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心を持ったプラネタリウムの旅のはなし。
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プラネタリウムは帰る場所を探していました。
人々の頭上を星で照らして笑顔にしたり、淀んだ瞳を澄んだ色に戻したりするのが自分の役目なのに、今までいた場所がなぜか なくなってしまったのです。
プラネタリウムはとある町の外れに立派な建物としてありました。
毎日人もたくさん来ました。
毎日たくさんの人の心に触れたプラネタリウムには、心が宿りました。
けれど、プラネタリウムに来る人々は年月と共に減っていき、持ち主もとうとうもてあまして手放してしまい、素性のよくない人たちが夜に集まるようになると、やがて老朽化を理由に取り壊されてしまいました。
建物が壊されても、プラネタリウムの心は残りました。
彼にはなぜ自分のいた場所がなくなったのか、わからないのでした。
建物のあった場所にしばらく佇んでいたプラネタリウムは、
「そうだ、家を探しに行こう」
と前を向いて歩き始めたのです。
「どこかにあるはずだ、僕が空を照らす場所が__」
プラネタリウムは人ではないので疲れないし、ずっと訪れる人々の声を聞いてきたので話すことは出来たのです。
「僕の家を知らない?」
けれど道行く人に聞いても、誰も答えてはくれません。
どころか、おかしなものでも見るような目を向け離れて行きます。
プラネタリウムにはわけがわかりませんでした。
仕方ありません、知らない人にはプラネタリウムは何か建物の被りものをした人にしか見えないのです。
時々子供が着ぐるみかなにかだと思って近寄ってきますが、
「ダメよ!近づいちゃ」
とお母さんらしき人があわてて連れ帰ってしまい、きくこともできません。
項垂れているとどこからか声が聞こえてきました。
「たくさんの人を助けて、幸せにして、笑顔にしたら天に戻れるよ日がくるよ。上を見てごらん」
「え?」
声に従い、夜空を見上げるとたくさんの星が光っていました。
「うわぁ……!」
自分が照らし、映し出していたものよりずっと広く大きく、強く光り輝く星々たちを見て、
「そうか、みんなが来なくなったのは、僕の光が足りないからなんだ……」
プラネタリウムはうつむきました。
「いいや、違う。今の人々は星を見る余裕がないんだ。前だけを見て、今まで気付かなかったお前のように」
「それを、どうやって幸せにするの?」
「出来るかぎり、立ち止まって周りを見ながら進んでごらん。出来たと思ったら、一番高い建物のてっぺんまで登るんだ。そうしたら天に上がれる」
それからプラネタリウムは困ってる人、無気力にうつむいてる人、泣いている人を見つけては、声をかけ続けました。
「どうして泣いてるの?」
「どうしたら幸せになれるの?」
「ぼくに手伝えることはある?」
と。
答えてくれる人は多くありませんでしたが、実際に、
「助けてくれて、ありがとう」
と言ってもらえることもだんだん増えていきました。
プラネタリウムは誰かを助けながら、旅をしました。
世界で一番高い建物を目指して。
旅の終わりに差し掛かった頃、一人の青年が泣いているのに出くわしました。
「なんで泣いてるの?」
「……恋人と、喧嘩をしてしまって……、」
「うん。それで?仲直りしたいの?」
「したい。結婚の約束もしてたのに……、それも、破棄するって、さよならだって」
「その恋人さんは、それで幸せなの?」
プラネタリウムは遠くを見つめます。
普通の人間より背が高いプラネタリウムなので、遠くまで見渡せるのです。
「わからない、わからないけど、僕は幸せになんかなれない、もう死にたい」
そう嘆く青年に、プラネタリウムは一本の道を示しました。
「あの道の先に、希望があるよ」
と。
青年がそちらに目をやると、何も見えません。
「……何もないじゃないか」
恨みがましく言うその目の端に、何かが映りました。
「ジョアンッ……」
泣きながら走ってくる恋人の姿でした。
彼女は、
「さっきはごめんなさいっ……!婚約破棄なんてしないから、つい勢いで言っちゃっただけなの……!」
と胸に飛び込んできました。
「ほんとに……?」
青年は急に戻って来た恋人に戸惑いながらもとりあえずお礼を言おうと振り返ると、もうそこには誰もいませんでした。
プラネタリウムはさっさと歩きだしながら、
「全く……、なんでみんな心にもないことを言ってわざわざすれ違うんだろう……?人間って面倒くさいよなぁ」
と
だいぶ人間くさくなってごちります。
プラネタリウムにはただ見えていたのです、道の向こうから走ってくる彼女の姿が。
「想いは一緒じゃないか」
なのに、さよならするなんて、とプラネタリウムは呆れました。
まあ、でも幸福なのは良いことです。
「お幸せに」
プラネタリウムは呟いて、到着した建物を見上げました。
建物の中に入り、階段をあがりながら時おり窓の向こうに見える星空に語りかけます。
「ぼく、願いを叶えたよ」
一歩、また一歩と踏み出しながら今まで出会った人たちを思い出します。
「人を助けたよ」
気味悪がられたりもしたけど、
「迷子を親元に届けたよ?」
最後は感謝してくれた。
「もう良いよね?」
だから、
「僕を登らせてくれるよね?」
プラネタリウムは建物のてっぺんにつきました。
プラネタリウムは今世界で一番高くて大きな教会の一番上にいます。
まだ建設途中ですが、出来上がったら世界で一番高い塔になるはずです。
この教会が完成する時、一番天に近くなる時、空の一部になることが出来ます。
もう彷徨わなくていいのです。
プラネタリウムは毎晩てっぺんから空をみつめ、時々手を伸ばしてみます。
もうすぐだ、もうすぐ。
もうすぐ、天に手が届く。
想いが、届く。
願いが、叶う。
もう一度、光を。
ーー柔らかで温かく空を照らす光を、それを見上げる優しい瞳を、取り戻すんだーー。
人々の頭上を星で照らして笑顔にしたり、淀んだ瞳を澄んだ色に戻したりするのが自分の役目なのに、今までいた場所がなぜか なくなってしまったのです。
プラネタリウムはとある町の外れに立派な建物としてありました。
毎日人もたくさん来ました。
毎日たくさんの人の心に触れたプラネタリウムには、心が宿りました。
けれど、プラネタリウムに来る人々は年月と共に減っていき、持ち主もとうとうもてあまして手放してしまい、素性のよくない人たちが夜に集まるようになると、やがて老朽化を理由に取り壊されてしまいました。
建物が壊されても、プラネタリウムの心は残りました。
彼にはなぜ自分のいた場所がなくなったのか、わからないのでした。
建物のあった場所にしばらく佇んでいたプラネタリウムは、
「そうだ、家を探しに行こう」
と前を向いて歩き始めたのです。
「どこかにあるはずだ、僕が空を照らす場所が__」
プラネタリウムは人ではないので疲れないし、ずっと訪れる人々の声を聞いてきたので話すことは出来たのです。
「僕の家を知らない?」
けれど道行く人に聞いても、誰も答えてはくれません。
どころか、おかしなものでも見るような目を向け離れて行きます。
プラネタリウムにはわけがわかりませんでした。
仕方ありません、知らない人にはプラネタリウムは何か建物の被りものをした人にしか見えないのです。
時々子供が着ぐるみかなにかだと思って近寄ってきますが、
「ダメよ!近づいちゃ」
とお母さんらしき人があわてて連れ帰ってしまい、きくこともできません。
項垂れているとどこからか声が聞こえてきました。
「たくさんの人を助けて、幸せにして、笑顔にしたら天に戻れるよ日がくるよ。上を見てごらん」
「え?」
声に従い、夜空を見上げるとたくさんの星が光っていました。
「うわぁ……!」
自分が照らし、映し出していたものよりずっと広く大きく、強く光り輝く星々たちを見て、
「そうか、みんなが来なくなったのは、僕の光が足りないからなんだ……」
プラネタリウムはうつむきました。
「いいや、違う。今の人々は星を見る余裕がないんだ。前だけを見て、今まで気付かなかったお前のように」
「それを、どうやって幸せにするの?」
「出来るかぎり、立ち止まって周りを見ながら進んでごらん。出来たと思ったら、一番高い建物のてっぺんまで登るんだ。そうしたら天に上がれる」
それからプラネタリウムは困ってる人、無気力にうつむいてる人、泣いている人を見つけては、声をかけ続けました。
「どうして泣いてるの?」
「どうしたら幸せになれるの?」
「ぼくに手伝えることはある?」
と。
答えてくれる人は多くありませんでしたが、実際に、
「助けてくれて、ありがとう」
と言ってもらえることもだんだん増えていきました。
プラネタリウムは誰かを助けながら、旅をしました。
世界で一番高い建物を目指して。
旅の終わりに差し掛かった頃、一人の青年が泣いているのに出くわしました。
「なんで泣いてるの?」
「……恋人と、喧嘩をしてしまって……、」
「うん。それで?仲直りしたいの?」
「したい。結婚の約束もしてたのに……、それも、破棄するって、さよならだって」
「その恋人さんは、それで幸せなの?」
プラネタリウムは遠くを見つめます。
普通の人間より背が高いプラネタリウムなので、遠くまで見渡せるのです。
「わからない、わからないけど、僕は幸せになんかなれない、もう死にたい」
そう嘆く青年に、プラネタリウムは一本の道を示しました。
「あの道の先に、希望があるよ」
と。
青年がそちらに目をやると、何も見えません。
「……何もないじゃないか」
恨みがましく言うその目の端に、何かが映りました。
「ジョアンッ……」
泣きながら走ってくる恋人の姿でした。
彼女は、
「さっきはごめんなさいっ……!婚約破棄なんてしないから、つい勢いで言っちゃっただけなの……!」
と胸に飛び込んできました。
「ほんとに……?」
青年は急に戻って来た恋人に戸惑いながらもとりあえずお礼を言おうと振り返ると、もうそこには誰もいませんでした。
プラネタリウムはさっさと歩きだしながら、
「全く……、なんでみんな心にもないことを言ってわざわざすれ違うんだろう……?人間って面倒くさいよなぁ」
と
だいぶ人間くさくなってごちります。
プラネタリウムにはただ見えていたのです、道の向こうから走ってくる彼女の姿が。
「想いは一緒じゃないか」
なのに、さよならするなんて、とプラネタリウムは呆れました。
まあ、でも幸福なのは良いことです。
「お幸せに」
プラネタリウムは呟いて、到着した建物を見上げました。
建物の中に入り、階段をあがりながら時おり窓の向こうに見える星空に語りかけます。
「ぼく、願いを叶えたよ」
一歩、また一歩と踏み出しながら今まで出会った人たちを思い出します。
「人を助けたよ」
気味悪がられたりもしたけど、
「迷子を親元に届けたよ?」
最後は感謝してくれた。
「もう良いよね?」
だから、
「僕を登らせてくれるよね?」
プラネタリウムは建物のてっぺんにつきました。
プラネタリウムは今世界で一番高くて大きな教会の一番上にいます。
まだ建設途中ですが、出来上がったら世界で一番高い塔になるはずです。
この教会が完成する時、一番天に近くなる時、空の一部になることが出来ます。
もう彷徨わなくていいのです。
プラネタリウムは毎晩てっぺんから空をみつめ、時々手を伸ばしてみます。
もうすぐだ、もうすぐ。
もうすぐ、天に手が届く。
想いが、届く。
願いが、叶う。
もう一度、光を。
ーー柔らかで温かく空を照らす光を、それを見上げる優しい瞳を、取り戻すんだーー。
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