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フィオナの怒り (2)

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膝いてフィーの手を取ったまま祈りを捧げるように語るフェアルドをフィオナは微動だにせず見ていた。
「彼女たちは自分の妃でなく、兄の妃になるはずだった」
「もちろん二人には自分には唯一の妃となる女性ひとがいるので国同士の体裁を保つため後宮には入ってもらったが、前皇帝の喪が明けた後タイミングを見測らって国に帰ってもらうつもりでいる。この事は国に来てすぐ彼女たちには話して納得してもらっている。形だけの側妃扱いになるが構わないのかと訊いたらそれでも構わないと言っていた。だから君が気にする必要はない」
「君の住まうこの西の宮と彼女たちのいる宮は離れているから顔を合わせることもほとんどない」
言い募るフェアルドの言葉にも、切なげに揺れる碧い瞳にもフィオナは何の反応もしなかった。
「フィー?」
フィオナの反応のなさが不安になったのだろう、
「具合が悪いのかい?その衣装で立ったままでは疲れるだろう、座って、」
言いかけたフェアルドの手を再びフィオナは思いきり振り払う。
「フィー!?」
「触らないでください、と申し上げたでしょう?」
フィオナの絶対零度の視線は変わらない。
「フィー。お願いだ、彼女たちは本当に「事情はわかりました。元々前皇帝陛下のために後宮が整えられていたことくらい、知っていますもの」__っ」
フェアルドはできるだけフィオナに情報がいかないようにしてはいたが、国をあげての事業なのだ。
未来の公爵夫人として教育を受けていたフィオナが知らないはずがない。
「なら、」
わかってくれるだろう?と言いたげなフェアルドにフィオナは険を隠すことなく訊ねる。
「何故、今なのです?」

説明しようとすればいくらでも機会はあったはずだ。
他国の姫が来ることも、皇帝崩御後にその話を断れず迎えることになったのも、随分前に決まったことのはずだから。
皇帝崩御の後初めてうちに来た日でも、その後今日の打ち合わせに来た日でも__直接会った回数は少ないが、手紙のやり取りは途切れていなかったのだから必要なら書簡で知らせることだって出来たはずだ。

___本当に話すつもりがあったのなら。
フィオナの瞳の奥で何かがぱちん、と弾けた。
それは小さすぎて、フィオナ自身にも感じとれない程の音で、フィオナの心音に変化をもたらした。

思えば皇帝崩御後初めてうちに来て「父と大事な話がある」と自分は遠ざけられた日。
その後の母はじめどこかもの言いたげな使用人たちの視線。
何よりここに到着した時の自分の側付きのはずの者たちの態度。

知らなかったのは自分だけだった。
自分の周りは皆フェアルドの味方だったのだ。

フィオナの言わんとするところが伝わったのだろう、
「言ったら、君は来てくれないと思った……君は後宮という場所に嫌悪感を抱いていたから」
フェアルドは項垂れた。
「陛下は私を信用しておられなかったのですね」
「っ違う!」
「違いませんわ。だから私にだけ知らせず騙し打ちでここに入れたのでしょう」
「騙そうとしたわけじゃない言ったろう、知らせなかったのは君の為で」
「私の為?」
「そうだ。まだ幼さの残る君をこんな風に政変に巻き込むような事はしたくなかった、けれど後宮に他国の姫が入った事はいずれ知れ渡る。だから知れる前にほぼ同じくして君に後宮入りしてもらう必要があった__僕の正式な婚約者である君に。そうすれば他に側妃がいようと周囲には自然に君が寵姫だと知れる」
「随分矛盾していますこと」
まだ幼いから巻き込みたくないと言いながら政治的なことを呑み込めと言い、内緒でことを運ぶくせに寵姫であれとか、何を言っているのだろう?
「私だって貴族の娘です。事前にきちんとお話くだされば心の準備もできましたのに」
「!__それは、」
両親の許可と、侯爵邸で働く者たちには話を通して。
「私、後宮に入れられると聞いてとても不安でした」
私にだけ何も知らせず。
「けれど不安な反面、少しだけ嬉しく思ったのです。形は違えど想いあっていると信じていた方の元へ嫁げるのは幸せな事であると」
このひと言で少しだけ明るさを取り戻したフェアルドが立ち上がろうとすると、フィオナがそれを目で制した。
「フィー?」
とりあえず後宮に連れて来た後で謝れば済むと思っているなんて。
それが〝私の為〟だなんてどの面をさげて言っているのか。
「ひどい思い違いでしたわ。陛下にとって私は、ただの玩具おもちゃの人形でしたのね」
絶対零度の視線を伴って放たれた言葉に、部屋の空気が凍りついた。



























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