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二章 見習い魔導士編

13話 「魔装とは」

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「あんた、なんで装束魔法…魔装を使えるの?」

シエルは、虎太郎に質問をした。
虎太郎は、腕を組み、首を傾げる。

「それなんだけどさ、俺にも分からねぇんだよなぁ。 ゴリスさんにも言われたんだけどさ、俺からしたら、最初から姿変わったから…」

「装束魔法…所謂、魔装はね? 本来ならとてつもない期間修行して、やっと1握りの魔導士が会得できる物なの」

「ふむ…」

「それを、なんで元はただの人間で、しかも他の世界の人間のあんたが出来るのか、私は疑問なのよ」

「んー…俺も分かってないからなぁ…ていうか、まだ分からない事だらけなんだよ。 デストの事も、魔法の事も」

「まぁ、でしょうね…ちょっとさ、ここで魔装してみてくれる?」

「いや、まだ加減出来ないから、大火事になる」

「なるほど…じゃあだめね」

「…なぁ、教えてくれないか。 魔法の事や、デストの事」

虎太郎は、ずっと知らずにいた、基礎の事をシエルに尋ねた。

「いいわよ。 …と言っても、上手く説明出来るかは不安だけどね、私が学校通ったのって14歳からだし」

「え、そうだったのか」

「そうよ。 私、14歳までずっと旅をしていたのよ」

「旅…1人でか?」

「そうよ? …まぁ、私の話は良いじゃないの。 で、何から聞きたい?」

「じゃあまずは…デストの事」

虎太郎が言うと、シエルは真剣な表情で口を開いた。

「まず、この世界の動物は、産まれた瞬間に3つの種族に分類されるの。
1つ目、魔力を持たない、普通の動物。 こういう動物は、ペットだったり、食用だったり、家畜になったりするわ」

「ふむふむ…」

(犬猫や、牛や魚みたいなものか)

と、虎太郎は想像する。
確かに、今日街を歩いた時に魚の串焼きや、骨つき肉が売っていた。

「そして2つ目が、聖獣。 こちらが何もしなければ害を与えてこない。 魔力を持った優しい動物よ」

「ん…? 聖獣…? 神獣じゃなくて?」

「それも含めて後で話すから。 で、3つ目が、あんたもよく知る魔獣。
凶暴で、人に害を与えまくる、魔力を持った動物よ」

「ふむふむ」

「で、ここからが本題。 聖獣と魔獣は、成長と共に魔力が増大するの。
そして、成長した個体の中で稀に、進化する動物がいる」

「進化…?」

「えぇ。 あんたもよく知ってるわよ。
聖獣は進化すると神獣に。
魔獣は進化すると、デストになるのよ」

「魔獣がデストに…!?」

「まぁ、魔獣の場合は進化ってよりは、変化の方が正しいけどね。 あんたも今日見たでしょう? クマ型のデストを。
あのデストは、元々クマの魔獣だったのよ」

「そう…だったのか…」

(そういえば、セレナと2人で倒したデストも、シカに似てたな…)

「これがデストの正体ね。 つぎは何を聞きたい?」

「魔導士について教えてくれ」

「魔導士は歴史があるから、私が分かる範囲で教えるわね」

シエルの言葉に、虎太郎はうんうんと頷く。

「魔導士は、誰でもなれるって訳じゃないのよ。 この世界の人間は皆魔力を持ってるけど、魔力量と、その魔力を放出出来るかどうかは才能次第。
その才能を持った者が、初めて魔導士になる為のスタートラインに立てるの」

「ほー…才能次第」

「で、魔導士になってから…つまり、今の私達の状況ね。
そこからは、任務を受ける事が可能になるの」

「任務…?」

「えぇ。 魔導士は、自分の国の魔導士協会から任務を受けて、それを達成する事でお金を稼ぐのよ。
その任務は雑用から危険な物まで、様々よ」

「ほー…初めて知った」

「で、任務にはランクがあるのよ。
Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランク任務があって、上に行けば行くほど、危険で報酬が高いわ」

(なんかゲームみたいだな)

というのが、虎太郎の率直な感想だった。

「同じく、魔導士にもランクがあるわ。 魔導士になったばかりの人は、Dランク魔導士から始まるの。
それで、魔導士協会に実力と貢献度が認められれば、ランクアップしていくって訳」

「Dランク魔導士がSランクの任務を受ける事は出来ないのか?」

「出来ないわよ。 自分のランクの任務までしか受けられないわ」

(なるほど…つまり俺はDランク任務しか受けられないって訳か)

「で、ここからが魔導士の力の話」

シエルが人差し指を上げた。

「まず、魔導士はそれぞれ、1つの能力を持っているわ。 私なら氷、あんたなら炎。 能力は様々よ。
攻撃系だったり、医療系だったり、妨害系だったり。
武器…所謂魔導器も人それぞれ。 私のレイピアや、あんたの刀は当たりの部類ね」

「なるほどなぁ…なんか色々あって複雑だなぁ」

「で、次に出てくるのが魔装。正式名称は装束魔法だけど、皆魔装って呼んでるわ。
魔装はさっき説明した通り、服装が変わって、魔法の威力、身体能力が底上げされるのよ。 その分、魔力消費が激しいってデメリットはあるけどね」

「ふむ…」

「魔装は高等技術で、Aランク以上の魔導士はほぼ使いこなしているわ。
これであんたがどれだけ異常か分かった?」

「まぁ、俺がおかしいって事はすごく理解した」

「多分これから、あんたはいろんな人に同じ事を聞かれるでしょうね」

「うわぁ…やだなぁ…」

「…遅くなりました」

そのタイミングで、お風呂から上がったフランが洗面所から出てきた。

フランは、赤くなった顔に、モコモコのパジャマを着ている。
上は長袖で、下はショートパンツという動きやすい格好だ。
色は水色で、フランの髪色と相まって、凄く似合っている。

ちなみに、シエルのパジャマはフランの色違いで、色はピンクだ。

2人とも細身でスタイルが良いため、ショートパンツが2人の長い美脚を引き立てている。

「おー! 似合うじゃないのフラン!可愛いわよ!」

「あ、ありがとう…ございます…こういうの着た事なかったので…」

「どうだったー? 長風呂してたけど、気持ち良かった?」

「はいっ…いつもは週に一度、5分だけシャワーを浴びる事しか許可されていなかったので…
久しぶりにこんなに湯に浸かれて…嬉しかったです」

笑顔で言うフランとは対照的に、虎太郎とシエルの顔は暗い。

フラン程の年齢は、おしゃれに興味を持つ年頃だ。
そんな少女が、好きなようにおしゃれも出来ず、風呂にも入れないのはさぞ辛かっただろう。

シエルは、そんなフランの頭を、優しく撫でる。

そんなフランを見て、虎太郎はある事を思い出した。

「あ! そうだシエル! シエルに相談があるんだ!」

「なに?」

シエルは首を傾げる。

虎太郎は、シエルに先程フランと議論していた内容…

シエルの寝る場所についてを相談した。

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「一緒に寝れば良いじゃない」

虎太郎の話を聞いたシエルが、首を傾げながら言い放った。

「馬鹿お前…! そんな事できる訳っ…!」

(ただでさえ目のやり場に困る服装してんのに…!)

虎太郎は、顔を赤くしながら言う。

そんな虎太郎を見て、シエルは笑う。

「冗談よ冗談。 あんたがそういう事に耐性がないのは知ってるから。 むしろ耐性がない方が安心してフランを任せられるわ」

「からかうなよ…」

「で、肝心の寝る場所だけど…要は、部屋が広くなれば良いのよね?」

「まぁ、そうだな。 そうすればベッドが2個置けるし」

「おっけー。 この超絶美少女シエル様に任せなさいな。
ほら、行くわよ」

シエルが立ち上がり、部屋の扉を開けた。
俺とフランは顔を見合わせ、首を傾げながらついていった。

シエルに続いて下の階に降りると、シエルは宿主の男に話しかけていた。

「あのね…この子今身寄りがなくて…仕方なくここに泊めてるんです…」

シエルは、目に涙を溜め、鼻を啜りながら言った。

「でも…この子1人じゃ寂しくて寝れないから、同じ部屋がいいんだけど、1部屋に2人は狭くてぇ…」

「そんな事情が…辛かったね…」

宿主の男は、フランを見て悲しそうな声で言った。

(うわぁ…シエルこっわ…)

「だからね…? この男の部屋と、この男と部屋の隣の空き部屋を繋げて欲しいの…」

ダメ…?と言いたげに、シエルは涙目で上目遣いをする。

宿主の男は顔が真っ赤になり、数歩下がる。

そして次にフランを見る。

「……よし分かった! 可愛い女の子の頼みだ! ただ、今は夜だからね、明日君たちが外出している間に改装しておこう!」

「やったぁ! ありがとうおじさん!」

シエルは、宿主に満面の笑みを向けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ま、こんなもんよ」

「お前怖すぎだろ」

「ホホホ! 女の武器は惜しみなく使わなきゃ損じゃない?」

「…でもまさか改装するとはな…」

「融通がきく人で良かったじゃない」

「まぁな。 …で、問題は今日どうするかだな」

「今日くらいは我慢しなさいな」

「…虎太郎様は私と一緒は嫌ですか…?」

フランから上目遣いで見られ、虎太郎は顔が赤くなる。

「……もう一度聞くけど、俺が床で寝るってのは…」

「却下です」

「はぁ…分かったよ…じゃあ今日だけ頑張るか…」

虎太郎はこの日の夜。
隣で眠るフランを意識しすぎて、全然眠る事が出来なかった。
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