<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

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交錯 3 ひな祭り

ひな祭りーーそれは独身喪女には限りなく縁遠いイベント。
の筈なのだが、
「おねーさま!3月2日私の誕生日なんです!お祝いにうちに泊まりに来て下さい!そしてひな祭りを一緒にやりましょう!」
 例によって例の如く、妹の唐突なおねだりからそのイベントへの強制参加が決まってしまった。

まあ、聞けば3月2日は両親が揃い友達を呼んでささやかなパーティーを開くが、夜には友達だけでなく両親もまた出張に出てしまう為、夜から泊まって翌日お雛様を囲んでひな祭りっぽいことやりましょう、と過ごし方は年末年始とそう変わらないみたいなのでほっとした。
 まあ、雛あられは私も好きでなので問題ないか。
(後は、手持ちのお菓子と誕プレか。どうしようかな?)

恵方巻にスイーツロールがあるように、今は限定ひな祭りケーキ、なんてものが多々ある。
良さげなのを幾つかピックアップして最終的にカンナちゃんに選んでもらい、それを持って行く事にして予約をし、カンナちゃんはケーキだけで良いと言ったが”姉”の立場上ーーそういう事にしておくーー気分の問題だ、そういう訳にもいかない。
ので、ネットでささやかな物を取り寄せ、ケーキのオマケと称して持って行く事にした。

♦︎♦︎♦︎

「ーー凄いな」
 ずらりと並んだ雛人形に驚く。
「ま、日本の伝統だからねぇ一応」
「一応なのか?」
「そりゃ見ればわかると思うけど。これって場所取るでしょ?現代日本の住居事情と相入れないんだよねぇ」
「あぁ……」
確かに、ショーケースに入った人形だけならともかく七段飾りともなればすごい存在感だ。
小柄な日本人2人が寝る分くらいのスペースは取りそうである。
「ま、当人の希望はこのショーケースに入った二体入りだから問題ないけどね」
 とお内裏様とお雛様のセットを指す。
 同僚が結婚して子供が産まれたので、何か贈ろうという話になったのだが当の本人が産まれたのが女の子だったので、
「それなら雛人形がいい」と言い、ウィルとクレイルが休みを合わせデパートの売り場にやってきたのである。
秘密部署とはいえ何か余程の異常事態でもなければ比較的休みは自由だ。むしろ非常時は出ずっぱりになるのでないうちに休みを消化しておけ、という感じである。
「なんで女の子だから雛人形なんだ?」
「んー?厄除け……かなあ?」
もう大分廃れつつあるけどね、と前置きしたウィルの話によるとひな祭りとは、古来川へ紙で作った人形を流す「流し雛」があり、穢れ払いとして雛人形は「災厄よけ」の「守り雛」として祀られたそうだ。
 後に飾り物としての形と、一生の災厄をこの人形に身代りさせるという祭礼的意味合いが強くなり、女性の嫁入り道具のひとつに数えられるようになったとか。
「身代わり人形、か……」
 厄災を肩代わりさせて、流す。
 まるで聖女のさせられた事と一緒ではないか?と自嘲する。
 この”厄災除け”という事象は、どうしても彼女の最後の姿を思い起こさせる。
 ーー何故、あの世界に全く関係ない彼女でなければならなかったのか。
“他の世界の人間に丸投げって、卑怯じゃないですか?“
 ーーそう言った彼女に俺は、あの世界はどう返した?
 
「おーい、クレイル?」
 思考の闇に沈みそうな所に声がかけられる。
「あ、ああーーすまない。で、雛人形は……」
「もう配送の手配まで済ませたよ。明日指定の時間に届けてくれるってさ。ギリだけど間に合って良かったよね。ほら、行くよ?もう一ヶ所寄らなきゃいけないんだから」
(相変わらず仕事の早い男だ)
そう、ひな祭りはもう明日だ。配送が不可だった場合包んでもらい、持って帰って自分達で届けるしかないと思っていたから助かった。

 前にいた世界での聖女の事は彼にだけ話した。あまり詳しく語ってはいないが。
前にいた世界では魔物が増えると聖女を召喚したこと、自分はその聖女に好ましい感情を抱いていたが結局何も出来ず彼女は役目を果たし亡くなった事、以後その召喚魔法は禁忌となったこと。それだけだ。
 ウィルも自分が思考の闇に沈んでる時は彼女の事を考えているのだとわかっていて何も言わないし口外もしない。
周りから変人と言われつつ何か頼まれる事も多いーー今日みたいに。周りとの距離感が掴めない俺は彼のおかげで随分助かっている。

ひな祭りを翌日に控え、地下フロアは混雑していた。
居並ぶスイーツ専門店などみても「ホワイトデーにどれが良いか」などクレイルには全く区別などつかず、専らウィルに言われるまま彷徨っているのが現状だ。
ホワイトデーまでにはまだ日数があるが、近くなる程売り場も混雑するし手頃なものから品薄になる、とのアドバイスに従い今日のうちに日持ちする菓子を選ぶ事だけは決めていた。
「んー、これなんかちょうど良いんだけど数が足りないかな?種類違うと相手にいらぬ誤解を与えるからね~」
「そうなのか?」
「当たり前でしょ?例えば他全員が同じ物なのに1人だけ違うものあげたりしたらーーあ、この人にとって自分は特別なんだ と思っちゃうのが普通。まあ、その一個があからさまに他より安っぽいものだったら馬鹿にされたって怒るかもしれないけどーーあぁ、この人私の気が引きたいんだと思っちゃうコもいるかもね?頭が恋愛お花畑の子なら」
 (ーーさっぱりわからん)
 結局数店見るだけでぐったりしたクレイルに肩を竦めたウィルは、
「すみませーん、これホワイトデー用に一個ずつ包んで貰えませんか?数は……」
とさっさと注文してしまう。
 話しているウィルの背後からなんとはなしにショーケースをみると”ひな祭り限定ケーキ”というものが目に入る。
 (こんなものまであるのか)
バレンタインだけでも甘いものばかり量産しすぎじゃないかと思っていたので呆れる。
が、よくよくみるとその後ろに”御予約分取り置き”という箱が積み上がっており各箱に”○時予定如月様” ”○時予定鈴木様”等ご丁寧に貼り付けられている。予約してまで買う人間もこんなにいるのか、と思っていると注文していたウィルが、
「数が多いから少し時間がかかるってさ。どうする?カフェでひと休みしてまた来ようか」
「いや、それならーー」
 あのケーキのロゴの店がここにあったはずだ。ついでだから買って行く事にしよう。

♢♢♢

 (明日来るよりマシだと思って今日取りにきたけど混んでるなあ)
そう思いながら人の間をすり抜け目当ての店にたどり着くと、
「すみませーん、予約してた如月ですが」
 と店員さんに声をかけた。
 いつものシフォンケーキを買っていこうか迷ったが明日はこれをカンナちゃんと一緒に食べるだろうし、今日は今日で別のバースデーケーキが用意されているだろう。
で、万が一明日それも余ってたりしたらーーうん、今日はやめておこう。私はとっとと地上出口へと向かった。

♦︎♦︎♦︎

件の店でシフォンケーキを買い求め、包みを受け取りに寄ると例のひな祭りケーキとやらの箱が減っているのが目に入る。 
(もう取りにきたのか。忙しないものだな)
そんな事を思いつつ大量の包みを受け取って店を後にした。




*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*


帰る道すがら真っ暗な路地裏へと目がいく。普通の人間にはただの暗がりだろうがそこには確かに僅かに何かが蠢いている。
 
本当に、微かに。
 
光が強い程闇は濃くなる。光の届かない場所にうずくまる闇が深くなっているのは気のせいだろうか?

この世界の人々は本当に気がついていないのか?

  ーーこの世界を守る事が、彼女が大切に思っていたものを守る事につながればいい。
そう思ってきたし、これからもそのつもりではいるが。

 ーー形だけの厄祓いや祈りだけでは、救いの手はのばされない。

「救いの手なんか待ってても降ってはこないんだから、自分達で何とかするしかない。神様なんていないんだから」
 それでも、皆見ない振りをする。今目の前の精一杯を享受して、にぶち当った時にその思い出をよすがに出来るように。

もしもの時は、
 「俺の力だけで、何とか出来ればいいが」

「私には、なんの力もない」
周りと同じように見ない振りをして、与えられた現実を受け止めて、受け止めきれない者から死んでいくのを見ていく事しか出来ないのだろう。いくら残念でも無念でも、人の一生なんてそれが当たり前なのだ。

 


聖女なんか、世界のどこにもいないのだから。
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