12 / 14
11
しおりを挟む
学園祭が終わって二週間後の日曜日、瑠璃たち読書クラブの部員一行はとある屋内型テーマパークの一角に集合していた。
ゼノ曰く「自分のせいで開けなかった打ち上げの代わりに」と、部員全員を招待したのはこの屋内型施設に初導入されたVRゲームの関係者向けプレオープン。
瑠璃はこういったゲームに馴染みがないのでピンと来ていないし、零は無表情のままだが、他の部員たちは皆興奮気味だ。
「これ、テレビで見た……!国内初の技術の結晶だって……!」
「関係者向けプレ後の一般チケットは半年先まで完売って聞いたぞ、マジか!」
と言った具合で皆一様に感動し、
「さすがゼノくん……」
「ありがとうゼノくん!」
と感謝している。
当のゼノは、
「いや、オーナーも関係者だけでなく若い人たちの体験談も聞きたいから友達を連れてきてくれって頼まれてたのに便乗しただけで何もしてないから」
と困惑顔だ。
(ここのオーナーって、確かゼノ様がCM契約してるゲーム会社の社長だよね。こんなこと直接頼まれたりするんだ?)
そんなことを思いながら瑠璃はゲームの案内に目を通して行く。
このゲームはいわゆる“剣と魔法“の世界を全身で体感出来るというもので、プレイヤー自らが剣か杖を持ち、迷路に入って行くと現れる敵を倒して進んでいく体感RPGのようなものだ。
プレイヤーが手に持つ剣ないし杖がコントローラーになっていて、敵を倒せばポイントがついたり、回復アイテムをドロップしてHPが回復したりする。
もちろん敵は攻撃してくるので避け損ねたり魔法の発動が間に合わなかったりすればダメージを負う。
HPがゼロになったりプレイヤーが手にした武器にリタイヤを宣言したりすればゲームオーバー、というものである。
プレイはペアか単独のみで、ゲームはもちろんそもそも敵を斬ったり魔法で攻撃したりが苦手な瑠璃に“ソロ“なんて選択肢があるはずもなく。
「零、」
一緒に、と言おうとしたところで、
「橅木さん、僕と組まない?」
と声がかかった。
で、
「えぇーー?!なんで?」
今、瑠璃はその仮想世界の中で一人ぼっち迷い子だった。
“自分と組まないか“と言ってきたのは同じ二年生の部員で、トニーの親友のリフ役をやっていた生徒だった。
「「は?」」
と瑠璃と零が異口同音で返すと、
「僕も良いと思うな」
とゼノが加わってきた。
「__なんでお前にそんなことを言われなきゃならないんだ?」
「いや、知り合ったばかりの僕からしても君達の距離感って異常な気がするんだ。二人が付き合ってて将来の約束までしているっていうなら問題ないけど、橅木さんは“付き合ってない“って言ってたよね?それなら、もう少し違う人間と関わる時間を増やしたらどうかなって」
ゼノの言に、零は一瞬言葉をなくし、瑠璃は(い、異常……?)ずっと一緒にいたので正解が分からず、零の顔を不安そうに見やると、
「大丈夫ですって!俺ゲーム得意っすから!橅木さんは魔法使いで防御に徹しててくれれば敵は俺が倒しますから!」
「いや、瑠璃には無理だ」
押し切ろうとする部員に零が待ったをかけた。
「瑠璃はこういうのは苦手だ。敵が仮想だとわかってても、躊躇わずに攻撃なんて出来ない。知らないヤツとそんなとこに入るのは無理だ」
「だーから敵は俺が倒すって言ってるじゃないすか……!それになんですか“知らないヤツ“って、同クラの仲間なのに俺未だにお二人には“知らないヤツ“なんすか?」
「いや、悪い。そういうわけじゃ、」
「なら良いじゃないですか、ゼノくんも言ってたけど、副部長って橅木部長に過保護すぎません?」
「……お前……」
いつもより妙に絡んでくる同級生に零は何か思うところがあったようだが、口には出さず、代わりに瑠璃が「私、見学がいい……」とぼそっと声に出した。
読書クラブ部員十二名のうち、先日怪我をした生徒を除いた部員は十一名。
一人が見学に回れば全員ペアを組めるので悪くない案だと思ったのだが、
「えぇー橅木さんそんなに俺と組むの嫌なんすか?ショックなんですけど」
「人数のことなら心配しなくて良いんだよ?僕がソロにまわるから、他の皆はペアを組めば良いと思う」
「なんでお前が決めてんだよ?元々ソロで行きたいってヤツもいるかもしんねぇのに?」
「君みたいに?」
「俺の話をしてんじゃねぇ、なんでお前が仕切ってんだって話、」
「ちょ ちょちょ、やめなよ亜城くん……!ゼノくんの招待で来てんのに!」
「頼んだわけじゃない、部の行事だから来ただけだ」
「そんな!皆楽しみにしてたんだよ?」
「ああ悪かったな、皆で楽しめ。俺も喧嘩がしたいわけじゃない、帰るぞ瑠璃」
「うん……」
(こんな雰囲気じゃ、皆が楽しめないよね……それにこんな暗い迷路に零以外の人と入るのはやっぱり不安だし)
「「え」」
ゼノ曰く「自分のせいで開けなかった打ち上げの代わりに」と、部員全員を招待したのはこの屋内型施設に初導入されたVRゲームの関係者向けプレオープン。
瑠璃はこういったゲームに馴染みがないのでピンと来ていないし、零は無表情のままだが、他の部員たちは皆興奮気味だ。
「これ、テレビで見た……!国内初の技術の結晶だって……!」
「関係者向けプレ後の一般チケットは半年先まで完売って聞いたぞ、マジか!」
と言った具合で皆一様に感動し、
「さすがゼノくん……」
「ありがとうゼノくん!」
と感謝している。
当のゼノは、
「いや、オーナーも関係者だけでなく若い人たちの体験談も聞きたいから友達を連れてきてくれって頼まれてたのに便乗しただけで何もしてないから」
と困惑顔だ。
(ここのオーナーって、確かゼノ様がCM契約してるゲーム会社の社長だよね。こんなこと直接頼まれたりするんだ?)
そんなことを思いながら瑠璃はゲームの案内に目を通して行く。
このゲームはいわゆる“剣と魔法“の世界を全身で体感出来るというもので、プレイヤー自らが剣か杖を持ち、迷路に入って行くと現れる敵を倒して進んでいく体感RPGのようなものだ。
プレイヤーが手に持つ剣ないし杖がコントローラーになっていて、敵を倒せばポイントがついたり、回復アイテムをドロップしてHPが回復したりする。
もちろん敵は攻撃してくるので避け損ねたり魔法の発動が間に合わなかったりすればダメージを負う。
HPがゼロになったりプレイヤーが手にした武器にリタイヤを宣言したりすればゲームオーバー、というものである。
プレイはペアか単独のみで、ゲームはもちろんそもそも敵を斬ったり魔法で攻撃したりが苦手な瑠璃に“ソロ“なんて選択肢があるはずもなく。
「零、」
一緒に、と言おうとしたところで、
「橅木さん、僕と組まない?」
と声がかかった。
で、
「えぇーー?!なんで?」
今、瑠璃はその仮想世界の中で一人ぼっち迷い子だった。
“自分と組まないか“と言ってきたのは同じ二年生の部員で、トニーの親友のリフ役をやっていた生徒だった。
「「は?」」
と瑠璃と零が異口同音で返すと、
「僕も良いと思うな」
とゼノが加わってきた。
「__なんでお前にそんなことを言われなきゃならないんだ?」
「いや、知り合ったばかりの僕からしても君達の距離感って異常な気がするんだ。二人が付き合ってて将来の約束までしているっていうなら問題ないけど、橅木さんは“付き合ってない“って言ってたよね?それなら、もう少し違う人間と関わる時間を増やしたらどうかなって」
ゼノの言に、零は一瞬言葉をなくし、瑠璃は(い、異常……?)ずっと一緒にいたので正解が分からず、零の顔を不安そうに見やると、
「大丈夫ですって!俺ゲーム得意っすから!橅木さんは魔法使いで防御に徹しててくれれば敵は俺が倒しますから!」
「いや、瑠璃には無理だ」
押し切ろうとする部員に零が待ったをかけた。
「瑠璃はこういうのは苦手だ。敵が仮想だとわかってても、躊躇わずに攻撃なんて出来ない。知らないヤツとそんなとこに入るのは無理だ」
「だーから敵は俺が倒すって言ってるじゃないすか……!それになんですか“知らないヤツ“って、同クラの仲間なのに俺未だにお二人には“知らないヤツ“なんすか?」
「いや、悪い。そういうわけじゃ、」
「なら良いじゃないですか、ゼノくんも言ってたけど、副部長って橅木部長に過保護すぎません?」
「……お前……」
いつもより妙に絡んでくる同級生に零は何か思うところがあったようだが、口には出さず、代わりに瑠璃が「私、見学がいい……」とぼそっと声に出した。
読書クラブ部員十二名のうち、先日怪我をした生徒を除いた部員は十一名。
一人が見学に回れば全員ペアを組めるので悪くない案だと思ったのだが、
「えぇー橅木さんそんなに俺と組むの嫌なんすか?ショックなんですけど」
「人数のことなら心配しなくて良いんだよ?僕がソロにまわるから、他の皆はペアを組めば良いと思う」
「なんでお前が決めてんだよ?元々ソロで行きたいってヤツもいるかもしんねぇのに?」
「君みたいに?」
「俺の話をしてんじゃねぇ、なんでお前が仕切ってんだって話、」
「ちょ ちょちょ、やめなよ亜城くん……!ゼノくんの招待で来てんのに!」
「頼んだわけじゃない、部の行事だから来ただけだ」
「そんな!皆楽しみにしてたんだよ?」
「ああ悪かったな、皆で楽しめ。俺も喧嘩がしたいわけじゃない、帰るぞ瑠璃」
「うん……」
(こんな雰囲気じゃ、皆が楽しめないよね……それにこんな暗い迷路に零以外の人と入るのはやっぱり不安だし)
「「え」」
13
あなたにおすすめの小説
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
⬜︎小説家になろう様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる