心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

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ダイアナ視点 3〈第一章・完〉

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あの男の長年の婚約者だというナスタチアム侯爵令嬢が後宮に入ってきた__三番目の側妃として。

何故、喪中とはいえ先に後宮にあげなかったのだろう?
お陰で「第一側妃は私よ!侯爵家の小娘なんかに負けるはずがないわ!」と我儘王女が妙な自信をつけてしまっている。
国交上の問題なのだろうが、せめて一番先に迎え__られなかったのか、確か我が国トーリアはランタナが「喪中なのでもう少し後に」という要請を無視して出立し、「我が国の姫は既にそちらに向かった、貴国の誠意ある対応を望む」とか書状送ったんだっけ、喪中のどさくさとはいえよく大国にそんな真似できたな?

南国も同じような真似をしたと聞いた。
だから正式な婚約者である令嬢が第三側妃になったのだろう、もしかしなくても両国ともこの国での第一印象は最悪なのでは?
押しかけ側妃に皇帝が通うはずがなく、本当に宮が与えられただけだった。
週に一回、お茶の時間が持たれたが皇帝が特に話すことはなく、セレーネが一方的に喋りまくるのを聞き流し、お茶に口をつけて帰っていく。
ひどい時は三十分もなく、長くてもせいぜい一時間の滞在。
しかもここの後第二側妃の元へ向かい、同じように過ごして帰るらしい。
本当にただルーティン通りに行動してるだけのようだ。

そして、第三側妃が後宮入りしてすぐ「側妃たちの歓迎のためのささやかな宴」が皇帝主催で催された。
規模は小さいが皇帝主催だ。
セレーネは誰にも負けじと張り切り、私は「第三側妃が彼女なのか確かめられるかもしれない」と僅かな希望を抱いたが、始まってすぐその希望は打ち砕かれた。

「本日フィオナ妃は体調が優れないため欠席となる」と開会の挨拶で皇帝が言い放ち、「トーリアとナーリャの姫は楽しんで行かれよ」と早々に退出してしまったからだ。
しかもそれからしばらくして皇帝があからさまに第三側妃を寵愛し始め、皇帝の私室から出さなくなったという話が皇宮中に広まった。

これではいつ彼女の顔を見られるかわからない。

私はセレーネ王女をそれとなく焚きつけ、皇帝に擦り寄り、何人か買収できそうな兵士を仲介し、皇帝のカフスボタンをこっそり洗濯場から失敬までしてセレーネが皇帝の私室に乗りこむよう仕向けた。

“違う、絶対に彼女じゃない“
そう信じて、確信が欲しくて。
そこまでして、セレーネに付いて皇帝の私室まで行った時に、会ってしまった。

ずっと会いたかった彼女に。

フィオナ・ナスタチアム侯爵令嬢、今は第三側妃___間違いない、彼女だ。
(どう、して……?)
ダイアナは呆然と彼女を見遣った。
本来なら不敬と取られるだろうが、目の前のセレーネがそれを上回っていたので私が咎め立てされることはなかった。

けれどそんなことはどうでもいい。

皇帝の私室しかもベッドの上で、彼女は前世と同じくやつれていた。
綺麗な水色の瞳は昏い光を讃え、未来に何の希望も抱いていない、と同じ瞳。
皇帝に溺愛されている寵姫?これが?
少しも幸せそうではないではないか、これではまるで__「何故、貴女が___」
東の宮の自分にあてがわれた部屋に戻った私は、明かりをつける気にもならず暗がりで一人ごちた。

幸せになって欲しかったのに。
生まれ変われたなら、来世があったなら誰よりも何よりも幸せになるべき人なのに。
何故、またあの男に囚われているの?
助け出したいが、自分にはその力がない。
彼女の実家である侯爵家に話してみようか?
いや、彼女の父親は現宰相だ。
わかってて娘を差し出しているとすれば、かえって仇になる。
せめて皇帝が少しの間だけでも側から離してくれれば__。

そう思っていたところに、彼女が懐妊し里帰り出産という名目で侯爵家に帰された。
(侯爵家にいる間なら、接触できるかもしれない)
少なくとも後宮より容易いはずだ。いっそ暇を願いでようか……。
そのことで頭がいっぱいだったダイアナは、セレーネがあろうことかソレイユと組んで、フィオナを葬ろうとしていることをギリギリまで知らなかった。
「これであの美しいフェアルド様は私を愛してくださるわ。貴女も良い思いができるわよ、色々協力してくれたものね。あの小娘を処分したら貴女を侍女長に、いえ女官長にしてあげるわ」
と得意げにしなを作って見せる様は品のない娼婦にしか見えず、ダイアナは花瓶の水を頭からぶちまけてやりたかった。

(なんてことを……!)
上手くいこうといくまいと、計画した時点で死刑確定だ。
彼女がみごもっているのは皇帝の子なのだ。このままでは連座で自分も処刑だ。
(それ以前に、彼女を傷つけさせるわけにはいかない__あの皇帝に記憶がないとしたら、この行動は悪手になる)
だが、それがなんだというのだ。
自分のことより彼女だ。前世の彼女がそうしてくれたように。

ダイアナは決心して皇帝の所に向かった。


〈第一章・完〉
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

*続きは「心の鍵は壊せない」の後になりますのでここで一旦区切りとさせていただきます。「心開」第二章と「源氏」第二章のストックを現在準備中、出来上がり次第連投始めます。
















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