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フィオナの怒り(4)〜フェアルドの後悔
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「お、妃殿下!今の態度はあまりに__」
フェアルドが出て行った途端、フィオナの側付き筆頭であるマイアが咎める声をあげるが、フィオナは構うことなく着ていたドレスの飾りを手で引きちぎった。
「華やかに送り出すことはできないが、せめてもの祝いに」と侯爵夫人が手ずから胸に付けてくれた物だった。
続いて、侯爵が贈ってくれた首飾りにフェアルドが贈った耳飾りも乱暴に外し、忌々しげに床に投げ捨てていく。
「お嬢様!」
「フィオナ様?!」
大事な主の豹変に“妃殿下“呼びも忘れて側付きたちは止めようとするも、
「触らないで!」
フィオナは鋭い声で一括し、
「貴女達は知っていたんでしょう?こんなことだと知らずに浮かれていた私はさぞ滑稽に見えていたでしょうね、楽しかった?」
とマイア達を睨みつけた。
父も母も知っていた、私が第三側妃に据えられること。
側付きたちも知っていた、先に迎えた妃がいることも、私がただの側女に落とされることも。
自分以外は知っていた。
知っていて送り出したのだ、この花籠に見せかけた檻の中に。
ようやく気付いたあの時の違和感。
___私は、愛されてなどいなかった。
「申し訳ありません!」
「違うんです、お嬢様」
側付き達は真っ青になりながら頭を下げて口々に言い募るが、果たしてどれだけフィオナの耳に届いているか。
この時既にフィオナの中で彼女達は味方などではなかった。
「お怒りはご尤もです、フィオナ様。ですがお父君である侯爵閣下がお決めになったこと。私どもからは何も申し上げることが出来ず……僭越ながら私からも申し上げました、お嬢様に先にお知らせするべきだと。ですが皇帝陛下がお許しになりませんでした。“フィオナには時期が来たら自分で話す“と強く仰られて……勿体なくも私共にまで“嫌な役目を負わせてしまってすまない、君たちの主を頼む“と頭を下げられて」
マイアが進み出てそう言うと、
「「「ご下命であったとはいえお嬢様に注進することも出来ず申し訳ありません」」」
と他の側付き達も揃って頭を下げたが、
「そんなパフォーマンスは結構よ。貴女たちの主人は私でなくナスタチアム侯爵なんでしょう?」
「お嬢様っ!」
マイアが悲痛な声をあげるが、
「それとも陛下かしら?まあどちらでも良いけれどとりあえず、」
広い部屋を見渡したフィオナはぽつりと呟いた。
「こんな支度、必要なかったわね……」
(馬鹿みたい)
素材から選んだ派手ではないけれど美しい意匠が施された礼装。
粋を極めた職人が手掛けた家具や調度類。
ドレッサーを開けてみればドレスが、宝石箱を開ければ眩い宝石たちが入っているのだろう、窮屈でも不自由はさせないとあの男は言っていた。
(ねぇこんな檻の中で、ドレスや宝石なんていつ使うの?何か意味があるの?)
「どれも、三番手の側女には、不要な物だわ……」
(全部、いらない。必要ない)
もうフェアルドと夜会で踊ることもない。
先に娶った妃がいるのだから、三番目は必要ない。
フィオナの言葉にマイア達は絶望した。
「くそっ……!」
読んだ報告書をフェアルドは乱暴に叩きつける。
フィオナはあの後、自分が連れてきた側付きたちにさえ手伝わせず、ドレスを脱いだ後ベッドにこもりきりだという。
着てきたドレスは部屋の隅に乱暴に脱ぎ捨てられていたらしい__見たくもないというように。
部屋に用意させておいたドレスを見てみることも宝石を眺めてみることもなく、食事さえとろうとしない。
マイア達が声を掛けても全く反応しない。
「貴女たちの主人は私ではないでしょう」と言われ、それ以降何ひとつ命令してくれないと側付きたちも陰で泣き崩れているらしい。
「なんてことだ……」
フィオナに忠誠を誓い、仲の良い者たちを厳選して付いてこさせたのが裏目に出てしまった。
事情を全く知らされず連れてこられたフィオナからすれば、全てを知って黙って付いてきた彼女たちは大事なお嬢様から“裏切り者“と位置付けされてしまったのだ。
毎日花を贈っているがフィオナの反応は芳しくない。
もちろん侍女から受け取るのは側付きの誰かだが、フィオナがその側付きから花を受け取ることはない。
ちらりとみるか目すら向けないか、良くて「見えないとこに飾ってね」という程度。
俺から贈られた花は見ることすら嫌らしい。
だが__近くにいてくれる。
馬車で数時間かかるナスタチアム侯爵領の邸でなく、歩いてすぐの場所に彼女がいる。
受け入れて欲しいとか笑いかけて欲しいとか我儘さえ言わなければ、無事な姿を拝むことは出来るのだ。
彼女の心が壊れてしまう前に、事を運んでしまわなければ。
「ごめん、フ……、フィオナ」
フェアルドが出て行った途端、フィオナの側付き筆頭であるマイアが咎める声をあげるが、フィオナは構うことなく着ていたドレスの飾りを手で引きちぎった。
「華やかに送り出すことはできないが、せめてもの祝いに」と侯爵夫人が手ずから胸に付けてくれた物だった。
続いて、侯爵が贈ってくれた首飾りにフェアルドが贈った耳飾りも乱暴に外し、忌々しげに床に投げ捨てていく。
「お嬢様!」
「フィオナ様?!」
大事な主の豹変に“妃殿下“呼びも忘れて側付きたちは止めようとするも、
「触らないで!」
フィオナは鋭い声で一括し、
「貴女達は知っていたんでしょう?こんなことだと知らずに浮かれていた私はさぞ滑稽に見えていたでしょうね、楽しかった?」
とマイア達を睨みつけた。
父も母も知っていた、私が第三側妃に据えられること。
側付きたちも知っていた、先に迎えた妃がいることも、私がただの側女に落とされることも。
自分以外は知っていた。
知っていて送り出したのだ、この花籠に見せかけた檻の中に。
ようやく気付いたあの時の違和感。
___私は、愛されてなどいなかった。
「申し訳ありません!」
「違うんです、お嬢様」
側付き達は真っ青になりながら頭を下げて口々に言い募るが、果たしてどれだけフィオナの耳に届いているか。
この時既にフィオナの中で彼女達は味方などではなかった。
「お怒りはご尤もです、フィオナ様。ですがお父君である侯爵閣下がお決めになったこと。私どもからは何も申し上げることが出来ず……僭越ながら私からも申し上げました、お嬢様に先にお知らせするべきだと。ですが皇帝陛下がお許しになりませんでした。“フィオナには時期が来たら自分で話す“と強く仰られて……勿体なくも私共にまで“嫌な役目を負わせてしまってすまない、君たちの主を頼む“と頭を下げられて」
マイアが進み出てそう言うと、
「「「ご下命であったとはいえお嬢様に注進することも出来ず申し訳ありません」」」
と他の側付き達も揃って頭を下げたが、
「そんなパフォーマンスは結構よ。貴女たちの主人は私でなくナスタチアム侯爵なんでしょう?」
「お嬢様っ!」
マイアが悲痛な声をあげるが、
「それとも陛下かしら?まあどちらでも良いけれどとりあえず、」
広い部屋を見渡したフィオナはぽつりと呟いた。
「こんな支度、必要なかったわね……」
(馬鹿みたい)
素材から選んだ派手ではないけれど美しい意匠が施された礼装。
粋を極めた職人が手掛けた家具や調度類。
ドレッサーを開けてみればドレスが、宝石箱を開ければ眩い宝石たちが入っているのだろう、窮屈でも不自由はさせないとあの男は言っていた。
(ねぇこんな檻の中で、ドレスや宝石なんていつ使うの?何か意味があるの?)
「どれも、三番手の側女には、不要な物だわ……」
(全部、いらない。必要ない)
もうフェアルドと夜会で踊ることもない。
先に娶った妃がいるのだから、三番目は必要ない。
フィオナの言葉にマイア達は絶望した。
「くそっ……!」
読んだ報告書をフェアルドは乱暴に叩きつける。
フィオナはあの後、自分が連れてきた側付きたちにさえ手伝わせず、ドレスを脱いだ後ベッドにこもりきりだという。
着てきたドレスは部屋の隅に乱暴に脱ぎ捨てられていたらしい__見たくもないというように。
部屋に用意させておいたドレスを見てみることも宝石を眺めてみることもなく、食事さえとろうとしない。
マイア達が声を掛けても全く反応しない。
「貴女たちの主人は私ではないでしょう」と言われ、それ以降何ひとつ命令してくれないと側付きたちも陰で泣き崩れているらしい。
「なんてことだ……」
フィオナに忠誠を誓い、仲の良い者たちを厳選して付いてこさせたのが裏目に出てしまった。
事情を全く知らされず連れてこられたフィオナからすれば、全てを知って黙って付いてきた彼女たちは大事なお嬢様から“裏切り者“と位置付けされてしまったのだ。
毎日花を贈っているがフィオナの反応は芳しくない。
もちろん侍女から受け取るのは側付きの誰かだが、フィオナがその側付きから花を受け取ることはない。
ちらりとみるか目すら向けないか、良くて「見えないとこに飾ってね」という程度。
俺から贈られた花は見ることすら嫌らしい。
だが__近くにいてくれる。
馬車で数時間かかるナスタチアム侯爵領の邸でなく、歩いてすぐの場所に彼女がいる。
受け入れて欲しいとか笑いかけて欲しいとか我儘さえ言わなければ、無事な姿を拝むことは出来るのだ。
彼女の心が壊れてしまう前に、事を運んでしまわなければ。
「ごめん、フ……、フィオナ」
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