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十二月も半ば。
あの日風邪を引いて以降、おれは元気にやっている。
年末は皆忙しい、おれのような例外を除いて。
仕事も学校もプライベートも。皆忙しいのが年末年始なのだ。
おれはというと相変わらず家に篭もりっぱなしだった。
いや、例年よりは活発だったと思う。
早めに智子先生に診てもらい、花音たちへのクリスマスプレゼントを探しに行ってみたり、ちょっとした散歩とか。
季節が変わりきって漸く、ひとりでの外出に……番が出来てからの外出に、慣れた気がする。
冬は厚着にコートにマフラーにと、首元の重装備が自然に出来る。
首輪はもうしてないけれど、前は首輪を見られるのは嫌だった。どう見たってオメガだとわかるし、だからといって首輪以外のもので隠すのも不自然だった。
今だって噛み痕を見られるのも気恥ずかしい。やっぱりそれもオメガだという証拠だから。
街で擦れ違うひとたちはそんなこと毎回気にしてないと思う、だけど実際にオメガとアルファで事故が起きるケースもあるし、気を付けるに越したことはない。
あの子いいな、オメガか、なんて好奇の目で見られるのも、あのひとアルファか、お近付きになりたいなとこそこそされるのも、どれもいい気はしない。
番になったって、まだそういった視線が完全になくなる訳ではない、好奇の目はどこにでもある。
それでも事故で噛まれるなんて可能性はなくなったし、自分のフェロモンでどうのこうのといった心配がなくなるだけで、大分気は楽になった。
こういうのも番のコントロールの内に入るのかなあ。
クリスマスムードの街にひとりで出歩くのは最初は躊躇いがあったけれど、日中なら気にならなくなった。
皆仕事や学校行ってるからね。勿論仕事をしてない自分が嫌になったりはしたけれど。
ゆっくり店を見て、花音や千晶くんに似合いそう、両親には何にしようかな、お年玉袋ってもう用意したかな、そうやって回れることにすごいな、と思った。
店内をゆっくり回ったことなんてなかった、買い物なんて、目当てのものを買ったらさっと出るものだったから。
おれはもう番がいるから、フェロモンなんて気にせずゆっくり出来るのだ。
そう考えると少し擽ったかった。
◇◇◇
「ごめんね、ほんっと、ごめん!これ、着替えとおもちゃ、ええと、我儘言ったら怒っていいからね、電話もいつでも出るから!」
叔母の番はぺこぺこぺこぺこごめんねと頭を下げて、何度も聞いた説明を繰り返し、部屋に上がることもなく急いで帰って行った。幼い娘を置いて。
つい昨日、叔母から連絡が入った。長女がインフルエンザに罹ってしまったと。
下の子をその間預かって貰えないかという打診。
無職のおれが適任であった。
年の離れた従姉妹はかわいい。長女だって勿論かわいいが、高校受験間近の子にそれを言うと危ないから言わないけど。
末っ子の従姉妹、芽依は四歳。まだまだ親が必要な歳ではあるけれど、元々保育園で熱を出したという時に、両親が迎えに行けない時はおれも行って預かったりしていたので慣れてはいる。
今回のような長期のお泊まりは初めてだけれど。
「ほいくえんおやすみでいーの?」
「ん、お兄ちゃんいるからね、芽依が行きたかったら送ってくけど」
「いかなーい!」
元気に答えて早速部屋を走り回るのは、おれに遠慮をしてないということ。こどもは元気で宜しい。
……問題は食事面だな。
自分ひとりのように肉野菜魚焼いてはい終わり!という訳にもいかない。
最初は千晶くんもいるし、花音の家で預かるかという話にもなったのだけれど、万が一ということもある。潜伏期間かもしれない。
おれがインフルエンザに罹ったところでそう困らないが、花音が罹ってしまうと仕事が困る。
つまり出来れば千晶くんにも来て欲しくない。
……とはいえそれも難しいので、何か作って差し入れするね、とは言ってくれたけど。
これを機におれももうちょっと生活力を高めるべきか。
いや高めるべきです。これくらいで心配かけるだなんて情けないったら。
「芽依ー、後で千晶お兄ちゃんが夜ご飯作ってきてくれるって。何がいーい?って」
「はんばーぐ!」
「こどもはハンバーグすきな、おれもすきだけど」
千晶くんに返信をしながら反省した。
ご飯はうちで炊いて、ええと、味噌汁くらいは自分で作った方がいい?スープの方がいいかな、インスタントだけど。
野菜もいるか?いるか。レタスあったな、ちぎるだけでいいかな。
自分だけなら何も考えないんだけどな、流石にこども、しかもひとさまの子となると多少の栄養を気にしない訳にはいかない。
お風呂……食事前と後だとどっちがいいんだろ、ご飯の後だと眠くなっちゃうかな?
慣れてないから寝てしまったら風呂に入れるのは難しい、夕方になったら先に入れちゃうか。
お布団も持ってきてたけど、ひとりで寝れるかな、一緒に寝た方がいい?
絵本も読んだげて……明日は……
……どっか連れてったげるべき?でも流石にどこか遊びにつれてくのはこわい気がする。
おれの躰のこと、小さな子とふたりで外に出ること。
だからといって約一週間、スーパーと公園以外は行きませんっていうのもなあ。
そんな悩みを抱えつつ、おれと芽依の長いお泊まり会が始まったのだった。
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