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「玲司さんが、オメガがきらいなのはわかってます、だからぼくはオメガになりたくない」
ヒートをひとりで耐えれば、その間俺と会わなければ、番の話をしなければ、「俺」に「オメガ」を見せなくてすむ。
オメガでなければ、俺は凜に、優しくしてくれる。
それで十分だと。
嫌われるよりずっといいと。
やっぱりこの子は馬鹿だ。
そんなの、嫌われなくたって、忘れられてしまえば意味がないのに。
愛されてだいじされて、しあわせに、そう思えないなんて。
「……こどもなんて、産まなくていい」
「そんな訳には」
「いい、凜がいてくれたら、それで」
「だめです、アルファは優秀だから、いっぱいこども産んだ方がいいって聞きました」
「誰にだよ!」
「……だめです」
俺のことが嫌いだ、番になりたくない、まだ早い、他にすきなひとがいる、それならまだ考える余地はあった。
でもそんな、俺にきらわれたくない、そんな理由なら、俺は凜を離すことなんて出来ない。
だってすごく腹が立つ。
俺から離れるなんて、そんなのかなしい、さみしい、嫌だ、他の奴になんてやりたくない。
この数ヶ月で、そんな気持ちにさせた癖に。
笑わせてあげたい、泣いたかおがみたい、かなしいかおも、でもやっぱりしあわせだなって思ってくれたら嬉しい。
行きたいところに連れて行って、美味しいものを食べさせて、ほしがるものはなんだってあげたい。
俺のにおいが安心するって言ったじゃないか。
それなのに俺を置いて、他に行くと言うのか。
まだ抱き締めて寝たことがない、キスも、愛の言葉も、何もしてない、ただの性欲処理しかしてない。
あれを他の奴にさせるだなんて許せない、凜を他の奴に触らせたくない、そんなの許さない、俺以外が凜に触れるのは駄目だ、駄目、そんなのは、
「……裏切らないって言ったじゃないか」
「裏切ってないです」
「噛んでいいって言ったろ」
「あ、あの時は……その、つい」
「つい、で裏切らないなんて言ったの」
「それは!それは本気で」
「でも俺を捨てるじゃないか」
「捨てないです……!」
「一緒だよ」
一緒だ、甘い言葉を吐いて、その気にさせて、捨てて、その癖都合が悪いと戻って来て、何もなかったかのように俺を抱き締めた母と一緒。
その時だけ甘い言葉とにおいをさせて、アルファに寄ってくるオメガと一緒。
所詮オメガはオメガ、きっと面倒臭い俺なんかより、他のアルファを選んだ方がいいとふんだのだ。
「だって、」
「いいよもう、もういい」
「いやです、きらいにならないで」
「無理だよ」
「いやだ、何でも我慢するから、きらいになるのはいやだ」
「何でも?噛まれたくないんでしょ」
「だって噛んだら、ずっと玲司さんのオメガになっちゃう、いやだ、いや、いやだ……もう玲司さんの前でオメガになりたくないっ……」
言ってる意味がわからなかった。
噛んだらオメガになる?
オメガだから、番にする為に噛むんだろう?オメガでも俺は、凜なら良いと、強い子だと思ったから、だから、凜が良くて、
「ごめんなさい、こどもも産めないし、頭も悪いし、いいとこなんてなんもなくて、それでもおにいちゃんにはきらわれたくなかった」
「……」
「全部、全部嬉しかった、運命の番なんて、口約束でしかなかったけど、それでも嬉しかった、でもオメガきらいっていうから、仕方ないなって、オメガなら仕方ないって、だから、ぼくがオメガじゃなかったらって思うのに、おにい、玲司さん、の前でヒートきちゃうし、こども出来ないくせに、ほしくなっちゃうし、だめなのわかってるのに、でも嬉しくて」
「嬉しいなら番で問題ないだろ」
「……今はよくても、こども、いないと、捨てられちゃうかも、しれない」
「は」
「ごめんなさい、こわいんです、こわい、番にして貰って、その後捨てられちゃうの、こわいんです、こども出来ないし、いいとこ何もないから、玲司さんが他のひとをすきになったらどうしようって、こわい、ぼく、ひとりでずっと、生きてかなきゃいけなくなるのかなって、狡いんです、自分のことばっかり考えちゃう、玲司さんにこどもを産んであげられないことより、きらわれて、それでひとりになっちゃうことばっかり考えちゃうんです、番にしてほしいのに、嬉しいのに、自分が苦しいのがいやなんです……っ」
自分のことばっかり考えてごめんなさい、きらわれたくなくて、そんなこと言えなくて、玲司さんの為だって言いながら、自分の為でごめんなさい。
凜が口を開く度に涙が落ちていく。
そんなことで、そんな普通の、当たり前のことで悩んで、馬鹿みたいだ、相談すれば済むことなのに、そう思うけれど、オメガにとっては一大事なのだ。
番相手を間違えれば、辛いのは自分。
番相手しかフェロモンの通じなくなるオメガは、捨てられてしまえば他に番を作ることは出来ず、一生ヒートを持て余したまま、番が出来る前のような夢を見ることも出来ずに苦しむだけ。
だからオメガは運命の番を夢見る、自分をだいじにしてくれるひとを求めて、番になる相手がそうであればいいと。失敗したくないと。
それをこわがるのはおかしくないのに。
俺のせいで余計に怯えさせてしまっている。
わかってるじゃないか、我慢なんて本当はしたくない、するしかなかったんだって。
ヒートをひとりで耐えれば、その間俺と会わなければ、番の話をしなければ、「俺」に「オメガ」を見せなくてすむ。
オメガでなければ、俺は凜に、優しくしてくれる。
それで十分だと。
嫌われるよりずっといいと。
やっぱりこの子は馬鹿だ。
そんなの、嫌われなくたって、忘れられてしまえば意味がないのに。
愛されてだいじされて、しあわせに、そう思えないなんて。
「……こどもなんて、産まなくていい」
「そんな訳には」
「いい、凜がいてくれたら、それで」
「だめです、アルファは優秀だから、いっぱいこども産んだ方がいいって聞きました」
「誰にだよ!」
「……だめです」
俺のことが嫌いだ、番になりたくない、まだ早い、他にすきなひとがいる、それならまだ考える余地はあった。
でもそんな、俺にきらわれたくない、そんな理由なら、俺は凜を離すことなんて出来ない。
だってすごく腹が立つ。
俺から離れるなんて、そんなのかなしい、さみしい、嫌だ、他の奴になんてやりたくない。
この数ヶ月で、そんな気持ちにさせた癖に。
笑わせてあげたい、泣いたかおがみたい、かなしいかおも、でもやっぱりしあわせだなって思ってくれたら嬉しい。
行きたいところに連れて行って、美味しいものを食べさせて、ほしがるものはなんだってあげたい。
俺のにおいが安心するって言ったじゃないか。
それなのに俺を置いて、他に行くと言うのか。
まだ抱き締めて寝たことがない、キスも、愛の言葉も、何もしてない、ただの性欲処理しかしてない。
あれを他の奴にさせるだなんて許せない、凜を他の奴に触らせたくない、そんなの許さない、俺以外が凜に触れるのは駄目だ、駄目、そんなのは、
「……裏切らないって言ったじゃないか」
「裏切ってないです」
「噛んでいいって言ったろ」
「あ、あの時は……その、つい」
「つい、で裏切らないなんて言ったの」
「それは!それは本気で」
「でも俺を捨てるじゃないか」
「捨てないです……!」
「一緒だよ」
一緒だ、甘い言葉を吐いて、その気にさせて、捨てて、その癖都合が悪いと戻って来て、何もなかったかのように俺を抱き締めた母と一緒。
その時だけ甘い言葉とにおいをさせて、アルファに寄ってくるオメガと一緒。
所詮オメガはオメガ、きっと面倒臭い俺なんかより、他のアルファを選んだ方がいいとふんだのだ。
「だって、」
「いいよもう、もういい」
「いやです、きらいにならないで」
「無理だよ」
「いやだ、何でも我慢するから、きらいになるのはいやだ」
「何でも?噛まれたくないんでしょ」
「だって噛んだら、ずっと玲司さんのオメガになっちゃう、いやだ、いや、いやだ……もう玲司さんの前でオメガになりたくないっ……」
言ってる意味がわからなかった。
噛んだらオメガになる?
オメガだから、番にする為に噛むんだろう?オメガでも俺は、凜なら良いと、強い子だと思ったから、だから、凜が良くて、
「ごめんなさい、こどもも産めないし、頭も悪いし、いいとこなんてなんもなくて、それでもおにいちゃんにはきらわれたくなかった」
「……」
「全部、全部嬉しかった、運命の番なんて、口約束でしかなかったけど、それでも嬉しかった、でもオメガきらいっていうから、仕方ないなって、オメガなら仕方ないって、だから、ぼくがオメガじゃなかったらって思うのに、おにい、玲司さん、の前でヒートきちゃうし、こども出来ないくせに、ほしくなっちゃうし、だめなのわかってるのに、でも嬉しくて」
「嬉しいなら番で問題ないだろ」
「……今はよくても、こども、いないと、捨てられちゃうかも、しれない」
「は」
「ごめんなさい、こわいんです、こわい、番にして貰って、その後捨てられちゃうの、こわいんです、こども出来ないし、いいとこ何もないから、玲司さんが他のひとをすきになったらどうしようって、こわい、ぼく、ひとりでずっと、生きてかなきゃいけなくなるのかなって、狡いんです、自分のことばっかり考えちゃう、玲司さんにこどもを産んであげられないことより、きらわれて、それでひとりになっちゃうことばっかり考えちゃうんです、番にしてほしいのに、嬉しいのに、自分が苦しいのがいやなんです……っ」
自分のことばっかり考えてごめんなさい、きらわれたくなくて、そんなこと言えなくて、玲司さんの為だって言いながら、自分の為でごめんなさい。
凜が口を開く度に涙が落ちていく。
そんなことで、そんな普通の、当たり前のことで悩んで、馬鹿みたいだ、相談すれば済むことなのに、そう思うけれど、オメガにとっては一大事なのだ。
番相手を間違えれば、辛いのは自分。
番相手しかフェロモンの通じなくなるオメガは、捨てられてしまえば他に番を作ることは出来ず、一生ヒートを持て余したまま、番が出来る前のような夢を見ることも出来ずに苦しむだけ。
だからオメガは運命の番を夢見る、自分をだいじにしてくれるひとを求めて、番になる相手がそうであればいいと。失敗したくないと。
それをこわがるのはおかしくないのに。
俺のせいで余計に怯えさせてしまっている。
わかってるじゃないか、我慢なんて本当はしたくない、するしかなかったんだって。
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