√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ

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1章 悪役貴族は屈しない

第33話 黒の書

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 俺は二人に視線を送り、『静かに』と目で訴える。
 おい勇者。静かにしてほしいだけなのに、なんでそんな怯えた目してんだよ……。

 静かになったところで、バケツと雑巾をもってくる。
 非常に面倒くさいが、仕方ない。
 掃除するか。
 はぁ……。

「エルヴィン。ごめんね」
「ニーナが謝ることではない」
「うん。でも……ごめん」

 本当に申し訳なさそうに、眉尻を下げた。
 なんだか泣いてしまいそうだ。

 こうやって見ると、聖女は完全に勇者側ってわけではなさそうだな。

 上手くやれば、こちら側に引き込めるかもしれない、のか?
 今度試してみるか。

 しかしその日以降、聖女が学校に現われなくなった。



 そこから次の日も、また次の日も。
 手を替え品を替え、俺の机がいじられた。

 机は俺の持ち物じゃなくて、学校の備品だ。
 それを汚されたところで、痛くも痒くもない。
 面倒ではあるが。

 しかし、なんだよこの嫌がらせは。
 子どもかよ!
 あまりにしょぼすぎて腹も立たんわ……。

 初めの頃は、俺と目を合わせなかった生徒たちが、一週間経つ頃には堂々と俺と視線を合わせるようになってきた。

 お、俺、今まで誰とも目を合わせてもらえなかったのに……!
 少しだけ嬉しい!

「喜んでる場合じゃなくってよ?」
「よ、喜んでなどないぞ!」

 というか内心を読むな。
 マジで恥ずかしいから。

「さすがにこの状況の放置は、公爵家の沽券に関わりますわよ」
「そうなんだがな。俺が手を出すとこと、そのものがやり過ぎになるから困ってる」

 巨大な生き物は、動くだけで巨大な波紋が広がる。
 それと同じように、ファンケルベルクが動くと、行き着くところまで行ってしまう。
 おそらく、二・三は確実に首が飛ぶ(物理)。

 だが、俺はそれを望んでない。
 そもそもいじめのやり口が、小学生の悪戯みたいなものばっかだしな。

 そういえば頼みの綱の聖女がしばらく学校に来ていない。

「ニーナについて、情報はあるか?」
「いいえ。いまのところなにも。風邪でも召したのではなくて?」
「そうだといいんだけどな」
「……気になりますの?」
「ああ。少し〝気がかり〟でな」

 クラスに聖女が現われなくなるイベントといえば、やはりバッドエンドだ。
 勇者があまりになにもせず、一切のフラグを立てずにいると、聖女が里帰り――聖皇国セラフィスに帰ってしまうのだ。

 そのバッドエンドが発生したかどうかが、非常に気がかりだ。
 リアルでバッドエンドが発生したらどうなるんだ?
 まさかその場で絶命なんてこと……ないよな? ブルブル。

 今日は図書室から借りてきた本が、俺の机に大量に載せられていた。
 ご丁寧に、貸出票にはすべて『エルヴィン・ファンケルベルク』の文字が書かれている。

 すげぇ手間かけて、こんなしょうもない悪戯やるとかギャグだろ……。

 本をまとめて図書室に返しに行く。
 その間、ラウラは俺の椅子で見張りをしておいてもらう。
 帰ってまたなにかされてたら疲れるからな……。

 数十冊ある本を、一つ一つ本棚に返却していく。
 これまた、すげぇランダムに借りられてるせいで、返すだけで一苦労だ。

 でも、普段見たことない背表紙が見られて、ちょっと楽しい。
『股関節から始める腰痛対策』とか、『MAJIでKOIするゴボウ苗』とか、気になるタイトルが多い。
 ……今度借りよう。

 その中に、ひときわ存在感を放つ装丁があった。

 革張りで、金糸が施されている。
 みただけで高価だとわかるその背表紙には『黒の書』の文字。

「――げっ」

 なんでここにあるんだよ!

 まあ、プロデニでもここにあるんだけど……なんで簡単に見つかってんだよ。
 俺に見つかるなよ、勇者に見つかれよ!

『黒の書』は賢者ルートに入るためのキーアイテムだ。
 この本を、大学施設内にある魔塔に返却すると、魔法使いと知り合える。

 そこからしばらく後、魔王討伐パーティが結成される頃に、魔法使いが正式メンバーとなり、恋心を育んでいくという内容だ。

 賢者ルートとか、今はそれどころじゃないし放置でいいかな。

「…………」

 そうは思ったが、この本が気になる。
 本編だと、中身について一切言及されなかったんだよな。

 中を開いても、『何が書かれているのか理解出来なかった』って説明だけで終わってた。
 一体、なにが書かれてるんだろう?

 未知の誘惑には逆らえず、『黒の書』を手に取った。
 中を開くと……むっ? 全然理解出来るぞこれ。

『黒の書』は……うん、ただの魔法書だな。
 でも、勇者に理解出来なかった理由がわかった。

 これ、闇魔法の本だわ。
 おそらく適性がないと、ここに書かれてる文章が理解出来ないんだろう。

 パラパラめくる。
 俺でさえ知らない闇魔法が結構載っているな。
 この『イグニアス・ドレイン』なんて魔法、本編でも出たことないぞ。

 おっ、この『ダーク・フレア』はいいな。
 絶対に取得したい。

「…………欲しいな」
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