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フィオナとダイアナ 4(回想3)

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キリアン元王太子はやつれてはいたがしっかりとした足取りで、礼装ではないが平民にしては上等な喪の色に身を包み、手には白い百合の花束を抱えていた。
途中までピッタリくっついていた見張りの兵もキリアンが墓に歩み寄り、跪いている間は足を止めて距離を取った。

一人で墓に花を供えたキリアンは、
「俺さえ、いなかったら」
呟きながら墓石を撫でた。
まるで愛おしい相手の髪を梳くように。
「俺とエディアルさえ同じ学園にいなかったら、君が生を終える必要などなかったのだろうに__すまない」

「!」
(あいつ__!)
木の影から覗いていたネリーニは心中で悪態を吐く。

「いや、巡り合わせの問題じゃない。俺たちさえいなければ、俺の存在さえこの世になければ。きっと君は死なずに済んだ。本当にごめん……フローリア……大好きだった、君の笑顔が好きだった。俺は君の笑顔を引き出す努力をすべきだったのに、泣かせて怒らせてばかり……いや、怒らせるどころじゃない、絶望だけ与えてしまったね。こんな言葉を聞かされては迷惑なだけかもしれないけど__」

(やめろ!やめなさいよバカ王子!死んだ彼女に慈悲なんか請うんじゃない!)

「愛してる、フローリア」

(やめなさいってば!!)

「心より先に体を求めてごめん、君の全てを奪ってごめん、君やネリーニ嬢の尊厳を傷つけて本当にごめん」

「!!」
(黙れ!!あんたの謝罪なんか欲しくない!)

「俺はきっと地獄に落ちるから天にいる君にはきっと会えない」

(そりゃそうでしょうよ)

「だから今__伝えておく。愛してる、大好きだよフローリア」

(馬鹿が)

「生きているうちに伝える機会はいくらでもあったのにな。自分の馬鹿さ加減に呆れる」

(全くよ!)
もう、遅いのだ。

(馬鹿が……)
ネリーニは歯を食いしばって罵倒を堪えた。
やがて雨が降り出して土砂降りになり、ずぶ濡れになってもキリアンもネリーニも一歩も動けずにいた。
どれくらいそうしていたのか、雨が上がり晴れ間が覗くとキリアンは立ち上がり、
「俺はこれから果ての塔に入る。生きて出てくることはないだろう、君の魂の安らぎを祈るよ」
と言い残して去って行った。

ネリーニは離れていく後ろ姿に「馬鹿が、もう遅い」と毒吐いた。

彼女はもう永遠に失われてしまった。

遅すぎるのだ、何もかも。

「あんたも私も遅すぎた__フローリア様には二度と会えない」
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