心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

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プロポーズ

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フィオナのデビューから半年後、皇帝が崩御した。
まだ若い皇帝が病床に伏して間もなく亡くなったことに民は衝撃を受けたが、幸いと言って良いか微妙だが皇帝には歳の離れた弟がいた。
この皇弟が皇帝が病に伏した時から政務を代行していた為大きな混乱には陥らなかった。
皇弟が引き続き政務を代行し、帝国の儀式に則って皇帝を速やかに荼毘に臥した。



皇帝が病に倒れてからフェアルドは城に詰めたまま身動きが取れない状態だった。
もちろん皇妃や臣下も手伝ってはいるのだが、やはりフェアルドに頼るところが大きい。
元々皇帝の右腕であった彼は頑健な美丈夫で、多少無茶な案でも御前会議で押し通せる胆力も持ち合わせていた。
故に家臣たちは「皇帝の不在時はフェアルドに従えば間違いない」状態が常態化していた。
フィオナと手紙のやり取りはしていたが、会いに行くことができない日が続いた。

皇帝がそのまま亡くなり、フェアルドは通常の政務に加えて兄の葬儀の差配まで行わなければならず、ますます城に詰め通しになった。
フィオナはフェアルドの婚約者であるし、侯爵令嬢であるから城に会いに行くことも出来たが、政務の手伝いが出来るわけでもない自分が行ってもかえって迷惑だろうと登城するのは控えていた。
一度くらい、行ってみるべきだったかもしれない。

フィオナの誕生日まであとひと月という頃、フェアルドがナスタチアム侯爵邸を訪れた。
玄関ホールで出迎えたフィオナはフェアルドのやつれ様に「フェアルド様……!」抱きつくのをやめて心配げにフェアルドを見上げた。
「僕としてはそのまま抱きついてくれた方が嬉しかったな」
苦笑するフェアルドの表情は以前と変わらず、フィオナはホッとしてフェアルドの腕の中に収まる。
「お疲れ様でございました、フェアルド様……兄上様のこと、残念でなりません。私、何もお手伝いすることが出来ず、「ストップ」え?」
「漸く会えたんだからそんな悲しい顔をしないでくれ、フィー」
「フェアルド様、でも」
「まあ皇帝の喪中に笑っていろとも言えないけど。フィーは変わりない?僕がここに来られない間に困ったことはなかった?」
「は、はい!私はとくに」
「___なら良かった。ナスタチアム侯爵、兄上の葬儀まで色々手を
回してくれてありがとう、助かった。これからもよろしく頼む」
「はい、しかと」
「それで今後のことについて話したい。席を設けてもらえるだろうか」
「もちろんです」
「フィー。僕は君の父上と大事な話がある。今夜はここに泊まらせていただく予定だから、明日の朝食を一緒にとってもらえるかい?」
「はい、もちろんですわ」
「じゃあ今夜は君はもうお休み」
そう行って額にキスを落としたフェアルドの表情かおがいつもとは違って見えて、フェアルドと別れたあと、フィオナは全身が寒くなった__何故かはわからないが。

フェアルドと父侯爵が大事な話を終えたという翌日の朝食は家族とダイニングでなく、自室のバルコニーでフェアルドと二人きりだった。
フェアルドは食事にほとんど手を付けず、フィオナに勧めてばかりいた。
(いつもはきちんと良く食べる人なのに)
そう思ってよくよく見ているとフェアルドは本当に心ここにあらずだった。
妙にソワソワして庭の方を見たと思ったら、フィオナの食べる姿をじっと見ていたり、それでいてフィオナと目が合うと慌てて逸らしたりと実に忙しない。
自分からしたらずっと大人だと思っていたフェアルドの少年のような仕草を見て思わずフィオナはクスリと笑ってしまう。

それを見たフェアルドは驚いた顔で固まり、次いで真っ赤になった。
「?」
フェアルドの赤面の意味がわからないフィオナをよそにフェアルドはすっと立ち上がり、フィオナの横に膝いて手を取り、
「フィー。いや、フィオナ・ナスタチアム侯爵令嬢。私に嫁いで来てもらえませんか?」
と言った。

フィオナはわけがわからなかった。

















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