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二章 見習い魔導士編

14話 「見習い魔導士」

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「…対戦形式はどうする」

「んなもん決まってる。 気絶するか、負けを認めるかだ」

「我に挑んだ事、後悔するなよ」

「はっ! 後悔するのはてめぇのほうだ」

2人が煽り合いをしている中、少し離れた場所に、虎太郎、シエル、フランは立っていた。

「おいヤバくね…? 流石に勝てないよな…?」

「勝てるわけないでしょ…! いくらゴルドが天才だからって、経験も技術も、向こうが上よ」

虎太郎は、改めてゴルド達を見る。

「じゃあ、始めようぜ」

「待て」

ゴルドが姿勢を低くすると、ロイドはそう言った。

「なんだ。 今更怖気ずい…」

「我は今回の戦闘では魔導器は使わぬ。 他にハンデはいるか?」

ロイドが言うと、ゴルドは目を見開いた後、その顔を怒りで染める。

「てめぇ…ふざけてんのか…?」

「ふざけてなどいないが。 そうだ、片手も使わない方がいいか?」

「っ…! あああっ!!」

ゴルドが耐えきれず、走り出した。

「そんなにハンデが嫌ならば、我に魔導器を使わせてみよ」

「言われなくても…!!」

ゴルドは、走りながら右手に神経を集中させる。

すると、ゴルドの身体に電気が纏い始めた。
電気を纏ったゴルドは身体能力が上がり、スピードがさらに上がった。

「来い! 雷光《らいこう》!!」

ゴルドの右手に、刀が現れた。
色は黒に、黄色の雷のようなギザギザ模様が刻まれており、それが黄色く発光している。

「豪雷《ごうらい》!!!」

ゴルドは、凄まじい速度でロイドに向かって刀で突きを放った。
虎太郎達は、あまりに早すぎるゴルドを目で追うのがやっとだった。
自分だったら反応する事は出来ないだろう。

だが…

「…こんなものか」

ロイドは違った。
ロイドは、ゴルドの刀での突きを、人差し指と中指の2本だけで止めていたのだ。

ロイドはゴルドの刀を指で挟んだまま、ロイドの腹を蹴り上げた。

「ぐはっ…!?」

ゴルドはそのまま地面を転がる。
そんなゴルドに、ロイドはまだ指で挟んでいたゴルドの刀を投げつけた。

「どうした。 もっと技を見せてみろ」

ゴルドは、ヨロヨロになりながらも立ち上がり、刀を鞘に納める。

虎太郎やシエルの魔導器には鞘はなかったが、ゴルドの魔導器は、腰に鞘が出現していたのだ。

刀を鞘に納め、姿勢を低くする。

「ふむ、居合か。 よく集中して当ててみろ」

ゴルドは目を閉じ、集中する。
ゴルドの周りに電気が纏わりつき、バチバチバチ…!と音を立てる。

凄まじい魔力だ…と虎太郎達全員が感じた。

そして、ゴルドが目を開け、右足を踏み込み、前へ飛んだ。
先程よりもスピードは速く、虎太郎達は見る事は出来なかった。

「雷閃《らいせん》っ!!!!」

虎太郎達は、ゴルドの姿を見失った。
まるで雷が落ちた時のような音と共にゴルドは飛び出し、ロイドに居合斬りを放つ……

「…が…はっ…」

前に、ゴルドはロイドに腹を殴られ、地面に倒れた。

虎太郎達からしたら何が起きたから分からない。
一瞬だったのだ。

ゴルドの姿が音と共に消えたと思えば、次の瞬間にはロイドに腹を殴られ、地面に倒れていた。

「速さが足りぬ。 力も足りぬ。 何もかもが、足りぬのだ」

ロイドは、地面に倒れているゴルドの背中を踏んだ。

「貴様の速さ、自信過剰になるだけはある。 Bランク程の魔導士ならば対応出来ないだろう。
だが、所詮はその程度」

「っ…!」

「だから我は言ったのだ。 思い上がるなよ。と」

ロイドは、ゴルドの脇腹を蹴った。

「ぐああっ…!!」

「どうした。 負けを認めよ」

ロイドは、何度も何度もゴルドの腹を蹴る。
だが、ゴルドはロイドを睨みつけ、何度も立ち上がろうとする。

「貴様が負けを認めぬならば、我は貴様が気絶するまで痛めつけるぞ。
そういうルールだ」

「ぐっ…! ぐあっ…!」

ゴルドは、何度も何度も蹴られる。
だがプライドが許さないのか、頑なに負けを認めない。

「っ…! おいゴルド! はやく降参しちまえよ…!」

虎太郎が叫ぶと、ゴルドが虎太郎を睨む。

「うる…せぇ…っ!! 俺は…負けられねぇんだ…!」

ゴルドは、なんとか立ち上がったが、そんなゴルドに構わず、ロイドは膝蹴りをくらわせた。
ゴルドは口から血を吐き、前のめりに倒れる。

ロイドはそんなゴルドの髪を掴み、持ち上げる。

「まだ気絶しないか。 中々しぶといな」

「っ…! おいロイドさん! もう辞めてくれよ! 勝負はもうついてるだろ…!」

「何を言う。 まだ決着はついてはおらぬ。 まだこいつは、降参もしていなければ気絶もしておらぬ」

ロイドは、ゴルドの頭を掴み、地面に叩きつけた。

シエルは、そんな悲惨な光景を見て口を手で塞ぎ、顔を逸らした。
虎太郎は怒りに顔を歪め、走り出した。

「うおおおおっ!!! 来い!炎魔ぁ!!」

虎太郎の身体が炎に包まれ、刀が現れ、虎太郎の服が変わる。

そんな虎太郎を見て、ロイドは一瞬目を見開いた。

「ゴルドから…! 離れやがれ!!」

虎太郎は、思い切り刀を振るう。
ロイドは後ろに飛んで躱す。

「フラン! ゴルドを連れていけ!」

「えっ…虎太郎様…?」

「っ…早くしろ!ゴルドはもう…! 気絶してる!」

虎太郎がチラッとゴルドを見ると、ゴルドは気を失っていた。
つまりはこの勝負はロイドの勝ち。

なのだが、ここまでゴルドを痛めつけたロイドに、虎太郎は怒っていた。

フランは虎太郎の怒鳴り声に一瞬ビクッとしたあと、すぐにゴルドを抱えて去っていった。

「虎太郎…!」

シエルが虎太郎を呼ぶ。

虎太郎は、魔力を炎として放出し、刀に纏わせる。

(加減はできないが、少しはビビるだろ!)

「これでもくらっとけ!!!!」

虎太郎は思い切り刀を振り下ろした。
超高密度の魔力が炎の斬撃としてロイドに飛んでいく。

ロイドはその斬撃を見て目を見開いた後、炎に包まれた。

「…シエル、逃げるぞ! とりあえずゴルドを病院に…っ!!」

魔装が解け、シエルと共に病院へ向かおうと走りだすと、爆炎の中からロイドが飛び出し、後ろから虎太郎の頭を掴み、地面に叩きつけた。

「っ! 虎太郎…!」

虎太郎は、一瞬で気を失っていた。
対してロイドは、虎太郎のあの斬撃を受けたにも関わらず、汗ひとつかかず、無傷の状態だった。

シエルは虎太郎に近寄り、虎太郎の身体を揺する。

「も、もうやめて下さい…!」

シエルは、虎太郎を守るように立つ。
シエルの身体は、恐怖に震えていた。

「…勘違いをするな。 我はただ降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。
早く病院へ連れて行くがいい」

そう言うと、ロイドは去っていった。
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