来ないと言っていた。
家がそこそこ近いからといって、同じ高校に通い、お前は放っておいたら溺れてしぬ、と水泳部のマネージャーになった。
お陰で僕は君を諦めることが出来ない。
「部長がぼやいてたぞ、碧はやる気はあるのかって」
「ないでーす」
「その割に毎日来るんだよなぁ……」
「泳ぐっつーか、入りに来てるだけだからなー」
「いい加減ちゃんとしないと、後輩からも舐められるぞ」
「レースに出ないで遊んでるの僕だけじゃないじゃん、毎日来るだけで立派じゃん、そもそもうち全然強くないし」
立派な屋内プールが泣くぞ。
「浮いてるだけでしあわせなんだよなあ」
「邪魔だよ」
「人数少ないしいいじゃんいいじゃん」
部活の花形といえば、サッカー野球、バスケにテニスにバレー。うちの水泳部は弱小なだけあって設備の割に人数が少ないのだ。
部長だって文句を言いつつ僕を自由にしてくれる。
立場上言うだけであって、割とほっといてくれてるんだよね。
後輩も元々やる気があった訳ではないのが明白で、特に何かいうわけではなく、それなりに仲良くやってる。一応僕には長年習ったスイミングスクールの知識はあるのだ。
先生もたまに見に来るだけの、お飾り顧問。
口煩いのは皇輝だけである。
「これから暑くなるなー」
「今年はプールや海行くのか?」
「ただでガッコのプール入れるし、人混みのプールには行かない。ばーちゃんちに行ったら海入るくらいかなー」
「そうか」
「たまには皇輝も泳げよ、遊ぶくらい出来るだろ」
「いや俺はマネージャーの仕事あるから」
「人少ない時はいいだろー」
頬を膨らますと、指で押され、空気を漏らす。
口煩いけど、こういう時の触れ方が優しいのだ。
多分それは、誰にでもそう。
だけど僕はそんなんだからまだ期待もしてしまうんだ。
「水に浸かりすぎてふやけるぞ」
「ふやけてるのが通常運転まである」
「髪も塩素にやられて」
「昔からプールに浸かってるからもうまっ茶色だよなー、先生ももう注意してこねーもん」
「女子が羨ましがってた」
「はは」
女子の話題が出ると胸が痛む。
いつ、皇輝のお姫様は現れるのか。
僕はそれを見て耐えられるのか。
今世は海に逃げることが出来ない。
皇輝が彼女を作って、結婚して、子供を産んで、それを笑顔で見守ることが、僕には出来るのか。
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今世でも、僕の恋は叶わない。
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