心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

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フェアルドとディオン 4

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「皇族として有り得ない」と言われながらも、フェアルドは降るような縁談を反故にし続けた。
兄である皇帝も政略結婚を強いるようなことはなかったし、このまま兄の補佐として務めあげることが前世で国を滅びに導いてしまった自分にできるせめてもの償いだろうと思った。
(こうして天寿を全うしたなら、来世ではフローリアにもう一度会えるだろうか)

そう思っていた矢先、幼いフィオナをフェアルドは見つけてしまった。
呼吸も忘れるほど目の前の少女が愛おしくて抱きしめてしまいたかった。

彼女が護衛を連れていて良かった。
気強い侍女が間に立ちはだからなければ、うっかり手をのばしてしまっていたかもしれない。
(誓ったはずだ)
ぐ、と拳を握り締めて初めましての挨拶を交わし、彼女と友達になった。

そこからは驚くほど順調だった。
前世の記憶がない彼女は自分を純粋に慕ってくれて、当たり前に笑いあうようになった。

(前世の罪の清算が終わったのだろうか?)
そう天に感謝してしまうくらい、フェアルドは幸せだった。
会いに行けば出迎えてくれて、食事を共にし、帰りは「お気をつけて」と見送ってくれる。
周囲に彼女との付き合いに反対する者もいない(皇弟妃狙いは別として)。

「……夢のようだな」
遠目にディオンの姿を見ても何も反応しないことに心底安堵してそう呟くと、
「殿下だけでも幸せそうで何よりです」
とディオンも目を細めた。
今世でのディオンはフェアルドより九歳上だが、前世の記憶があるせいか老生した年寄りのような物言いをする。
二十になる前に戦地で戦って戦って果てたはずなのに、血気盛んなところが全くない。
いくら十近く年上でも、もしかしてほんとに不能なんじゃないかと一瞬心配しかけたフェアルドだったが、(それこそ余計な世話というものだな)と言いかけた言葉を呑み込んだ。
「お前も幸せを探したらどうだ」などと、軽く口にするべきではないことはわかっていたから。

絶対二人きりにならず、仕事でも女性と二人になることなく、フィオナへの愛を囁き続けたフェアルドの想いが実り、フィオナとの婚約は確実なものとなった。
(ここで油断すべきではない)
正式に婚約したとしても、この婚約が“フィオナの自由意志で覆せる“ものである以上、努力を怠ってはいけない。
フェアルドは一層フィオナに忠実に尽くした(周囲がドン引きするほどに)。

(後宮を持つのが、兄皇帝だけで良かった……)
もしフィオナが後宮に入ったりすれば前世の記憶を刺激してしまうかもしれないし、何より記憶がない今でもフィオナは後宮に嫌悪感を抱いている。
(絶対にフィオナを後宮に入れるわけにはいかない__そのためには兄夫婦に早く子が生まれてくれないと)
そう色々と手を回したが、結局兄は我が子の顔を見ることなくこの世を去った。

国をあげての葬儀後、兄と束の間二人になったフェアルドは「どう、して……兄上っ!」と棺に泣き縋った。
(どうして、何の罪もない兄が……)
兄は体は丈夫な方ではなかったが心の強い人だった。
既に両親のいない自分にとってただ一人の家族だった。
「俺が、帝位を押しつけたからか……?」
それとも、兄にも自分の知らない前世の業があったのだろうか?
今となっては訊くこともできない。
フェアルドはそれがどうしようもなく寂しかった。

「フィオナ……」
そしてそんな想いの行きつく先は、ただひとつしかなかった。
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