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「だって……こないだも、ぎゅってされただけで、ヒートきちゃって……だって、だって……玲司さんのにおいするから、勝手になっちゃう、玲司さんのこと考えたら……オメガになっちゃう、から……」
オメガという性自体が気持ち悪かった。
オメガだからとアルファに寄ってくるのがいやだった。
でも凜は、俺相手だからオメガになる訳で、それは話が違う、そうなると話は違うのだ。
オメガだから俺をすきになったのではなく、そして俺も、アルファだから凜を選んだんじゃない。
そこに第二の性がついてきてしまっただけだ、だいじだから、相手が苦しまないように、楽になるようにしてあげるだけ。
凜はその性のことで嫌な目にばかり遭ってきたし、俺だって嫌なことも得をしたこともあった。
きっとそれはこれからもあるし、そこに甘える自分もいると思う。
でもそんなのを切り離してしまえば単純な話。お互いがお互いを想ってる、それならさっさとくっついてしまえばいいのだ。
そこに着いてくる不安なんて、結局は誰にだって着いてくるもの。
明日家や仕事を失うかもしれない、相手が居なくなるかもしれない、星が滅びるかもしれない。
そんなのは誰でも有り得る不安だ。
それでも、毎日を乗り越えていくのは皆同じ。
その不安があっても、それでも一緒にいたい、ずっと、そう思うから皆約束を、契りを交わす。
俺も不安だ、凜を誰かに取られたくない、でも何もせずに取られてしまうのはもっと嫌だ。
さっさと俺のものにして、俺でよかった、そう毎日感じてもらうようにすればいい。
不安なんて誰にでもある、それを毎日毎日クリアしていくしかない。今日は大丈夫だった、明日も凜と一緒にいられるよう頑張ろう、そうやって過ごしていくしかない。
それが出来ないなら、俺は凜が誰かに取られるのを指を咥えて見ているしかない。そしてそれが嫌だから、自分が出来ることをするしかないのだ。
そうやって考えていかなきゃ、きっと俺達はずっとさみしいままの未来しか見えない。
「……凜が俺のにおいでオメガになってしまうなら、それはもうそれでいいんだ、そんなに俺のこと、すきなんだなあって、俺、嬉しくなっちゃうから」
「でも……オメガにっ……」
「きらいになんないよ、凜のことは」
「……うそだあ」
「不安だよね、俺だって不安だよ、でも信じなきゃ、俺、凜が俺から離れる方が嫌だよ、こどもの時みたいに凜に信用してもらいたいって思うよ」
「……ぼくは……」
「凜は俺が誰か他のひとを番にしてもいいの?嫌なんでしょ?結芽に嫉妬するくらいだもんね?」
「いや……いやだけど、でも、」
「凜が俺のこと、しあわせにしてよ」
かおを逸らそうとする凜の頬を掴んで、俺の視線と合うようにさせる。
ぐらぐら揺らいでたその視線が観念したように合うと、もうそこから離すことが出来ない。
零れそうな大きな瞳が不安そうで、何か言いたそうな小さな唇は結局言葉に出来なくて、たまに鼻を鳴らして、それから泣きそうな表情でやっと小さく頷いた。
「……まだ、噛まない、んですよね?」
「来月までね」
「……噛まない、こともあるんですか……?」
「凜が俺のこときらいになったら噛まないよ」
「ならないです、ならないぃ……」
ぎゅうと裾を握り締めて、口元を歪めて、駄々を捏ねるこどもみたいに泣く。そんなの、噛んでと言ってるようなものだけど、気付いてるのかな。心臓がきゅうとなってしまう。
かわいい。
やっぱりかわいいんだ、早く噛んで、自分のものにしてしまいたい、そう思う程、昔も今も、かわいくて仕方がない。俺だけのものにしたい、そんな独占欲、なんで忘れられていたのだろう。
涙の筋の残る頬を撫でて、耳元に触れる。こんなところまで小さいんだなあ、と思いながらつい指先で確認をしてしまう。
凜の肩がぴく、と上がる。
それにぞくりとしてしまって息を呑む。
少し下がって首筋に触れると、んう、と凜の声が漏れた。
「……俺の部屋でいい?」
「え……ぅあッ」
軽い凜の躰を抱き上げる。相変わらず中身のない人形のような、想像してなかった軽さに驚いてしまう。
ここに来たよりは、少しくらい、頬とかふっくらしたようには思うんだけど。
「まっ、まってくださ……」
「待たない」
「う」
「待ったら凜、こわくなって逃げちゃうでしょ」
「……ちが、あの、玲司さんの部屋じゃなくて……」
「俺の部屋じゃなくて?」
「うう、あの、玲司さんの部屋、は、その、においが」
「嫌?」
「いやじゃない……ないですけど、今日は……」
酔っちゃいそうなので、と俺の頭を抱えるようにして言う。
視界が少し遮られてしまうけど、そんなの構わないと思うくらい、幼い行動が愛おしい。
俺のにおいでとろとろに蕩けてしまった凜が見たい。
でも確かに今日は駄目だ、なってしまったらそれはそれで仕方がないけれど、今日は普通、の凜を抱きたいのだから。オメガじゃなくてもすきだと伝えたいのに、ヒート状態にさせてしまっては意味がない。
じゃあ凜の部屋にしようか、と言うと、ほっとしたように感じた。
ほんのちょっと、残念ではあるのだけれど、行為自体を嫌がってる訳ではないようで、それに対して俺はほっとしてしまう。
オメガという性自体が気持ち悪かった。
オメガだからとアルファに寄ってくるのがいやだった。
でも凜は、俺相手だからオメガになる訳で、それは話が違う、そうなると話は違うのだ。
オメガだから俺をすきになったのではなく、そして俺も、アルファだから凜を選んだんじゃない。
そこに第二の性がついてきてしまっただけだ、だいじだから、相手が苦しまないように、楽になるようにしてあげるだけ。
凜はその性のことで嫌な目にばかり遭ってきたし、俺だって嫌なことも得をしたこともあった。
きっとそれはこれからもあるし、そこに甘える自分もいると思う。
でもそんなのを切り離してしまえば単純な話。お互いがお互いを想ってる、それならさっさとくっついてしまえばいいのだ。
そこに着いてくる不安なんて、結局は誰にだって着いてくるもの。
明日家や仕事を失うかもしれない、相手が居なくなるかもしれない、星が滅びるかもしれない。
そんなのは誰でも有り得る不安だ。
それでも、毎日を乗り越えていくのは皆同じ。
その不安があっても、それでも一緒にいたい、ずっと、そう思うから皆約束を、契りを交わす。
俺も不安だ、凜を誰かに取られたくない、でも何もせずに取られてしまうのはもっと嫌だ。
さっさと俺のものにして、俺でよかった、そう毎日感じてもらうようにすればいい。
不安なんて誰にでもある、それを毎日毎日クリアしていくしかない。今日は大丈夫だった、明日も凜と一緒にいられるよう頑張ろう、そうやって過ごしていくしかない。
それが出来ないなら、俺は凜が誰かに取られるのを指を咥えて見ているしかない。そしてそれが嫌だから、自分が出来ることをするしかないのだ。
そうやって考えていかなきゃ、きっと俺達はずっとさみしいままの未来しか見えない。
「……凜が俺のにおいでオメガになってしまうなら、それはもうそれでいいんだ、そんなに俺のこと、すきなんだなあって、俺、嬉しくなっちゃうから」
「でも……オメガにっ……」
「きらいになんないよ、凜のことは」
「……うそだあ」
「不安だよね、俺だって不安だよ、でも信じなきゃ、俺、凜が俺から離れる方が嫌だよ、こどもの時みたいに凜に信用してもらいたいって思うよ」
「……ぼくは……」
「凜は俺が誰か他のひとを番にしてもいいの?嫌なんでしょ?結芽に嫉妬するくらいだもんね?」
「いや……いやだけど、でも、」
「凜が俺のこと、しあわせにしてよ」
かおを逸らそうとする凜の頬を掴んで、俺の視線と合うようにさせる。
ぐらぐら揺らいでたその視線が観念したように合うと、もうそこから離すことが出来ない。
零れそうな大きな瞳が不安そうで、何か言いたそうな小さな唇は結局言葉に出来なくて、たまに鼻を鳴らして、それから泣きそうな表情でやっと小さく頷いた。
「……まだ、噛まない、んですよね?」
「来月までね」
「……噛まない、こともあるんですか……?」
「凜が俺のこときらいになったら噛まないよ」
「ならないです、ならないぃ……」
ぎゅうと裾を握り締めて、口元を歪めて、駄々を捏ねるこどもみたいに泣く。そんなの、噛んでと言ってるようなものだけど、気付いてるのかな。心臓がきゅうとなってしまう。
かわいい。
やっぱりかわいいんだ、早く噛んで、自分のものにしてしまいたい、そう思う程、昔も今も、かわいくて仕方がない。俺だけのものにしたい、そんな独占欲、なんで忘れられていたのだろう。
涙の筋の残る頬を撫でて、耳元に触れる。こんなところまで小さいんだなあ、と思いながらつい指先で確認をしてしまう。
凜の肩がぴく、と上がる。
それにぞくりとしてしまって息を呑む。
少し下がって首筋に触れると、んう、と凜の声が漏れた。
「……俺の部屋でいい?」
「え……ぅあッ」
軽い凜の躰を抱き上げる。相変わらず中身のない人形のような、想像してなかった軽さに驚いてしまう。
ここに来たよりは、少しくらい、頬とかふっくらしたようには思うんだけど。
「まっ、まってくださ……」
「待たない」
「う」
「待ったら凜、こわくなって逃げちゃうでしょ」
「……ちが、あの、玲司さんの部屋じゃなくて……」
「俺の部屋じゃなくて?」
「うう、あの、玲司さんの部屋、は、その、においが」
「嫌?」
「いやじゃない……ないですけど、今日は……」
酔っちゃいそうなので、と俺の頭を抱えるようにして言う。
視界が少し遮られてしまうけど、そんなの構わないと思うくらい、幼い行動が愛おしい。
俺のにおいでとろとろに蕩けてしまった凜が見たい。
でも確かに今日は駄目だ、なってしまったらそれはそれで仕方がないけれど、今日は普通、の凜を抱きたいのだから。オメガじゃなくてもすきだと伝えたいのに、ヒート状態にさせてしまっては意味がない。
じゃあ凜の部屋にしようか、と言うと、ほっとしたように感じた。
ほんのちょっと、残念ではあるのだけれど、行為自体を嫌がってる訳ではないようで、それに対して俺はほっとしてしまう。
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