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ダイアナ視点 2

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私はさほど裕福でもない貴族の出で、兄妹姉妹も多いことから城に侍女として上がった。
上手くすれば良縁に恵まれるかもしれないし、何より給金がいい。
働いたり大勢の間で上手く立ち回るのは前世で慣れていたから、調理場の手伝いから始めて割と早めに王女付きの侍女にまで登りつめた。

王女はまあ噂通りの我儘娘だったが、前世で何人もの子供を産んで育てた身からすれば駄々っ子みたいなものだ。
自分ももう二十代半ば、王女が外国に嫁ぐなら職を辞して結婚なり別の人生を考えても良いかもしれないと思っていたところに、
「ランタナには侍女は二人だけ連れて後宮入りして良いと言われているの。……そうねぇレナ、貴女一緒にいらっしゃい。もう一人は__ダイアナ、貴女にするわ」
と言われて面くらった。
何故ってこういう場合は若くて華やかな容姿の者を選ぶのが普通だからだ。
レナもダイアナもそこそこ整ってはいるが、どちらも色味がうす茶でぱっと見は地味だ。
レナは二十三でダイアナは二十五、十代の娘も多いのにわざわざ自分とレナを選ぶとは思わなかったが、王女の性格を考えれば無理もないと悟った。
黒髪を自慢に思っているセレーネは艶やかな黒髪の娘を側に置くのは嫌がったし、同じ理由で自分より若い娘を連れて行くのも嫌だったのだろう。

臣下の幸せを願うのも、王族の務めなのだが。
ここでそんな讒言をするつもりもないダイアナは「かしこまりました」と粛々と従った。

そうしてやって来た本宮と後宮を繋ぐ東の間でフェアルドと対峙した(正確には挨拶するセレーネの背後に控えていただけの)時、ダイアナは頭を下げたまま倒れそうだった。
なんとか堪えて一方的な口上を述べて去る皇帝を見送ったダイアナは爆発寸前のセレーネより噴火寸前だった。

まさかあれは、あの男は。
髪も、瞳の色も顔立ちもまるで違うが、__あれは、前世で自分を死ぬほど苦しめた王太子だ。

何故、ここにいる?
新しい皇帝?
あの最低な男が臣民の支持も厚く誠実な人格者だと言われているあのフェアルド・ランタナですって?

そんな馬鹿な!!

ダイアナは今すぐそう叫び出して後宮から飛び出したくなるのを必死に抑え、皇帝を観察することにした。
観察といっても住む宮が違うし、主に皇帝の評判をかき集めるくらいしか出来なかったが、わかったのは皇帝はあまり側に人を寄せ付けないらしく、最側近とも呼べる護衛騎士一人しか側に置かないこと、歳の離れた婚約者をそれは大事にしているらしいこと。

王太子がたった一人の令嬢に一途?冗談でしょ?
そう思ったダイアナはその婚約者のことも聞いてまわった。
他国から来たばかりの侍女なので怪しまれるかと思ったが、「有名な話だから」と皆笑って教えてくれた。
割と苦笑混じりなのは他国から来た側妃を憐んでいるからだろう、ダイアナもあの時一緒に聞いていた。
「外交の手前上貴女を迎えたが側妃というのは形だけ、自分には愛する婚約者がいるので貴女達はタイミングを見計らって国に帰す」という言葉を。
あの場ではおとなしく頷いていたセレーネだったが、宮に用意された部屋に入るなり激しいヒステリーを起こしていた。

後宮には元々侍女が沢山いるので、形だけ宥めて後は他の侍女に任せた。
そうして聞き回ってわかったのは皇帝が夢中になっている婚約者の名はフィオナ・ナスタチアム侯爵令嬢、皇帝の最側近の騎士の名はディオンと言うらしい。
何とかその二人の姿を直に見たいと思ったが、前皇帝の喪中で宮中行事は催されないし、基本自分は後宮から出られない。
せいぜいお使いで本宮の一部エリアに入れるくらいだ。

出来るだけお使いをかって出て本宮を彷徨うろついている時、遠目に皇帝の姿を見つけ、その背後に付き従う騎士の姿をちらりと見掛けた。
目にした途端、吐きそうになった。
そのまま人のいない庭園の茂みに埋もれるように倒れ込んでひゅうひゅうと音を立てる喉がまともに呼吸するまで涙を流しながら耐えた。
「どう、して……?」
生まれ変わった先でまた奴らに出会わなければならないのか?
いや、そもそもあいつらに転生など許されるのか?
を殺し、多くの犠牲を生んだ元凶が__「!」
そこまで考えて、ばっとダイアナは起き上がった。

待って。
ナスタチアム侯爵令嬢は、あの皇帝の婚約者の年は、十一歳下だと言っていた。
だから皇帝はまだ独身なのだと、それは仲睦まじい婚約者同士だと。
「そんな……」
彼女が死んでまで逃れようとした、断ち切ったはずの相手と婚約しているなんて。
「嘘、よね……?」
そんな筈がない。
顔形が違っても、自分だってひと目でわかったのだ、彼女にわからないはずがない。
まさか二人とも記憶がない?
あり得ないことではない__前世の記憶などないのが普通だ。
そうだ、偶然に決まっている。
現に皇帝は私のことだって気付いていなかった。
彼女なら仲睦まじい婚約者になどなるわけがないのだから、別人に決まっている。














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