38 / 39
△月が綺麗だな。ただの岩だろう。
しおりを挟む
天から月光の光が優しく降り注ぐ夜。
避暑地の別荘の一室に、一人の少年が横たわっていた。
・・・私の拾ってきた黒髪の子供だ。
結局昼間から一度も起きず、ネーヴェ一行は目的地に到着していた。
元々母も一緒に来るはずだったが、愛妻家の父にごねにごねられ、結局いつも通り兄妹二人で来ることになったのだ。
まあいつもの事だ。
基本仲のいい家族だが、両親と兄妹は別々に過ごすことが多い。
夏などは特にそうだ。
熱い王都から離れ、涼しい避暑地で夏を過ごす。
ちょうど社交界シーズンなので飽きはしない。
・・・もちろん馬車の中は別の話だ。
ビアンカは拾った子供ばかり気にする兄にそうそうに愛想をつかせ、近くの別荘に来ているはずの友人を訪ねると言い残しさっさと言ってしまった。
先程泊まるという連絡が来たので帰ってくるのは明日になるだろう。
ネーヴェ一行に歳の近いものはおらず、私の側近候補達ものちのち避暑地に赴く予定なので暇を持て余した私はずっと少年のそばにいた。
明日は避暑地の管理人が預かってくれていた犬を連れてきてくれる日だ。
ビアンカによってショコラと名付けられたブラウンの毛並みの犬は、ネーヴェが誕生日に贈られた相棒だった。
躾をされてから王宮に来る予定なのだ。
自由奔放なショコラがいつになったら王宮に来れるほどになるかは、ショコラ自身のやる気による。
とにかく、一年ぶりの感動の再会を果たす・・・と思われる明日を楽しみに、私は少年の横顔を見守っていた。
息を飲むほど綺麗で、神の使いと言われてもそのまま信じてしまいそうな美しい少年だ。
ネーヴェは彼の名を知りたいと思い、許されるならその瞳の色を知りたいと思った。
ふと彼を照らし出していた月光が影った。
窓の外でうっすらと雲がかかる月が煌々と輝いている。
天を突くように大木が積み上がり、ザワザワと深い緑を揺らす様は壮観だった。
ネーヴェは美しいものが好きだ。
その景色は私にとって美しいと思えるものだった。
ちょうど護衛が交換する時間帯だった。
誰かに呼ばれたのか、護衛が席を外す旨を告げる。
ほんの少しだ、と私は頷いた。
そして自分と少年の息遣い以外何も聞こえないその部屋で、ポツリと呟いた。
「・・・月が綺麗だな」
「ただの岩だろう」
独り言に、思ったよりもはっきりとした口調が返ってきた。
「え?」
見た先にいた少年は、いつの間にか体を起こしていた。
その虚ろな瞳に囚われる。
少年の瞳は、全てを飲み込み消し去るような仄暗い群青をしていた。
ゾッとするほどに冷たく、絶望や憤怒を詰め込んだかのような色に息を飲んだ。
そして、私は──────────。
「へえ、物知りなんだな」
そう、言葉を繋げた。
「だが月がただの岩なら、なぜ浮く?なぜ光るのだ?」
「・・・」
固まる少年に続きを促す。
やがて「それは・・・」とぽそぽそと紡がれ始めた少年の美しい声に耳を傾け、夜は更けていった。
避暑地の別荘の一室に、一人の少年が横たわっていた。
・・・私の拾ってきた黒髪の子供だ。
結局昼間から一度も起きず、ネーヴェ一行は目的地に到着していた。
元々母も一緒に来るはずだったが、愛妻家の父にごねにごねられ、結局いつも通り兄妹二人で来ることになったのだ。
まあいつもの事だ。
基本仲のいい家族だが、両親と兄妹は別々に過ごすことが多い。
夏などは特にそうだ。
熱い王都から離れ、涼しい避暑地で夏を過ごす。
ちょうど社交界シーズンなので飽きはしない。
・・・もちろん馬車の中は別の話だ。
ビアンカは拾った子供ばかり気にする兄にそうそうに愛想をつかせ、近くの別荘に来ているはずの友人を訪ねると言い残しさっさと言ってしまった。
先程泊まるという連絡が来たので帰ってくるのは明日になるだろう。
ネーヴェ一行に歳の近いものはおらず、私の側近候補達ものちのち避暑地に赴く予定なので暇を持て余した私はずっと少年のそばにいた。
明日は避暑地の管理人が預かってくれていた犬を連れてきてくれる日だ。
ビアンカによってショコラと名付けられたブラウンの毛並みの犬は、ネーヴェが誕生日に贈られた相棒だった。
躾をされてから王宮に来る予定なのだ。
自由奔放なショコラがいつになったら王宮に来れるほどになるかは、ショコラ自身のやる気による。
とにかく、一年ぶりの感動の再会を果たす・・・と思われる明日を楽しみに、私は少年の横顔を見守っていた。
息を飲むほど綺麗で、神の使いと言われてもそのまま信じてしまいそうな美しい少年だ。
ネーヴェは彼の名を知りたいと思い、許されるならその瞳の色を知りたいと思った。
ふと彼を照らし出していた月光が影った。
窓の外でうっすらと雲がかかる月が煌々と輝いている。
天を突くように大木が積み上がり、ザワザワと深い緑を揺らす様は壮観だった。
ネーヴェは美しいものが好きだ。
その景色は私にとって美しいと思えるものだった。
ちょうど護衛が交換する時間帯だった。
誰かに呼ばれたのか、護衛が席を外す旨を告げる。
ほんの少しだ、と私は頷いた。
そして自分と少年の息遣い以外何も聞こえないその部屋で、ポツリと呟いた。
「・・・月が綺麗だな」
「ただの岩だろう」
独り言に、思ったよりもはっきりとした口調が返ってきた。
「え?」
見た先にいた少年は、いつの間にか体を起こしていた。
その虚ろな瞳に囚われる。
少年の瞳は、全てを飲み込み消し去るような仄暗い群青をしていた。
ゾッとするほどに冷たく、絶望や憤怒を詰め込んだかのような色に息を飲んだ。
そして、私は──────────。
「へえ、物知りなんだな」
そう、言葉を繋げた。
「だが月がただの岩なら、なぜ浮く?なぜ光るのだ?」
「・・・」
固まる少年に続きを促す。
やがて「それは・・・」とぽそぽそと紡がれ始めた少年の美しい声に耳を傾け、夜は更けていった。
0
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる