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ヒロイン、目覚める 後
「……………」
「……………」
互いに言葉を発さないまま何分が過ぎたろうか。
説明、殿下からあるって言ってたよね?
(助けてもらった事だし、ここは大人しく説明を聞く事にしよう)と待っていたのだが、アルフレッドはこちらを凝視するばかりで全く声を発さない。
「あの~…?」
これではきりがないので、仕方なく私から声をかける。
「はっ!あ、あぁ、すまない。その_…良く似合っている」
「はあ、どうも。それであの、私がこれを着る意味とは何でしょう、先程の女官の方が殿下から説明がある と窺ったのですが?」
「あ、ああ。まず、君の格好はあのままにしておけない。これはわかるよね?」
「はい」
「で、この騒ぎは他の生徒に知られるわけにはいかない。学園の安全面が疑われる事態は避けなきゃならないし、王家としての体面も関わって来るから公に奴を裁く事は出来ない。被害者としての君には納得出来ないかもしれないけど、公にしたところで君には傷物というレッテルが貼られるだけでお互い利がないと思う」
(傷物……)
「……そうですね」
私は固い声で答える。
「勿論王家からも奴個人からも、慰謝料という形での補償はする」
「左様ですか」
声も視線も氷点下まで下がっているのが自分でもわかる。
それがわかっているのかいないのか、冷静な声でアルフレッドは続けた。
「__奴には余罪が多くあった」
「え?」
下がっていた視線が思わずアルフレッドの方に向く。
「奴のやり口は用意周到だった。奴が渡り歩いた学校で被害に遭った女生徒は何人もいるけど殆どの被害者が自覚していなかった。眠らされている間に誰かに陵辱されていた、と自覚があったのは二人だけ。後は保健室で目覚めた時既に自分が乱暴されていたという自覚がなかった。ただちょっと身体の節々が痛む、怠い、頭痛がする__その程度のもので誰も婦女暴行被害とは考えなかった」
「その方達は、今?」
「自覚がないのならわざわざ真実を教える必要はない。こちらから腕の良い回復魔法師を送り込む以外何もしない。自覚のある被害者には犯人をどうしたいかの要望も訊いた上で我が国で処分する」
「……………」
確かにそれが一番良い方法だろう。
自覚のない被害者に、『貴女は婦女暴行被害に遭ってますよ』とわざわざ教える意味はない。
だが、それは私にも言える事ではないのか?
「君の場合はちょっと事情が違う」
「ー?ー」
「奴は夏期休暇中にこの国を出て行くつもりだったらしい__君を連れて」
「は?」
「犯罪者の思考回路なんて俺にはわからないけど、奴曰く君は〝今迄見つけた中で極上の芸術品〟なんだってさ」
全然嬉しくない。なんだ芸術品て。
それに全然現状の説明になっていない。
いないがこの人とレイド様がいなかったら、私は眠らされたまま奴の玩具にされて拉致誘拐されていたということだろう。
だから、
「申し訳ありません。私がもっと注意すべきでした。助けて下さってありがとうございます」
と頭を下げた。
「謝って欲しいわけじゃないんだけどなあ…」
困ったように頬をかく仕草はあのゲームのスチルそのままだ。中身は全く違うが。
「メイデン男爵にも連絡済みだよ。で、君にはこれから王宮に行って貰って話をする事になる」
「あぁ…」
成る程、だから正装させられたのか。今日は学園とは別で王宮でもパーティーが開かれてるはずだし。
合点がいった私に、
「と、まあここまでが王家側の言い分。こっからはー…」
不意に距離を縮めてきたアルフレッドに壁際に追い詰められる。俗に言う壁ドンというやつだ。
「俺個人の言い分」
今までにない距離感でエメラルドの瞳が光った。
♦︎♦︎
「君さあ、なんっっで簡単に眠り薬なんか飲まされちゃってんの?」
「それは、」
わかっている、これは八つ当たりだ。教師に差し出されたお茶を警戒して飲まない、なんて事態は普通ない。
だが、自分が間に合わなかったらあの男に良いように嬲られるところだったのだ。
それに、
「俺達とは茶の一杯一緒に飲むまであんなにかかったくせに…!あの用心深さはどこ行ったよ?!何あんな優男の出したものを何の疑いもなく飲んじゃってんの?!」
これも八つ当たりだ。
彼女が殊更用心深くなったのは自分達のせいだ。
最初から間違ってた。
「思い上がるな、つけ上がるな」
ではなく、君は自分で思うよりずっと特別で魅力的な存在なのだと。
そんな君を狙う奴はきっといっぱいいるからもっと用心すべきだと。
そう、伝えるべきだったのだ。
「教師だからって安心してんじゃねぇ、アレはなぁ、ずっっと君を狙ってた…!いつ喰われちまうかこっちがどんだけハラハラしてたと思ってる?!」
男なら誰だって持っているのだ、好きな女をどうこうしたい生々しい欲望を。
「でも、そんな素振りは全然ー…」
そうだ。奴の紳士然とした振る舞いは完璧だった。
最初、城に呼んでおきながらこの娘を知らず危ない場所に放り込むような真似をした自分達と違い、優しくて、丁寧で、たおやかな物腰の美青年。
しかも相手を魅了する顔と声まで持ち合わせていた。
そんな相手だからこそ、彼女は警戒せず信用した。
ひいてはそんな奴を学園に採用したこちらの責でもあり、彼女に責任はない。
単に、自分が言わずにいられなかっただけだ。
そして、自分の最低な八つ当たりは彼女の心を更に頑なにする。
「私が、このまま学園を去ればよろしいのでしょうか?」
空色の瞳は驚いてはいたものの怯んではいなかった。
__そんな事、絶対許さない。
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