俺の恋路を邪魔するなら死ね

ものくろぱんだ

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△月が綺麗だな。ただの岩だろう。

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天から月光の光が優しく降り注ぐ夜。

避暑地の別荘の一室に、一人の少年が横たわっていた。
・・・私の拾ってきた黒髪の子供だ。

結局昼間から一度も起きず、ネーヴェ一行は目的地に到着していた。
元々母も一緒に来るはずだったが、愛妻家の父にごねにごねられ、結局いつも通り兄妹二人で来ることになったのだ。
まあいつもの事だ。

基本仲のいい家族だが、両親と兄妹は別々に過ごすことが多い。
夏などは特にそうだ。
熱い王都から離れ、涼しい避暑地で夏を過ごす。
ちょうど社交界シーズンなので飽きはしない。
・・・もちろん馬車の中は別の話だ。

ビアンカは拾った子供ばかり気にする兄にそうそうに愛想をつかせ、近くの別荘に来ているはずの友人を訪ねると言い残しさっさと言ってしまった。
先程泊まるという連絡が来たので帰ってくるのは明日になるだろう。
ネーヴェ一行に歳の近いものはおらず、ネーヴェの側近候補達ものちのち避暑地に赴く予定なので暇を持て余した私はずっと少年のそばにいた。

明日は避暑地の管理人が預かってくれていた犬を連れてきてくれる日だ。
ビアンカによってショコラと名付けられたブラウンの毛並みの犬は、ネーヴェが誕生日に贈られた相棒だった。
躾をされてから王宮に来る予定なのだ。
自由奔放なショコラがいつになったら王宮に来れるほどになるかは、ショコラ自身のやる気による。
とにかく、一年ぶりの感動の再会を果たす・・・と思われる明日を楽しみに、私は少年の横顔を見守っていた。

息を飲むほど綺麗で、神の使いと言われてもそのまま信じてしまいそうな美しい少年だ。
ネーヴェは彼の名を知りたいと思い、許されるならその瞳の色を知りたいと思った。

ふと彼を照らし出していた月光が影った。
窓の外でうっすらと雲がかかる月が煌々と輝いている。
天を突くように大木が積み上がり、ザワザワと深い緑を揺らす様は壮観だった。
ネーヴェは美しいものが好きだ。
その景色はネーヴェにとって美しいと思えるものだった。

ちょうど護衛が交換する時間帯だった。
誰かに呼ばれたのか、護衛が席を外す旨を告げる。
ほんの少しだ、と私は頷いた。



そして自分と少年の息遣い以外何も聞こえないその部屋で、ポツリと呟いた。

「・・・月が綺麗だな」
「ただの岩だろう」

独り言に、思ったよりもはっきりとした口調が返ってきた。

「え?」

見た先にいた少年は、いつの間にか体を起こしていた。
その虚ろな瞳に囚われる。

少年の瞳は、全てを飲み込み消し去るような仄暗い群青をしていた。
ゾッとするほどに冷たく、絶望や憤怒を詰め込んだかのような色に息を飲んだ。

そして、私は──────────。

「へえ、物知りなんだな」

そう、言葉を繋げた。

「だが月がただの岩なら、なぜ浮く?なぜ光るのだ?」
「・・・」

固まる少年に続きを促す。
やがて「それは・・・」とぽそぽそと紡がれ始めた少年の美しい声に耳を傾け、夜は更けていった。
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