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「えっそんだけ!?」
「こら咲人」
「だってちゅーのひとつもしてないとか!」
「落ち着いて咲人」
「やる気あんのか!」
「なんのやる気だよ」
「咲人」
凜と色々話をした翌日、早速琉と咲人に捕まって促されたので話をしたのだけど、反応がこれ。
俺としては結構ちゃんと話を詰めたつもりだったのだけれど、咲人には不評だったようだ。失礼だな。
「番にするとかじゃないんだあ……」
「だからさ、それはそんな簡単にする話じゃないでしょ」
「そうだけどさあ」
見るからに不満そうに唇を尖らせる咲人に、琉が苦笑しながら仕方ないよ、と言う。
仕方ないっていうか、なんというか、番にするとか云々という色っぽさがないというか。かわいいよ、そりゃあ。俺のものにしたいと思ったよ、でもやっぱり、そういう行為をしたいかっていうと、しちゃいけないっていうか……
……凜のヒート中はそりゃあれだ、そんなん最中にあってしまえば抱きたくなる、そういうものなんだけど。
でも普段からそうかと言われると、そういう気持ちではないというか。
生理的に無理とかいう訳ではない、どうしても抱かない状況とかあれば全然いける、いけるんだけど、どうしてもあの幼い頃がちらついてしまって、弟的なかわいさで落ち着いてしまうというか。
番になることで落ち着くので番になって欲しいというのなら幾らでも。
でも前琉も言ってたじゃないか、何かあって傷付くのはオメガの方なんだから、簡単にしていいことではないんだよなあ。
「で、なんだっけ、咲人の行ってる病院だっけ?それってオメガ関係の、ってことでいい?」
「そう、あいつ発症後から病院行ってなくて」
「あーね、こっちの方まだわからないよね~」
「……違う、凜、検査受けてから病院行ってねえ」
「……は?」
琉も咲人もぽかんと口を開けて間抜けな表情になる。わかる、俺もそんなかおになった。
「……え、じゃあ今まで抑制剤は?え、え?えっ、飲んでない?えっ、ケアは?うそ、そんなことあるの?」
「抑制剤は一応飲んでたらしいけど」
「どゆこと……」
なんなら保険証すら持ってなかった。
慌てて親父に連絡してしまった、家政婦にするなら社保の話もしろと怒る俺になぜか笑っていた。笑い事じゃない。
ちゃんと話をしてないから、渡されていた金額全て生活費だと思っていた。給料とちゃんと分けろ、残ったらお小遣い、なんて考えられる子じゃない。成程財布が軽かった筈だ。
大体十代後半からヒートが始まる。
凜に確認するには、まあ小学生の頃からオメガだろうなってのはわかっていた訳で、学校での検査も当然オメガだった。
で、普通ならそこで自分に合う病院を探すものなんだけど。
既に両親は亡くなり、その遺産を吸うような親戚がまともにそういうことをやってくれる筈もなく、だからといって凜にその知識がある訳でもなく、渡された抑制剤でやり過ごしてきたらしい。
病院で調べもせずに渡された抑制剤は、凜の躰にあっていたのかどうかはわからない。その時の凜を知らないから。
でもそんな適当な与え方、親戚の方が困るんじゃないかな、と思っていたのだけれど、ひとり離れに住まわされていたらしく……まだ中高生のあどけない凜を想像して胸が痛くなった。
そして高校を卒業して初めてのヒートが先日。今まで渡されていた抑制剤はもうない。病院に行くという知識もない。当然俺に話もせず。
つまり抑制剤なしであのヒートを迎えていたということに驚愕した。
どおりで、とも思った。
だってあんな強烈なフェロモン感じたことなかった。
玄関まで漂う甘ったるいにおい。自分の躰まで熱くなるような。
「ひえ……」
「やば」
「無理無理無理、抑制剤なしでヒート迎えるのきっつい、だってあれだよ、襲われる可能性だってあるし、抑制剤飲んでない方が悪いって言われたりするんだよ?」
「躰にあう薬見つけててもきついって聞くのに……副作用大丈夫だったかな」
「凜ちゃんずっとそんなんだったの……」
「前のはよく知らんけどさあ……だからどっか良い病院ないかと思って。俺そういうの全然わからなくて」
「すぐ!予約とるから!取れたらすぐ行こ、ね、おれついてくし!」
ヒートは終わったばっかりでもこういうの早い方がいいよ、と当のオメガ本人に力説されてはそうするしかない。
すぐすぐ必要なものではないし、と思っていたけど、まあカウンセリングとか、検査とか薬の処方とかそうだよな、早い方がいいよな。
抑制剤を持ち歩いてて悪いこともないだろう。
「いつでもいいから頼む」
「いつでもいいってさあ、凜ちゃんの予定は?」
「ない、と思うけど」
「なにそれ、どっか連れてってあげなよ、こっち全然わかんないんだよ、もう少しで夏休みだし、あ、旅行!一緒行こ」
「咲人煩いからなあ……」
「はあ!?」
「どっかってなあ……凜が行きたい場所も……訊いても遠慮するだろうし」
「多分こどもっぽいとこすきだと思うよ、凜ちゃん」
こどもっぽいとこ?と訊くと、動物園とかさ、と返される。
動物園……動物園ねえ……如何にもというか、いやでも二十歳前後の男がふたり動物園っていうのも……でも話題にしやすいといえばまあ……
「おれたちも一緒にいったげよっか?」
「遠慮するわ」
なんか咲人に乗せられた気はするけど。
でもまあ、どっか連れてくのはその内とは思っていたし。確かにしっとりとした場所よりはそういうこどもっぽいところの方が……うん、似合っててかわいいと思う。
「玲司がにやけてる、きも」
「はっ倒すぞ」
「よくもまあそんな口叩けるわね、おれたちのおかげで仲直りしたくせに!」
「それはそれだから」
「……今度凜ちゃんに色々話とこ」
「止めろ馬鹿」
そんな悪ふざけをする咲人を、いつも通り琉は愛おしそうに見ているものだから、……いつか俺もそんな表情をするようになるのだろうか、と思ってしまった。
想像するとちょっと……大分気持ち悪い。
「こら咲人」
「だってちゅーのひとつもしてないとか!」
「落ち着いて咲人」
「やる気あんのか!」
「なんのやる気だよ」
「咲人」
凜と色々話をした翌日、早速琉と咲人に捕まって促されたので話をしたのだけど、反応がこれ。
俺としては結構ちゃんと話を詰めたつもりだったのだけれど、咲人には不評だったようだ。失礼だな。
「番にするとかじゃないんだあ……」
「だからさ、それはそんな簡単にする話じゃないでしょ」
「そうだけどさあ」
見るからに不満そうに唇を尖らせる咲人に、琉が苦笑しながら仕方ないよ、と言う。
仕方ないっていうか、なんというか、番にするとか云々という色っぽさがないというか。かわいいよ、そりゃあ。俺のものにしたいと思ったよ、でもやっぱり、そういう行為をしたいかっていうと、しちゃいけないっていうか……
……凜のヒート中はそりゃあれだ、そんなん最中にあってしまえば抱きたくなる、そういうものなんだけど。
でも普段からそうかと言われると、そういう気持ちではないというか。
生理的に無理とかいう訳ではない、どうしても抱かない状況とかあれば全然いける、いけるんだけど、どうしてもあの幼い頃がちらついてしまって、弟的なかわいさで落ち着いてしまうというか。
番になることで落ち着くので番になって欲しいというのなら幾らでも。
でも前琉も言ってたじゃないか、何かあって傷付くのはオメガの方なんだから、簡単にしていいことではないんだよなあ。
「で、なんだっけ、咲人の行ってる病院だっけ?それってオメガ関係の、ってことでいい?」
「そう、あいつ発症後から病院行ってなくて」
「あーね、こっちの方まだわからないよね~」
「……違う、凜、検査受けてから病院行ってねえ」
「……は?」
琉も咲人もぽかんと口を開けて間抜けな表情になる。わかる、俺もそんなかおになった。
「……え、じゃあ今まで抑制剤は?え、え?えっ、飲んでない?えっ、ケアは?うそ、そんなことあるの?」
「抑制剤は一応飲んでたらしいけど」
「どゆこと……」
なんなら保険証すら持ってなかった。
慌てて親父に連絡してしまった、家政婦にするなら社保の話もしろと怒る俺になぜか笑っていた。笑い事じゃない。
ちゃんと話をしてないから、渡されていた金額全て生活費だと思っていた。給料とちゃんと分けろ、残ったらお小遣い、なんて考えられる子じゃない。成程財布が軽かった筈だ。
大体十代後半からヒートが始まる。
凜に確認するには、まあ小学生の頃からオメガだろうなってのはわかっていた訳で、学校での検査も当然オメガだった。
で、普通ならそこで自分に合う病院を探すものなんだけど。
既に両親は亡くなり、その遺産を吸うような親戚がまともにそういうことをやってくれる筈もなく、だからといって凜にその知識がある訳でもなく、渡された抑制剤でやり過ごしてきたらしい。
病院で調べもせずに渡された抑制剤は、凜の躰にあっていたのかどうかはわからない。その時の凜を知らないから。
でもそんな適当な与え方、親戚の方が困るんじゃないかな、と思っていたのだけれど、ひとり離れに住まわされていたらしく……まだ中高生のあどけない凜を想像して胸が痛くなった。
そして高校を卒業して初めてのヒートが先日。今まで渡されていた抑制剤はもうない。病院に行くという知識もない。当然俺に話もせず。
つまり抑制剤なしであのヒートを迎えていたということに驚愕した。
どおりで、とも思った。
だってあんな強烈なフェロモン感じたことなかった。
玄関まで漂う甘ったるいにおい。自分の躰まで熱くなるような。
「ひえ……」
「やば」
「無理無理無理、抑制剤なしでヒート迎えるのきっつい、だってあれだよ、襲われる可能性だってあるし、抑制剤飲んでない方が悪いって言われたりするんだよ?」
「躰にあう薬見つけててもきついって聞くのに……副作用大丈夫だったかな」
「凜ちゃんずっとそんなんだったの……」
「前のはよく知らんけどさあ……だからどっか良い病院ないかと思って。俺そういうの全然わからなくて」
「すぐ!予約とるから!取れたらすぐ行こ、ね、おれついてくし!」
ヒートは終わったばっかりでもこういうの早い方がいいよ、と当のオメガ本人に力説されてはそうするしかない。
すぐすぐ必要なものではないし、と思っていたけど、まあカウンセリングとか、検査とか薬の処方とかそうだよな、早い方がいいよな。
抑制剤を持ち歩いてて悪いこともないだろう。
「いつでもいいから頼む」
「いつでもいいってさあ、凜ちゃんの予定は?」
「ない、と思うけど」
「なにそれ、どっか連れてってあげなよ、こっち全然わかんないんだよ、もう少しで夏休みだし、あ、旅行!一緒行こ」
「咲人煩いからなあ……」
「はあ!?」
「どっかってなあ……凜が行きたい場所も……訊いても遠慮するだろうし」
「多分こどもっぽいとこすきだと思うよ、凜ちゃん」
こどもっぽいとこ?と訊くと、動物園とかさ、と返される。
動物園……動物園ねえ……如何にもというか、いやでも二十歳前後の男がふたり動物園っていうのも……でも話題にしやすいといえばまあ……
「おれたちも一緒にいったげよっか?」
「遠慮するわ」
なんか咲人に乗せられた気はするけど。
でもまあ、どっか連れてくのはその内とは思っていたし。確かにしっとりとした場所よりはそういうこどもっぽいところの方が……うん、似合っててかわいいと思う。
「玲司がにやけてる、きも」
「はっ倒すぞ」
「よくもまあそんな口叩けるわね、おれたちのおかげで仲直りしたくせに!」
「それはそれだから」
「……今度凜ちゃんに色々話とこ」
「止めろ馬鹿」
そんな悪ふざけをする咲人を、いつも通り琉は愛おしそうに見ているものだから、……いつか俺もそんな表情をするようになるのだろうか、と思ってしまった。
想像するとちょっと……大分気持ち悪い。
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