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「碧ー、風呂全員終わったぞ」
「んー、入るー」
兄ちゃんから促され、スマホに防水カバーを付けて風呂に向かう。
長湯すぎて碧の風呂は1番最後。家族会議で決まったことだ。
少しぬるめの湯に浸かるのがすきだ。半身浴ではない。
流石に母さんに怒られたけど、本当なら飲み物なんかも持ち込んでもっと浸かってたい。
脱水症状起こすぞ、と脅してみたこともあるが、だからよ、危険を察するよりも前に上がりなさい、風呂では寝るな、定期的に見張り(大体兄ちゃんだ)をやるぞ、と言われている。なので長時間篭れない。
ただぼおっとしていたいが、今の時代は便利でいて不都合なこともある。
風呂入ってたごめん、に風呂にスマホ持ち込めとまで言われるのだ。若者には必須の連絡手段である。なので時折スマホも気にしなくてはならない。
ただただ水に揺られていたい。何も考えたくない。
でも前世を思い出してからずっと、皇輝が僕の思考を乗っ取ってくる。
王子様。今度こそ。
僕に、人魚姫に気付いてほしい。拒絶されるかもしれない、それなら気付かないでほしい。でもやっばり気付いてほしい。
前世の痛いくらい純粋な人魚姫と、どうせ無理だと諦めてる現世の僕。
魂は同じ筈なのに、頑張る気が起きない。
だってもう頑張れない。見つけてもらうことしか願えない。
てか頑張ったら海の泡になっちゃうんだけど。
せめて僕も人間の女の子にしてほしかった。
『明日の放課後、マナが告るって決めたから、碧も手伝って』
クラスの女子からの連絡だ。
転校して初めて見た時からずっと、皇輝はクラスの中心にいる。
頭が良くて、優しくて、身長が高くて、顔が良くて、運動も出来る。
転入生にも気を遣える。
今でこそ足の故障で派手な運動は出来ないが、それすら美談になる。
つまり皇輝はモテるのだ。そりゃそうだ、前世王子様だぞ、国中の娘が憧れた王子様だぞ、人魚姫すら虜にした王子様だぞ。
そして傍にいる冴えない僕。使わない手はない。
何度ラブレターを渡すように頼まれ、告白の場への呼び出し係にされ、合コンに呼ばされ、こっそりメール等のアカウントを教えてくれと頼まれ、女の子を褒めろと言われ、告白の現場にも立たされてきたか。
後からどうだった?って訊くのも、その場で告白をみせつけられるのも、心が酷く重くなる。
そんなことはわかってるのに、手伝えないと断ることも出来ない。
断れ断れ断れ告白を了承するな、誰とも付き合わないで。
ごめんごめんごめん、振られろなんて思ってごめん。
断って、振られて、確認して、安心してごめん。
振られるの辛いってわかってるのに、酷いことを願ってごめん。
自分は告白出来ないくせに、人の告白が駄目になってるのを喜ぶなんてクソ野郎でごめん。
勇気をだして告白する皆の、皇輝の、しあわせを願えなくてごめんなさい。
「あお!寝てんな死ぬぞ」
「んあ」
「お前はほんっと目を離すと溺れそうでこわい」
「あー……うん、上がる上がる」
「やめろよな、俺弟が風呂場で溺れてんの見たくねーぞ」
「はいはいありがとおにーちゃん」
風呂から上がらない僕の様子を見に来た兄ちゃんに起こされる。
ぶちぶち文句を言いながら出ていった兄ちゃんに溜息を吐き、今日の癒しの風呂はこれで終わり。
明日はまた皇輝への告白タイムを見届けるという地獄が待ってる。
◇◇◇
「はよ」
「んー、おはよ」
「今日元気なくね?」
「……」
お前のせいだよ、とは言えない。実際皇輝は何も悪いことはしてない。
僕が1人でもやもやしてるだけだ。
それでも腹立つのは仕方ないだろう。
今日の告白タイムは昼休みだ。
放課後は部活があるので嫌だと断っている。
女子たちも本当なら放課後がいいのだろうが、皇輝を呼び出す係としては打率がいいのでそこは妥協してるようだ。
僕が部活に行くとマネージャーの皇輝も部活行っちゃうから断られるのわかってるしな。
昼休みは昼休みでゆっくりご飯食べられなくて迷惑なんだけど。
「はー……」
「なんだよ」
「なんだよってなんだよ」
「まじで顔色悪くね?風邪ひいた?どうせ昨日も長風呂してたんだろ?」
「大丈夫だってば」
ちょっとでも体調不良を見せるとプール禁止令が出る。
それは避けたい。
憂鬱な昼休みが待ってるんだ、僕の癒しの放課後を取り上げられてなるものか。
「お前のことはもうわかってる気でいるけどさ、まじで具合悪くなったら言えよ」
「その時は皇輝におんぶしてもらうから大丈夫だよーだ」
「するわけないだろ」
「いーやしてもらうもんね」
本当は、心配してもらえるのは嬉しい。
僕だけ見てればいいのに。
他の女子なんか見ないで、お姫様なんか見つけないで、僕だけを見てればいいのに。
……そんなこと、無理なんだけど。
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