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「凜ちゃんかっわいいじゃん、それに何の問題が?」
大学近くのファーストフード店で、ハンバーガーを頬張りながら、咲人が笑顔で訊く。
かおを合わせる度に凜のことを訊いてくるものだから、まあ軽く……俺も誰かに話したいけど結局咲人や琉にしか話せないことだし。
「かわいい、かわいいんだけど」
「んふふ」
機嫌が良さそうだ。俺が凜をかわいがるのを、そこまで喜ぶものなのだろうか。咲人には関係ないというのに。
「なんというか、俺、このままでいいのかって思って」
「……?詳しく」
態度のでかい咲人の口の端についたソースを琉が拭う。
本当に甲斐甲斐しい男だな、と思う。
俺だって凜が同じことをしたら……人前だとティッシュを渡すくらいだろうか。
「帰りの車でさ」
「うん」
「誕生日の話したの、保険証にあったからさ」
「凜ちゃんの誕生日いつ?」
「11月」
「まだまだじゃん」
「それはそうなんだけど」
多分俺もテンション上がってたんだよな、それで、知ったばかりの情報を話題に上げてしまったんだけど。
ノリとしては本当に軽く、凜の好みもよくわかってないし、財布の件で引かれたっぽいし、ただのリサーチとして、誕生日何かほしいものある?と訊いた。
勿論凜は大丈夫ですとか、何でもいいですとか遠慮しちゃうんだけと。
それでも引き下がらない俺に、ううん、と悩んで、それから自分の首元を指差した。
新しい首輪が欲しいなって思ってたんです、これ、もうそろそろぼろぼろかなって、
確かにその首輪は毎日使ってるもので、特に日によって使い分けなんてしてないようだから痛みも結構あるようなんだけど。でも。
「誕生日に首輪のプレゼントお願いするかっていう……」
「あっはは!」
「笑うな」
「だから言ってるじゃん、凜ちゃんにはなあんも伝わってないんだよ」
くしゃっと空になった包み紙を丸めて、汚れた指先を拭う。
オメガのことは咲人に訊いた方がその、心境とかわかるのかなって思ったんだけど。笑われるのも覚悟はしていたけど。
「……噛んで欲しいなんて、まだ言われるとは思ってなかったけど、でも首輪だなんてさ」
まるで噛むなと言われているようだ。
おかしいじゃないか、凜は俺のことがすきなんじゃないのか?番になりたくないのか?
あの子の性格からして、これは駆け引きではないのはわかる。
つまりやはり噛むなということ……?
「……俺とは番になんねえぞってこと?」
「てか玲司にその気がないんじゃないのお?」
「そういう、訳じゃあ……」
じゃあどういう訳かと言われたら困る。
つい先日、もうちょっと待って欲しいと凜にお願いした、でもそれは番になるのを待ってという意味ではない。そこまでの関係ではない。
だってまだキスすらしていない。
そして俺に番になる覚悟もない。
その状態でなんで項を噛んでほしいとお願いしないんだと言っても、お願いしても噛まないでしょうと言われたらその通りだ。
でもその予防線を張られるのと、噛むなよと牽制されるのとでは話が違う。
……結局はただの俺の我儘なのだ。わかってるけど。
「わかってるけど凜にそう言われると……」
「うける」
「うけない」
「凜ちゃんが悩んだ分玲司にも悩んで欲しい」
「お前……」
でもおれは優しいからアドバイスしてあげる、玲司の為じゃないよ、凜ちゃんの為だよ、と咲人はにんまり笑う。
……それでいい。
この期に及んで凜より俺を優先しろとは言えない。言ってるようなものだけど。
「凜ちゃん甘やかし月間だよ」
「……は」
「凜ちゃんを甘やかして甘やかしてだいすきだよ~ってすんの。どうせ玲司のことだもん、愛情表現、こないだ言ったのに大して見せてないんでしょ」
「結構……したつもりなんだけど」
「まだまだだよお、信用がないの、今の玲司はぜーんぜん!ないの」
「全然……」
「そう、マイナススタートと思ってるくらいで丁度いいよ」
「マイナス……そんなに?」
「今までのこと思い出しなよ、それに凜ちゃんの性格と境遇だよ、あの子が番になってほしい、なんて言える訳ないでしょ」
そんな我儘を言えるくらい、優しくしてあげなきゃ、わからせてあげなきゃ。そんな我儘じゃ嫌いになんないよ、大丈夫だよって伝えなきゃ。
そう咲人は続ける。
そして、まずは番より、お付き合いが先じゃない?と。
「お付き合い……」
「ちゃんと言った?」
「…………」
「言ってないかおだ」
「……言ってないですね」
「言ってこい」
そうだ、かわいいとは言った、でも様子をみたいとか、そういうことばかりで……
いやだってあのヒート状態でそんな話も出来なかったし、後からでもいいって思ったし、でもその後からも話して……ないな?あれ、俺ひとりで先走ってた?え?あれ?そりゃあ噛んでなんて言わない……言えない、か?
いやでもわかるだろ?あんなの、俺だって凜のことを気にしてるってわかるだろ?俺そんなにわかりにくいか?
「言葉ってね、だいじなんだよ」
「……」
「それを言ってくれるか言ってくれないかで全然違うの、特に凜ちゃんみたいな子はね」
そして玲司もね、と咲人は笑う。全てを知らない筈の咲人の方が、俺より知っているようで、何だか少し、妬いてしまうような、そんな気持ちだった。
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