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フィオナの答え(1)
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その理由は直ぐに知れた。
皇帝の崩御により、急遽フェアルドが即位することになったので新居にと建てていたあの離宮でなく、皇城に嫁いで来て欲しいという意味のものだったのだ。
それも、側妃として。
他国に隙を見せない為に急遽即位を行う必要がある。
即位すれば数多の縁談が持ち込まれることは想像に難くない。
面倒が起きる前に元々正式な婚約者であるフィオナが妃に立てば抑止になるし、離れたくない。
国をあげての喪中の今は結婚式は行えないが、喪が明けたら式をあげよう__というものだった。
昨夜父と話していたのはこういうことだったらしい。
父は「私がイエスと言えば許可する」と言ったらしく、こうして今フェアルドがやって来たというわけだ。
フィオナは答えに窮した。
後宮___どうした理由か子供の頃からその響きがどうしても好きになれない。
だからフェアルドにも「もしフェアルド様が後宮を持つことになったら言ってくださいね、悲しいですが私は諦めますので!」とか折に触れ言っていた気がする。
その度にフェアルドは「心配ないよ。僕が後宮を持つことはない」と微笑んでくれたのですっかり安心していた。
それが、今やフェアルドは皇帝になることが決まってしまい、前皇帝の為に開く予定だった後宮もフェアルドがそのまま引き継ぐことになったのだ。
フェアルド様のことは大好きだ。
けど、後宮には入りたくない。
固まってしまったフィオナに、「お願いだ、フィー」とフェアルドが悲痛な声をあげる。
「後宮で君に不自由はさせないし、君が唯一の妃だってことは皆知ってる!とりあえず側妃で入ったとしても喪が明けたら君が皇妃に立つことになるだから、「私、皇妃になんて、なりたくありませんわ」っ……そうだよね、ごめん。君に余計なものを背負わせてしまうけど__私は君以外との結婚は考えられないんだ」
「でも……」
後宮は、そもそも他にも妃を迎えるためのものではないのか?
「皇妃といっても君を政務漬けにするつもりはないよ、面倒なことは全部私がやる。君はただ傍にいてくれれば良いんだ。後宮の中でもここと同じ様に」
「同じ、とは行かないでしょう。後宮は皇帝陛下以外の出入り以外許されない所でございましょう?」
「君の家のメイドたちも好きなだけ連れてくればいい。ナスタチアム侯爵や夫人にも面会の許可は出しておく。侯爵も今は宰相として差配しているから会いたければ直ぐに会える。夫人には来ていただかなければならないが」
それはそうだろう。
後宮は入ったら自分が死ぬまでか、皇帝が崩御するまでは出られない場所だ。
今のように自由がきくわけがないし、下手をしたら身内の死さえ知らされぬままのこともあると聞く。
なんて恐ろしい場所だろう。
その考えが頭を占めて血の気が引いていく。
「君を絶対に裏切らないし嫌がることはしないと約束する。だからお願い、フィー」
血の気の引いていくフィオナの体温を補うように、フェアルドが手に頬を寄せる。
フェアルドの必死さに、フィオナの心が揺らいだ。
皇帝の崩御により、急遽フェアルドが即位することになったので新居にと建てていたあの離宮でなく、皇城に嫁いで来て欲しいという意味のものだったのだ。
それも、側妃として。
他国に隙を見せない為に急遽即位を行う必要がある。
即位すれば数多の縁談が持ち込まれることは想像に難くない。
面倒が起きる前に元々正式な婚約者であるフィオナが妃に立てば抑止になるし、離れたくない。
国をあげての喪中の今は結婚式は行えないが、喪が明けたら式をあげよう__というものだった。
昨夜父と話していたのはこういうことだったらしい。
父は「私がイエスと言えば許可する」と言ったらしく、こうして今フェアルドがやって来たというわけだ。
フィオナは答えに窮した。
後宮___どうした理由か子供の頃からその響きがどうしても好きになれない。
だからフェアルドにも「もしフェアルド様が後宮を持つことになったら言ってくださいね、悲しいですが私は諦めますので!」とか折に触れ言っていた気がする。
その度にフェアルドは「心配ないよ。僕が後宮を持つことはない」と微笑んでくれたのですっかり安心していた。
それが、今やフェアルドは皇帝になることが決まってしまい、前皇帝の為に開く予定だった後宮もフェアルドがそのまま引き継ぐことになったのだ。
フェアルド様のことは大好きだ。
けど、後宮には入りたくない。
固まってしまったフィオナに、「お願いだ、フィー」とフェアルドが悲痛な声をあげる。
「後宮で君に不自由はさせないし、君が唯一の妃だってことは皆知ってる!とりあえず側妃で入ったとしても喪が明けたら君が皇妃に立つことになるだから、「私、皇妃になんて、なりたくありませんわ」っ……そうだよね、ごめん。君に余計なものを背負わせてしまうけど__私は君以外との結婚は考えられないんだ」
「でも……」
後宮は、そもそも他にも妃を迎えるためのものではないのか?
「皇妃といっても君を政務漬けにするつもりはないよ、面倒なことは全部私がやる。君はただ傍にいてくれれば良いんだ。後宮の中でもここと同じ様に」
「同じ、とは行かないでしょう。後宮は皇帝陛下以外の出入り以外許されない所でございましょう?」
「君の家のメイドたちも好きなだけ連れてくればいい。ナスタチアム侯爵や夫人にも面会の許可は出しておく。侯爵も今は宰相として差配しているから会いたければ直ぐに会える。夫人には来ていただかなければならないが」
それはそうだろう。
後宮は入ったら自分が死ぬまでか、皇帝が崩御するまでは出られない場所だ。
今のように自由がきくわけがないし、下手をしたら身内の死さえ知らされぬままのこともあると聞く。
なんて恐ろしい場所だろう。
その考えが頭を占めて血の気が引いていく。
「君を絶対に裏切らないし嫌がることはしないと約束する。だからお願い、フィー」
血の気の引いていくフィオナの体温を補うように、フェアルドが手に頬を寄せる。
フェアルドの必死さに、フィオナの心が揺らいだ。
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