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少年期
第15話 三人の誓い
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「もう毎日、毎日、魚ばかりで飽きた! 母さんの作る野イチゴのソースがかかった、野ウサギのソテーが食べたい! カイ何とかして!」
テルウはいきなり叫び出して、薬庫の床に寝転んだ。
あれから少しでも食欲が出てくれたのは喜ばしいことだが、次は彼のわがままが始まってしまった。
「横を流れる川と、ここには薬草しかないんだから物理的に無理だろう?」
カイは呆れながら、自分は焼いた魚を何匹か食べていた。テルウは頭で理解していても、どうにもならないことから、また拗ねて寝具に潜り込んでしまう。
「まったく。泣きたいのはこっちだよ」
実際にはカイの方が限界に近かった。
テルウはストレスの捌け口をカイにぶつけてくるが、彼は我慢して受け止めていた。
ここで反論してもテルウは寝具から出てこなくなるだけだ。これから二人ではるかに高い壁を乗り越えていかなくてはならない。
こんな時、せめてヒロがいてくれたらいいのにとカイは思った。
何故かわからないが、彼の纏う独特の雰囲気は人に安心感を与えてくれる。
そしてこの三人の中で、潤滑油のような役割をはたしているのだ。
カイは一人になりたいため、また川に魚釣りに行き、相変わらず釣り竿を垂れながら考え事をしていた。
あれから何日経っただろう? いくら待っても誰も帰ってこない。
「……カイ!」
今度こそ下山の事を真剣に考えはじめたその時、カイを呼ぶ声が聞こえ、その声がした方をみると川の下流からヒロが走ってくる。カイは竿を引き上げ、急いで彼の元へと駆け寄り、二人は抱き合い再会を喜んだ。
「良かった! ヒロ戻ってきてくれて!」
二人は薬庫へ向かい、拗ねて寝ているテルウの傍に寄って声をかけると、テルウはもぞもぞと寝具から這い出してきて、ひょっこり顔を出す。
「本当にヒロ?」
「お前、情けない声出すなよ」
「だったらその目で確かめてみるといいよ……」
テルウは顔を出した時のあどけない顔から、急に哀しい目をしてヒロを見た。
そして三人は母屋のあった場所へと向かい、ヒロは惨状を目の当たりにする。
本当にそこに家族憩いの母屋が存在していたのか疑ってしまうほど、何もない平地。テルウは彼に不安そうに尋ねた。
「どうしてこうなったのか知っている? ジェシーアン達はどこに行ってしまったの?」
ヒロはあの日の光景を少しずつ思い出し、その青い瞳には月の明かりに照らされた畑がうつし出された。
そこで父さんが苦しんでいたことは覚えている。
それからの記憶がまったくないのだ。
次に父さんに抱きしめられて、この力は絶対に使うなと言われたことが脳裏に蘇った。
金髪の男の子の赤い眼だけが妙に頭から離れない。
あの眼、夢の中に出てきた人間の目じゃない燃えるような赤い眼。
ヒロは急に口を両手で押さえて震えだす。
「あの金髪の男の子が原因だ。父さんが苦しんでいて、あの子に何をしたのかと尋ねたら、赤い眼をしてこっち見て。次の瞬間、父さんは俺を川に投げ入れたんだ……」
二人は一瞬、何を言っているのかさっぱりわからなかったが、男の子が原因であること、そして恐怖を感じ父さんに川へ投げ入れられた事は理解できた。
「じゃあ、川に投げ入れられた後の事は何もわからないんだ……」
テルウは最後の望みが絶たれ落胆していた。
「ついに、俺達も下山を決断しないといけないな……」
カイは下山について言及した。
「下山? カイ本気で言っているのか?」
テルウはカイの肩を掴み自分の方へと振り向けた。
「本気だよ。ずっと前から考えていた。俺達だけでここの生活はもう限界だ……」
カイが限界というならば、本当に限界なのだろう。
カイは幼い頃より頭の回転が速く、常に先を読んでいるような子どもで、ダリルモアもそんな彼にいつも指示を出していた。
しかし実際に下山と言われても、いまひとつ実感が湧かない。
三人ともこの母屋があった山脈以外に、物心ついてから行った経験がないからだ。
ヒロはふわふわした黒髪を風になびかせながら言った。
「下山した後は、俺達だけで生活していかなければならないということか……」
「そう……もう父さんや母さんに頼れないから、自力で生活するんだ。俺も何が出来るか正直わからないけど、これ見て!」
カイは着物の懐から、ダリルモアにお土産で貰った兵法の本を取り出した。
そしてあれから相当読み込んだと思われる本の中の一文を読んで聞かせる。
《苦しき時頼りになるは信頼能ふ同志。同志こそ己の最大の強みなれ》
「一人では何もできないけど、俺達三人で手を取り合えばどんな困難も乗り越えていけるはずだ!」
カイはテルウと肩を組んで笑った。
「三人じゃなくて五人の間違いじゃないの? 彼女を忘れると後が怖いよ」
テルウも笑い、ヒロの方を見た。
「そうだな、俺たちはいつでも五人で一つだ。カイが言ったように下山しよう!」
カイは薬庫の薬草の内、とくに希少価値のある高価なものを三人で手分けし、可能な限り持って下山するという。
これを集落で売却して当面の資金にするのだ。
薬庫にある大きな布を広げ丁寧に薬草を包み、彼らが持ち運べる重さにした袋を三つ用意した。もう一つ小さな袋も用意し、こちらには日常品で使えそうなものや寝具、薬庫に唯一持ち込んでいた着替えを入れた。
カイは荷物を整理しながら二人に告げた。
「これから北のカルオロン方面ではなく、父さんも行っていた、小国の多い南へと向かおうと思う」
「道はわかるのか?」
「いや。地理は詳しくないが、川を下れば父さんの行っていた集落に到着するのではないかと思っている」
最後に三人は母屋があった場所へと向かう。途中に咲いている、色とりどりの美しい花を摘んで、母屋のあった場所に供える。ここでの思い出は掛け替えないものであり、大切に育ててもらったことを感謝した。今からここを離れて下山するが、何があっても三人で乗り越えることを誓う。
二人は川に沿って歩き出したが、テルウはしばらくその場所から動かなかった。
「ジェシーアン。俺は絶対に忘れない……、君と過ごした日々のこと……」
テルウは二人に呼ばれて、彼女との大切な思い出を胸に抱いて歩き出した。
テルウはいきなり叫び出して、薬庫の床に寝転んだ。
あれから少しでも食欲が出てくれたのは喜ばしいことだが、次は彼のわがままが始まってしまった。
「横を流れる川と、ここには薬草しかないんだから物理的に無理だろう?」
カイは呆れながら、自分は焼いた魚を何匹か食べていた。テルウは頭で理解していても、どうにもならないことから、また拗ねて寝具に潜り込んでしまう。
「まったく。泣きたいのはこっちだよ」
実際にはカイの方が限界に近かった。
テルウはストレスの捌け口をカイにぶつけてくるが、彼は我慢して受け止めていた。
ここで反論してもテルウは寝具から出てこなくなるだけだ。これから二人ではるかに高い壁を乗り越えていかなくてはならない。
こんな時、せめてヒロがいてくれたらいいのにとカイは思った。
何故かわからないが、彼の纏う独特の雰囲気は人に安心感を与えてくれる。
そしてこの三人の中で、潤滑油のような役割をはたしているのだ。
カイは一人になりたいため、また川に魚釣りに行き、相変わらず釣り竿を垂れながら考え事をしていた。
あれから何日経っただろう? いくら待っても誰も帰ってこない。
「……カイ!」
今度こそ下山の事を真剣に考えはじめたその時、カイを呼ぶ声が聞こえ、その声がした方をみると川の下流からヒロが走ってくる。カイは竿を引き上げ、急いで彼の元へと駆け寄り、二人は抱き合い再会を喜んだ。
「良かった! ヒロ戻ってきてくれて!」
二人は薬庫へ向かい、拗ねて寝ているテルウの傍に寄って声をかけると、テルウはもぞもぞと寝具から這い出してきて、ひょっこり顔を出す。
「本当にヒロ?」
「お前、情けない声出すなよ」
「だったらその目で確かめてみるといいよ……」
テルウは顔を出した時のあどけない顔から、急に哀しい目をしてヒロを見た。
そして三人は母屋のあった場所へと向かい、ヒロは惨状を目の当たりにする。
本当にそこに家族憩いの母屋が存在していたのか疑ってしまうほど、何もない平地。テルウは彼に不安そうに尋ねた。
「どうしてこうなったのか知っている? ジェシーアン達はどこに行ってしまったの?」
ヒロはあの日の光景を少しずつ思い出し、その青い瞳には月の明かりに照らされた畑がうつし出された。
そこで父さんが苦しんでいたことは覚えている。
それからの記憶がまったくないのだ。
次に父さんに抱きしめられて、この力は絶対に使うなと言われたことが脳裏に蘇った。
金髪の男の子の赤い眼だけが妙に頭から離れない。
あの眼、夢の中に出てきた人間の目じゃない燃えるような赤い眼。
ヒロは急に口を両手で押さえて震えだす。
「あの金髪の男の子が原因だ。父さんが苦しんでいて、あの子に何をしたのかと尋ねたら、赤い眼をしてこっち見て。次の瞬間、父さんは俺を川に投げ入れたんだ……」
二人は一瞬、何を言っているのかさっぱりわからなかったが、男の子が原因であること、そして恐怖を感じ父さんに川へ投げ入れられた事は理解できた。
「じゃあ、川に投げ入れられた後の事は何もわからないんだ……」
テルウは最後の望みが絶たれ落胆していた。
「ついに、俺達も下山を決断しないといけないな……」
カイは下山について言及した。
「下山? カイ本気で言っているのか?」
テルウはカイの肩を掴み自分の方へと振り向けた。
「本気だよ。ずっと前から考えていた。俺達だけでここの生活はもう限界だ……」
カイが限界というならば、本当に限界なのだろう。
カイは幼い頃より頭の回転が速く、常に先を読んでいるような子どもで、ダリルモアもそんな彼にいつも指示を出していた。
しかし実際に下山と言われても、いまひとつ実感が湧かない。
三人ともこの母屋があった山脈以外に、物心ついてから行った経験がないからだ。
ヒロはふわふわした黒髪を風になびかせながら言った。
「下山した後は、俺達だけで生活していかなければならないということか……」
「そう……もう父さんや母さんに頼れないから、自力で生活するんだ。俺も何が出来るか正直わからないけど、これ見て!」
カイは着物の懐から、ダリルモアにお土産で貰った兵法の本を取り出した。
そしてあれから相当読み込んだと思われる本の中の一文を読んで聞かせる。
《苦しき時頼りになるは信頼能ふ同志。同志こそ己の最大の強みなれ》
「一人では何もできないけど、俺達三人で手を取り合えばどんな困難も乗り越えていけるはずだ!」
カイはテルウと肩を組んで笑った。
「三人じゃなくて五人の間違いじゃないの? 彼女を忘れると後が怖いよ」
テルウも笑い、ヒロの方を見た。
「そうだな、俺たちはいつでも五人で一つだ。カイが言ったように下山しよう!」
カイは薬庫の薬草の内、とくに希少価値のある高価なものを三人で手分けし、可能な限り持って下山するという。
これを集落で売却して当面の資金にするのだ。
薬庫にある大きな布を広げ丁寧に薬草を包み、彼らが持ち運べる重さにした袋を三つ用意した。もう一つ小さな袋も用意し、こちらには日常品で使えそうなものや寝具、薬庫に唯一持ち込んでいた着替えを入れた。
カイは荷物を整理しながら二人に告げた。
「これから北のカルオロン方面ではなく、父さんも行っていた、小国の多い南へと向かおうと思う」
「道はわかるのか?」
「いや。地理は詳しくないが、川を下れば父さんの行っていた集落に到着するのではないかと思っている」
最後に三人は母屋があった場所へと向かう。途中に咲いている、色とりどりの美しい花を摘んで、母屋のあった場所に供える。ここでの思い出は掛け替えないものであり、大切に育ててもらったことを感謝した。今からここを離れて下山するが、何があっても三人で乗り越えることを誓う。
二人は川に沿って歩き出したが、テルウはしばらくその場所から動かなかった。
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