心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

詩海猫(8/29書籍発売)

文字の大きさ
45 / 55

フィオナとダイアナ 5

しおりを挟む
もちろんダイアナは奴の告白部分については端折ってただ「墓で謝罪していた」とだけ話したのであるが、
「そう……良かったわ」
聞き終わったフィオナがホッとしたように微笑んだのに対し、ダイアナは
「相変わらずですね、貴女は」と苦笑した。

「相変わらず?」
前世でも、それ程多く会話した覚えはないのだが。
「さっき私が前世名を名乗った時、“どうして?“とおっしゃいましたよね?」
「え ええ、だって」
セレーネ妃に付いてきたということはダイアナはトーリア出身、つまり外国人だ。
わざわざあの二人の前に前世名ネリーニを名乗ってまでこの国に残ったところでメリットはない。
むしろ知らぬ顔で国に戻ってしまった方が平穏に過ごせたのではないだろうか?

「もちろん、この国に来て初めて鬼畜皇帝とアホ騎士の顔見た時は吐きそうになりましたし“コイツらに転生なんか許されるのか“って思いましたわ」
「そうでしょうね……」
先程の自分もショックで倒れそうだった。
震えも止まらなかったがネリーニ、いやダイアナが淹れてくれたお茶と強く手を握ってくれたお陰で今は少し落ち着いている。

が、

「__こんなに震えているくせに」
と握った手に力をこめられた。
「え?」
「こんなに震えて、手も冷たくなって__なのに自分の身をかえりみず、他人の心配ばかりして。ほんと貴女って人は」
「ダイアナ?」
「私だって口惜しかったんですよ?自分が幸せを感じる度、貴女のことを思い出して__あの時本当に自分にできることはなかったのか、他にあの猿どもに一矢報いる方法はなかったのか、王妃様がもっと貴女に寄り添ってくれていたら!もっと言えば私達は他の世話係と違って互いの主人ヅラした猿の正体を知っていたのだから手を取り合うことはできなかったのかって!なのに貴女は誰にも助けを求めず、全てを背負って死んでしまった。腹が立ちましたわ、原因のバカ猿はもちろん泣くしか出来なかった自分にも、そして貴女にも」
「えっ……」
(私?)
「最期くらい、いっそこんな世界滅んでしまえばいいとか、生きてる人間全員不幸になれとか言っても良かったのに」
「そんな破壊神みたいな、」
「ただ私含め餌食になった女生徒たちを救うだけじゃなく遺産まで残して、幸せを願って逝くなんて__、そんなの」
「重荷だったのね、ごめんなさ「違いますっ!」、」
「正直、遺産は有り難かったです。外国で事業を始めるのは言うほど容易いことではありませんから」
(じゃあどうして?)
「私の一番の後悔は、貴女を一人で逝かせてしまったこと」
「……!」
「貴女同様、私も疲れきっていました__あの学園での生活に。出来ることなら死んでしまいたかった、けれどそんな勇気さえ当時の私にはなかった」
「なら、何故」
「貴女があまりにも変わっていないからです」
「?」
「そうやって他人の幸福は願うくせに自分の幸福は追わない。今だってどうして黙っていれば関わらずに済んだのにわざわざ巻き込まれに飛び込んだのかって思ってるでしょう?なんだってそう利他的なんですか貴女は」
「利他的__かしら?」
(結構我儘に育てられたと思うのだけど)

「ほら、自覚がないでしょう。もっと自分のことだけ考えたらいいのに」
「割と利己的そうだと思うのだけど……」
「自分が一番大事な人間は“あなたにこの子に触れる資格はありません“なんて皇帝に怒鳴りつけたりしないし、自分の侍女が嫌な思いするんじゃないかって真っ先に気にかけたりしません。利己的主義っていうのはもっとこう__あの国王みたいなのを言うんですわ」
「それは、」
(確かにあの王太子の父親なだけあって欲望の権化みたいな人だったけど)
「明らかに違うでしょう?貴女は自分を犠牲にすることを厭わないくせに、他人が不幸になることは嫌うんです。本っ当に救いようのないお人好しですわ」
「お人好し……?」
言い切られてフィオナはなんだかショックを受けた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...