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☆懐かしい相手

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「・・・ロヴァンナ」

声をかけると、目の前にいた女性がピタリと止まった。
振り向いた顔は・・・別れた時と何ら変わらない。

彼女はロヴァンナ・ヴォイツ。

俺の・・・ネロの祖国のヴォイツ公爵の、長女だった。

「ネロ・・・どうしてここにいるの?」

震える声に問われ、俺は目を逸らした。

あの国を出ることは、ヴォイツ・・・ロヴァンナの父にしか言っていない。
引き止められたが押し通し、ネロは国を出た。

・・・ヴォイツは、ロヴァンナの婿としてずっとここにいればいいと言った。
ロヴァンナも、喜ぶだろうと。

・・・ロヴァンナは、自分より少し年下の、要領のいい美しい少年に恋していたから。

「・・・ロヴァンナはなんでここに?」
「アンナって呼んでくれないの」

それは存外悲痛な叫びだった。
俺は言葉を全て飲み込んだ。
泣きそうな女性相手に、同性との結婚を望まれているだなんて言えないだろう。
だから、もう一度繰り返した。

「・・・どうしてここに?」
「・・・父の代わり、主催の公爵家に縁があって・・・」
「・・・ヴォイツがどうかしたのか?」
「違うわ、ただ忙しくて、予定が埋まってるの。事業が大当たりしたのよ!ねえネロ、生活がかなり楽になったの、新しい居住区も建設するわ、ヴォイツはこれからどんどん豊かになる・・・その時、私はあなたに隣にいて欲しい。帰ってきて・・・っ、お願い、ネロ・・・!」

泣き始めるロヴァンナ。
一度は結婚だって考えた幼馴染・・・でも、きっと結ばれることは無い。

「・・・ごめんロヴァンナ、俺は──────────」
「おい、ネロ?」

ちょうどその時、俺たち二人が話していた通路にリュオンが出てきた。
スタスタと歩いてくる美貌の男は、俺の真向かいで涙を擦ってカーテシーを披露したロヴァンナに眉を・・・いや、おそらく俺に眉をしかめて、「何泣かせてんだよ」と言ってきた。

「泣かせてない」と言い返したかったが実際泣かしているので何も言えず黙り込む。

するとリュオンは眉をはね上げ、「まじで泣かしたのか」と呟いた。
・・・なんだよその謎の信頼は。

言い返そうとしたがその前にロヴァンナが顔を上げた。

「神子様!どうか、どうかお願いですっ・・・どうか、ネロを解放してください!」

そしてそんな、リュオンにとって・・・そしてネロにとっても、ちょっと困ることを言い出した。

「・・・はあ?」
「ちょ、ロヴァンナ・・・」 

リュオンは制御をなくしてしまうし、俺はヴォイツを立て直すという目標への足がかりを失う。
事業が大当たりしたって言ってもきっと今だけ、すぐ他の領に真似され、もっと精度が高いものが生み出されるだけ・・・もう何度も繰り返して、慣れ切ったものだ。

そのことをよくわかっているからネロはたいそう困り果てた。
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