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14.管理人、やめます

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 すべてをマオに話すと、マオはやはりな……。とうなずいた。
「それで、『フローリア王女、アンダーソン公子と婚約』の知らせを聞き、城にもどろうと思ったんだな」
 そう、わたしのかわいい妹、フローリア。
 まだ、十二歳のあの子が、わたしの代わりに、アンダーソンと婚約することになってしまう。
 それだけは、防ぎたかった。
 わたしが逃げても、だめだったのだ。
 わたしの代わりに、不幸になる妹がいる。
 そのことから目をそむけていままで生活してきた。
 ここで、このダンジョン・マンションの管理人の「エート」として、わたしだけが幸せになるなんて、できない。
「だから、マオ。わたしを、やめさせてください」
 わたしは、マオに頭を下げた。
 マオは……。
「分かった」
 と、言ってくれた。
 自分で言ったくせに、居場所を失ったような気がして、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
 でも、仕方がないよね。
 いくらマオだからって、こんな、王族と竜倒公爵の息子との結婚を止めることなんて、できないよ……。
「ただし、その前に聞きたいことがある」
 わたしは力なく顔を上げた。
 聞きたいこと? なんだろう?
「エート、おまえに、戦う覚悟はあるか?」
 戦う、覚悟……?
 どういうこと?
 わたしが疑問に思っていると、マオはわたしの目をじっと見つめた。
「逃げるのではなく、戦う覚悟だ。もし、未来を切り開きたいと思うなら、父ともアンダーソン公子とも戦わなければならなくなるだろう」
 逃げるのではなく、戦う……? お父様とも、アンダーソンとも……。
「戦うっていったって、どうすればいいの?」
 わたしの声は、途方に暮れた迷子の子どものようだった。
 だって、お父様は国王で、国で一番偉くて。
 アンダーソンだって、王族になる気満々で。
 そんな人たちを相手に、なんの力も持たないわたしが、どう戦うかなんて、全然分かんないよ。
「それはおれたち管理人が、みんなで考る。どう動いて、どう物事を進めていくかは、まかせてくれ。おまえは、覚悟を決めさえすればいい」
 マオは静かにそう言って、黙ってしまった。
 ……わたしの返事を待ってるんだ。
 わたしは、自身に問いかける。
 戦うということは、マオを、そして管理人たちをひたすらに信じて、突き進むこと。
 その勇気が、わたしにある?
『もし、おまえが何か困っていて、抱えきれなくなったら、その重荷をおれたちに分けてくれ。きっと、力になる……』
 ふと、熱を出した時に聞いたマオの言葉が頭に浮かんだ。
 その時の髪をすいてくれた手の温かさや、優しい声も。
 ――今が、その時なのかもしれない。
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