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16.いざ、勝負!

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 わたしがコロッセオの中央にあるリングに足を運ぶと、歓声が上がった。
「エレオノーラ王女だ!」
「よくぞ、ご無事で!」
「王女ー! 案じておりました!」
 そんな声が、あちこちから聞こえる。
 エートと呼ばれなれていたから、なんだか不思議な感じ。
 でも、懐かしくて、心があったかくなる。
 みんな、心配してくれてたんだね。
 その声にこたえたくて、音がよく響く風の魔法を城づかえの魔法使いにかけてもらう。
「国民の皆様、たいへん心配をかけてしまい、申し訳ありませんでした」
 わあっと再び上がる、歓声。
「わたくしは、愛なき結婚をしいられていました。この国の、後継ぎのために、と……。それで、逃げ出してしまったのです。国民の皆様には、深くお詫び申し上げます」
 今度は、会場がしん、と静まり返った。
 みんな、じっと耳をかたむけてくれている。
「城の外の世界で、わたくしはいろいろな方と知り合いました。その方たちは、自分の仕事に誇りを持ち、とても生き生きと仕事をしていました。わたくしは、思ったのです。このまま愛のない結婚をして、心を失った時、わたくしは自分の王族としての仕事に誇りをもてなくなる、と。生きた人形のまま、生涯を終えるのは、あまりにもくやしい」
 すうっと息を吸う。この会場、全員に響きわたるような声で、宣言しよう。
「だから、今日の試練をすることにしたの! 後継ぎとは、自分の力で勝ち取るもの! 愛のない結婚なんて、まっぴらだよ!」
 わたしの口調が変わり、会場中がざわめく。
 そんな中、聞こえてきたのは……。
「愚かな女王のことを忘れたのか⁉」
「あまりにも、自分勝手すぎる!」
「そうだ、国を守るためにも、アンダーソン様と、結婚すべき!」
「王女様、ケガをする前に、降参なさってください!」
 わたしの行動をとがめる、保守的な声。
 それが、開場のほとんどを占めていて……。心がちょっと折れそうになる。
 でも、確かに、こんな声も聞こえてきたんだ。
「王女様、がんばってくださーい!」
「愛のない、結婚反対!」
「時代は変わるべきだ! 王女様、ばんざーい!」
 うん、がんばるよ。
 わたしは、わたしの道を行くんだ!
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